部屋をでようとする顧問に、次男がかみついた。
「救急車だよ。救急車、呼べよ!」
「いや、それより…」としぶる顧問だったが、「わたしなら大丈夫だから。みなさんは、お星さまをみてくださいな」と、老婆が力なく言った。
「だめだよ。いまは良くても、とつぜんに悪くなることはあるんだから。急げよ!」
生徒たちの非難のしせんをかんじた顧問が、しぶしぶ救急車の要請をおこなった。
ほのかはシゲ子のことが思いだされ、体が硬直していた。
なにかをせねばと気ばかりが焦るのだが、体はまるで動かなかった。
「ほのか。冷やしたハンカチ、持ってこい!」
次男のこえにも体はうごかなかった。
かなしばり状態がとけたのは、救急車が到着してからのことだった。
老婆の状態を確認した後に、身内の生徒とともに顧問がつきそった。
けっきょく鑑賞会は、そのまま解散となった。
「大丈夫か、ほのか」
次男の声に我にかえったほのかの、おさえていた感情が爆発した。
大粒のなみだとともに
「にあんちゃん、にあんちゃん。ばあちゃんに、ばあちゃんに…」と、泣きつづけた。
「ばあちゃんがなんだって? ばあちゃんは、死んじまってるだろうが。
思い出したのか、婆ちゃんのことを」
泣きじゃくるほのかを、とにかくも椅子にすわらせた。
心配顔の部員たちに「先にかえって」と手をふる次男だった。
「ばあちゃんに、ほのか、謝らなきゃ。
ほのか、悪い子なの。婆ちゃんをね、婆ちゃんをね。
汚いって思っちゃったの。
だから、だから、お別れができなかったの。
ごめんなさい、ばあちゃん」
大粒のなみだが、ほのかの指のすきまこぼれ出る。
ぼとぼとと、ほのかの太ももにこぼれ落ちる。
「そうか、そうか。そうだな、怖かったよな。
にあんちゃんも怖かった。
だけどな、ばあちゃんは、ほのかのことはよく知ってるから、大丈夫さ」
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