昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~(二百九十五)

2022-12-08 08:00:18 | 物語り

「ねえ、勝子さん。疲れたでしょう? 横になって。足をさすってあげる、ううん、さすらせて。ね、いいでしょう?」と、半ば強引に勝子を横にしてしまった。
「いいわよ、そんなの。別に疲れてなんかいないし。 
でも、そう? そんなに言ってくださるのなら、ちょっとお願いしようかしら。
でも、ほんとにちょっとでよろしいから」
 しつこく言う小夜子に違和感を感じつつも、体を横たえると思いもかけず疲れを感じた。
“おかしいわ、なんともなかったのに。なんだか体がだるいわ。
そうか、小夜子さんに会えてはしゃぎ過ぎたせいね。
ああ、でも気持ち良い。ほんとね小夜子さんって上手だわ。
お母さんもしてくれたけれど、小夜子さんが一番ね。
なんだかこのまま眠ってしまいそうだわ”
“やっぱり熱いわ、さっきより熱くなってる”

「でもお元気になられて良かったわ。こうして自宅へ戻れるなんて、素敵! でも、ムリはだめよ。
病院では静かにしてらっしゃる? 体調が良いからって、動き回っちゃだめよ」
 にこやかに微笑みながらさする小夜子だが、次第に疑念が確信に変わっていく。
“お母さんと一緒だ。いや、いやよ! 勝子さん、死んじゃいや! 
せっかく仲良くなれたのに、またあたしをひとりぽっちにしないで。
アーシア、アーシア、お願い。勝子さんを助けて。お母さん、お母さんも助けて。
二人とも、あたしをひとりぽっちにしてしまったんだから、今度はひとりにしないで。
大丈夫、大丈夫よ。武蔵に言って、もっと高いお薬を使ってもらうから。
日本で一番偉いお医者様に診ていただくから”
「どうしたの? 小夜子さん」
 勝子の足になま暖かいものが落ちてきた。それが小夜子の涙であることは、熱に浮かされ始めた勝子にもすぐに分かった。
「えっ? あ、ああ、嬉し涙よ。嬉しくて、泣けてきちゃった」


「まあまあ、そんなことを。勝子、何ですよ! 起きなさい、ほんとにもう。申しわけありません、小夜子奥さま」
「だって・・。すごく気持ち良いんですもの。
お母さんみたいに、お義理でさするのとは違って、小夜子さんのは、心がこもってるもの。
ほんと、ごくらくごくらく」。頭をあげるのもおっくうに感じて、うつぶせのままで答えた。
「小夜子奥さま、もう結構でございますよ。どうぞこちらでお手を洗ってくださいな。
勝利、お膳の用意をして。ほらっ、勝子! いいかげんにしなさい!」
「はあい! お腹もへったことだし。勝利、まずちゃぶ台でしように。
あんたはほんとに段取りが悪いんだから。キチンと会社では仕事できてるの? 
なんか、心配になってくるわ。母さん、台拭きは? 母さんも人に言いつける時には、用意ぐらいしておいてよね。
勝利、お茶碗を出しなさい。お客さま用もね。それから小夜子さんは、あたしの隣よ。いいわね」



最新の画像もっと見る

コメントを投稿