一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ジュディ 虹の彼方に』 ……ジェシー・バックリーに魅せられてしまった…… 

2020年03月14日 | 映画
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47歳の若さで急逝したミュージカル女優ジュディ・ガーランドの、
(死の半年前の)1968年冬に行ったロンドン公演の日々を描いた音楽伝記映画ある。

音楽伝記映画には、これまで、
大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』を筆頭に、
『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』
『アマデウス』
『Ray レイ』
『戦場のピアニスト』
『エディット・ピアフ 愛の讃歌』
など、傑作が多い。

〈あのジュディ・ガーランドをレネー・ゼルウィガーがどう演じているのか……〉
昨年から楽しみにしていたのだが、
先月(2020年2月)発表された第92回アカデミー賞受賞式において、
レネー・ゼルウィガーが主演女優賞を受賞し、
鑑賞する前に結果が出てしまった。(笑)


それでも、自分の目で、耳で、確かめるべく、
映画館へ向かったのだった。



1968年、
かつてはミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨していたジュディ・ガーランド(レネー・ゼルウィガー)が、窮地に立たされていた。


度重なる遅刻や無断欠勤のせいで映画出演のオファーも途絶え、
今では巡業ショーで生計を立てているのだが、
住む家もなく、借金は膨らむばかり。


まだ幼い娘と息子をやむなく元夫に預けたジュディは、


ロンドンのクラブに出演するために、独り旅立つ。


英国での人気は今も健在だったが、
いざ初日を迎えると、プレッシャーから、
「歌えない」
と、逃げだそうとするジュディ。
世話係のロザリン・ワイルダー(ジェシー・バックリー)は、


そんなジュディをなだめたり鼓舞したりしてなんとかステージに立たせようとする。


だが、一歩ステージに上がると、たちまち一流エンターテイナーと化して観客を魅了する。


ショーは大盛況で、
メディアの評判も上々で、
新しい恋とも巡り会い、


明るい未来に心躍るジュディ。


だが、子供たちの心が離れていく恐れと、


全存在を歌に込める疲労から追い詰められ、
ついには舞台でも失態を犯してしまう……



ジュディ・ガーランドを知らない人も多いと思うので、
簡単に紹介する。

【ジュディ・ガーランド】(1922年~1969年)
20世紀を代表する天才エンターテイナー。
『オズの魔法使』(1939年)の少女ドロシー役でブレイクし、
17歳にしてスターの仲間入りを果たす。
他の追随を許さない圧倒的な演技力と歌声で、
ハリウッド黄金期を代表するトップスターとして頂点を極める。
しかし一方で、少女時代から受けていた映画スタジオによる薬物コントロールが原因で不眠や神経症に悩まされたり、5人の男性と結婚と離婚を繰り返すなど、波乱に満ちた生涯を送る。
1969年、薬物の過剰摂取により、47歳で急逝。


『オズの魔法使』でさえ、私が生まれる15年も前の作品だし、
彼女が亡くなったのも、私が(野球に熱中していた)中学生の頃なので、
私自身も、ジュディ・ガーランドというミュージカル女優を知ったのは、彼女の死後ということになる。
『オズの魔法使』を初めて見たときには、度肝を抜かれた。
戦前の作品とは思えないカラー映像の美しさ、
ポップな舞台装置、
素晴らしい音楽、
奇抜な衣装とメイク、
コンプレックス(カカシ男の頭脳、ブリキ男のハート、ライオンの勇気)を克服するという、
テーマの秀逸さ。
どれをとっても現代にも通じるもので、
普遍性があり、古さは微塵も感じなかった。
そこにジュディ・ガーランドの歌声が乗るのだから、
たちまち観客はジュディに魅了されてしまう。
当時の人々が熱狂したのも解る気がした。


だが、哀しいかな、
彼女は十代から薬物でコントロールされるようになり、
薬漬けの人生を送るようになる。
そして、睡眠剤の過剰摂取で、47年という短い人生に幕を下ろすことになる。

日本でも、戦後しばらくの間、
覚せい剤(シャブ)が「ヒロポン」として薬局で市販されていた時代があり、
疲労回復や眠気ざましといった効能がうたわれ、
不眠不休が求められる芸能関係者には広く出回っていた。
映画俳優、歌手、作家、詩人、学者などにも常用者がたくさんいて、
その多くは、(ジュディ・ガーランドと同じく)50歳前後で亡くなっている。


話が少し脱線してしまったが、
このジュディ・ガーランドを、レニー・ゼルウィガーは、
ジュディが憑依したかのような圧巻の演技と歌声で、我々を魅了する。
47歳で亡くなっているジュディであったが、
レニー・ゼルウィガーが演じるジュディはもっと年老いて見える。


薬物でボロボロになって老けて見えるジュディを繊細に演じているからだ。
姿だけでなく、歌声も似せている。
撮影に入る約1年前からレッスンを重ね、
自身の高い声を、ジュディの低い音質の声につくり変えている。


そして、ラスト7分の歌唱に、見る者は、聴く者は、涙する。
アカデミー賞・主演女優賞納得の名演技であった。



レニー・ゼルウィガーにすっかり魅了されてしまった私であったが、
この作品には、もう一人、私の心を鷲づかみにした女優がいた。
それは、
ジュディの世話係・ロザリン・ワイルダーを演じたジェシー・バックリー。
最初は気難しい顔をしているので、


〈ジュディと敵対関係になる女性かな?〉
と思って見ていたら、
ジュディのことを真剣に考え、サポートする姿に感動させられた。


ジェシー・バックリーという女優は知らなかったが、
私好みの顔で、(コラコラ)


中盤以降は彼女の顔ばかり見ていた。


映画の公式サイトのキャスト欄を見ると、次のように記されていた。

ジェシー・バックリー(JESSIE BUCKLEY)
1989年12月28日 アイルランド生まれ。
これまで主にテレビシリーズに出演してきた。主な作品はBBCで話題となった「戦争と平和」(2016)、歴史ドラマシリーズ 「TABOO」(2017)など。近年は映画でも『BEAST(原題)』(2018/未)、『WILD ROSE(原題)』(2018/未)に主演。2017年にBAFTA(英国アカデミー賞)のブレイクスルー・ブリッツ(有望な新人)に選ばれ、2018年英国インディペンデント映画賞最優秀新人賞受賞、本年度BAFTA Scotland Awardsでは『WILD ROSE(原題)』で女優賞を獲得した。



このプロフィールを見ると、
「有望な新人」だの「最優秀新人賞受賞」などという言葉があったので、
〈新人女優かな?〉
と思ったが、年齢を調べてみると、
1989年12月28日生まれなので30歳。(2020年3月現在)
そこそこキャリアもあるのではないかと思い、さらに調べてみると、
2008年、19歳の時、
ミュージカル『カルーセル』に出演した際の、役表現のうまさから、
The Asso siation of Irish Musical Societiesよりベスト女優賞を受賞。
以後、
2011年の『Join my band』など数々の舞台で様々な役柄を演じ続けており、
Royal Academy of Dramatic Artも2013年1月に卒業。
2015年11月、
ケネス・ブラナー:シアターカンパニーにPerdita役で出演した事で、
世界中に配信され、注目された。
そして2016年、
BBCミニシリーズ、ロシアの歴史小説のドラマ化『戦争と平和』に出演し、
心優しい控えめな妹を自然に演じ切り、マスコミ各社から高評価からも高評価を得た。


『戦争と平和』はNHKで放送していたのは憶えていたが、私は観ていなかった。
その後も、ジェシー・バックリーをキーワードに検索していると、
「レネー・ゼルウィガーと主演女優争いを繰り広げた新鋭ジェシー・バックリー」
というタイトルの記事を見つけた。
〈え~、それはないでしょう~、W主演作ではないし~〉
と思って記事を読むと、
今年(2020年)の英国アカデミー賞で、
ジェシー・バックリーは、主演作『ワイルド・ローズ』で、
『ジュディ 虹の彼方に』のレネーと共に主演女優賞にノミネートされているのだという。
カントリー歌手を演じたこの『ワイルド・ローズ』では、
『ジュディ 虹の彼方に』のレネー同様に自ら歌声を披露し、


主題歌「Glasgow (No Place Like Home)」でアカデミー賞主題歌賞のショートリストに選出され、
放送映画批評家協会賞の主題歌賞にもノミネートされてもいる。


ジェシー・バックリーの演技は『ジュディ 虹の彼方に』で実証されているし、
確認済みなのだが、
〈ジェシー・バックリーって、歌手もやれるの?〉
と思ってしまった。
で、ジェシー・バックリーが歌っている動画を探すと、いくつも出てきた。
その中のひとつがコレ。
こんなに歌が上手い人だとは思わなかった。↓


『ジュディ 虹の彼方に』の公式サイトのプロフィール欄には、
映画、『WILD ROSE(原題)』は日本未公開となっていたが、
なんと、日本でも、2020年6月26日に、『ワイルド・ローズ』として公開が決定しているという。


さらに、
2020年3月20日に公開を予定していたが新型コロナウイルスの影響で公開延期になった『ドクター・ドリトル』(ヴィクトリア女王役)や、




チャーリー・カウフマンの新作や、
イギリスと日本を舞台とした渡辺謙主演の映画『Cottontail(原題)』や、


ベネディクト・カンバーバッチ共演の『Ironbark(原題)』といった映画が控えており、
さらには人気犯罪ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン4への出演も決定しているという。
ジェシー・バックリーには、もう楽しみしかないのである。


最初、私は、このレビューのサブタイトルを、

……レネー・ゼルウィガーの圧巻の演技と歌声……

としようと思っていた。
だが、本作でジェシー・バックリーと出逢い、好きになってしまい、

……ジェシー・バックリーに魅せられてしまった……

と、せざるを得なくなってしまった。(コラコラ)
あと何年生きていられるか分らないが、
ジェシー・バックリーに出逢ったことで、老後が俄然楽しみになってきた。
もう、ジェシー・バックリーから目が離せない。
もし、本作『ジュディ 虹の彼方に』を見に行かれる方がおられましたら、
レネー・ゼルウィガーの演技はもちろん、
ジェシー・バックリーの演技にも注目を……
ぜひぜひ。

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