(十三)銀の皿
新一と出会うまえのようなオドオドした暗さとはちがい、どこか慇懃無礼さがある、と思える。
こころの中に内在している――でんと居すわっている新一を、消しさるためのひとり旅だ。
別人格をそだてあげて苦痛からの逃げ場をつくったことが、ときに重荷となり障害となることに気づいた。
おそかったかもしれない、あるいは気づかぬままの方が良いのかもしれない。
「朝食のご用意、よろしいでしょうか?」
鈴とまではいかないけれど、それでもすがすがしい声で尋ねられた。
「そうですね、散歩をしてきます。
三十分ほどで戻りますから、そのあいだにお願いします」
国道づたいに歩いていると、トラック類が引っ切りなしに行き交う。
その間を肩をすぼめるがごとくに、乗用車がはしる。
それにしても、排気ガスの臭いには閉口させられる。
“平日なんだ、きょうは”。
仕事をさぼった気恥ずかしさから、うつむき加減で歩いてしまった。
車の流れが途だえたおりに国道を横ぎり、すぐの角を右におれた。
すこし歩くと、水の流れるおとが耳にはいった。
小川の水面に、美しい空の景をみつけた。
キラキラと輝く、小さく波だつその流れは、さながら銀の皿をならべた観があった。
“銀の皿か、われながら良いヒユじゃないか”
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます