2008.04.16鑑賞
大阪市住吉区長居。地名にちなんで長く居たわけではないが、私が大阪で暮らした27年間、この長居という地に最も長く住んでいた。
今から800年前の「摂津住吉名所図会」に、長居にちなんだ和歌が載っているという。堺と住吉の追分にあり、水際の景勝地で、旅ゆく者の足を踏みとどまらせたらしい。長居をしたいところだったようだ。地名は、ここからきている。今はその面影もないが、緑はある。長居公園だ。この公園は、大阪市の中でも大きなな方で、ワールドサッカー、世界陸上の舞台でもあった陸上競技場がシンボルになっている。なんとなく・・・映画館のある下車すべき地下鉄御堂筋線の天王寺駅を乗り過ごし、ここへ2ヵ月半ぶりにやってきた。
地下から、いつもの出口を抜けると、懐かしくもない街が目の前に現れた。朝晩、同じ道を歩いたので、お馴染みの風景である。くすんだ濃紺の空の下、雑踏の帰り道を歩いた。むせる様な暑さがアスファルトから立ち上っている。
お馴染みのはず。だが、もう私の知る街ではなかった。私の知る長居の風景ではあったし、懐かしくもなんともなかったけれど、まったく瓜二つの顔をした別の街がそこにあった。2ヵ月半という時間のせいか、住む部屋がないせいか・・・自分の感覚が分らなかった。10年も住んだのに、ちょっと抜け出しただけで、街は私を、見た事もない、まったく知らぬ他人として迎えた。知らぬ他人なら愛想笑顔のはずが、ツンッとすましている。「あんた誰?」・・・冷たいなぁ。30分くらい商店街や裏道をポツポツ歩き、地下鉄の改札へと下りていった。来るんじゃなかった。
2ヵ月半以上ご無沙汰の天王寺は、長居より遙かに大都会だが、長居のような感情はまったく起きない。住んだ街と行った街の違いなのだろうか。知っている、通っているだけでは、天王寺の方が2.5倍も長い。地下の通路を抜け、アポロビルへ出る。このアポロビルは、私が大学生の頃から建っていて、4階に映画館が2つあった。その頃、すでに古いビルのような気がしていたが、何年か前に8つの映画館のシネコンとなり、全館を改装し、とても綺麗になっている。ここのシネコンのポイントが、1本分、残っている。
「はつ恋」「東京マリーゴールド」「きょうのできごと」「ドラッグ・ストアガール」と、田中麗奈主演の映画は、まったくのハズレがないと思っていた。脚本で選ぶ女優。内容で勝負する女優。だから、ミニシアター系ばかりになる。私はずっとそう思っていた。だが、どうもそれは一時期のことで、ここ数年、くる仕事、くる仕事、すべて受けているのではないかというようなフシがある。私としては、観終えた後、すぐに忘れてしまうような映画に次々と出ている。
本作は、「釣りバカ日誌シリーズ」で有名な本木克英監督である。田中麗奈とは「ドラッグ・ストアガール」で組んだ。新聞や雑誌でも評判がいいようだし、観客動員数も悪くないようだし、小倉で観られなかったし、東宝ではないからTOHOシネマズでは観ることができず、この1本のために、足を延ばしたのだった。「ドラッグ・ストアガール」は、とても楽しませてくれた。中盤からちょっとタルんでくるけれど、オープニングのふかしながらの勢いある走りは、観ていて気持ちいい。台詞も、そのやりとりも、よく噛んで吐き出していた。
そのコンビだったから、やってくれるか?と、期待したけれど、私には、まったくこの映画の良さはわからなかった。「ドラッグストア・ガール」は、思えば、当時、ガンガンに脂ののった(今かもしれないけど)宮藤官九郎が脚本を担当している。うーん、あの時は、脚本がどうのこうのとは考えなかったし、監督を含め、映画そのものが良かったと思ったんだけど・・・脚本だったか?と、遠くに観たスクリーンの面影を頭に浮かべる。いい映画なのに・・・今はなき動物園前シネフェスタの一番大きなスクリーンに向かって、観客は私を含めて2人だった記憶がある。だが、万人受けはするとは思えず、人には勧めなかった。
特別な状況を除いて、普通、平凡な生活を描くならば、犬も猫も、雑種の野良がいい。雑種の野良というだけで、情が出る。ゴールデン・なんたらという恰好いい名前など与えてもらえない雑種がいい。雑種の野良が大切にされているのを見るだけでほっとする。私の勝手な思い入れだが、ブレザーにネクタイを締めた上品な子供より、黄ばんだランニングシャツで力いっぱい走っている子供の方がいい(たとえが違うか・・・)。勝手ながら、それだけで、私の気持は凹んだり、ハッピーになったりするのだ。だからだろう、優しいはずの物語にすんなり入ることができなかった。このくらいの物語があっても何も感じることができない。
撮りも平坦だが、カットバックをうまくつないでいないのが気になる。役者が下を向いて、カメラ位置が変わったら、時間がそのまま流れているのなら、やはり下を向いてなければならない。初歩的な現場のミスがあちこちにある。編集は苦労したろう。気になるので、じっとカット変わりを睨んでいた。カット変わりを睨む余裕があるくらい、私は退屈な映画だと思った。物語が単純だし、台詞も平凡で、そんなところを観ていても迷うことはない。睨みつけていると、セットも、セットです!のような色合いと照明が気になり、映画そのものに、とても集中はできない。スタジオとロケの色合いが違いすぎる。加瀬亮の家のセット、特に2階部分などは、ベニヤのにおいがする。
天王寺から地下鉄で梅田へ。カプセルホテルに3泊して、ちょっとへばっているが、少なくともあと5泊せねばならない。疲れた体で、疲れる宿へ入る。「ノーカントリー」があまりにもよかったので、ポイントなどにこだわらず、もう一度、観ればよかったと悔やむ。だけど・・・ポイントが使えなかったら悔やむだろうし・・・本作も気になっており、観られなければ観られないで、悔やむし・・・やはり、どんな映画も最初から最後まで観てみなければわかんないのよねっ!
ここまで書いて、どんな映画にも、必ず、少しは誉めるところがあって、この頃の私は、悪いところは少なめにして、良いところを大きく書こうとしている誰かに媚びたイケない姿勢があるが、どう読み直しても、まったく誉めてない。だからといって、書き直す気はないけれど。 <45点>
ランキング ← 参加しています。クリックしてネ☆