萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第78話 灯僥act.15-another,side story「陽はまた昇る」

2014-10-02 11:25:09 | 陽はまた昇るanother,side story
fragment 断簡の欠片



第78話 灯僥act.15-another,side story「陽はまた昇る」

これは偶然だろうか必然だろうか?

「湯原、この拳銃と弾丸は見覚えあるだろ?どちらも新宿署管内で押収された物だ、」

パソコン画面に映される金属の塊と欠片、この二つとも見たことがある。
なぜこんなものが「押収」されたのだろう?その疑問に周太は口開いた。

「伊達さん、これSATで使う型式と似ていますけど…どうやってこんな画像を手に入れたんですか?」

なぜSATで使われる拳銃と同じものが「押収」されるのだろう?
そこに推察できてしまうことが怖くなる、けれど先輩は尋ねた。

「湯原が撮った画像は見られるか?」
「はい、」

頷いて受信メールから画像を開く。
映し出されたガード下の天井は剥きだしの金属が荒々しい。
これは線路の裏側になる、その一点を拡大して低い声は言った。

「同じっぽいな、ほじくってライフルマークを見たいとこだ、」

銃身内に施された螺旋状の溝をライフリングまたは施条といい、弾丸はライフリングに沿い回転しながら発射されるため溝の痕がつく。
この弾頭につく痕を「ライフルマーク」施条痕や線条痕と呼び、同じ工作機械で溝を刻んでも刃こぼれのためライフリングは銃1挺ごと微妙に異なる。
現在では芯金に銃身を打ち付けてライフリングを刻む工法が用いられており、同じライフルマークを残す銃身が理論上では複数存在してしまう。
だが発砲の度にライフリングは僅かずつ削がれていく、使うたび変化してライフルマークも変わるため銃の種類から個体の特定まで可能となる。

要するに弾丸のライフルマークは銃器の指紋とも言える、それを見たがる目的に問いかけた。

「伊達さん、なぜ押収された拳銃の写真と弾丸を僕に見せるんですか?ガード下の弾丸と同じって…どこで押収された拳銃なんですか?」

本当は解答もう見えている、けれど現実を確かめることが怖い。
その現実も本当はとっくに気づいている、だから昨日も謹慎処分を破って逢いに行った、それでも哀しい恐怖に低い声が告げた。

「二丁目の暴力団事務所で押収された物だ、これと同じものが14年前も押収されたはずだが今は消えている。だが盗難記録は無い、」

がたん、

心臓なにか落っこちて不安が確信に変貌する、それから現れる感情が怖い。
だって本当に父は「抹殺された」その現実が喉せりあげそうで胸押えて、それでも見つめ問いかけた。

「おやじさんが、殺害犯が持っていた拳銃は消えたんですか?同じ拳銃が押収されたなんなら、その事務所にいたってことですか?」
「そのオヤジが所属してた暴力団だから調べたんだ、その結果がこの拳銃だ。この事務所はSATに繋がりがあるんだろ、」

低い声が現実を告げる、これは多分本当のことだ。
こんなこと信じたくはない、けれど有得ないことじゃない現実ごと胸押え尋ねた。

「テロ対策として裏の社会にも繋がる必要があるってことですか、未然に防ぐために…それも同じ拳銃を使わせるなんて、」
「他に押収された拳銃は違うタイプだ、これだけ特別なんだろう。だから多分この拳銃も消されるだろな、」

淡々と告げられる事実関係に確信する、きっと最初から全て能書きされていた。
だから確信してしまう今朝あの場所に行った正解に沈毅な眼差しが告げた。

「でも湯原警部補から摘出された弾丸は残っている、よく似たライフルマークだろうが微妙に違うはずだ、ガード下の弾丸が証拠だな?」

低い声が告げる現実に確信から何かが象りだす。
もう心臓が肺が焦がされて痛い、けれど掴める真実の真正面を言った。

「拳銃は2丁使われたんですね、殺害犯は…佐山さんは暴力団事務所にも警察にも冤罪を着せられたんですね、他の誰かが父を撃ったのに、」

殺人と殺人未遂なら罪は違う、だって命を奪っていない。
その荷重は本人がいちばん押し潰されている、だって佐山は片脚が不自由になってしまった。
そして今でも殺人の罪に泣いている、泣いている分だけラーメンを作って他人を温めて、あの温もりの数だけ佐山は泣いているのに?

それでも消えた拳銃は確かに存在する、その現実に周太は問いかけた。

「伊達さん、消えた拳銃は今どうなってると思いますか?」

たぶん自分と同じ推定が返される。
そして反芻される肚底の熱に沈毅な声は答えた。

「今も使っているんだろう、同じ人間が2丁交互にな。そうすれば似たようなライフルマークになる、」

ああ同じこと考えてしまうんだ?

この推論に抱えこんだ熱が痛い、だって赦せるだろうか。
あの佐山だから自分は赦せた、けれど佐山も被害者だというのなら?

「…今も使っているならまた誰かが、」

呟いた現実に灼かれだす、この体深くから知らない感情が発熱する。
もう全てが赦せたはずなのに真実の貌が衝動を呼んで、だけど腕掴まれた。

「しっかりしろ湯原っ、そうじゃないだろ?」

呼びかけ揺すぶられて瞳の焦点が結ばれる。
その真中に沈毅な眼差しを見つけて途端、唇が動いた。

「そうじゃないって何がですか、今も使っているって被害者がまだ出るってことですよね?何がそうじゃないんですか、」

父のように誰か殺される、佐山のように誰か冤罪に堕とされる。
次はどこで誰がそんな目に遭う?この可能性が焦がす痛みに沈毅な瞳は告げた。

「おまえの言う通りだ湯原、でも俺が言いたいのは同じになるなって事だ、そうだろ?昨日は何のために命令違反したんだ、」

昨日、自分が命令に背いた理由は結局ひとつしかない。
それを聴いて信じてくれる人は言ってくれた。

「何のために射殺命令を無視した、テストでも指示を無視して応急処置したのは何のためだ?上官や俺に説教したこと忘れるな、」

同じになるな、忘れるな。

この一言で深い熱そっと解け始める、いま抱えかけた正体が気づく。
そうして首すじ逆上せだした恥ずかしさに溜息ひとつ微笑んだ。

「すみません、僕いま…あんなに偉そうに言ったクセに恥ずかしいですね、」

伊達の左手首を見つめた夜、自分は何を願って話したのか?
その全て思いだして「同じになるな」が解かって恥ずかしい、恥ずかしくて逆上せだす前で伊達が笑った。

「ほんと湯原はすぐ赤くなるな?怒るより恥ずかしがってる方がらしくていい、」

ぽん、肩ひとつ敲かれて何か楽になる。
こんなふう笑って宥めてくれるから考えてしまう、この人は信じられるだろうか?

―もうじき3ヶ月になるな、伊達さんと会ってから…会う前から援けてもらって、

『俺達のテストも立合ったらしいんだがな、決まった湯原の配属先に適性と違うって上に進言したらしい…責任を感じてるのかもしれないな』

そう箭野が教えてくれた通りに伊達は責任を被ってしまう。
狙撃と謹慎処分どちらも連帯責任だと笑ってくれる、抜け道探して救けてしまう。
こんな人だから信じたい、それでも解らない事実に問いかけた。

「教えて下さい伊達さん、どうして拳銃の画像を伊達さんが持ってるんですか?」

なぜ新宿署が押収した銃器の写真を持っている?
こんなこと普通は出来るのだろうか、そんな疑問に沈毅な眼差し笑った。

「情報ルートは秘密にしたいとこだがな、隠せばまた疑うんだろ?」
「はい、」

率直に頷いて先輩が笑いだす、笑われて当然だろう?
だってこんなこと生意気だ、そう解っているのに引下れない本音に言われた。

「まず言っとくが湯原、先輩や上司に情報ルート教えろなんて俺以外には絶対に言うな。ルートを掴むには誰もが苦労してる、解かるな?」

ほら窘められた、でも拒絶しないでくれる。
こんな優しさごと信じたいけれど解らない、そんな途惑いにも頷いた。

「はい、失礼を承知で言いました…すみません、」
「この件に関しては仕方ないだろ、親の事だからな。でも他の人間には気を付けろ、警察関係もちろん駐屯地でも現場どこでもだ、いいな?」

注意を促してくれる言葉に現実が緊迫する。
こんなふうに言うなら理由がある、それを知りたくて尋ねた。

「伊達さん、それだけ父の事は警察内部でタブーだとご存知なんですね…警務部に親しい方がいるんですか?」

人事ファイルを掌握しているのは警務部、そこは選ばれた出世ポストになる。
そしてSAT隊員は後に要職へ就くことが多い、そんな常識へ低い声すこし笑った。

「俺もSATは2度めだからな、OBの知り合いは少なくない、」

伊達の階級は巡査部長、昇進で一度はSATを離れたのだろう。
昇進や任期満了で除隊した後に戻る者は少なくない、その一人が微笑んだ。

「湯原も知ってるだろ?昇進で除隊しても戻れば幹部候補だ、だから機密も手に入れやすくなる、その分リスクも高くなる。たぶん湯原警部補も同じだ、」

この人は父と同じところに立っている。
そんな現実あらためて軋んで、だから願い言葉になった。

「伊達さん、伊達さんは絶対に死なないで下さい…僕が死なせません、」

どうかお願い、あなたは自分の盾になんかならないで?

だって自分こそ父の盾になりたかった、父を護りたかった、けれど叶わない。
叶わなくても父の現実も真実も知りたくて自分はここに来た、そこで父と同じ誰かを死なせるなんて出来ない。
だからもう誰も死なせない、こんな自分だけど目の前の誰かを死なせるなんて絶対にしない、そんな意志に笑ってくれた。

「無理するなって言いたいけど、湯原はホントに救けた実績があるからな。言っても聴かないんだろ?」
「はい、すみません…頑固で迷惑でしょうけど、」

微笑んで応えて沈毅な瞳が笑ってくれる。
その眼差し温かくてなにか懐かしい、それは父と同じ涙の瞳だからだろうか?

―お父さん、お父さんの隣にはどんな人がいたの?

いま笑っている瞳に父の時間を探してしまう、そして願いたい。
どうか父のパートナーが温かい人だったなら?そう過去へ祈りたいまま優しい目が言った。

「ありがとな湯原、でも無理するなよ?」



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