萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第75話 懐古act.6-another,side story「陽はまた昇る」

2014-05-02 23:50:00 | 陽はまた昇るanother,side story
In the faith that looks through death 涯の時針



第75話 懐古act.6-another,side story「陽はまた昇る」

なぜお父さんって叫んだ?

問いかけられた言葉に鼓動そっと停められる。
あのとき自分は叫んでしまった、あの時間が記憶の底から赤い。

『お願い死なないでお父さんっ…っ僕が待ってるからいかないで!』

首あふれる赤色は血、あの赤色が流れ出てしまったらいってしまう。
それを自分が知ったのは10歳になる前だった、あの春の記憶が自分を突き飛ばして叫んだ。
今日タイルに倒れていたのは同僚の一人、そう解っているのに呼んでしまった記憶の涯を今、尋ねられている。

―訊くってことは伊達さんは知らないってこと?それとも…試されているの?

銃に撃たれた制服姿、血塗れの警察官、あの姿に自分がなぜ父を叫んだのか?
それは経歴書を見られていたら直ぐ解かるだろう、けれど伊達は訊いてくれた、でも本当に知らないのだろうか?
むしろ知らない方が不自然かもしれない?それとも伊達自身が言うように同僚の事情は敢えて何も知らないのだろうか。

今なんて答えたらいい?

味方?敵?それとも今は未だ、

「湯原、おまえは勝山さんの事情を知っていたのか?」

勝山さんの、ってどういうこと?

「え、…」

いま訊かれた言葉に想定がストップする。
何を伊達は訊こうとしているのだろう、なぜ今その名前を出すのだろう?
解らなくてタオル被った影に思考めぐらせて、その途惑いに低い声ふっと笑った。

「やっぱり知らないで言ったのか、湯原は勝山さんと話したことあるのか?」
「…訓練のとき少しだけ、」

ありのまま答えながら緊張まだ竦む。
なぜ伊達はこんなことを訊くのだろう、なにが意図だろう?
今この状況ごと真意も何も解らなくなる、それでも信じたい率直に周太は振り向いた。

「伊達さん、今夜ここに来たのは僕を尋問するためですか?」

ストレートに尋ねて見あげた先、シャープな瞳すこし大きくなる。
見つめてくれる瞳は驚いても怯んではいない、その澄んだ眼差しが笑ってくれた。

「尋問なんて器用なこと出来たら俺は、SATに入っていない、」

今なんて言ったのだろう?

「…どういう意味ですか?」
「言ったままだ、深い意味なんか無い。よし、だいぶ乾いたな、」

低い声が笑ってタオルが外される。
遮るもの消えた視界、生真面目な貌やわらかに笑った。

「食いながら話そう、うどんが延びる、」

ちょっと待って、こんな時うどんなの?

「っ、ふっ、」

つい噴きだして笑ってしまう、だってこんな場面でうどんを気にするなんて?
しかもあの伊達がなんて意外すぎる、それが可笑しくて笑った真中でシャープな瞳ほころんだ。

「ほんと笑うと若くなるな?2歳下って思えない、」
「よく言われます…伊達さんこそ2歳しか違わないんですか?」

笑い納めながらつい訊き返してしまう。
そんな年齢差に意外な貌は向かいに座り笑ってくれた。

「大卒で2歳上だ、インカレで湯原を見たことがある。ほら、延びないうちに食え、」

また意外な事を言われてしまった?
けれど考えたら当然かもしれない。

―伊達さんもSATの狙撃手なんだ、指名されるだけの実績も実力も…適性も、

SATの入隊は指名への応えとして志願する。
本人が志望したくても指名されなければ入隊テストも受けられない。
そんな事情から思い出したことを箸動かしながら呼吸すこし整え、問いかけた。

「あの、除隊になるのか訊いたとき、普通じゃない理由は適性だと仰いましたよね、それって僕が狙撃手である適性が高いってことですか?」

普通ならそうだ、でも解らん、適性だ。
そんなふう答えてくれた意味に低い声は明確に告げた。

「逆だ、適性が無さすぎる、」

適性が無い、

そんな答は自分自身で解かっている。
それでも面と向かって告げられた鼓動は軋みだす、その傷みに沈毅な声が続いた。

「湯原は知能テストも体力テストも優秀だ、狙撃の技術もメンテナンス技術も最高ランクだろう。でも性格が優し過ぎる、見捨てる判断が足りない。
入隊テストから2ヶ月半で俺が見ている限り、狙撃手の性格適性が無い。だから気になっていたんだ、適性が無いやつが入隊許可されたら普通じゃない、」

淡々と告げられる言葉には反論ひとつ出来やしない。
それは現職にあって恥じるべき事なのだろう、けれど自分には誇らしいまま微笑んだ。

「テストの時、他のテスト生を援けたからですか?命令違反までして、」
「そうだ、落ちるのが普通だ、でも湯原は入隊した、」

明確に言われて違和感すこし軽くなる。
あの合格を異様だと思ったくれた、それが信頼のために嬉しい。

―僕の合格を普通じゃないって本気で思ってくれてる…きっと嘘は、無いね?

テーブル越し向きあったワイシャツ姿は袖捲りして、ネクタイ外した衿のボタン一つ開けている。
そんな姿は隔てが無い、なにより見つめてくれる瞳は鋭利なまま澄んで自分を映す、その真直ぐな鏡が静かに言った。

「あの場所は適性が無いやつは死ぬ、性格と能力の両方で適性が無ければ死ぬ、訓練か現場で事故死するか、自殺する、」

事故死、自殺。

こんな言葉にある現実は重たい、それを安易に口にする事など伊達はしない。
そういう謹厳な男だともう知っている、だからこそ現実なのだと認めるまま言われた。

「だから銃声を聞いた時、湯原だと思った、」

銃声を聞いた時「なにを」自分だと思われたのか?
その推定に碗ひとつ空にして箸置いて、真直ぐ見つめて尋ねた。

「だから今夜も付添うって言ってくれたんですか?勝山さんのこと見たショックで、僕が自殺する可能性があるから、」
「ああ、」

頷いて茶碗を呷り、ほっと息吐いてこちら見る。
見つめる瞳はシャープでも温かい、その温もりに呼吸ひとつ呑みこみ口開いた。

「あの、勝山さんはどうなるんですか?」

拳銃自殺を謀った青年は、どうなるのだろう?

こんなこと自分が訊くべき事じゃないかもしれない、けれど他人事だなんて想えない。
あのとき倒れこんだ横顔の瞳が自分を見あげた、あの眼差し鮮やかなまま低い声が告げた。

「除隊だろう、自殺未遂する精神力では務まらない。警察官も辞めると思う、」

これが現実だ、そう納得できる。
それだけの厳しい日常と想定を責務に立つ、そんな現実に問いかけた。

「こういうことは少なくないんですか?」
「ああ、」

短く応えてくれる肯定に鼓動また重くなる。
今日に見てしまった姿は哀しくて、だからこそ周太は訊いた。

「少なくないのに報道を見たことはありません、機動隊や所轄のはニュースになっても…このまま、守秘義務のまま無いことになるんですか?」

現実に起きたこと、けれど無かった事にされてしまう。
それはSAT自体が秘密裏の存在ゆえに仕方ないのかもしれない、けれど納得しきれない過去に先輩は言った。

「隊内で起きた事は全てが守秘義務にある、それだけだ、」

それだけだ、

そう断言した声はいつもと変わらない。
告げて両掌を組んで口許を支えこむ、この思案顔になった話題はもう口開いてくれない。
そんな仕草ごと変わらない程に「こういうこと」は少なくない?そんな推論に見つめた先に一瞬、停められた。

「…、」

ワイシャツ姿は袖捲り、時計も外して両の手を組ます。
露わな腕は筋張らす肌あざやかに逞しい、その手首こちらに少し向いて両手組む。
この仕草は2ヶ月で見慣れている、けれど腕時計の無い左手は見慣れない赤色が一閃奔らす。

あれは、なに?



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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山岳点景:惜春の花

2014-05-02 23:00:00 | 写真:山岳点景
花、春惜しむ



山岳点景:惜春の花

冬、雪の多かった今年の桜は色あざやかでした。
冬の寒さなくては薄紅いろが現れない、そんな性質をあらためて見たなと。




染井吉野の清雅、
枝垂桜の紅揺れる艶麗、



山桜は葉と花が同時に芽吹いて、凛と清楚
江戸時代より前の桜はこうした山桜系統がほとんどです、



桜が咲くと山も里も薄紅から白にそまる、
その空気なんだか清らかで毎春のこと散るのが惜しまれます、不思議な花です、笑



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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚80

2014-05-02 01:45:22 | 雑談寓話
こんばんわ、雨上がりの晴天が気持ち良かったです。

この雑談みたいな小説みたいな?のはバナー押して下さる方いるならと連載してきました。
昨日また反応戴けたのでトリアエズ続き載せてみます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど、笑



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚80

年明けて1月4日仕事始め、同僚御曹司クンも当り前だけど出勤していた。

トップの年始挨拶があって、すぐデスクに就いて通常勤務をこなしながら菓子を口に入れて、
ホントはオニギリとか食べたいんだけど年始早々に業務開始後の朝食@デスクはさすがにマズイなと、笑
で、昼休憩もいつも通り定時は無理で14時すぎてから席を立って、廊下を出てエレベーター前に行ったら御曹司クンが来た、

「飯、行くとこだろ?一緒させて、笑顔」

ってカンジの誘いした御曹司クンの笑顔は犬っぽかった、笑
こういう懐っこい貌も出来る、それなのに笑顔仮面@職場は相変わらずで、そういう矛盾見ながら軽くSった、

「ホント犬っぽいね?笑」
「相変わらず失礼なヤツ、俺のが先輩だっつーの、拗笑」

拗ねながらも笑って御曹司クンはエレベーターにも付いてきた。
どうしたって一緒に昼するつもり、そんな貌に笑った、

「新年メールありがとね、笑」
「あれ届くの遅かったよな?今年も年越の混線あったらしいけどさ、」
「いや、元旦0時すぎに届いたよ?笑」
「そっか良かったー、ってじゃあオマエ無視して翌朝返信だったってことかよ、拗」
「兄と呑んでるトコだったからね、笑」
「あ、兄さんと呑むとかって良いなー俺そういうの憧れだ、」

とか話しながら外に出て、
まだ4日だから休みの店も多かった、それでもチェーン店のトコ入れて会話は続いた。

「ふうん、アニキと呑むの憧れ、ねえ?笑、」
「っ、おまえ今ナンカ変な解釈してねえ?拗」
「変ってナニ?ちゃんと言ってみな、笑」
「っ…あ、なに食おうかなーおまえも早く選べよ、」

なんてカンジでオーダーして、
昼時間も外れてる+年明けの店は閑散としていた、そんな呑気な貸切ムードに御曹司クンは笑った。

「四日ぶりだなーやっと顔ちゃんと見れた、うれしー照×笑」

こいつ相変わらず@花畑だな?
そう想うのも可笑しくて笑ってSった、

「冬休みもっと長いと良いよな、ねえ?笑」
「俺はもっと短い方が嬉しかったな、照拗」

あまり堪えてない、そんな拗ね笑い返されてさ、
なんだか悪化してる?そういう雰囲気に言ってみた、

「ご機嫌だね、正月合コンしてお相手が見つかった?笑」

だったら良いな?
そんな希望予測に御曹司クンは拗ねた、

「ちげーよバカっおまえに逢えて嬉しいんだろがっ、休み中ずっと我慢してたんだからたまには優しくしてくれたってさー拗」
「それはおまえの都合だろ、それより眠い、笑」
「だーかーらー眠いトカ余裕してんなよっ、拗」

ってカンジに罵られて、
ソレ適当に聞き流しながら欠伸したら御曹司クン拗ね凹んだ、笑

「あくびとかするなよっ、こっち一生懸命に話してるんだからさー…まじ俺ホント要らないってカンジじゃん、」

要らない、のかな?

そんな疑問形が自問してさ、で、先生との会話ちょっと想いだした。
昨日の新年会で話したこと、あのとき尋ねてくれた言葉と貌がヒントに想えた。

卒業式にくれた本を読めって言われたな、あの恋愛小説また読んで何のメリットがあるんだろ?

そんなこと考えてる間も御曹司クンは凹み発言ぽつりぽつりして、
そういう台詞と貌に4日間の温度差は明らかで、それもナンダカ寂しいような気がして、

なんでコイツこんなに凹んでアレコレ言うんだろ?

なんでソンナに想いこんじゃってくれてるのかな?
そういう貌と言葉を不思議に見てるうち昼ゴハンが来て、で、食べた。



とりあえずココで一旦切ります、続きあるんですが気が向いたら続篇また。
第75話「懐古5」加筆2/3ほど終わったとこです、ソレ終わったら週間連載かAesculapiusの続きかなと。
この雑談or小説ほかナンカ面白かったらバナーorコメントなど反応お願いします、ソレが知りたくて無料のWEB公開にしてるので、笑

深夜に取り急ぎ、



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