ある『物語』の断片

『物語たち』は語り始める。

曇り空

2007-11-04 12:55:27 | ある『物語』の断片
目覚めたら
今日も曇り空

家を出る頃には
雨の匂いが濃くなっていた

さんさんと注ぐもの
傘から透かして
バスを待っていた

今日は、何から話そうか

一輪の花を添えて
位牌の前で
手を合わせる姿を想像する

目の前に立ち止まるバス

そのドアに映った
男の顔は
あの人が笑っていた頃より
幾分、老けて見えた

景色が流れる
どこも変わらない街

でも
どこか違う

全ては
あの日から入れ替わって
そこから
動けない

ふと気が付くと
長靴を履いた子供たちが
ぱたぱたと乗車してくる

林檎のような
紅い頬

少しだけ
心が軽くなった気がする

そうだ
久々に、
まだ二人が
若かった頃の話でもしようか

再び
バスは動き始めた

終点を目指して。

故地

2007-11-03 01:16:39 | ある『物語』の断片
いつ見上げても

同じ景色
同じ空
同じ住人たち

いつもと同じ
日常

この場所に
満足できなくなってから
苛立ちは募るばかりだった

それで満足していれば
何も問題が無いことは
理解はしていたけど

もう
此処には
未来が無い

必要なもの以外
全部
置き去りにして

扉を開けて
走り出して
振り返らない

もう
戻らない

還らないもの

2007-11-02 13:17:05 | ある『物語』の断片
暖かい陽射しの中で
君の歌う声が聴こえる

か細くて
透き通るような
楽しそうな声

これが世界の終わりなら
捨てたものじゃないな

でも
本当に望むのは
別の形

瞼の裏に
あの場所が
フラッシュバックする

もう一度
違う結末を
イメージする

また
一から作り直しだ


――さよなら――


最後に
彼女はそう口にした気がした

僕は
顔を上げることができなかった

その言葉を聞いて
初めて

この世界を創り出したことを
後悔した

違和感

2007-11-01 00:36:59 | ある『物語』の断片
青い空
ボールの転がる音
土の匂い
子供たち

誰かの話し声
ピアノの流れる音

歌う

校門の外
制服とカバン
透き通るような声
微笑み

全てが
日常をなぞって
進行中

でも
ちょっとずつ
ズレ始めていた

世界が。

いや

自分が?

いつからだろう

ところどころ
ノイズの入った記憶

よく思い出せない

あまり
時間は残されていないのかもしれない

川岸まで来たときに
その言葉を伝えることにした

まだ少し
やさしさと呼べるようなものが
自分の中に残っているうちに