おとといは、既報通り、「クラシック音楽館」にて、
6月30日のN響の定期演奏会Cプログラムの様子が放送され、おかげさまで大変な反響がありました。
パーヴォの指揮のダイナミックさ、かっこよさもみなさまにひろく認識していただいたかと思いますが、
N響のみなさんの迫力ある演奏は、いままでのN響像をくつがえす凄演、
これからのパーヴォとN響のコラボが大変たのしみなライブになりました。
また、番組の後半には、先週にひきつづき、パーヴォの学生さんたちへの特別レッスンの後編が
放送され、こちらも熱い感動を呼び起こすものとなりました。
まず、Cプログラムの最初は、シューマン作曲の「ゲノヴェーヴァ」序曲。
パーヴォがこう解説されました。
「シューマンの曲を理解するには、通常ひととして求められる礼儀正しさや奥ゆかしさ、といったものから離れて、
もっと生々しい感情を爆発させることや、喜怒哀楽をはっきりさせることが求められます。
それは親からは『やってはいけない』といわれるものだが、あえてシューマンの曲の場合には、
そうした感情の爆発を大事にすることが重要です」
「ゲノヴェーヴァ」の序曲では、パーヴォとN響のみなさんは、
短いながら、劇的な興奮とともに、ヒロイン・ゲノヴェーヴァの数奇な運命を
感じさせる旋律で、繊細な魅力も聴かせてくれました。
つづいては、同じくシューマン作曲「チェロのための協奏曲」。
チェロは、パーヴォの信頼の厚い、ドイツ・カンマーフィルハーモニーブレーメンの首席チェロ奏者でもある、
ターニャ・テツラフさん。大変聡明な女性で、パーヴォとの対談の中で、シューマンの一連の曲を、
「愛する人へのラブレターとしてとらえています。たとえば、ちょっとした旋律の中に、
彼の妻である『クララ』というフレーズを感じますね」とにっこり。
パーヴォも大変満足したようでした。
美しく繊細な旋律と、後半の情熱的な音楽で、観客を魅了しました。
「ブラボー!」の声もかかり、場内の興奮は頂点に達します。
そして、名演の誉れ高き、シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」。
シューマンをして、「天国的に長い」と評されたこの曲でしたが、
パーヴォはあえて、この曲を、まるでロックのように激しくたたきつけるように
演奏することで、作品本来持っている、爆発的な魅力を引き出し、
画期的な演奏を引き出しました。
N響もまた、パーヴォの熱情あふれる指揮によくこたえ、新たな境地を生み出しました。
パーヴォは語ります。「『ザ・グレート』はシューベルトの傑作だ。
かれは歌曲の作曲家としてのイメージがつよいが、
交響曲の作家として認められたいとコンプレックスを持っていたんだ。
手紙の中でも『ベートーヴェンの交響曲第1番のような曲を作りたい』と書いている。
この『ザ・グレート』はそのベートーヴェン的な要素と、粗暴さなどを加えて
演奏すべきだと考えたんだ。いつものシューベルトの歌曲にみられるような
繊細さなどをなくすことが大事だとも思った」
事実その試みは成功し、荒々しくも豪快なタッチの中で、線の太い演奏で
「ザ・グレート」を生まれ変わらせ、聴衆と、テレビの前の視聴者をくぎ付けにしました。
クラシックの常識を超えた、21世紀の音楽としての「ザ・グレート」の名演は
今後も語り草になるでしょうし、またCD化も私個人としては大いに希望するところです。
最後に、「パーヴォ・ヤルヴィ 特別レッスン 指揮者への道 後編」が放送されました。
前回の放送では3人の学生がパーヴォのレッスンを受けましたが、
今回は一人。パーヴォに憧れ、指揮者への道を歩みだした彼に、
パーヴォが熱く指導し、ふかい感動を与えました。課題曲はベートーベンの交響曲第4番第4楽章。
彼曰く、「ここは真面目だがジョークのような音楽であることを忘れないでほしい。
ある意味クレイジーだが、それもいい意味でのクレイジーさがベートーヴェンにはあるんだ」。
「俳優のように演じることが大切だ。顔などの表情を作ることで、
作品の明確なイメージを、楽団員に伝えてほしい」。
そして、最後にみんなに指揮者とは何か、を語りました。
「指揮者とは仕事ではない。ひとつの信念であり、生き方でもあるんだ。
伝統を尊重することは大事だが、そこに畏敬の念ももちすぎず、とらわれすぎないことも大切だ。
指揮者は、ほかにできることがないので、指揮者という選択肢が残される。
彼にとって必要なのは、音楽への愛、曲への愛であり、喜びなんだ。
そして楽団をまとめるリーダー的な役割も求められることを忘れずに」
パーヴォの明解かつ音楽への愛にあふれた言葉に、
わたしもふかく感動し、大変よい企画だったと感じました。
パーヴォが日本の若者たちへ渡したい、音楽のバトンとは、
父・ネーメや、恩師・バーンスタインらから受け継いだ、
強烈な信念と愛情なのだろうと痛感した次第です。
8月のパルム国際音楽祭でも大いに活躍しているパーヴォですが、
9月の定期公演で、またどんな斬新な演奏を聴かせてくれるか
楽しみです!