百醜千拙草

何とかやっています

臭い匂いは元から絶つ

2009-06-02 | Weblog
5/21/09号のNatureのCommentaryとEssayのセクションはインフルエンザの流行を扱ったものでした。これによると、1918年のスペイン風邪の時はいは、3500万から一億人が死んだということで、これは最大、当時の人口の5.5%にあたるものでした。生命保険会社のデータによると、アメリカでは労働人口の3.26%がこの疾病により死亡したらしいです。罹患率が25 - 40%とすると、致死率、8 -13%という恐ろしいものでした。これは主に、第一次世界大戦にともなう兵隊の移動によって、ヨーロッパ中に伝播したわけですが、アメリカでは、当初、この疾患の流行が緩徐であったこともあり、このインフルエンザを余り重大視しておらず、過剰な警戒は恐怖感を増大させて、社会に悪害が多いとの判断で、政府および地域行政、メディアは常に流行の現状、帰趨について、楽観的な見解を示し続けました。新聞や行政は、国民に正確な流行情報を伝えることをせず、結果として、行政やメディアに対する国民の信頼は失墜し、アメリカ国民は、過剰な恐怖に捕らわれ、労働者は欠勤し、多くの社会機能が麻痺に陥り、社会そのものが消失する危機に瀕したとのことです。一方、サンフランシスコでは、積極的に情報開示とキャンペーンを行い、比較的パニックが少なく、社会機能の麻痺が軽度であったとあります。興味深いことに、今回のH1N1インフルエンザでは、日本の過剰な反応が、世界から異様な目で見られていますが、1918年のスペイン風邪の場合のサンフランシスコでは、当局と赤十字が、マスクを着用するキャンペーンの広告を出し、積極的に情報開示と疾病予防に務めたそうです。Natureには看護婦さんらしい人が顔の下半分を覆うようなマスクをした古い写真が沿えらています。新聞広告には、「マスクをして命を守ろう。ガーゼマスクはインフルエンザに対して99%有効」とあります。今回のインフルエンザでは、一般国民の多くがマスクをしているのは日本ぐらいのものだろうと思うと、当時のサンフランシスコと現在の日本の政府のインフルエンザ流行に対する対応は相似でありながら、その効果は殆ど逆であったというのは皮肉です。
 ところで、このCommentaryとEssayの両方の中心のメッセージは、「流行病に当たっては、一般国民への正直で公正な情報の開示が重要である」ということのようです。政府がパニックを恐れて、情報開示をためらったり、逆に、今回の日本のように過剰反応することは、いずれも有害な結果をもたらします。先日の朝日新聞では、現役検疫官公衆衛生専門家で、今回の政府のインフルエンザ対策の筋が悪いことを批判してきた木村盛世医師を、参院での意見を求める参考人として招聘するかどうかで紛糾し、当初の招致の判断が覆えされたというニュースがありました。インフルエンザ政策批判を恐れる与党と厚生省が出席に反対したという話で、木村さんのウェブサイトでは、その厚生省の態度を、「くさいものには蓋をする隠蔽体質で、彼らたちの大切なのは自分の進退であり国民の安全ではない」と批判されています。
 スペイン風邪は、社会機能の麻痺を恐れたアメリカ政府、地域当局が、正しい情報を国民に開示しなかったために、必要以上のパニックを引き起こす結果となりました。今回の日本では、与党、官僚が、おそらく政治的目的のために、インフルエンザ騒動を必要以上に煽り、その政策に批判的な専門家の意見を封殺しようとしました。この国においては、官僚、その傀儡となっている自民党こそが、第一にメスを入れられるべき病巣となっているようです。
 インフルエンザに関しては、スペイン風邪の恐怖を思い出して、当初、過剰反応するのはやむを得ないことではないかと思います。H5N1、トリインフルエンザの時も、中国では当局の誠実な情報の伝達がなされず、国民をパニックに陥れました。今回の日本の大騒ぎでは、疾病の現状が徐々に明らかになり、毒性が比較的強くないこと(スペイン風邪の時は感染した目や耳からも出血を起こし、フィラデルフィアでは毎日数百人の単位で人が死んで行ったらしいです)や感染伝播の状況などが分かって来た段階で、当初の方針を見直し、改善していく、国民には状況や専門家および政府の見解を正直に伝える、そういう誠実な態度に欠けていたのではないか、と感じられます。政府が政策についての「説明責任を果たしていない」のではなかったかと思います。
 政権交代がいよいよ現実味を帯びて来た今、与党政治家と官僚は、失敗を非難されることを恐れています。自らの身が危ないことを感じているので、誤りを認めたくないのでしょう。これまで、臭いものには蓋をする隠蔽体質が、臭いものをますます溜め込むことに繋がり、現在の日本の役人、政治家の腐敗を助長してきたわけで、今回の選挙で、政権交代を通じて、臭いものを元から断ってもらいたい、と私は願っています。
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