はみ出し行政書士日記

破天荒(?)な行政書士が、遭遇する様々な事件に挑戦する日々の実態+α

恐ろしい体験

2004年07月29日 17時29分50秒 | 衝撃の事件
世の中に恐ろしい体験というのは沢山あると思うが、我々のような職業の者が出会う恐ろしい体験というのは、普通の恐怖体験とは全く異次元である。現実の恐怖なのだ。

自分の生命の危機を感じる。幸か不幸か、私はそこまでの体験をした事は無いが、下手すればそうなると思うような体験は何度かある。

今でも忘れられない事件があった。(ここから書くことはほとんどが推測であるが、私は確信を持っている)

年末も押し迫ったとある冬の日、突然事務所の電話が鳴る。そこまでは至って普通のことだ。
「はい、○○事務所です」
「あの~、知り合いの女の子が中国人と結婚したんで、ビザ取りたいんだよ」
「はぁ、そうですか。」
「書類は大体揃ってんだけど、頼めるかな?」
経験を積んだ行政書士でなければ、この会話に違和感を覚えることは無いだろう。
しかし、今まで何十人、何百人という外国人を相手にしてきた行政書士としては、この会話の不自然さを見抜けなければいけない。

そもそも、何で本人が問い合わせてこないのか。こういうケースは結婚紹介所などのブローカーが絡んでいる事が多いのだ。もし悪質なブローカーが絡んでいるなら、丁重にお断りしなければいけないケースである。(行政書士法では正当な理由無く依頼を断ってはいけないことになっているが、法律改正をぜひともしてほしいものである。仕事を選り好みしたいのは誰も同じだ。好き好んで危険に近付こうとする人などいない。)

しかも、書類が大体揃っているなら自分で申請すればいい。そもそも私たちの仕事は、書類の揃え方が分からない人への助言をしたり、忙しくて手続が出来ない、面倒だから誰かに頼みたい、何度やっても上手くいかない、などなど、それなりの事情がある人に代わって様々な手続をすることで成立っている。しかし、自分で書類も揃えて、ほとんど大丈夫と言うなら、わざわざ高い報酬を払って頼む必要は無いだろう。

この二つを理由に、私は偽装結婚であることを疑ったのだ。この日本人女性は、中国人がビザを取る道具にされてしまったのではないか。
そして電話の男は、一度事務所を訪れると言う。来たいという人を拒むことも出来ず、とりあえず詳しい話を聞くことにした。

翌日、若くてまだあどけなさすら感じられるような女性と、浅黒い中年の男が来所した。結婚に至る事情などは、プライバシーの問題や守秘義務などの問題がありご説明することは出来ないが、その様子の不自然さは言葉では表せないものだった。(これも経験を積んだ行政書士で無ければ感じることが出来ないであろう)

私は、自分の予感を確信にするために、幾つかの質問をした。いつもしている質問だが、偽装結婚かどうかを見抜くには効果がある。その女性のしぐさからも、偽装結婚であることがすぐに見抜けた。

ところが、断る口実が無い。非常に困った。前記したが、行政書士法には「正当な理由無く」依頼を断ってはいけないことになっている。私の疑問を相談者に聞く訳にもいかない。偽装結婚している人とブローカーに向かって「あなた偽装結婚しているでしょ」などとは言えない。

となれば、別の解決方法を探るしかないのだ。
私は、そのための材料を探すために、更に女性から話を聞いて必要な情報を引き出していった。

一通り話を聞き終わり、私はこの女性が偽装結婚をしているということを確信した上で、その裏づけ調査が必要であり、また、状況によっては女性を救ってあげなければいけないのかもしれないという思いにもなった。恐らく、その女性は相談を持ちかけてきた男の(あらゆる意味で)奴隷にされているのだ。理由は想像に任せる。

こういうケースは、事を荒立てると話がこじれ、自分の身にも危険が及ぶのだ(と言いながら、ブログに書き込みをしていてよいのかは分からないが)。周辺環境から調査をはじめ、数名の協力者を得た上で、間接的にその協力者を支援しながら偽装結婚から救ってもらった。

私が自分の無力さを感じるのはこういうときなのだ。自分の手で直接その女性を救うことは出来なかった。しかし、一人の女性を偽装結婚の道具、いや、そこから始まるもっと恐ろしい事態を考えれば、その女性が受けた傷を最小限で食い止めるきっかけとなれたことには、誇りをもっていいのだろう。

たかが行政書士、去れど行政書士。私は、去れど行政書士と呼ばれるようになりたい。
でも、持ち出しは勘弁願いたい。こういう事件は、大抵持ち出しである。

偽装結婚に至る経緯や、救出方法など、もっと詳細に書くことが出来れば、どんなドラマにも負けないストーリーになることは間違いないのだが、職務上これが限界なのが残念。

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1 コメント

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流石! (tom)
2004-08-05 09:55:00
何事にも完璧をめざす鈴木さんらしいblogですね。また遊びましょう。
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