桂木嶺のGO TO THE THEATER!~Life is beautiful!~

歌舞伎中心とした演劇・クラシック音楽・美術展・映画など芸術全般のレビューを書きます。優れた芸術は応援します!

高麗屋三代の新春を寿ぐ~歌舞伎座夜の部「勧進帳」に想う~

2018-01-06 05:34:32 | 劇評

巻、躍動感あふれる弁慶役者の誕生に、歌舞伎座は連日大いに沸いている。歌舞伎座百三十年、二代目松本白鸚・十代目松本幸四郎・八代目市川染五郎 三代同時襲名披露興行は、またひとつの伝説を生んだといえよう。

歌舞伎を私がいつも見ていく中で、「血」の重さや「芸」が代々受け継がれていく事の醍醐味を、あまり意識せずにいた。しかし今回、新・幸四郎の「勧進帳」の弁慶と、吉右衛門の富樫をみながら、しきりとその感慨の深さを感じ取ったのである。

すなわち、七代目幸四郎・初代吉右衛門~十一代目團十郎・初代白鸚・二代目松緑兄弟~当代白鸚・吉右衛門兄弟~そして、当代の幸四郎や海老蔵たちにつづく、「伝統」という名のDNAのリレーが見事に渡されていることを、私もようやく認識したのだった。

新・幸四郎の弁慶の成功は、一つ一つの動き、台詞、型を丁寧に演じるだけではなく、曾祖父の七代目幸四郎などへの畏敬の念を最大限表した点にある。顔の拵えも、叔父の吉右衛門の面影を宿すのに___それは初代白鸚へのリスペクトにほかならないのだが__私は驚嘆したものである。

小顔で、弁慶役者には不向きという声を横目にして、新・幸四郎は堂々たるセリフ回しと踊りの入った身体性を最大限生かすことで、弁慶のもつ躍動感、疾走感を全力で演じ切ってみせた。特にそれが最大限生かされているのは、山伏問答の「たとわば人間なればとて」と見せるすさまじい怒気や、石投げの見得のマスクの立派さ、延年の舞の晴れやかかつ爽快な充実ぶりにであった。

吉右衛門が富樫につきあい、美少年の新・染五郎が義経を演じることで、この家のDNAがまさに「勧進帳」のために生まれてきたことを改めて痛感させたのである。

また、感心なのは、花道の引っ込みの折に、一切手拍子を起こさせなかったこと。観客の意識の高さもうかがえるが、新・幸四郎の弁慶の気魄の賜物であり、気力の充実ぶりが舞台の芸となって昇華したといえよう。まさに渾身の弁慶であった。

吉右衛門の富樫にも触れよう。まさにそびえたつ巌のごとく、新・幸四郎弁慶の前にたちはだかり、巨大な存在感を見せ秀逸であった。初代白鸚への敬意とともに、彼自身の矜持を感じさせる、またとない味わいの富樫であり、超一級品の出来ばえである。名乗り、見とがめ、そして泣き上げ・・すべての動きが規格正しく、芸術品のように美しい。この舞台をみたら、泉下の初代吉右衛門、初代白鸚もそれぞれ涙するに違いない。そう思わせる、まさに至芸。80歳で弁慶を演じたい、と常々語る吉右衛門であるが、その未来像が大変たのしみでもある充実の舞台であった。

驚嘆すべきは、義経を演じた、12歳の新・染五郎の抜群の存在感である。その端正なたたずまいは花道の出から尋常ならざるものがあり、発声はまだ変声期だからやむをえまいが、品格といい、貴族性といい、第一級の義経になっていたのは立派である。「判官御手をとりたまい」の美しさは、比肩できぬものであり、この個性が大事にすくすくと育つことを願ってやまない。行く末恐ろしき大器である。

四天王も豪華。鴈治郎、芝翫、愛之助、歌六と並ぶと、誰が弁慶で誰が富樫でもおかしくない配役だが、これも世紀の襲名興行ならではのごちそうであろう。芝居のひとつひとつの動きが丁寧であり、ドラマに並々ならぬ緊迫感を生んだのは、この四天王あってこそと思う。高麗五郎、吉三郎、吉五郎の番卒も神妙である。里長、三右衛門の長唄も、朗々と冴え、高麗屋の春を寿ぐ。

歌舞伎の未来にまたひとつ、大きな星がきらりと光った。新春の風にふかれ、芝居談義もあちこちでわく、東銀座の夜であった。


米吉に六世歌右衛門の面影を見る~伝統歌舞伎保存会「本朝廿四孝 十種香・奥庭」を観る

2017-12-23 10:30:52 | 劇評

あでやかな大輪の華が一輪、またあらたに生まれた。米吉の「本朝廿四孝 十種香・奥庭」の八重垣姫である。かれの八重垣姫を見て、私は、歌舞伎役者のもつ「輪廻」ということについて考えさせられた。

きのうは第21回伝統歌舞伎保存会の研修発表会が国立劇場の大劇場で催された。吉右衛門ら幹部俳優による、ざっくばらんな「お楽しみ座談会」につづいて、非常にここちよい緊張感をたたえながら舞台に登場したのが、米吉の八重垣姫であった。彼にとっては初の大役といってもよいだろう。父の歌六が座談会で、大変恐縮しながら息子の晴れ舞台を寿いでいて、それはまた歌舞伎のもつ「永遠の家族性」を感じさせる感慨深いものであった。

米吉は、どちらかといえば、いままで可憐な容姿の中に驕慢さとおきゃんな一面をのぞかせる娘役が多く、そこにはかれなりの現代青年の主張を感じ取れたものだ。しかし、三姫のひとつである八重垣姫には、その現代性を抑制しつつ、むしろ恋の神話に生きるはかりしれない情熱と狂乱が求められる。また、私ももちろんみたことのない、六世歌右衛門の若き日の美貌が、米吉の横顔にふと宿り、米吉の未来の立女形としての可能性を現出したことは、今回の舞台の大きな特筆すべきことであった。

舞台の描写に戻ろう。まず、振り返った時の姿のうつくしさ、みずみずしい感性は、今日の若手女形随一のものであろう。ときにきんきんとしたセリフ回しになるのを直すのは今後の課題だが、若い米吉なりの、2017年の「八重垣姫」像を見せ切ったのは、圧巻でもあった。八重垣姫の、勝頼への恋情のはげしさは、「十種香」ではまだ淡彩だ。が、つづく「奥庭」での狂乱で米吉は八重垣姫のマグマのような想いを描きつくして見せた。狐の精に取りつかれる場面も気魄十分。精一杯、歌舞伎役者の青春を舞台にぶつけ、清新な舞台を生んだ。ここで驕ることなく、謙虚に舞台に精進してほしい。

また清新な配役、一日限りの大役に体当たりでいどんだ若手・中堅たちに拍手を贈りたい。勝頼の音一朗は、気品にあふれ、これからの有望株。菊史郎はベテランだが、濡衣のかなしみを丁寧に魅せた。圧巻だったのが、吉兵衛の長尾謙信で、朗々としたセリフ回し、堂々たる風姿は、師匠の吉右衛門ゆずり。しかも、どこかその風格には、17世羽左衛門の篤実な面影もやどり、おもわず落涙した。蝶三郎の原小文治、白須賀六郎の吉二郎はごくろうさま。吉二郎はセリフがきっぱりしているが、イトにのっての動きがさらにきびきびしたものになるといいと思うので、精進してもらいたい。人形遣い(狐)の蝶八郎は端正な舞台で好感が持てる。全体に非常にレベルの高い舞台で、監修をつとめた雀右衛門・菊之助・又五郎の労をねぎらいたい。また葵太夫の指導のもと、舞台をつとめた、拓太夫、樹太夫ら竹本連中にも清新な魅力を感じたものである。

一日限りの舞台に情熱をもやす若者たちの白熱した演技に、心洗われる思いの、隼町の師走の夜であった。芝居のことしの見納めとなったが、すがすがしい感動とともに、劇場をあとにした。(了)

 


 

 


来年から、正式に劇評活動をスタートさせます!

2017-12-22 10:36:24 | 劇評

みなさまにご報告です。

夫とも相談しまして、就職活動はやめることにいたしました。(いわゆる一般企業さまですね)
理由は様々ですけれども、やはり、夫が正式に、劇評をかくことを認めてくれたのが、いちばんの理由です。

これから、どういう形で、出版社の方々や、関係各位とコネクションを築き上げていくか、私なりにうごいていきたいと思っておりますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

この決断を下す間に、お世話になった皆様には本当にお礼を申し上げます。

なにか、評論・インタビュー・コラム記事などご用命がありましたら、ぜひご連絡をたまわりますよう、お願い申しげます。
FacebookのMessengerでも、また、Twitterのダイレクトメッセージでも結構です。

精一杯がんばります!よろしくお願い申し上げます。


愛之助・中車・松緑、新時代!12月歌舞伎座劇評

2017-12-12 08:21:05 | 劇評

当月歌舞伎座は、三部制興行である。玉三郎を上置きに、愛之助、中車、松緑が競い合う形になったが、結果的に非常に好舞台の連続となった。ことに愛之助の「実盛物語」は私が20年この戯曲を見た中でも屈指の出来であり、渡辺保先生もご指摘があったが、彼の今後のおおきな当たり役になろう。また2部の「らくだ」、3部の「瞼の母」の中車がまったく対照的な役柄を鮮やかに演じ分けており、ことに「瞼の母」では歌舞伎座史上に残る大熱演を見せた。また、好調・松緑が家の芸である「蘭平物狂」を豪快に演じ、1部の「土蜘」でも不気味な存在感を見せた。ますます祖父・2世松緑にセリフ回しといい、面構えといい似てきたのは、立派である。

特に印象にのこった舞台をふたつ。そのうちの「実盛物語」は愛之助は東京では初めてだが、切ってはめたような爽やかさと義太夫味が身上で、かれがこの世代でいちばんの義太夫役者であることを証明した。仁左衛門に驚くほど似ているが、仁左衛門よりもずっとシャープで鋭い芸風である。これに愛嬌が加われば、石切梶原も彼の掌中に収まるのは自明の理だろう。「うきつしずみつ」の調子のよさ、小万の腕を切り落とした「物語」で、彼自身と合戦の様子が浮かび上がるセリフの妙、そして、扇をパッと鮮やかに開いて決める型の美しさなどで、観客を華麗に魅了した。九郎助の松之助、瀬尾の片岡亀蔵、葵御前の笑三郎と手練れがそろい、当月きっての好舞台となった。

「瞼の母」は長谷川伸の名作だが、私はじつは初めてこの作品を見た。あまりにも有名な作品だが、中車と玉三郎の真摯な演技の取り組みによって、すばらしい劇的成果を上げた。番場の忠太郎の一本気で男気あふれる性格を、中車が丁寧に演じていて、好感が持てる。また、玉三郎の母・おはまも、泣く泣く我が子・忠太郎を手放したかなしみを、ずっと内に秘めつつ、あえて冷淡に突き放すおんなの葛藤を、実に見事に演じた。おはまの横顔を見ているだけで、玉三郎の白い頬に、人生の苦渋がみてとれる。中車の妹役・梅枝に「なんでおまえは可愛く思えるのに、あの子はそうは思えないのだろう・・!」と嘆くありさまに、母子の相克がみてとれて、私は思わず涙を禁じ得なかった。

中車は、「ひでぇや・・・ひでぇや・・・」の詠嘆と絶唱に、彼自身の人生をオーヴァーラップさせ、よりふかい感動に観客をいざなう。新歌舞伎では彼の個性と、すぐれた脚本への解釈が生きるように思うし、今後もぜひ新歌舞伎に光を当ててほしいと願っている。いずれ「暗闇の丑松」も手掛けてみてほしい。

若手中堅では、やはり彦三郎、梅枝、児太郎が光る。彦三郎の短気だがまっすぐな性格の半次郎は、そのまっすぐさゆえに幸せをつかむにふさわしい。児太郎はなにをやらせてもうまい。立女形への道をまっしぐらである。梅枝は、玉三郎のイキをよくのみこんで、熱演していて好ましい。萬次郎もよい味をだしているし、歌女之丞の夜鷹は殊勲賞物の出来ばえである。

とにかく、ぜひ好劇家ならずとも、若い歌舞伎ファンの方々にも見ていただきたい、今月の歌舞伎座である。

ともあれ、今年も1年、いろいろあった歌舞伎界だったが、すばらしい舞台に出会えるのは本当に僥倖ともいうべきことである。来年も高麗屋三代襲名からスタートする歌舞伎界なので、ぜひ記録にのこるビンテージイヤーになることを願ってやまない。(了)


男たちの凄艶な競演! 幸四郎さん、仁左衛門さん、藤十郎さんが傑出している歌舞伎座夜の部です!

2017-11-09 05:23:08 | 劇評

 

きのうは、「ワンピース」の興奮さめやらぬ中、

歌舞伎座夜の部に行ってまいりました!

こちらも大変充実した内容で、まさにパーフェクト!!!

現在の歌舞伎界の底力を感じさせる、すばらしい出来栄えでした!

 

甲乙つけがたいのですが、やはりいろいろな意味で衝撃なのは、「仮名手本忠臣蔵」の五段目・六段目の仁左衛門さんの勘平です!

歌舞伎を見始めて30年になろうとしている私ですが、やはりこの仁左衛門さんの勘平は、唯一無二、史上最高の勘平ですね!絶品です!どうすばらしいかということを、うまく言えないのですが、もちろん型もきちんと守っておられ、いろいろな手順もぬかりないのですが、そこからさらにはなれて、活殺自在に勘平の緊張感と、彼の塩谷判官に対する苦渋の想い、そして「色にふけったばっかりに」となげく、そのなんともいえない美しさは、いま現在もとめられる最高の勘平像といえましょう。


いつもはどうしてもなんとなく段取りに追われる感のある五段目・六段目ですが、仁左衛門さんの手にかかると、大変にドラマティックでぎりぎりの精神状態で生きている男の、切迫感と生活感がリアルに出ていて素晴らしいです。それにけっして勘平がそそっかしくておっちょこちょいなのではなく、つねにかれは追い詰められた思いで生きていることがよくわかり、おかる(孝太郎さんがこれまたみごとな造形をみせてくれます!)との愛もかれにとっては、終の棲家ではなく、心のどこかに爆弾を抱えているような思いで生きている男のリアルな心情を見せています。


忠義というだけでない、塩谷判官への想いが全編流れているので、勘平の生きざま、義父を殺したと思いこんだこころの葛藤に非常に説得力があるのですね。姑のおかやの上村吉弥さんがこれまた殊勲賞物の演技で、ドラマを盛り上げており、今回五段目・六段目の成功を確実なものにしています。そして、一文字屋お才の秀太郎さんの、色街にいきて、さまざまな男と女をみつめてきた、どこか冷めた視線がまた新鮮で、勘平とおかるの悲劇を非常に現実感あふれるものにしています。


特筆すべきは、判人源六の松之助さんで、松嶋屋につかえてきたこの大番頭が、じつにいやらしく、こそくながらにくめず、愛嬌もたたえる上方の男の驕慢さを表していて傑作です。仁左衛門さん・孝太郎さん・吉弥さん・松之助さん・秀太郎さん、このアンサンブルが見事なので、ドラマにぐいぐい惹きつけられます。


そして、話は前後しますが、五段目の彦三郎さん(千崎弥五郎)がまた実に見事な演技をしめし、忠臣蔵のドラマの悲劇の全容がよくつたわります。勘平のような悲劇をあちこちで目撃して、千崎なりに葛藤をおぼえつつ、大義と死に向かって邁進するしかない男のかなしみを全身で演じており、六段目にいたっては、その悲劇が頂点に達するので涙をおさえきれない千崎の姿をみごとに活写していました。


彌十郎さんの不破数右衛門がこれまたすばらしく、情誼に厚いながらも、大望の前には非情にならざるをえない人間の皮肉をうつしだして秀逸。とにかく、この五段目・六段目をみるだけでも、歌舞伎座顔見世の価値は十二分にあります。染五郎さんの斧定九郎もまた凄絶な美をみせてくれます。

つづく「新口村」も、現在の歌舞伎の最高峰である藤十郎さんの至芸を堪能できるばかりでなく、雪の夜の男女のかなしみと、親子の別れを歌六さん、扇雀さんがこれまた熱演しているので、大きな感動を呼ぶ一幕となっています。藤十郎さんはその若やいだ姿と言い、うつくしさといい、まさに今日の平成歌舞伎の水準の高さを示しており、大きな規範となるでしょう。また歌六さんについては、父・孫右衛門をみごとに造形しており、かれの可能性が脇役のみならず、芯の役も範疇に入るスケールの大きさをしめしており、今後の眼がはなせません!

そして、掉尾をかざり、幸四郎の名前では最後となる「大石最後の一日」を、幸四郎さんが万感の思いで勤め、大きな感動をよびます。ぜひ、「高麗屋の歌舞伎はちょっと」という方も、ぜひ、くもりのない目で幸四郎さんの人間観察のたしかさ、セリフの朗誦術の卓抜さ、華のある役者ぶりをごらんいただいて、来年の白鸚襲名を寿いでいただきたいと思います!

幸四郎さんはセリフもけっして泣きすぎず、ぐっとこらえ、大石という人間のふところのふかさ、大きさ、そしてどこかにたたずむ無常観をみせたのは大変な収穫です。「初一念」というキーワードを大切に語り、磯貝十郎左衛門(染五郎さんが神妙に演じています)と、おみの(児太郎さんが大ヒットの名演。かれは立女形として、王道をあゆむスターになるでしょう!)のあわれた恋をみまもる役回りを、しっかりと見せてくれます。大義をかかげ、吉良を討ち、死を座して待つ大石の、胸のうちにひそむ死への恐れも、幸四郎さんは正直にあぶりだし、真山青果のみごとなセリフをものにして、大石内蔵助という人物の、奥のふかさを堪能させてくれました。

おみのが四十七士の自裁を前に、みずからの命をたつ哀れさは、児太郎さんの端正な美しさとあいまって劇的効果をもたらしています。かれは今回の公演で、いちだんと大きくなりました。玉三郎さんにどことなくセリフなども似ているのがすばらしいですね!おみのの清冽な愛によって、磯貝の想いもすくわれ、すべてが再生と和解のものがたりに収斂されていくのは、大きな感動を呼びますし、幸四郎さんの孫の金太郎さんも清冽な演技をみせて期待をもたせます。

最後の幸四郎さんの万感の涙も、このすぐれた英雄役者の次の名前に向けてのはなむけとしてふさわしいものでしょう!



ぜひぜひ、「ワンピース」で歌舞伎の魅力にはまった若いみなさま、ぜひ当月の歌舞伎座にもお越しいただいて、現在の歌舞伎がいかにすぐれた水準にあるかをまざまざと体感していただきたいと思います。

歌舞伎400年、その進化はけっして止まらない_____

そんな感慨にふけりつつ、帰途についた、東銀座の熱い夜でした。

#仁左衛門

#幸四郎

#藤十郎

#染五郎

#児太郎

#彦三郎

#歌六

#彌十郎

#歌舞伎座




「ワンピース」の魅力、さらにお伝えします!海外展開もぜひぜひ!

2017-11-08 09:02:45 | 劇評
きのうはたのしく、新橋演舞場の歌舞伎の新作「ワンピース」を見てまいりました!詳しくは、私のブログをお読みいただきたいのですが、まさに歌舞伎の新しい地表を切り開く、大傑作でした!

Yesterday was awesome, I've been looking at Kabuki's new work "Shinbashi performance dance" One Piece! For details, I would like to read my blog, it was a masterpiece to open up a new surface of Kabuki indeed!



「えっ、これ漫画が原作なの?」と、あなたがたは驚かれるかもしれませんが、日本は世界でも有数の、漫画大国です。「ワンピース」というのは、累計3億6千万部(!!!!)という、ギネスブックにも認定されたほどの、大変に人気のある漫画なのです。それの歌舞伎化ということで、いったいどういう表現になるのか、見る前はとても緊張していたのですが、実際に見に行ってみたら、実にすばらしい、新しい歌舞伎のニューウェイブになっていて、大変感動しました!

"Well, may you be surprised?" Japan is one of the world's leading manga powers, "Is this manga the original?"
"One Piece" is a very popular manga, about a total of 360 million copies (!!!!), which was also certified in the Guinness Book of Records. Before seeing it, I was really nervous about what it would be like to express it as a kabuki, but when I actually went to see it, it was a really wonderful new kabuki new wave I was touched very much!

感想はブログのほかの記事にたくさん書いているのですが、この歌舞伎のすばらしいところは、歌舞伎の伝統的な演技や手法を用いつつ、プロジェクトマッピングのような最新技術もしっかり導入して、「ワンピース」のスケールの大きな世界観を完璧に表現していることがあげられます。
 
The impressions are written in blogs a lot, but the wonderful thing about this Kabuki is that it uses the traditional Kabuki acting and techniques, as well as firmly introducing the latest technology like project mapping, so that "one piece" It can be said that perfectly expressing the scale view of the world view.


また、膨大な原作をきちんと4時間の台本にまとめ上げた脚本のすばらしさ、観客と俳優の双方向的な交流をうまく現出した演出のさえわたるセンス、興行側の劇場の「ワンピース」をまるごと劇場のなかで演出する、まるでバイロイト音楽祭のような祝祭的空間を生み出したことなど、素晴らしい点は、枚挙にいとまがありません。

In addition, the splendid scenario that gathered a huge original into a script of 4 hours properly, the wonderful sense of the director's successful interactive exchanges between the audience and the actor, the whole theater "One Piece" of the box office theater It is like creating a festival space like a bairoit music festival, directing in a gorgeous place, there is nothing to do with enumeration.

「ワンピース」はこれからの、21世紀の日本の、あるいは世界中の演劇興行を考える上で、非常にエポックメーキング的な作品になったと思いますし、ひとつのすぐれたモデルケースとしても参考になるかと思います。また演劇興行のみならず、音楽のコンサートなど、他のエンターテインメントへの影響も非常に大きな役割を果たす作品になるかと思います。

I think that "One Piece" has become a very epoch-making work in the future considering Japanese theater of the 21st century or the world's theater entertainment worldwide, and I think it will be useful as one excellent model case think. I think that not only theater entertainment but also the influence on other entertainment such as music concert will play a very big role.

あなたがたにもごらんいただく機会があれば、ぜひ日本で「ワンピース」をごらんくださいませ!

If you have the opportunity to see it , please look at "One Piece" in Japan!

これだけ斬新な魅力にあふれた舞台なので、旧来の劇評家のみなさんは、まったくついていけないのもわかります。でも私のように、映像と演劇と両方勉強したことのある人間なら、すぐにこの舞台の可能性や演劇史的位置づけをわかることができます。

Because this is a stage full of innovative charm, you can understand that traditional theater enthusiasts can not follow at all. But like myself, if you have studied both video and theater, you can quickly understand the possibilities of this stage and the historical theatrical history.

こういうすぐれた作品が生まれると、また歌舞伎や演劇もいいものだと思えてくるから不思議です。歌舞伎は、400年の歴史を誇っていますが、こうしたときに冒険的な作品が生まれることで、ますます発展し、新しいスターを生んできました。「歌舞伎」の語源は「かぶく」といって、「非常に斬新なことをする」という意味なのです。その原点にまさにたちもどったと言える、「ワンピース」の成功ですね!

まさに「イノヴェーション」、革新的な作品といえる「ワンピース」です!
 
It is wonderful to think that kabuki and theater are also good when such excellent work is born. Kabuki boasts a 400-year history, but with the adventurous work being born at such a time, it has developed more and more and has brought new stars. The etymology of "Kabuki" is "wearing" and means "to do something very unusual and innovative". It can be said that he had just returned to its origin, the success of "One Piece"!

Indeed "Innovation" is a "one piece" that can be said to be an innovative work!

この「ワンピース」という舞台にであえて、私はとても幸せです。そしてこのエッジのきいた作品とともに、古典もきっちり演じられる歌舞伎役者のひとたちの驚異的な才能に、あらためて敬服する次第です。
 
I am very happy to be on the stage called "One Piece". And along with this edgy work, we will admire again for the astounding talent of the Kabuki actor who can perform exactly the classic as well.
 
#ワンピース歌舞伎

菊五郎さん、時蔵さん、圧巻の艶技!歌舞伎座昼の部初日をみてきました(^_^)/

2017-11-02 00:50:28 | 劇評

きのうは歌舞伎座初日、昼の部を見てまいりました!それぞれ大変充実した出来栄えで素晴らしかったです。見ごたえもあるので、ぜひたくさんの方に、今月の歌舞伎座をごらんいただいて、いままさに最高峰の芸を誇る、歌舞伎役者さんたちの至芸を堪能していただきたいと思います。

甲乙つけがたい出来栄えですが、わたしがいちばん実は共感をおぼえ、感動したのは、菊五郎さんと時蔵さんのコンビによる、「直侍」でした。長年このコンビを見続けていますが、今回ほど、直次郎と三千歳の切迫した刹那的な愛を感じ取った舞台は初めてで、不覚にもわたしは涙しました。

延寿太夫の切々たる清元が流れる中、なさぬ仲に陥った直次郎と三千歳の、濃密な性を思わせる愛の深さとつややかな菊五郎さんと時蔵さんの演技にしばし茫然としたのでした。私がようやく「恋」のつらさ、離れ離れになる恋人たちの情のふかさをしったのかもしれませんし、もう「この世では会われねぇぜ!」と絶唱する音羽屋の、万感の思いも込められていたのかもしれません。

時蔵さんが終始、菊五郎さんの直次郎をまっすぐにみつめ、彼以外の男には決してなびかない、おんなの矜持をのぞかせて、ぞくりとするほどの色っぽさを感じさせて秀逸でした。菊五郎さんとのコンビの集大成ともいうべき美しさとあでやかさをみせてすばらしかったですね!もちろん「直侍」は数々の名コンビによって傑作舞台を残していますが、私が見た中で、もっとも鮮烈な愛のすがたを感じさせた、菊五郎さんと時蔵さんの舞台でした。芝のぶさんがここでも美しくあわれな女を演じて光ります。

期待していた「奥州安達原」もみごとな出来栄え。雀右衛門さんの袖萩が殊勲賞ともいうべき完成度で、かれのあらたな代表作になるだろうと思います。わたしは吉右衛門さんの二役の袖萩で「いたましい母性がたちのぼる」と以前劇評に書きましたが、雀右衛門さんの袖萩は、さらにつめたい東北の雪と大地に生きる、瞽女(ごぜ)となった女性のしなやかさと哀しみを感じさせてまことに秀逸でありました。三味線の演奏もまだつたない部分もありますが、日を追ってよくなるでしょうし、三味線を上手にひくことが大事なのではなくて、そこに込められた、引き裂かれた貞任との愛や、娘お君への愛情のほとばしりを表現することが大切なのだろうと思います。直方の歌六さん、濱夕の東蔵さんも盤石の演技。特に歌六さんは、前半の主軸を担う大熱演で、ドラマに一層厚みを増しました。東蔵さんの、着物をおもわずなげかけ、我が娘・袖萩を「犬」と呼ばねばならない悲しみもまた鮮烈に伝わり、「母」になったおんなたちの、それぞれのかなしみと葛藤をよくあらわしていたと思います。

で、桂中納言実ハ貞任の吉右衛門さんですが、上手から黒い装束で現れただけで、その古怪な存在感、不気味ともいうべき迫力がつたわります。「何奴の」「仕業なるか」と、公家言葉と強く張ったセリフの音遣いもまた絶品でした。わたしは未見ですが、17代目勘三郎さんのおもかげもふっと漂わせていたように思いました。左手で刀を抜き、右手で持ちかえる初代の型の面白さも難なく見せて、貞任の、「蝦夷」とさげすまれつつ、憤怒をこめて都人たちをみつめてきた、彼の生き様や矜持を描きつくしたのは、やはり大播磨の卓抜した人間観察のたまものと思います。袖萩をいつもなら二役で演じますが、吉右衛門さんが一役だったので、袖萩との別れもあり、まことに情趣あふれる一場面となりました。また、白い幟と、赤い幟をたくみに使って、八幡太郎に迫るくだりは、鬼神のごとき激しさをにじませて、場内を圧倒する気魄にみちあふれていました。

又五郎さんの宗任も豪快でよく、赤ッ面がよく似合って、手強くみせていましたし、錦之助さんの八幡太郎義家も端正な中に、御大将としてのつよさもみせて、まずは最高の配役でしょう。(梅玉さんの八幡太郎もみごとだったことを思い出しました)またの再会を約しての大詰めは、劇的なカタルシスをもたらし、東北のまつろわぬ民たちの慟哭を、歌舞伎座の大空間いっぱいにこだまさせました。

順序は前後しましたが、最初に登場する「鯉つかみ」も大変たのしいお芝居で魅了します。わたしははずかしながら初めて拝見しましたが、歌舞伎の外連味とユーモアをたくみに収斂した舞台で、みごとな成果をあげていました。前半のドラマ部分がもうすこしテンポよく会話劇の面白さをみせるとなお一層よくなるだろうと思います。染五郎さんの着想のゆたかさと、襲名を再来月にひかえた意気軒高たる思いが横溢した舞台になっていて、好感が持てました。特に、影絵の映像を駆使した、鯉の描写と、本水を使った立ち廻り、宙乗り、そして早変わりの楽しさは、理屈抜きでうれしいですし、いやみにならず品よく纏めていて、見事でした。ちょっと蛇足ですが、鯉が「シン・ゴジラ」の第一形態に似ているのも現代的ですし、シャープかつたくまざるユーモアが横溢する演出もすばらしいですね。染五郎さんが獅子奮迅の活躍をみせますが、児太郎さんの可憐な美しさも特筆すべきものがあります。そのほか友右衛門さん、高麗蔵さん、廣松さん(きびきびとしていて好演)、秀調さんの演技もひかるものがありました。

芝居のうちだしのあとは、木挽堂書店さんと、新装開店した茜屋珈琲店に行って、しばし芝居談義にふけりました。芝居を見終わってからの楽しみがまたふえそうでうれしいです。特に茜屋さんは先代のご主人をなくされて、かなしみにふけっていたのですが、甥御さんと姪御さんが復活され、活気ある店内にまた生まれ変わり、先代も泉下で喜んでおられるだろうと思います。これらの劇場、お店でお目にかかった皆様とのご縁も大事にしたいですし、これからもやはり私は芝居を見続けて、楽しんでいくことになるだろうと思いました。

明後日もこの昼の部を拝見し、来週は「ワンピース(ついに初めて拝見します)」歌舞伎座夜の部、国立劇場とつづきますが、これだけ性格の異なる歌舞伎を3劇場で見られるのは本当にしあわせなことと思いました。今月の歌舞伎美人でいみじくも大播磨が「芝居は平和でなくては見られないものです」という言葉がつよく、こころに残る言葉となって胸に迫ります。

夫と待ち合わせるために、新橋にも趣き、うまれてはじめて「立ち飲み屋」を経験しました。新橋のサラリーマンのみなさんとしばしたのしく酒肴をかたむけつつ歓談しましたが、歌舞伎のイメージは「高いねぇ」とひとこと。でもこういうサラリーマンの方にもおたのしみ頂けるように、いろいろくふうを凝らさなくては、とおもっていたら・・・「ねぇ、海老蔵さんって再婚するんですか?」ときかれてビックリ。すっかり忘れてた!そんなこと!


「いや?ご本人がそれは決めることで、まわりがガタガタがたいうべきことではないのでは?」と私がいったら、「歌舞伎関係者はみんなかれが再婚しないと團十郎は襲名させない、って言ってるのはほんとうなんですか?」というオジサマたちの声。うーん・・・再婚するしないというより、本人の芸が充実するかどうかなんですけどね、実際のところは。で、いちばんそれをわかっているのが海老さまご本人だろうと思いますけど。2020年にオリンピックに合わせて團十郎襲名するんでしょう、とかまことしやかに言われてますけど、実際のところは松竹さんと海老蔵さんご本人が決めることですから、まぁ、あわてず騒がず、ことの次第をみていましょうよ、とお話しておきました。それより、海老蔵さんには、とにかく芸をきっちり磨くことをお願いしておきますね(^^) 再婚なさるかどうかは、それはまた別の話。れいかちゃんとかんげんくんのことを第一に考えて、海老蔵さんだってもうすぐ不惑を迎えるのですから、オトナの判断をしていただいて、ご本人たちが幸せになることをいちばんに優先してください、と申し上げて、今日のおしまいの言葉とさせていただきます(^^)/

 


菊之助・彦三郎・梅枝・右近が絶好調!国立劇場「一條大蔵譚」が見事です!

2017-07-04 01:33:14 | 劇評

きのうは、既報通り、国立劇場大劇場にて、歌舞伎鑑賞教室「歌舞伎のみかた」と「一條大蔵譚」を見てまいりました。どちらも見ごたえがあり、特に「一條~」では、菊之助・彦三郎・梅枝・(尾上)右近のすばらしい活躍で、すぐれた劇的効果を挙げました!今年の歌舞伎公演のひとつの白眉といってもいいでしょう。

まず坂東亀蔵による「歌舞伎のみかた」。先月の隼人とはうってかわって、非常にまじめで端正な解説。せり上がりから盆周りの説明をして、黒御簾の音楽、竹本、つけうちをてきぱきと口跡鮮やかに解説していくさまはさすがの一言です。また、竹本の解説で「国姓爺合戦」「本朝廿四孝」などを例にとりつつ、電光掲示板でそれぞれの本文わかりやすく説明したのはお手柄です。大変すぐれた解説となりました。

つづく「一條大蔵譚」は、なんといっても菊之助の一條大蔵卿が岳父・吉右衛門に学びながらも、独自の境地をすでに開いているのがすばらしく、かれの新たなる当たり役となるでしょう。「檜垣」での稚気あふれる「阿呆」ぶりもおかしく愛らしく、大蔵卿の無邪気なこころを演じ切り、また「奥殿」ではぶっ返りとともに...、あざやかな大蔵卿の矜持を見せたのが収穫。吉右衛門は人間の二面性と複雑な心理を大蔵卿に託しましたが、菊之助はさらに柔軟に大蔵卿の心理に踏み込み、「稚気もまた大蔵卿の本意である」とするところに現代青年のリアリティを現出させました。鋭敏さもたたえつつ、圧倒的な菊之助自身がもつ気品が、公家としての品格につながり、平家調伏の大望をひそませる意地となったように思います。初日とは思えぬ完成度の高さに驚嘆するとともに、回を重ねて、大蔵卿を彼自身の新たなる鉱脈として大事にしてほしい役となりました。

吉岡鬼次郎(きじろう)役を好漢・彦三郎がまたも快演。ダブル主役といってもいいほどの圧倒的な存在感と抜群の口跡のよさで見せ切りました。直情径行なところもありつつ、大蔵卿・常盤御前への疑念に揺れる多感さを見事な感性で演じ、また一段と役者の華が上がったように思います。顔の拵えもよく工夫し、祖父・17代目羽左衛門にますます似てきて、好劇家の紅涙を絞りました。

梅枝の常盤御前も、亡き夫・義朝との交情を感じさせる情のふかさとそこはなとない色気を感じさせてすばらしいですし、右近のお京も大変美しい女芸者で、鬼次郎とのわりない仲を想像させて見事です。今月この四人がいいので、ドラマに大変テンポが生まれ、快調な運びとなりました。

鑑賞教室の域を超えた完成度の高さなので、チケットも残り少ないと聞きますが、今月の必見の舞台といえましょう。大変満足して、隼町をあとにしました!


21世紀の「黒蜥蜴」に酔う~劇団新派・喜多村緑郎と河合雪之丞の名コンビ誕生!

2017-06-07 21:26:48 | 劇評

大変すばらしい21世紀の「黒蜥蜴」が誕生しました!


三越劇場90周年、そして劇団新派の花形公演ということで上演中の「黒蜥蜴」が見事な成果をあげています。主演の喜多村緑郎(きたむら・ろくろう)さんが7年越しの企画ということで実現させたとあって、随所に若々しい「スーパー新派」ともいうべき魅力が横溢しています。齋藤雅文さんの脚色・演出で、三越劇場の舞台機構をフルに生かした、耽美かつワクワクする躍動感あふれた冒険恋愛活劇の誕生となりました!

※こちらは記者会見の模様です。右が緑郎さん(明智小五郎役)、左が河合雪之丞さん(黒蜥蜴役)です。

いつもは三島由紀夫版の「黒蜥蜴」を上演することが多いですが、今回は劇団新派の座付き作者である齋藤雅文さんが、新派のメンバーの魅力をフルに生かしたロマンあふれる物語を描き出しました。美しい情感あふれるセリフは、これからの劇作を目指す方の指針となるでしょう。

片桐刑事(永島敏行さん)の述懐から怪盗・黒蜥蜴と明智の不思議な運命の物語が始まります。時は昭和初年。一寸法師・怪人二十面相などの悪党たちが集う舞踏会のヒロインは、やはり黒蜥蜴(雪之丞さん)でした。絶世の美女にして妖しい魅力を放つ彼女の前に、かしずく男たち。しかし、乱闘騒ぎがおき、黒蜥蜴の部下・雨宮潤一(秋山真太郎さん)が一寸法師の手下二人を殺してしまうのでした・・・。

いっぽう、名探偵・明智小五郎(緑郎さん)は、宝石商の岩瀬(田口守さん)家の女中・春(伊藤みどりさん)の来訪を受けていました。岩瀬に一人娘・早苗(春本由香さん)がいるのですが、彼女を誘拐するという黒蜥蜴からの予告が来て、明智に内々にその警護を頼みたいというものだったのです。黒蜥蜴は早苗の誘拐だけでなく、岩瀬の所有する宝石「クレオパトラの涙」を奪おうとしていたのでした。

早苗の誘拐の予告をした黒蜥蜴をとらえようと、日比谷のホテルで早苗を警護する明智のもとを、岩瀬の上客である緑川夫人がやってきます。しかし、彼女こそ黒蜥蜴そのひとだったのでした!一瞬のスキをついて、早苗を連れ出す黒蜥蜴は何事もなかったかのように、明智とポーカーゲームを繰り広げます。不思議な縁を感じるふたりでしたが、予告した夜の12時が近づこうとしていました・・・。

 

なんといっても主役ふたり、緑郎さんと雪之丞さんの名コンビが、絵から抜け出たような美しさです。猿之助劇団時代から名舞台をみせてくれていましたが、名前が変わっても、すばらしい資質をこのふたりが見せてくれるので、まるで夢の世界にいるかのような錯覚を与えてくれ、芝居の醍醐味を感じさせます。

緑郎さんは少々皮肉屋ですが、うちに繊細さと躍動感を秘めた小五郎を熱演。立ち廻りやだんまり、けれん、早変わりといった歌舞伎の手法もたくみに取り入れつつ、黒蜥蜴との恋と対決に苦悩する小五郎像を魅力的に描き出しました。ことに、第2幕のルナ・パーク跡での、黒蜥蜴との甘美な対話は出色の出来ばえ。風姿のよさ、口跡のよさ、卓抜した演技力。どれをとっても花の役者です。

また、タイトルロールを演じた雪之丞さんが、まさにあでやかな大輪の華を咲かせて見事です。「黒蜥蜴の語る、山の手言葉を綺麗に話そうと心がけました」という雪之丞さんは、品格と暗鬱さと妖艶な魅力を放って、カリスマ性で舞台を圧倒します。歴代の黒蜥蜴役者の中でも、屈指の出来ばえではないでしょうか。明智との恋の駆け引きにゆれる女心と、「私はね、ひとを殺すのをなんともおもっていないのよ」と言い放つ、そらおそろしさが同居する不思議な魅力をプリズムのように見せてくれます。

片桐刑事の永島さんもユーモアも漂わせつつ、物語の狂言回しを巧みに演じました。そして、今回の大きな収穫は、早苗役を熱演した新星・春本由香さん。松也さんの妹さんですが、兄によく似た端正な顔立ちと声のよさ、そして、松たか子さんの再来と思わせるような清冽な魅力で、黒蜥蜴ならずとも魅了される娘像を描きだしました。爽やかな魅力は大変貴重なので、これからも大事に育てていただきたいです。もう一人の新星は、これが新派初出演となる、劇団EXILEの秋山真太郎さん。長身と甘いマスクは舞台映えしてこれからが楽しみ。新派にも積極的に参加してほしいですね。

このほか、岩瀬役の田口さん、春役の伊藤さんは、むずかしい役どころを手堅く好演。伊藤さんの変身ぶりには驚く方も多いのではないでしょうか。ジャック役の市村新吾さん、新聞記者役の児玉真二さんも飄逸なキャラクターで場内を沸かせます。

 

21世紀の現代に、都会のあだ花として咲きほこる女賊・黒蜥蜴と明智の、ロマンあふれる物語を劇団新派が新たな鉱脈としてあてたので、これからも長く代表作として再演をかさね、大ヒットしてほしいと願います。

 

終演後は主役のお二人によるアフタートークも行われ、すばらしいお話をたくさん伺うことができましたが、字数がつきましたので、この辺で。24日(土)まで、東京日本橋・三越劇場にて。

 

 


吉右衛門の芳醇、松緑の慟哭、猿之助の躍動~充実の歌舞伎座昼の部初日を見る~

2017-06-03 07:43:51 | 劇評

 

きのうは歌舞伎座昼の部初日に行ってまいりました。大変な暑さ、晴天の中の初日となり、めでたくお祝いしました。今月は、夜の部に「御所五郎蔵」がかかるので、両花道がしつらえてあり、壮観です。

順を追ってお話しますと、まず昼の部最初の「名月八幡祭」で、松緑が初役の縮屋新助で見事な成果をあげました。また脇を固める猿之助の三次も好調です。松緑は、まずなんといって、その純朴な青年ぶりがよく、誠実な性格をそのまま表したような瞳の輝きと居住まいのただしさが素晴らしい。深川芸者・美代吉(笑也)に寄せるプラトニックな愛情も、大変すがすがしくてみていて彼に感情移入しやすく、松緑がピュアで朴訥な新助像を作り上げるほどに、後半の悲劇がいっそう際立ちます。ことに大変すぐれていたのは、美代吉にそっと羽織をかけ、じっと見つめ、やさしく団扇で風をあおいでやるくだり。池田大伍が大正ロマンとして描いたのは、美代吉の女性像だけでなく、こうした新助のような男性像でもなかったと思われるほどです。後半、本水の豪雨の中、愛に狂って美代吉を殺傷するところも、気魄十分。父・三代目の舞台がよみがえるかのような熱演でありました。松緑、昼の部大当たり。

笑也は初日のためか、すこしセリフが入っていないように散見しましたが、がんばっていただいて、この江戸版マノン・レスコーともいうべき美代吉をうまく造形してほしいと願っています。三次の猿之助は色気もあり、いい男ぶりです。猿弥の魚惣、竹三郎の女房お竹、辰緑のおよし、殿様役の坂東亀蔵、それぞれ好演です。また、幇間の吉三郎、中間の伍助の吉五郎、蝶十郎、又之助、蔦之助、京由(彼の芸者がろうたけて美しい)が印象に残りました。


続いては、猿之助の澤瀉屋の芸である「浮世風呂」。こちらも自由自在に歌舞伎座の舞台を躍動する猿之助の政吉が見事です。なめくじの種之助も美しく、いいコンビ。「喜のし湯」という湯屋も、ちゃんと澤瀉屋の芸に敬意を表していてすばらしいですね。『金毘羅船ゝ追手に帆かけてしゅらしゅしゅしゅ』と常磐津が歌いだすと場内も一気に盛り上がります。なめくじに塩をまいて退散させてしまう猿之助に、おもわず場内から拍手が。大変ほほえましいなかに、猿之助の花の役者ぶり、みごとな身体能力をいかした踊りで、こちらも彼の近年の充実を感じさせます。


そして昼の部なんといっても第一の出来なのは、「御所桜堀川夜討 弁慶上使」です。吉右衛門の武蔵坊弁慶が、そのスケールの大きさといい、骨法の見事さといい、傑出した出来栄え。花道の出から一気に緊張感がはしります。大いがぐりの鬘に、隈取をほどこした、吉右衛門の巨躯が花道を進むと、場内から大きなどよめきが起きました。情にあふれ、知略と武勇に富む弁慶にも、唯一の泣き所が、美しい娘・しのぶ(米吉がたおやかで可憐です!)であった、という伝説を吉右衛門が見事な造形で演じています。吉右衛門のすばらしいところは随所にありますが、最初の、卿の君(米吉二役)にむかって「三忘」の心得を説く場面で、なんともいえぬ感慨と悲しみを見せる姿が秀逸です。最後の大泣きもまた豪快かつ親の情を切々と訴え、満場の紅涙を絞ります。

雀右衛門の初役のおわさも見事なできばえ。しのぶを身ごもり、「名も知らぬ稚児」との再会に思いをはせる女心を達者な仕方噺で現出しました。また、米吉のしのぶがなんといっても今回の白眉。この美しさと可憐さは播磨屋劇団にとって貴重な財産。今後彼で、「吉野川」の雛鳥も見たいし、もし可能なら「菅原」の苅屋姫、「鳴神」の雲絶間姫なども見たいです。又五郎の侍従太郎も実直な演技、また高麗蔵の女房花の井も神妙に舞台を勤めました。夜の部も来週金曜日に拝見しますが、まずは昼の部必見の「弁慶上使」であることは間違いありません。

今月は、夜の部も幸四郎、仁左衛門、松也などもそろい、大変充実の舞台となりそうです。また歌舞伎座に通う日々となりそうです。


I went in the part first day at Kabukiza noon yesterday. It was the first day in the serious heat and clear sky, and I celebrated happily. It takes "Gosho no Gorozou" for evening performance this month, so two ways to the ring are arranged and are magnificent.
 
When he talked in order, Shoroku got excellent excellent results by Chijimiya Shinsuke of his appearance in a new character by "Meigetsu Hachiman festival" at the beginning of the part at noon first. Sanji of Ennosuke who strengthens his defense again is also favorable. Shoroku, first, how many, but, the naive youth way is good, and right of the blaze and the sitting position of Hitomi who expressed the sincere character just as it is is wonderful. More tragedy in the second half stands out so that the affection which is the Platonic about which he informs Fukagawa geisha and Miyokichi (Emiya) is very refreshing, and also tends to empathize with him, and Shoroku completes a pure and artless Shinsuke image. The clause that it was very excellent especially hangs a Japanese half-coat on Miyokichi quietly, and which will look and fan a wind with a fan easy patiently. Ikeda-Daigo is to the extent the one drawn as Romain Taisho seems if they weren't also such ideal man like Shinsuke as well as Miyokichi's image of women. The place where I'm enthusiastic about love and kill and wound Miyokichi during the second half and a torrential downpour of this water is also vigor enough. The fatherhood and a performance of Mijiro eye were the impassioned performance as if I revive. The part jackpot of Shoroku and noon.

It was found here and there so that whether it was for the first day didn't include words a little but you exert yourself, and Emiya is hoping to want you to model Miyokichi like this Edo edition Manon Lescaut well. Ennosuke in Miyoshi is also sexy, and it's good handsomeness. Of fish Sou in saruya, Takesaburou's wife bamboo and dragon green, Kamezou Bando of the lord role gives up and he's good acting respectively. Shounosuke, ivy Shounosuke and the capital way (His geisha was graceful and good-looking.) made an impression on Kichigorou and Choujuurou of Kichisaburo of a professional male entertainer and middle Gosuke again.
 
The "Ukiyoburo" which continues and is a performance of Ennosuke's sawashaya. The stage where this is also Kabukiza at will, Masakichi of Ennosuke who moves in a lively way is excellent. The combination to which seed Shounosuke of a slug is preferred beautifully, too. Yuya as "of ki, with the selling point of, hot water" pays its respects to a performance of sawashaya neatly, and is also wonderful, isn't it? When "I put up a sail for kunuhira ship  chaser, and, SHURASHUSHUSHU" and Tokiwazu accompaniment music begin to sing, the inside of the hall also rises quickly. I don't think for Ennosuke who scatters salt on a slug and makes them dispersed, and it's clapping from the inside of the hall. Very warmly, I act like Ennosuke's floral actor in the inside and also make them feel substantiality of his recent years here by the dance for which the excellent body ability was utilized.
 
And the best performance play of noon is "Gosho Zakura Horikawa youchi  Benkei messenger from the shogunate to daimyo". The workmanship by which Musashibo Benkei of Kichiemon said the size of its scale and excellent of the good skeleton and excelled. Of a way to the ring, tension runs quickly. When a big body of Kichiemon who did kumadori advances 'hanamichi' towards a wig of big chestnut in case, a big clamor has occurred from the inside of the hall. It floods affection and Kichiemon is performing the legend to which the only weak point says that my good-looking daughter and Shinobu (Yonekichi was graceful and pretty!) came by excellent modeling for Benkei wealthy in foresight and prowess, too. Kichiemon's wonderful place, everywhere, I have that, but the deep emotion which can be called nothing and the form that the grief is shown are excellent by the situation which explains a rule of "sanbou" to KYOUNOKIMI(the Yonekichi two role). The last big cry is also bold and, I complain of parent affection ardently and squeeze feminine tears of the whole audience.

OWASA of Jakuemon's appearance in a new character is also the excellent workmanship. The woman's feelings which carry Shinobu and drive expectation in reunion with "the page who doesn't also know a name" were revealed by a healthy manner story. The fine example by which Shinobu of Yonekichi is this time by far the most. These beauty and prettiness are the assets valuable for Harimaya theatre group. Kariya princess of"SUGAWARA" would like also to HINADORI of "Yoshino-gawa" from him from now on and if possible, would like to see kumonotaemahime of "Narukami". Chamberlain Taro of Matagorou and steady acting and i which is Komazou's wife flower again are meek, a stage, I worked. I'd like to make it a judgement after evening performance will be also seen but it's apparent first that the part must-see at noon is "Benkei messenger from the shogunate to daimyo".
 
Evening performance also has complete set of Koshiro, Nizaemon and Matsuya this month, and it seems to be a very full stage. It seems to be every day when I go to Kabukiza again.

 

 


若手花形、隼人・橋之助・萬太郎・種之助・米吉らが大躍進!明治座「南総里見八犬伝」が熱いです!

2017-05-24 02:00:44 | 劇評

 

きのうは明治座の昼夜通しを見てまいりました。どちらも充実した内容でしたが、特に素晴らしかったのは夜の部の「南総里見八犬伝」の通しでした。愛之助、鴈治郎らの奮闘ぶりも心に残る一方、若手花形の隼人・萬太郎・橋之助・種之助・米吉・福之助・新悟そして壱太郎の活躍がめざましく、未来の歌舞伎界を担うかれらの試金石として、十分に成功した内容となりました。ぜひたくさんの方に、この若者たちの奮戦を見ていただきたいと思いますし、時分の花として咲きほこる美しさ、躍動感を感じ取っていただきたいと思います。

特に進境著しいのが、隼人・萬太郎・橋之助・米吉で、この4人がそろう四幕目の第三場は未来の歌舞伎界の縮図として、心に刻み付けられるほどの一大絵巻でありました。八犬士として、互いを探し求め、ようやく出会う場面で、名乗りを堂々とあげるのですが、これが胸のすくような快演。隼人の堂々とした風貌、萬太郎の鮮やかな力感と口跡のよさ、橋之助のスター性、米吉のきりりとした横顔に、熱い感動がこみあげてきました。若いながらも、りっぱに歌舞伎の絵巻物を見せるような魅力にあふれた一幕であり、それぞれの力量が拮抗しているので、大変見ごたえがありました。大詰も八犬士(愛之助ら)と鴈治郎扮する扇谷定正がまたの再会を約して分かれる場面も、華やかな大歌舞伎であり、一幅の絵として立派でありました。ここまでの話をトントンと進ませる、今井豊茂の脚本・演出もすぐれており、古風な味わいを大切にしつつも、愛之助や若手花形の個性をぞんぶんに生かしていて見事です。

また、わき役も思い切った抜擢が続いており、目が離せません。上村吉弥の妖怪の霊などは大奮戦。かれにとり殺される犬村大角(種之助好演)の妻・雛衣の折乃助、玉梓の方を演じる千壽など、清新な配役に、歌舞伎役者の層の厚さと充実を感じます。橘三郎の里見義実、松江の金碗(かなまり)大輔・のちのゝ大(ちゅだい)法師、寿治郎、松之助、歌女之丞も誠実な演技で魅了します。再演を重ね、推敲を重ね、いっそう充実した舞台となることを期待しています。

昼の部にも触れましょう。こちらは愛之助奮闘公演の趣。「月形半平太」は新国劇の傑作ですが、歌舞伎の舞台に洗い直し、現代に問う内容となって秀逸。ことに、桂小五郎役の片岡亀蔵が重厚な演技で締め、壱太郎の芸妓梅松、新悟の染八があでやかに華を添えます。愛之助の半平太は憂国の士でありつつも、女と酒にふけるデカダンぶりを凄艶な魅力で演じています。最後の大立ち回りも新国劇を彷彿とさせる男っぽさと壮絶さ。絶唱が胸に響きます。

「三人連獅子」は愛之助が家元を勤める楳茂都流でのめずらしい踊り。愛之助の父獅子、壱太郎の母獅子、種之助の仔獅子が力演。華やかな打ち出しとなりました。

久々に訪れた明治座でしたが、また清新な配役と斬新な企画で、すぐれた歌舞伎を世に送り出してほしいと願いつつ、帰途につきました。

 

 


歌舞伎座昼の部、菊五郎さんの魚屋宗五郎がすばらしかったです!!!

2017-05-13 07:48:52 | 劇評

きのうは、お友達に席をとっていただいて、歌舞伎座昼の部を拝見してまいりました。

それぞれの演目を心行くまで堪能、とても贅沢な一日になりました!お席もとてもよくて、大変見やすい席だったので、おちついて楽しく見ることができ、感謝しております。また、そのあとも大変たのしいお話を伺うことができて、実り多き一日になりました!

今回特に心に残ったのは、「魚屋宗五郎」の菊五郎さんのえもいわれぬ色気でした。もちろんなんどもなんども見ていますが、今回初めて、このお芝居が好きになりました。かれの洗い上げた型の美しさ、声のつやの見事さ、酔っていくさまの演技の組み立て方などすべてにおいてパーフェクトで、客席から「かっこいい!」という掛け声もかかっていましたが、酒桶をかついで決まるところなど、まさに一幅の絵。気風のよさ、セリフのたのしさ、粋な美しさを心行くまで堪能しました。この江戸前の芝居ができる菊五郎さんの存在は本当に大切ですね。若いかたはどんどん見習っていただきたいと思います。

そして時蔵さんの女房おはまがまた実にいい女房で、菊五郎さんとの息のあった夫婦愛も見事でしたし、すべての段取りが綺麗にきまって、花道の引っ込みまで魅了してくれました。酔った宗五郎をなだめるところなど、慈母のごとき風貌で感動しました。こんないい女房がいるから、宗五郎の大酔ぶりも、家老の浦戸が許してくれたのだろうと思える、そんなおはまでした。

そして、菊五郎劇団のチームワークのよさがここでも発揮され、江戸庶民の哀歓がよくでていて見事でした。とりわけ團蔵さんの父太兵衛は大当り。はじめは妹を殺され落ち込む宗五郎をはげますつもりで酒を勧めるのですが、次第に「こりゃまいったな」と頭を抱え込み、宗五郎をいさめるあたりにリアルな哀感がでていました。梅枝さんのおなぎも品格あふれて素敵ですし、三吉の権十郎さんもうなってしまうくらいいい三吉でした。酒桶を宗五郎に渡すまいと苦心するのですが、いろいろなアクシデントがあって宗五郎がすべて酒を飲みほしてしまうという芝居を自然の流れで綺麗にみせていました。

初お目見得の寺嶋眞秀(まほろ)くんも丁稚与吉で大活躍。大変口跡も度胸もよく、くりくりと大きな目が舞台映えして将来が楽しみ。まずはおつかれさまでした。

左團次さんの家老浦戸も滋味あふれ、実感がこもっていて秀逸ですし、大人(たいじん)ぶりを感じさせます。市蔵さんの岩上典蔵も憎々しげ。発端をつくる磯部主計之助の松緑さんも見事に芝居を引き締め、物語を大団円に導きます。追い出しとしては大変気持ちよかったです。


甲乙つけがたい昼の部ですが、やはり襲名披露の話題作ということで「石切梶原」も忘れ難い妙味。なんといっても彦三郎さんの梶原が襲名というイベントをへて一回りスケール大きく、立派になり、その圧倒的で自在のセリフ術で魅了したのが収穫でした。彦三郎さんの可能性については、ライブドアのブログでも申し上げましたが、義太夫狂言もよくするので、先述の松王・源蔵・知盛のほか、実盛・樋口次郎兼光なども見たいですし、荒事ではやはり祖父の羽左衛門丈も手掛けた「暫」の鎌倉権五郎もいずれはチャレンジしてほしいですね!

彦三郎さんのセリフのよさ、型の美しさはいろいろな方が絶賛されていますが、特に見事なのは「天晴れ、稀代の剣」という声の大音声が、劇場をうねるように包み込むことと、格段に良くなったのが「佞人讒者とそしられようとも」のくだりで、ぐっとハラを見せ、梶原の複雑な人間性を見せた事。また、刀の目利きをする目配りの仕方が本当に祖父・羽左衛門丈にそっくりで、涙がほろりとこぼれました。

楽善さんの大庭三郎も大変すばらしく、きょうのこの日をいちばん喜んでいるのは彼でしょう。また俣野の新・亀蔵さんもますます役者ぶりが大きくなりました。いままで見た「石切梶原」の中でも一、二を争うできだと私は思います。松緑さんの剣菱吞助の襲名づくしの口上がたのしく、奴菊平の菊之助さんのたたずまいが美しいですね。巳之助さん、廣松さん、男寅さん、橘太郎さんの梶原方大名も神妙ですし、辰緑さん、新十郎さん、蔦之助さん、吉兵衛さんの大庭方大名もいいですね。菊十郎さんの牢役人は、菊五郎劇団を見守ってきた彼としては感無量でしょう。

六郎太夫の團蔵さんがここでも安定した演技。さらさらとした境地になったのが新鮮です。梢の尾上右近さんがただただいじらしく可憐ですね。華やかに舞台を彩ります。本当に大満足の「石切梶原」でした。またこのメンバーで再演を重ねてほしいです。

最後になりましたが、海老蔵さん・菊之助さんの「吉野山」も目の覚めるような美しさで観客は大喜びです。吉野川が流れる吉野山は初めてみましたが、海老蔵さんの軍物語は本当に忠信のいさましさを表していて素晴らしいですし、逸品ですね。菊之助さんの静御前もたおやかで品格あふれ、彼の女形としての充実ぶりを感じさせます。逸見藤太の男女蔵さんが飄逸な味でしたね。こちらも贅沢な気分になれる「吉野山」でした。


舞台観劇後、お友達といろいろたのしく歌舞伎談義に話が咲きました。心行くまで「歌舞伎」を堪能できたので、幸せいっぱいで感謝です!またお友達におしえていただいた、歌舞伎座のもっとも「見やすい席」で、これからは見ていけるようにがんばりたいと思います。本当に心が落ち着き、舞台全体もよく見えましたので、うれしかったです!!

うれしい、うれしい一日でした!

 

 

 

 

 


同じ日にみたのですね・・・(^^)

2017-05-12 02:23:39 | 劇評

渡辺保先生の歌舞伎座の劇評が出ました(^^)

 

http://watanabetamotu.la.coocan.jp/REVIEW/BACK%20NO/2017.5-1.htm

 

これを拝読すると、同じ日に私たち夫婦とご覧になっていたのだなぁと思いますね(^^)

うれしいですね 私たち夫婦は夜の部だけでしたが(^^)

石切梶原の彦三郎さんについては、大いに絶賛されていて、

ほんとうにうれしい限り

型についての考察は、いろいろ勉強になりました。

羽左衛門型より吉右衛門型でみせたほうがいいのではないかというご意見も

考えさせられるものでした。

 

対面の五郎は、同じ日に見たのですが、こんなに違うのかな?とらえ方が・・

とおもいつつ拝読しました。

もっとも、わたしたち夫婦がすわった席は三階席でしたので、

彦三郎さんの声の響き方がダイレクトに伝わる場所だったのがラッキーでしたね

 

がんばれ!彦三郎さん

 

「先代萩」については、意外に辛口でしたが・・・

正直いいますと、彦三郎さんの五郎に全部もっていかれてしまった感があるので(^^)

印象がうすくなってしまったのは仕方ないかもしれないです。

海老蔵さんの、ほくろをつけなかった点については、

あれれ?團蔵型ではないのかな?とおもったのですが、いかがでしょう・・・?

わたしはとてもいい仁木だとおもいましたので、

海老蔵さんもがんばってほしいですね

 

今月は正直、しかたないです!彦三郎さんと新・亀蔵さんが「事件」なので!!

 

というわけで、いろいろ勉強になった、渡辺先生の劇評でした(^^)

 


とりあえず、歌舞伎座@石切梶原を幕見で見てきました♪

2017-05-09 16:42:44 | 劇評

正確には、12日(金)にきちんと昼の部を拝見するのですが、

新・彦三郎さんの梶原平三がどうなっているかいち早くしりたいと思いまして、

今朝の幕見に行ってまいりました

 

結論から言うと、すばらしい出来栄えの石切梶原でした

 

まずたたずまいが、大変落ち着いていて美しいこと。

型のひとつひとつをきっちり丁寧にみせていること。

そして、「対面」もそうでしたが、抜群の流麗なセリフ回し。

このセリフと口跡のよさで、「梶原」の物語が大変わかりやすくなったこと。

以上をもって、初役とは思えぬ大当たり!の彦三郎さんの石切梶原でしたね

 

欲を言えば、FBやツイッターでもふれましたが、ちょっとハラがうすいかなぁと。

華のような愛嬌がくわわると、無敵の梶原になりそうですね!

また、手水鉢を斬るときに、正面をむいて斬るという十五代目羽左衛門の型を披露されますが、

ここの段取りがもうちょっとスムースにいくといいなと思っています。

梶原の存念は、やはり

「佞人(ねいじん)讒者(ざんしゃ)と指さされ、死後の悪名うくるとも、

いっかないとわぬわが所存、御辺が胸中みぬきしゆえ」にあると思うのですが、

平家にありながら、頼朝(佐どの)を助けた心中を明かすところが肝心だと思うので、

そこまでの屈折から一転、晴れ晴れとした思いで、

手水鉢を斬ってほしいなとおもいましたが、いかがでしょうか(^^)

もう本当に、非の打ちどころのない彦三郎さんの梶原なのですが、

あともうちょっと欲をだして、吉右衛門さんにまけないスゴイ梶原をみせてほしいので

がんばってほしいなとおもっております

 

「役者も役者」という掛け声がかからないのでさみしい、という意見もあると思いますが、

いろいろご意見をうかがうと、竹本とのタイミングだったり、

あるいは、チャリ掛けになるので、なるべくしない、という意見もあるそうです。

でも、その掛け声にびくともしない、すばらしい演技を披露されていると思うので、

彦三郎さんは自信をもってがんばっていただきたいと思いますね

 

ほかの配役では、やはり楽善さんの大庭三郎がまさに大敵でりっぱですね。

音羽屋父子は親子そろって美声なので、このハーモニーを聴いているだけで

うっとりしてしまいます。

新・亀蔵さんの俣野も憎々しさの中に、ちょっと愛嬌もたたえていて、

見事でした。

松緑さんの剣菱呑助が襲名づくしをおりこんでたのしく場を盛り上げますし、

菊之助さんも奴で美しい姿をみせてくれます。

團蔵さんの六郎太夫に滋味があふれ、

尾上右近さんの梢もかれんながら大熱演で好感がもてます。

 

巳之助さん、廣松さん、男寅さん、橘太郎さんの梶原方の大名と、

辰緑さん、新十郎さん、蔦之助さん、吉兵衛さんの大庭方の大名のかけあいもおもしろく、

菊十郎さんの牢役人もおつとめおつかれさまでした。

菊五郎劇団のみごとなチームワークを堪能できる舞台として、

「石切梶原」はお勧めなので、

ぜひたくさんの方に見ていただきたいですね