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3月25日(土)、
作家・村山由佳の「別れが教えてくれること」をテーマとする講演会が、
佐賀県立佐賀城本丸歴史館(外御書院)にて行われた。
村山由佳が隔週パーソナリティを務めるNHK-FM「眠れない貴女へ」が、
昨年(2022年)5月にNHK佐賀放送局で公開収録されたことがきっかけで、
今回の講演会に繋がったとか。
【村山由佳】(むらやま・ゆか)
1964年東京都生まれ。立教大学卒業。
1993年『天使の卵─エンジェルス・エッグ─』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
2003年『星々の舟』で直木賞、
2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞、
2021年『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。
『放蕩記』『猫がいなけりゃ息もできない』『はつ恋』『命とられるわけじゃない』など、
著書多数。
日曜深夜放送のNHK FM『眠れない貴女へ』のパーソナリティも務めている。
今年はすでに、
デビュー30周年記念作品『ある愛の寓話』(2023年1月10日刊)や、
夫婦のすれ違いを描いた『Row&Row』(2023年3月20日刊)を刊行している。
私は、村山由佳の良い読者とは言えないが、
デビュー作『天使の卵-エンジェルス・エッグ』(集英社、1994年)を読んで感動し、
初期作品はよく読んでいた。
『海風通信―カモガワ開拓日記』(集英社、1996年)に描かれたような田舎暮らしにも憧れ、
その生き方や、
(この頃の)村山由佳本人にも憧れにも似た気持ちを抱いていた。
そんな私だったので、
地元紙で講演会のことを知ったときには、
〈聴講したい!〉
と思った。
参加費・無料
定員150名程度(事前申込・先着制)
となっていたので、すぐにネットの応募フォームから申し込んだ。
ほどなく聴講券が届き、講演会を楽しみに待っていた。
そして、講演会当日。
私は、久しぶりに佐賀県立佐賀城本丸歴史館を訪れたのだった。
佐賀城は佐賀市の中心に位置し、
城郭の構造は輪郭梯郭複合式平城である。
だから、姫路城や熊本城のような天守閣のある高くて大きな「城」はない。
平坦な土地にあるため、むしろ城内が見えないように、
土塁にはマツやクスノキが植えられおり、
城が樹木の中に沈み込んで見えることや、
かつては幾重にも外堀を巡らし、攻撃にあった際には多布施川より送り込んだ大量の水によって本丸以外を水没させ敵の侵攻を防衛する仕組みになっていたことから、
「沈み城」とも呼ばれてきた。
天守閣がある城でも、藩主が実際に政治を行い、生活をしていたのは、
天守閣ではなく、本丸御殿なのだが、
現在、本丸御殿の一部を復元した「佐賀城本丸歴史館」が佐賀城跡に建てられており、
本丸御殿の復元としては日本初で、2,500平方メートルの規模を誇っている。
桜が咲き始めていたので、女子中学生が写真を撮っていた。
この写真を撮ったときには気づかなかったのだが、
この写真を撮ったとき、石垣の蔦がある形に刈り取られているのに気がついた。
そう、ハートの形。(「恋人たちの聖地」なのかな?)
講演会会場となっている佐賀県立佐賀城本丸歴史館の「外御書院」は、
一之間から四之間まであり、320畳の大広間となっている。
会場は、村山由佳ファンでぎっしり。
定員は150名程度となっていたが、
その倍以上はいたように感じた。
13時30分になり、着物姿の村山由佳が登場。
「すごい会場ですね。お殿様にでもなったような気分」
と笑わせ、
「今日の着物の帯は佐賀錦です」
と、佐賀人を喜ばせ、和ませる。
佐賀を舞台にした、焼き物に関係する女性が主人公の小説を構想中とのことで、
前日に佐賀に入り、有田や伊万里などを見学したそうだ。
本題の「別れが教えてくれること」に関しては、
作家になる前に塾講師をしていたときの教え子である女子中学生との別れ、
(2度の結婚、2度の離婚による)2人の夫との別れ、
父親との別れ、
母親との別れなどから、
「今日隣にいる人が、明日もいるとは限らない」
という言葉が導き出され、
〈あのとき、もし〇〇していれば……〉
というような、
「しなかったことへの後悔」をしないように生きていかなければ……
と語られた。
特に印象に残った言葉は、
小説を書くという作業は、
「自分のわからないもの(感情)に名前をつけていく作業」だということ。
そして、同じ小説を読んでもそれぞれ印象が違うのは、
小説を読むときには誰もが「自分の経験を翻訳して読んでいる」からだということ。
私には納得の言葉であった。
東日本大震災のあと、
〈小説なんかで何が伝えられるんだろう……〉
と、小説を書くことへの無力感を抱いていたときに、仙台でサイン会があり、
ある(大学生の)男性が、
ボロボロになった本(『天使の卵-エンジェルス・エッグ』)を持ってきて、
「避難所でこればかり読んでいました。あの現実から目を背けるには、フィクションに逃げるしかなかった。僕を正気でいさせてくれたのはこの本です。この本にサインしていただけますか?」
と語ったとか。
このとき、村山由佳は、人目をはばからず号泣したそうだ。
そう語る村山由佳の目にも涙が浮かんでいた。
きっと、村山由佳という作家は、
〈あの大学生の、あの言葉に支えられて今も作家をしているのだろう……〉
と、私は思った。
講演終了後、書籍販売会及びサイン会があり、
私は、
『ある愛の寓話』(文藝春秋)
『はつ恋』(ポプラ文庫)
の2冊を購入し、
サインしてもらった。
講演会終了後、
佐賀城本丸歴史館周辺を散策した。
この辺りは博物館や美術館や図書館、
TV局など文化的な施設がたくさんあり、
とても素敵な場所であった。
翌日、村山由佳のTwitterを見ると、
佐賀城本丸歴史館大広間での講演を終え、桜散る着物と佐賀錦の帯を家に送り、佐賀空港にてB級グルメ「マジェンバ」(シシリアンライスの冷うどん版)をすすって帰りの飛行機に。
お腹いっぱい、お土産いっぱい、思い出も収穫もいっっぱい。
お世話になった皆さんありがとうございました。また来ます!
取材中の写真なども追ってアップさせて下さい。
有田や伊万里へ案内して頂いて焼物のことをたくさん学べたし、今朝は琳泉窯さんとも会え(てまた我が家の器が増え)たし、足かけ3年ぶりのサイン会では読者の皆さまから力を頂いて…。最高の二日間でしたわ。
とあり、
充実した佐賀での2日間であったようだ。
佐賀を舞台にした小説を楽しみに待ちたいと思う。