-本作の感想などは書いていません-
中田秀夫監督作品が好きだった。「本当にあった怖い話」がデビューだが、劇場デビューの『女優霊』を今はなき、扇町ミュージアムスクエアで観たときのことは今も覚えている。もう15年前の映画だ。映画全体としては安物だが、演出がしっかりしていて、どう見せたら観客が怖がるかを主点に作られていた。ワッ!と出て驚かす、大きな音で驚かす演出を極力避け、あるはずのないもの、いるはずのない人がそこに何気なく写る・・・こういうホラー映画はあまりない。考えに考えなきゃならんし、怖いどころかシラケルカットになりかねない。ワッ!と驚かす方が手っ取り早いし、観客は驚いてくれる。観客もホラーだから、それを期待している。だが、この映画は違っていて、ピンとはりつめたスタジオの空気の中、何気なく、または自然に存在するという手法を使った。これが、観客をドキンとさせた。もしくは、気が抜けるようにハラハラハラと、そこにいる幽霊を見つめた。中田秀夫はドンッと出てくる・・・そう思っていたら、次は『リング』の監督だった。
『リング』のラストシーンは、原作がふっとぶほどのものだった。原作そのままでは、どう演出してもつまらないものになりそうだ。まったく変えた。そして、今も残る有名なシーンとなった。ハリウッドが原作を無視して映画版をそのままにしたのもわかるし、あのラストシーンがあったからこそ、リメイク権をとったのだろう。ホラーは中田だ!と、監督依頼がどんどんやってくる。ホラー以外も撮りたかったろうが、仕事を選びますという監督ではないようで、どれでも引き受けたものだから、次々にホラーを撮らされた。ついには、ハリウッドに呼ばれて、『ザ・リング2』も指揮している。だが・・・中田秀夫監督作品が好きだった・・・のである。
中田秀夫は『女優霊』『リング』で己を出し切っている。後の作品も観ているが、あの2作品の上をいくものは、今まで撮っていない。というより、どんどん落ちている。日本の『リング2』も前作の強さから、オリジナルにしては、ストーリーすら楽しめるホラーではなかった。ありきたりなホラーだ。ハリウッド版なんぞは、なにをしたいのかわからなくて、ガッカリして映画館を出た。・・・どんどんつまらなくなっていくので、期待せず観たのがよかったのか、『怪談』は楽しめた。だが、もう少し安物っぽく撮れれば、怖さも増すのではないかと感じた。大作ではいけない。・・・ホラーは怖くなければならない。怖くて楽しめるのが、ホラーを観に行く人の一番の目的である。いい映画だなぁ~などと言われず、お偉いさんから賞はもらえない、とてもかっこいいジャンルの映画である。面倒くさいことは語らず、観客を楽しませればいいのだと、私は思う。
『仄暗い水の底から』で、黒木瞳を主演とした際のインタビュー記事を読んだ。ただのホラーなら、黒木瞳は断っていたらしい。そこに親の子供への執拗な愛情などが・・・私としてはどーでもいいのだが、やたらゴタクをならべて、出演理由が書かれてあった。黒木瞳って、クソマジメでたいしたことないなと思った。中田秀夫も気をつかって、なにやってんだろうと思った。あの映画は、観客を落とし込む演出をかなり控えているように感じる。まったく怖くはない。怖くない映画はホラーではない。いままで作ってきた中田の色が、あの映画にはない。理由は他にもあるが、中田秀夫監督は、私の中で終わった。
終わったけれど、目にとまると観たくなるのは仕方ない。今でもスピルバーグと書かれたポスターを見ただけでドキドキする。本作も、最近のよくある似たような密室劇だが、中田秀夫でなければ、あんな予告なんか見せられた後では、「インシテミル一枚」なぞ、一生、言わない言葉だったろう。言わなくてもよい言葉だったが、中田秀夫監督作品の『女優霊』は、ご覧になってもソンはない。リメイクではない香港の『the EYE』とともに、びっくら楽しめるホラーである。愛がどーのこーのというテーマも隠れているけれど、視覚的効果を楽しんでほしい。CGに頼らず、現場の息が伝わる2本である。
こんな理不尽な世界で、大した疑問ももたず、事が起こって片付かぬ間に話しが進んでいくなんて・・・ラストはどこに居て、どこに帰っていくねん!大金を捨てるくらいのことだったのか、少しは振りかえろ!リアリティなんて求めてないが、リアルでない世界に観客を取り込む力がない。納得させる足場がない。・・・あのころ、私は、中田秀夫監督作品が好きだった。 <35点>