共和党は今週、税制改革案を公表するとみられている。
日本では法人税の引き下げとアメリカ企業が海外で得た利益を本国に持ち帰る際の税率の引き下げが注目を集めているが、アメリカでは所得税の変更などで中間層がどのような恩恵を受けるか、あるいは受けないのかが最大の焦点となっている。
今年の4月にホワイトハウスは1ページからなる減税案を公表したが、4月にこのブログでまとめた内容をここに再掲しておく。
今のところ法人税率の引き下げ幅の縮小を除いて、大きな提案や変更は伝えられていない。
----以下は再掲---
2017年4月26日(水)、トランプ政権は懸案となっていた減税案を公表した。
トランプ氏は選挙期間中、中間層に焦点をあてた減税をおこなうといっていたが、今回の公表で実際には富裕者を中心とした減税であることが明らかになった。減税案は次のとおり。
<企業>
1 公約どおり法人税をいまの35%から15%に引き下げる。<代わりの財源がないため、引き下げ幅は縮小の見込:9/17追記>
中立のTax Policy Centerは、これにより10年で1.5兆ドル(約160兆円:1ドル=110円で計算)の減税になると試算している。
2 大企業との公平を期すため個人所有の会社の税率も15%に引き下げる。
これについてニューヨーク・タイムズ(NYT)は、トランプ氏など富裕者は節税のため個人商会を立ち上げ、収入を事業収入として申告するようになると警告している。
<個人>
1 現在、アメリカでは1.1千万ドル(約12億円)を超える不動産の相続にのみ相続税がかかっている。税金を払うのは年5千人ほどとされている。これを廃止する。
NYTは、3千億円相当の不動産を所有するトランプ氏の場合、子への相続で40%の相続税がなくなることで、12億ドル(1300億円)の節税になると試算している。
2 富裕者への課税最低額の設定を廃止する。アメリカには多種多様な税控除の仕組みが存在する。富裕者は、この仕組みを利用して可能な限り納税額を少なくしようとしている(トランプ氏が、慣例にそむいて納税額を公表しないのは、この仕組みで大きな節税をしているからではないかと言われている)。
アメリカではこうしたことへの歯止めとして、どれだけ税控除をしても所得に応じて納めなければならない課税最低額(alternative minimum tax)が決められている。これが廃止される。
ちなみに先日リークされた2005年のトランプ氏の納税書をみると、この年、トランプ氏は3130万ドル(約35億円)の課税最低額を支払っており、納税額の80%をしめている。現在案がとおると、これが支払い不要となる。
3 現在オバマケアの財源を補うため、単身者で年収20万ドル(約2千万円)、結婚したカップルで年収25万ドル(3千万円)を超えると、キャピタルゲイン(株式などの売却益)に3.8%の加算増税がおこなわれているが、これを廃止する(注1)。当然のことながらこの減税は、年収2千万以上の人にかぎられる。減税額は10年で10兆円を超える。<オバマケア改廃がとんざしたため、この仕組みは存続がきまった:9/17追記>
4 所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げる。また現在、7種類ある税率を、10、25、35%の3種類に簡素化する。ここでようやく少し中間層の話がでてくる。
5 夫婦の基本控除額(=所得税の計算から除外できる額)を現在の2倍の2万4千ドル(約260万円:1ドル=110円で計算)に引き上げる。
6 現在、アメリカでは州税を収入から除外したうえで連邦所得税の計算がおこなわれている。この除外を廃止する。ウォール・ストリート・ジャーナルは、これにより10年で1兆ドル(110兆円)の税収増(増税)が見込めるとしている。
これで大きな影響を受けるのがカリフォルニア、ニューヨーク、マサチューセッツなど州税の高い(住民サービスが高い)ところに住み、高い税率を適用されている富裕層。こうしたところは民主党が強いところであり、政略的な意味が強い。
中立のTax Policy Centerは、こうした減税が実施されると減税の半分は所得上位1%が得ることになるとしている(ワシントンポスト)。
(注1)アメリカは日本と異なり、年収に応じてキャピタルゲインの税率が異なる。おおよそでいえば、年収400万円ぐらい以下では0%、年収4千万円ぐらいまでが15%、それ以上で20%となっている。さらにオバマケアでは、単身者で年収20万ドル(約2千万円)、結婚したカップルで年収25万ドル(3千万円)を超えると3.8%が加算増税されることになっている。