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ジャズの歴史⑨”60年代、モードジャズから新主流派”

2005-10-23 19:19:04 | ジャズの歴史
さて、60年代にジャズ新たな趨勢となるもうひとつのイディオム、それは「モードジャズ」。
このモードジャズの推進者となったのが、George Russell(ジョージ・ラッセル、p,arr)と、そしてやはりこの人、Miles Davsi(マイルス・デイヴィス、tp)だったのね。
しかしMilesってスゲェな。ビバップ以降ほとんどの章に顔出してるでしょ(笑)。
まずモードジャズが台頭して、その後のジャズの新たなるメインストリーム、「新主流派」へと繋がっていく流れを駆け足でみてみましょう。

ハードバップ全盛の最中、モードの先鞭をつける試みを最初に行ったのはGeorge Russell。
Russellはコードを単なる和音の重なりではなく調性の中心と位置づけ、曲中の各和音や音階を調性の中心に対して相対的に捉えていくことによって、ビバップとは異なる、よりトーナルな(調性的な)、そして最終的には調性内のすべての音は協和するという、新たな演奏の秩序を提唱した。そして、この独自の理論「リディアン・クロマチック・コンセプト」によるアルバム「The Jazz Workshop」を56年に発表する。
これがモードイディオムにつながるきっかけになったアルバムといわれていて、後にMilesを中心としてモードを結実させていく一派へ多大な影響を与えるんだけど、Russell自身はその活動が大衆に受け入れられることがなく、60年代に入って活動の拠点をヨーロッパに移してしまう。

このRussellの影響や自身の音楽性を踏まえて、モードイディオムを推進、大々的にシーンに打ち出していったのがMiles Davis。
Russellの取り組みとほぼ時を同じくして、Milesは再びGil Evans(ギル・エヴァンス、p,arr)と親交を深め、世界各国の民族音楽のスケールの研究に没頭。そしてGilのビッグバンドをバックにMilesをソリストとして迎える形で、57年に「Miles Ahead」を吹き込む。これを発端として、Milesの活動はモードイディオムの追及に傾倒していく。
「Miles Ahead」が高く評価されたことや、ヨーロッパツアー中に映画音楽のサントラを担当した経験などに刺激を受け、モードイディオムをスモールコンボで実践する試みに取り掛かる。
この辺のMilesの活動の経緯を詳細に書くと長いので割愛。
Milesのバンドはこの時期John Coltrane(ジョン・コルトレーン、ts,ss)が出たり入ったり、ピアニストがモードに対応できなかったりと、ふさわしいメンバーを求めて2転3転したんだけれど、Russellの弟子筋のピアニスト、Bill Evans(ビル・エヴァンス、p)を迎えて、モードを完成させたとして名高い大傑作「Kind Of Blue」を生み出す。
このときの録音メンバーのうち、MilesとBill Evans、そしてColtraneの3人が、それぞれの立場からモードイディオムに寄与する活動を行い、その後のジャズ界を牽引していくことになるのね。

Milesは自身のバンドでの活動と平行して、Gil Evansビッグバンドとのコラボレーションによる活動を続け、モード時代の名盤はむしろこのビッグバンドものの方が多い。
さらにColtrane脱退後、64年に勢ぞろいした、所謂「黄金のクインテット」によって、アコースティック時代の活動の頂点を迎える。
これ以降、彼のバンドを去来する数々のアーティストとともに、モードイディオムの形式的に洗練された、60年代のジャズシーンの新たな主流派「新主流派」という一大勢力を形成するに至る。
いやー、いつの時代もMilesの影響力って絶大だったんだねぇ・・・・・やっぱりジャズの帝王だよこの人は。

Bill Evansは、モードイディオムによるソロピアノでの自由なインプロヴィゼーションを、ピアノトリオに置き換える試みを以降生涯にわたって続けていく。
節目節目でメンバーを入れ替えながらも、徐々に洗練されたピアノトリオのフォームを確立。ほんとに凄かったんだよ。ちょっと他のピアニストでは成しえないほどのピアノ奏法の改革を、ほとんど1人でやってのける。
この辺は以前の記事「パウエル派とエヴァンス派」に書いたので、参照してください。

Coltraneは59年に、それまでのバップイディオムによるコード分解の最終形、究極ともいえる「Giant Steps」を発表後、翌年にそれまで出入りしたMilesのグループを正式に脱退。自身のカルテットを結成し、独自の活動に邁進する。
モードイディオムを突き詰めたのち、信仰や人間賛美など、精神性を突き詰める方向へと音楽性を向け、独自の「コルトレーンジャズ」ともいえる孤高の境地へと到達する。
さらに65年の「Ascension」によってフリージャズへ身を投じ、ニュージャズ派の牽引役となり、67年に亡くなるまで限りない前進を続け、多大な影響を残した。

まあこんなところでしょうか。
ニュージャズ派を除けば、この3派がだいたいこの時代のシーンを創っていた、それは間違いないと思います。
あと、モードジャズから新主流派の音楽的な特徴を簡単に・・・・・。

モードってのはスケール、音階のことね。それまでコードの構成音をなぞるようにアドリブしてきたビバップに対して、各コード間に一定のスケールを設定して、そのスケールの構成音でアドリブをするのがモードジャズ。
コードチェンジを頻繁に繰り返すビバップは確かに技巧的ではあったけれども、コード内に可能性が限定されていた分、演奏そのものが「バップフレーズ」と揶揄されてしまうほど、実は手の内は少なかった。
これを、コードより広いスケールに置き換えたときに何が起こったかというと、まず頻繁に転調する必要ななくなったので、譜面からコードが間引かれて簡素になった。そして次から次へとコードを追わない分、広いスケールの中でいかにメロディを歌うかという、イマジネーションによるシビアなメロディメイクが求められるようになった。要するに考えて吹かないとメロディにならないよってこと。
「単にソロを吹き流すようなプレイにはうんざりだった。もっとフォーメーションがあって、内容も吟味されたソロを吹きたいと思っていた」・・・・・「モード・ジャズなんていうコンセプトは最初から頭の中になかった。俺が考えていたのは少ない音で多くのことが語れるフォームのことだった。当時のジャズはドンドンハードになっていた、その逆の演奏がしたかったんだ。パワーではなくて、情緒を表現したかった」・・・・・ちょっと長い引用になったけど、これはモード探求当時を振り返ってのMilesの談。その方法として、コードによるソロではなくスケールによるソロを取ることを選択したということね。
そして、このコンセプトに影響を受けたアーティストたちやMilesバンド卒業生たち、そしてMiles本人によって、モードの手法を突き詰める時期を通過して、形式的な洗練、そしてニュージャズ派の影響さえも取り込んで推進されていったのが「新主流派」。
「モードイディオムを出発点として、新たな創造の道を歩んでいった勢力」というのが、新主流派の定義として一番しっくりくるでしょうか。

この辺でやめときます。
長いね・・・・・かなりテキパキと書いたつもりなんだけど、それでも書き足りないことがたくさんあるような気がする。
だいたいこんな字数で書ききれるわけねぇだろ(笑)。
あ、あと、フリーとモード、このふたつの出自を明らかにしておきたいと思う。
Cecil Taylor(セシル・テイラー、p)とOrnette Coleman(オーネット・コールマン、as,tp,vln)ね、この2人は、Taylorは学生時代に現代音楽に傾倒し、デビュー後にディキシーやスイングイディオム(Ellington)で活動してフリーフォームへと移行。Colemanは地元のジャズバンドやR&Bなどで活動後、彼独自の音感、コード感によってハーモロディクス理論を提唱。つまり2人ともバップとの関わりが薄いところから出てきてる。フリージャズってのはバップの延長に出てきたとは言い難いのね。これに対してモードは、Milesを含めてどちらかというとバップの限界を打開しようという動機で試みられてる。つまりモダンジャズの探求の延長線にあるのはモードの方だってこと、僕はそう見ています。
最後に、ニュージャズ派は67年のColtrane死によってその牽引者を失い、徐々に勢力を弱めていったということを補足しておきたいと思う。

ハイ終わり。
うーん、またまとまりのない終わり方になっちゃったなぁ・・・・・次回は70年代に行くか、60年代の補足をもう少しやるか・・・・・まぁぼちぼち考えます。
そもそもこんな字数で書ききれるわけねぇんだっつうの(笑)。

ではでは。

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちわ (new-beatle)
2005-11-08 20:56:53
TB有難うございます。

記事読ませてもらいましたが、

ジャズは初心者なんで色々勉強になります。

また読ませてもらいます。
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>new-beatleさん (TARO)
2005-11-08 23:19:33
わざわざご来訪いただきましてありがとうございます。

そちらのブログもちょくちょく覗かせていただきますね。
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コルトレーンに魅かれはじめてしまった・・・ (penkou)
2005-11-09 12:51:02
コルトレーンはちょっとと敬遠していたのですが、故あって(?)聞き始めました。ちょっと格好よすぎたかもしれませんがコルトレーンに触れてみましたのでTBさせてもらいました。いろいろとうなずきながら、論考を読ませていただいています。
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>penkouさん (TARO)
2005-11-09 16:12:09
こんにちはー。



Coltraneって、決して耳触りの良い音楽ではないですよね。

例えば「ジャズをまったく聴いたことがない人に入門用としてColtraneのアルバムを薦めるとしたら何か」と問われたときに、思い浮かぶアルバムって結構少ないかもしれない・・・・・。

「Giant Steps」や「My Favorite Things」のような代表作あたりは、決してポップに聴けるようなソロは取っていないし、ましてや「A Love Supreme」や「Ascension」なんぞを薦めようものなら、その人は2度とジャズを聴かない可能性が高いでしょう(笑)。

いつでもどこでも安心して聴けるものとして、僕の場合はpenkouさんが挙げられた「Ballads」や「Crescent」ということになりますが、こういった気軽なものは、全体を通してあまりない。

この人って偉大だ偉大だって言われてますが、結構好き嫌い分かれますよね。



ちなみに僕は、サックス奏者として見ればこの人の音色は大好きですが、音楽性に関してはあまり好みでないかもしれません。一部のアルバムを除いて、結構無骨な感じがするんですよ。

サックスを吹くという点に関していえば、もっともっと繊細に吹ける人だと思うんですが・・・・・それはまぁ、この人の志向なのでなんともいえませんが。
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ディア・ロードにであった (penkou)
2005-11-10 11:18:31
TAROさん。全くその通りですね。よく覚えていないのですが、昔僕はコルトレーンのフリーっぽいのを聞いて拒絶反応を起こしたのだと思います。フリーは生で聞くと結構はまるのですが、なぜかレコードになると僕は駄目なのです。



それが故あって(笑)、故についてはいづれ書こうと思っていますが・・・よし聞いてみようと思って良く解らないまま、コルトレーンの真髄という8枚組みのアルバムを手に入れ、別テイクや不完全テイク、ファーストバージョンの入っているDisc8から聞き始めて、ディア・ロードに出会いました。



何度もやり直す様子も面白く、又ここにはTAROさんが書かれたクレッセントのファーストバージョンもあるしフィーリンググッドの別テイクもあってなかなかいいのです。



なぜか持っていたバラードも聴き、このなかにもいいのもちょっとというのもあるなあと思っています。長くなってすみません。
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>penkouさん (TARO)
2005-11-10 18:36:10
>コルトレーンの真髄



インパルスの音源をまとめたものでしたっけ?。

僕の場合、未発表テイクまでこまめに収集しようという志向はあまりないので、購入を踏みとどまっていたものです。

Coltraneをとりあえず全部聴いちゃおう!というときには便利かもしれませんが、「Crescent」と「A Love Supreme」の4曲が同じディスクに入っているなんて・・・・・もう少し編集を考えてほしいんですが・・・・・。

いや、お気を悪くされたらごめんなさい(笑)。



>Dear Lord



「Transition」でしたっけか・・・・・フリー直前のカツカツの時期ですね。

Coltraneはこの辺から白黒ハッキリ分かれてきますなぁ(笑)。

「Transition」は僕も嫌いではないです。



>フリーは生で聞くと結構はまるのですが、

>なぜかレコードになると僕は駄目なのです。



フリーに関しては、僕はまぁ・・・・・コンセプトは理解できますが、決して美しくはないなと・・・・・無論美しいだけが音楽の要旨ではないので、それはそれでよいと思うんですが。

フリーにも色々あるじゃないですか。調性と無調性を行ったりきたりするようなのや、ハナから無調性のものまで・・・・・調性を基本において、そこから如何に逸脱するかというものは僕は許容範囲ですが、まったくの無調性、リズムもないというものに関しては、否定的です。なんというか、音楽じゃなくなっちゃうような気がするんですよね。

「完全な無秩序な音の羅列」であるなら、自然界に存在するそれの方が情緒的には優れていると思うんですね。

それであれば自由を求めるのでなく、ガチガチにコンセプトで固められた現代音楽の方が、まだ音楽していると思います。

その意味ではColtraneもOrnette Colemanも、フリージャズとは言え、まだまだ秩序だった演奏をしていますよね(笑)。



いかんいかん、語り始めると切りがない(笑)。

ではでは。
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