代表的な認知症のアルツハイマー病は、インスリンがうまく働かない糖尿病の一種なのではないか――。そんな見方を示す報告が続いている。二つの病気の共通点を手がかりに、アルツハイマー病の新しい治療法をめざす試みもある。
■インスリンに着目、報告次々
「アルツハイマー病患者の脳では、インスリンをつくったり利用したりするしくみが壊れている」
九州大の中別府雄作・主幹教授(分子生物学)たちのチームは今年5月、専門誌にそんな報告をした。
疫学調査を続けている福岡県久山町で亡くなった住民から脳を提供してもらい、脳で働いているすべての遺伝子とアルツハイマー病との関係を調べた。この病気はアミロイドベータ(Aβ)という異常なたんぱく質の蓄積がもとで起こっているとされている。
インスリンは主に膵臓(すいぞう)でつくられ、糖を体の細胞に取り込ませるのに働くホルモンだ。最近の研究で、インスリンは脳でも少しつくり出され、神経細胞を守る作用があるとわかってきた。だが患者の脳では、インスリンをつくったり糖を利用したりするのに欠かせない複数の遺伝子の働きが大幅に落ちていた。
糖尿病は大きく、膵臓の異常でインスリンがつくれずに高血糖となる1型と、インスリンはあっても不十分だったり、細胞の側の問題でうまく利用できなかったりする2型に分かれる。分析した脳には、両方に共通する特徴があった。
インスリンがうまく使えないことがきっかけになって、神経細胞の障害を招き、発症につながっているらしい。この現象もAβの蓄積がきっかけという。
認知症では、直前にご飯を食べたこと自体を忘れてしまうこともある。中別府さんは「インスリンをつくるのにかかわり、食欲を抑える作用もある遺伝子の働きが落ちているせいではないか」とみている。
一方、糖尿病がアルツハイマー病を引き起こしやすいこともわかってきた。別の久山町研究によれば、インスリンがあっても糖をうまく処理できない傾向が強い人ほど、アルツハイマー病を発症しやすかった。
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