昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ボク、みつけたよ! (三十二)

2022-01-16 08:00:12 | 物語り

   初恋が甘酸っぱいものだとすれば、大人の恋はどうなんでしょう。
マンゴーのように甘く甘く、そしてやっぱり甘いものでしょうか。
そんな恋を教えてくれたのは――自ら追い求めたものではなく与えられた恋のお相手は、やっぱりminakoさんでしょう。
わたしよりも年上の女性でした。といっても、高校の同級生です。
看護学校を卒業後に高校入学された方で、最終学年に知り合いました。
きっかけがなんだったのか、今となっては思い出せません。


 在学中から交際が始まったのか、それとも卒業後の同窓会かなにかがきっかけだったのか……。
どうしても思い出せないのです。
思い出すのは、……体がカッと熱くなることばかりで、外でのデートではなくわたしのアパートでのこと、そしてトラックの車内でのことなのです。
ライトバンでのデートならばいざ知らず、トラックでのデートなんて、いま思い出すと申し訳ない思いで一杯です。
それでもいやな顔ひとつ見せずに会ってくれたminakoさん、心内では舌打ちされていたかもしれません。

 あの日は、いや、あの夜は日曜日なのに仕事になってしまい、約束の昼間のデートがダメになって。
それでも逢いたい、どちらが言い出したのかそれとも二人の思いが強かったのか、取引先からの帰りに彼女を拾ったはずです。
真っ暗になった道路を走りながら、途中で小さな川の堤防に車を止めました。
行き止まりの脇道だから駐車していても咎められる心配はなく、車のフロントガラスには満面の星空が映っていて。
目を凝らすと、その小川に点々と小さな光が。
二人同時に「蛍だ!」と、目を合わせて。暫く見つめ合った後に、わたしの目は彼女の唇を見つめて……。

 12月のある日にアパートで小さなこたつに二人で入り、「お正月、ご来光が見たいね」「郡上の奥の山頂なら……」と語ったなあ。
「除夜の鐘を聞きたいね」。「あたしの実家に、迎えに来てくれる?」。
その言葉に何の意味があったのか、まるで気が付かなかった。
しっかりと約束を交わしたはずなのに、あの時はどうしたんだろう。
友人らと大晦日年越し麻雀をすることになり途中で抜ける約束を交わしながら、一人が「少し遅れる」と連絡が入ったことでおかしくなっちゃって。

 
 午前2時、3時となり、もう出かけなければ間に合わない。
「一緒に除夜の鐘を聞きたいね」。そんな彼女の小さな願いを、踏みにじってしまった。
“家の前で寒さに凍えながら待っていてくれるだろうか”。
“小さな白い手にはあはあと息を吹きかけながら立っているだろうか”。
“赤い格子柄の袢纏を被って、ひょっとして大通りで立っているだろうか”。
“いま行くから、もう少し待ってて”。

 ほんの些細な行き違い――わたしにとってはそうでも、彼女にとっては生き死にに関するようなものだったかもしれません。
その後彼女は奈良県橿原市の病院に移り、3年ほどして戻ってから、見合い結婚をしたとか。
もしもあの大晦日の夜に、麻雀にうつつを抜かすことなくご来光を見に出かけていたら……。



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