拈華微笑 ネンゲ・ミショウ

我が琴線に触れる 森羅万象を
写・文で日記す。

  『奥の細道』と 赤いピル

2023年10月11日 | 東洋自分なり研究所

  『エマニュエル事件』と私は呼んでいるが、ヨーロッパに32年間住んで、一種の『逆カルチャーショック』というのが一度だけあった。

  

  『エマニュエル』氏というのはフランスはパリの国立大学日本学科の教授で、その彼が2018年3月にローザンヌのある専門学校の招待で

  『ヨーロッパにおける"Zen" の発見』というタイトルで約40分の講演を行った。

  友人の誘いを受け、日本文化に詳しい教授の『Zen』の話を聞ける良いチャンス・・・と、楽しみにでかけた。 のであるが・・・

  

  鈴木大拙を中心に、戦前から戦後にかけ、東洋から西洋へと『禅』の浸透してゆく歴史的出来事を、写真をスライドにして深掘り詳細に説明。

  アメリカやヨーロッパの著名人らが『禅』に傾倒していく様や、京都竜安寺の石庭に関心するイギリス女王や哲学者サルトル&ボーボワールや

  他にも沢山の著名人の写真をスクリーンにアップしたりするので、私はすっかり彼が日本文化に惚れ込んでの日本文化紹介の講演であると思いこんでいた。

 

  しかし、だんだんと後半になるにつけ、様子がどうもおかしい・・・、いくら私がフランス語を解さないといっても、40〜50%は解る。

  この教授の皮肉なものの言いようや、禅に傾倒していく著名人を馬鹿にするような口調が段々と強調されていった。

  ただ、フランス語がよくわからないのでそれを断定する事も出来ず、講演後に相方ニコルに内容を確認をし、

  彼の講演が『ヨーロッパにおける反禅』の姿勢を鮮明にしたものであったことが解り、私も相方も相当ショックを受けたのである。

 

  あの当時は、怒り心頭で何故ああまで、『反禅』であるのか・・・と、考え込んだものである。

  以来『エマニュエル事件』として、私は公案のように心の片隅に置いて、ずーっと温めていたと思う。

 

  先日ふと、思うところがあって相方に話すと、例の講演のVideo動画(私と相方の後頭が映っている)があることがわかり、2度ほど見返した。

  このエマニュエル教授は講演で『俳句と禅とはまったく無関係・・・』と宣っていたが、正岡子規の『病床六尺』を翻訳している。

  経歴を見ると、フランスで日本語を勉強し、早稲田大学へも2年間留学して夏目漱石、森鴎外などを研究していて、日本語も達者のようだ。

  

  日本文学・・・特に俳句なんかを研究すると、当然松尾芭蕉なんかに行き着くわけで、『奥の細道』の手前までは彼も行ったのだと思う・・・。

  そこで、門番から『赤いピルにすれば、もう二度と戻ってこれないぞ・・・』と言われ、青いピルと赤いピルを差し出され、彼は『青いピル』を選択した・・・のだと私は思う。

 

  日本の学者もそうであろうが、特に外国の日本学者にとって、日本文化の『奥の細道』の奥にある、言葉や文字では理解し難い『銀山鉄壁』のように

  そびえ立つ越えがたい『壁』・・・に真面目に研究すればするほど、誰もが行き当たることは必至であろう。

  その時、人によってはその『壁』を攻撃の対象として受け止める学者も案外多いのでは・・・。 そういう人は何色のピルを飲むのだろうか???

 

  彼の講演に参加出来たことを私は良かったと心から思う。

  世の中には当然の如く『反禅』の人もいるのだから・・・(以前は誰でも『禅』に良い意味で関心を示す、と思い込んでいたから…)

 

             

             じつは、昨日発見した我が街モルジュの駅の裏に、川沿いにゆるく坂登る『奥の細道』・・・我々にはちょうどよい散歩道発見に喜ぶ図


   一歳の誕生日会

2023年10月11日 | 娑婆惰罵駄(シャバ・ダバダ)

  先日、相方ニコルの姉の娘の息子・・・早い話が『姪』の息子、『慧理安子・エリヤス』君の一歳の誕生日パーティがあった。

  姪夫婦のアパートの庭を借りての野外パーティーで、夫婦双方の親戚一同が集まった形で、姪の旦那の兄弟等とは初めてお目にかかったことになる。

 

  姪の旦那の家族は、母親の血統のせいか皆背が高く、赤毛色白、そして一様に寡黙・・・な印象。

  彼等一族のオリジナル・ルーツはどこだろうか?・・・と好奇心が頭をもたげる。

  その血があるからなのか、一歳になったエリヤス君は『デカイ赤ん坊』で衣類も2歳児のを着ているらしい。

 

  で、姪の母親はニコルの姉であるが、父親というのは姉の一時の気まぐれ関係で彼に与えた称号といえるだろうか。

  彼はポルトガル人、包丁一本持ってスイスにやって来た料理人、『姪』を産んだあと、ポルトガル人女性と結婚して二人の娘を育てたが

  その女性と離婚してからずーっと御無沙汰であったからその後の消息は『姪』からの又聞き情報しかなく詳細を知らなかった。

  そういった若干複雑な家庭の事情の中を『姪』はほぼ支障もなく父方、母方親戚一同と良好な関係を築き上げてきていた。

 

  その結果を可視化したのが、この日の『エリヤス、一歳の誕生日』会であった。

  『姪』の父親は、現在のガールフレンド、元妻、娘の母親・・・という関係を持った3人の女性と一堂に会したわけであるが、

  それぞれが時の経過とともに、良き伴侶を得、幸せそうに互いを紹介しあい近況を尋ね合う・・・そういった風景を傍で観ていて

  多少とも彼等の過去の事情を知っている者(私)にとって、ちょっとした小説を目の前で読んでいるような不思議な気持ちになったのである。

  ヨーロッパに来て、三十数年の歳月が、確かに私の上にも流れていた事を肌で感じたような気分・・・とでも言おうか。

 

  ことに、『姪』の腹違いの姉妹の二人の成長ぶり・・・以前会ったのが彼女等が十代始めの頃で、まだ行く末のわからないギャル娘であったが

  学歴のないポルトガル人両親の献身的な子育てが功を奏し、長女は弁護士になり、次女は助産婦を目指し、この秋より看護婦として病院に勤務することに

  なっているという・・・スイス生まれでも気さくなポルトガル気質は両親からしっかり受け継いでいるらしく、二人共に明るく屈託ない様子で

  遠い親戚の一人である東洋人の私に、近況を話してくれた。

  こういったザックバランな人間関係・・・というのはヨーロッパ的・・・とでも言えるであろうか、私にとっては何かとても新鮮な風に吹かれたような気分であった。