きのうは、歌舞伎座ギャラリーで行われる、「歌舞伎夜話」に行ってまいりました
今回のゲストは、来月国立劇場で「毛抜」の主演を控える、中村錦之助丈。
一度、襲名前後に、芸談を聴く会をうかがったことがありますが、
そのときとはまた打って変わって、大変ユーモアたっぷりで、闊達で楽しいお話を
たくさん聞かせてくださいました。
とても明るく誠実なお人柄に魅せられたファンも多かったですね
聞き手は、松竹演劇部の戸部さんです。
まず、お正月に浅草で演じ、好評を博した、濡髪と幡随院長兵衛のお話から。
「役が決まって、播磨屋の兄さん(吉右衛門さん)のところに習いに行きましたら、
『ほんとに君がやるの?(^^)』と笑われてしまいました。そのくらい、
僕は二枚目や、つっころばしのイメージが強いし、そちらのほうの役者なのですね。
兄さんはごく自然にあのセリフ回しができますが、僕はなかなかできないので、
なんども教えていただいたり、ビデオテープを観たりして研究しました。
濡髪は、とにかく大きく見せようと、肉襦袢を着たり、首が太く見えるように工夫したりしました。」
与五郎、4月に演じた修理之助などの役については、
「女形さんだとわりとできるのですが、肩を落として、
肩甲骨を寄せて歩くとできるのです。逆に、濡髪などのお役は、そとの筋肉を大きくします。
筋肉の使い方を意識して、全身使ってやります。いつも若々しく気を張ってやることが大切です。
筋トレはダメで、むしろ柔軟体操のほうが大事ですね」
与五郎などの役は何も準備しなくてもすぐにできるそうですが、
濡髪のような役だと大変だそうです。
3月に演じて大変驚かれた、「伊賀越道中双六」の沢井股五郎については、
「なり切ってやるしかないんですね」とのこと。
色の濃い役まで手を広げたことについては、「広がっちゃってるんですよ(笑)!」と苦笑い。
「いつでも若衆、二枚目ならまかせておけ!です(^_-)-☆」とユーモアたっぷりに語られました。
永遠の二枚目なのですね さわやかな笑顔で答えておられました。
そして6月の「毛抜」のお話になりました。
左團次型と成田屋型とありますが、今回は当然成田屋型で演じられます。
團十郎さんに12年前に初役のとき教わったことが印象に残っているそうです。
「とにかく十八番は体力を使うので大変です。また普通のお役と違って、
『気』を発しなければなりません。
市川宗家の作り上げたオーラ、魅力を大切にしたい」と語られました。
「成田屋の兄さん(團十郎さん)は、出た瞬間が大切とおっしゃいました。
バーッと出る感じ、十八番は、カリスマ性や勢いが勝負なのですね。
兄さんは具体的におっしゃる方で、たとえば元禄見得なども、
『45度の角度で演じなさい』とおっしゃいましたね」と懐かしそうです。
「セリフもとにかく全力投球ですね。ペース配分が大変です。
力の配分を考えながら演じないといけないですね。
その点、天王寺屋さん(富十郎さん)、中村屋さん(勘三郎さん)などは
力の出し入れがお上手でしたね。
最近の若手だと、うわべだけは真似できるけれども、技術、魅力を磨くのは
まだまだという方が多いので、がんばってほしいですね」
と熱くお話くださいました。
鑑賞教室でもある今回の「毛抜」ですが、教室の大切さも説かれます。
「僕が子供のころにはなかったのですが、学生さんの反応は大変新鮮ですね。
こちらも(観客が)初めて見る学生さんが多いので、常に全力投球です。
解説も、昔は中堅の役者さんがやっておられたのを、
息子の隼人や壱太郎さんにまかせたところ、大好評で、見るほうも真剣になりますね。
そして、現在の若手役者がやる形、今回は隼人がやりますが、この形になっています」
お話は、息子さんの隼人さんが大変人気者になられたことと、若手論になりました。
「隼人は、僕の20代のころとくらべてもしっかりしていますね。
20歳をすぎたら、自己管理にまかせています。でも、芸事は厳しく言うようにしています。
若手の中で注目しているのは、橋之助くんですね。
大変しっかりしているし、子供のころから勘三郎の兄さんについていたので、
すごくのびると思います。隼人もうかうかしていられないんじゃないかな(笑)」
現在は、吉右衛門さんと組むことが多く、また過去には猿翁さんの劇団にいらしたこともある
錦之助さんですが、劇団制についてうかがいました。
「僕は、役者というのはライバルではなく、『チーム』だと思っています。
足を引っ張るのではなく、切磋琢磨して、一つのいいものをつくる仲間たちですね。
播磨屋さんのところは、グループでやることが多いのでクオリティが高いですし、
菊五郎劇団も、つねに『この人にはこの役』という形で出来上がっていますね。
こうしたことを守ることでクオリティが高くなりますし、
常に意思疎通ができることが大切だと僕は思います。
主役、二番手、三番手がそれぞれ主役なみにしっかり息のあった芝居をすることが大事でしょうね」
昔は脇役の名優の方もいて、じぶんなりのポジションを固めていたとおっしゃる錦之助さん。
「この役なら絶対負けない、という気概がありますね。僕もそうありたいですね」
昔は、いろいろな役者さんが、若手たちにセリフの『間』の一つ一つまで
指導されていたそうです。それに鍛えられた、錦之助さんから上の世代の役者さんたちは
そういう意味で厳しい指導でもあったけれども大成しているのでは、と分析されます。
「いまの若い人たちには、大まかにいうことが多いですが、
僕のところに習いに来てくれれば、きちんといいますし、隼人にも言っています。
歌昇くんも先日(松竹座で演じている)『野崎村』の久松を習いにきてくれましたね。
そして、一部のベテランの役者さんたちは、やはり『間』の一つ一つまで
丁寧に教えておられますね」
うかがっていて、大変頭の下がる思いでした。
そして、会場のお客様からの質問コーナーとなりました。
Q:体調管理はどうされていますか?
A:ストレスをためないようにすること。ストレッチをすることですね。ストレス発散は
映画を観たりしています。最近見た映画は「アベンジャーズ」「スターウォーズ」シリーズですね。
Q:お好きなダイビングは、どこの海でされていますか?好きなお魚は?
A:九州あたりで潜ることが多いですね(笑)ウミウシが好きですが、お魚を観られなくても海は楽しいです。
Q:歌舞伎とは、錦之助さんにとってなんでしょうか?
A:実は歌舞伎をご覧になる方は、日本の現在の人口の7%だという統計が出ているそうです!
ということは残りの93%にとってはいらないものなのですが、7%の方にとっては大事なもので、
それで人生が大きく変わった方もおられますよね。だから、楽しく観劇して帰っていただきたいです。
いい芝居だとみなさんニコニコとされていますよね。
この7%をさらに増やすために、鑑賞教室などで、どんどん裾野をひろげていけたらいいなとおもっていますね。
Q:俳優祭の思い出などをお聞かせください。
A:今年も模擬店でたい焼きを売らせていただいたのですが、お客様から
「あの芝居見ましたよ。よかったですよ」など、直にお声を伺えるのでうれしいですね。
また、今年は鷹之資くんとやりましたので、富十郎さんのことを思うと、ずいぶん大きくなり、感無量でした。
Q:いままで大切にされた出会いはどんなものがありましたか?
A:いろいろな出会いに感謝ですし、きょうここでお目にかかった皆様にも出会うべくして出会ったので
感謝していますね!
Q:歌舞伎以外のお芝居もごらんになりますか?
A:最近見て、とても印象に残ったのは赤坂歌舞伎ですね。コクーン歌舞伎の「盟三五大切」を思い出しました。歌舞伎は引き出しが大切ですし、哲明兄さん(勘三郎さん)がやってこられたことが勘九郎くんや七之助君に伝わっているのがうれしかったですね!
そして写真タイムになり、にこやかに撮影に応じられた錦之助さんでした
終始大変なごやかなムードでおこなわれ、楽しい雰囲気のうちに
歌舞伎夜話で語ってくださった錦之助さん。
ますます好感度アップとともに、来月の歌舞伎鑑賞教室、また巡業、
今後のご活躍が一層期待されます