みかんの丘からは離れるが、先日上坂浩光という人に会った。全国のプラネタリウムで上映され、絶賛を博しているあの『全天周映画はやぶさ』の監督だ。隣の街で講演されたのをいいことにちゃっかり便乗させてもらい、後の懇親会では事もあろうに真向かいの席でお話を聞いた。
講演は、全天周のCGアニメを創るご苦労や、JAXAから何の資料提供も無かった辛さなど多岐にわたったが、もっとも印象深かったのは、構成の段階で、上坂さんが血の通わぬ機械「小惑星探査機」を擬人化した件(くだり)だった。
僕のような人間は、猫でも花でも石でも星でも、みんな自分と同じ生きている仲間だと思ってしまう。だから、映画の中で「はやぶさ」が擬人化されていても何の違和感も無かった。しかし技術屋集団であるJAXAの人たちには、当初受け入れられなかったと言うのだ。
それを上坂さんは打ち合わせの段階でいろんな手を使い、JAXAの人たちを納得させて探査機の擬人化を押し通した。その結果映画の中で「はやぶさ」は、太陽系の生い立ちを探るためにふるさと地球を飛び立った僕らの仲間となる。
彼の孤独な長旅では日本中が心を痛め、小惑星イトカワとの出会いでは居合わせたみんなが心をときめかせた。そして大気圏再突入にあたっては、放出した小さなカプセルに思いを託しながらその身が燃え尽きた彼に涙を流した。
僕は思う。ビッグバン以来繰り返されてきた星の生と死の営みの中で、多くの元素が生まれ、それらが寄り集まって今の世界が出来ている。人も草木も、いや、探査機のような機械も同じだ。人だけが心を持つなどと考えるのは余りにも傲慢すぎると思う。
イラストレーター出身の上坂監督はそれがきっと分かっていた。那須に僕の竹取庵とは比べ物にならないフルオートのインターネット天文台を持つ上坂さんだが、宇宙に対する、いや、すべてにおいての物の見方が、実に生き物的でみずみずしい。本当に良い人に出会う事ができた。