はみ出し行政書士日記

破天荒(?)な行政書士が、遭遇する様々な事件に挑戦する日々の実態+α

出来ないことは出来ない!

2004年11月29日 13時42分57秒 | 衝撃の事件
今朝は、朝っぱらから滅茶苦茶な電話がかかってきた。
以前1回相談を受けている案件の続きである。南アジアのとある島国出身の男性からの電話だった。日本で会社を作って経営したいという内容の相談を受けていて、これから実際に手続に入りたいというところに至って、突然、法律上絶対に不可能なことをやろうとゴリ押ししてくる。

こんな感じだった。

男性: 「有限会社の定款に資本金300万円と書いて、それだけで会社を作ることは可能ですか?」
私:  「定款に資本金300万円と書いたら、銀行に300万円を預けて、その証明を取らなくてはいけません。」
男性: 「いや、そんなことは無いはずだ。私は何十年も前に弁護士に頼んで有限会社をつくったことがあるが、そのときは1円も金を預けていない。」
私:  「それはありえないです。もしそれが本当だとしたら、何らかの方法で違法行為をしているとしか考えられません。」
男性: 「なに言ってるんだよ!おまえは若造だから何も知らないんだ!私は、あなたがずっと小さいころから会社を経営していたんだ。そのときに銀行に金なんか預けなかった。それとも弁護士が悪い事したって言うのか!」
私:  「昔のことは存じ上げませんので、その弁護士さんを紹介していただければ、私がそのときの経緯を確認させて頂きます。しかし、現在の法律では、資本金を銀行に預けて証明書を取らなくてはいけないことになっていますので、それ以外の方法は私は存じ上げません。世の中には悪いことをする人がいて、『見せ金』(※)という方法で会社を作る人もいますが、それは違法ですから、私の事務所では受けません。」
男性: 「おまえは頭悪くて何も知らないから出来ないだけだ。相談料を5000円も払ったのに、おまえは詐欺師じゃないか。そうやって騙しているだけだろう。」
私:  「私のことをどうおっしゃっても構いませんが、出来ないことは出来ないのです。もしそれでも出来ると思うのであれば、前に頼んだ弁護士さんに頼めばいいじゃないですか。それが一番確実だと思いますよ。」

こんな問答を30分も続けることになった。

そもそも、ことの始まりは、品川かどかに住んでいるという某人物の紹介だということで、この男性から相談が来たのだが、不思議なことに私はその某人物を全く知らない。名刺交換をしたことがあれば、必ず記憶に残っているはずなのに、何故そういうところから相談が来るのか少々疑問には思っていた。

そして実際に会ってみれば、どこかの代議士秘書と親友だとか、弁護士をたくさん知っているとか、日本の大手企業の役員を知っているとか、大きな話ばかりする。
私は、この手の話はあまり信用しない。いや、信用しないというより、どうでも良いと思っている。
こんな話で一々惑わされていたのでは真実が見えてこないからだ。こういう大きい話をする人に限って、案外何も無い人だったりすることが多い。

前につくったことがあるという会社も、共同経営していた日本人に乗っ取られたとか、その会社では在留資格を取得することが出来なかったとか、私にしてみれば、「さもありなん」と言いたくなるのだ。要は詰めが甘いのである。

私の信条は、何事も真っ向勝負すること(決して郵政公社の回し者ではありません^^;)。だから、本当に困っている人には、商売抜きで支援することすらある。しかし、こんな滅茶苦茶な話をゴリ押しされたのでは、こちらから断りたくもなる。

今回に限っては、「あんたに頼んだら私の商売どうなるかわからないよ」と最後に捨て台詞を吐いて電話を切ってくれた。

あなたの依頼を受けていたら私の資格がどうなるかわからないよ。
私の本心である。



※見せ金=資本金が不足している人が使う手段で、知り合いや消費者金融など一時的にまとまった額の金を用立ててくれるところから金を借りてきて、銀行などの金融機関に預けて証明書を取ることによって、資本金についての実態を伴なわない会社を作る行為を『見せ金行為』という。商法違反で罰せられる。一部の士業者には、これを堂々とやる者もいる。最もひどいケースでは、その『見せ金』を高利で貸し付けることもあり、そこまでになると、貸金業法違反、出資法違反などになる可能性すらある。
なお、現物出資という方法があるが、それは一定の資格を持った人に、出資額相当の資産価値があることを証明してもらう必要があり、手続としては銀行に現金で出資金を預けるのと同様である。
ちなみに、今回は確認会社を想定していなかったので(確認会社でビザを取るのは事実上不可能)、その話は出ていない。

依頼は絶対?

2004年11月20日 18時24分21秒 | 業界裏情報?
前にも少し触れたことがあるが、行政書士には依頼を断る権利が無い。
行政書士法第11条には「行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない。」と定められている。この正当な理由が難しいのだ。そもそも、我々行政書士の業務は、委託契約、委任契約などの双方の合意によって成立する契約に基づいた業務なのだが、この11条の規定があるおかげで「やってください」と言われたら断ることが出来ないのである。

おかげで、我々はきつい仕事を頼まれる。「1週間以内に会社設立を間に合わせてくれ。」「今日ビザが切れるんだけど、何とかならないか?」「この仕事○○円で受けてくれないかな?」どれも断りたくなる依頼。

しかし断ることが出来ないのがこの仕事。何しろ行政書士法第11条が定める、依頼を拒むための「正当な事由」はどこにも無い。病気に入院でもすれば別だけど。
結局きつい思いをするのは、頼まれた私。
1週間で会社を作るということは、物理的に不可能なのだ。それでも何とかしてくれと頼む依頼者に、1週間は天地がひっくり返ってもできない。せめて2週間。そのように、「私が頼む」のである。普通なら2週間だってきつい。

そもそも、行政書士は自営業者であるから、営業活動をして見込み客にアプローチし、契約を取って業務をこなし、納品(許認可の取得など)してアフターケア(更新手続やその他の相談)をするまで、全て自分でやらなければいけない。補助者に任せられることはごく僅かなのだ。

そのような多忙な状態なのに、ある日突然2週間で会社設立を間に合わせろ!とは無茶な相談なのである。しかも、断ることを許されない。しかし、頼まれて受けてしまったからにはやらねばならないのがプロなのだ。プロがプロたる所以は、言った事に責任を持つということである。

地域によって違うのだが、混んでいる都市部の法務局は、登記申請を出してから登記完了まで10日ぐらいはかかる。ということは、書類を用意するまでに、たった2、3日しかない。すなわち、依頼を受けた日から2日間。時間との格闘だ。法務局で調査をし、定款の認証を受け、資本金の保管証明を受取り、その他の書類も全てととのえて、青い顔をして司法書士の下へと駆け込む。そして、司法書士にも「そんなすぐに出来ないよ」とばかりに嫌味を言われながらも、登記申請をしてもらう。しかも、その間他の業務を休むわけにはいかない。実態を知らない人からは「高い報酬を取っていいよね」と言われるが、時給換算すると1,000円にも満たないことすらある。

とはいえ、会社設立だったら、こんな感じでまだ余裕があるから良いのだ。

恐ろしいのは、ビザの期限である。「今日過ぎたらオーバーステイだよ」という相談があった。昼過ぎ頃である。ということは、あと3時間したら、自動的にオーバーステイになるしかないという状態。兎にも角にも、何とかしなければいけない。他の用事を全てキャンセルし(本当に大迷惑な話だが、どうにもならない)、大慌てで入国管理局に走りこむ。当然本人も一緒だ。でも、受付時間はとっくの昔に過ぎている。無理を承知でとにかく拝み倒し延長をしてもらう。入国管理局の職員には、平謝りに謝る。普段意地悪(と思いたくなることがよくある)をされているが、こういうときだけは、仏様か天使のように見えるから、人間の感覚は恐ろしい。

そんなこんなであるから、新聞の集金時に配達のお兄ちゃんから「朝3時ごろ配達してますが、よく電気ついているのは仕事してるんですか?」と言われてしまう。返す言葉が無い。

依頼を断ってもいいと法律を変えてほしい。
(でも多分断らない自分が恐ろしくもある)

裁量権?それとも情報不足?

2004年11月16日 19時24分26秒 | 業界裏情報?
役所の対応については、多くの市民が何らかの不満を持っているものである。
我々のように、日常的に(国から地方まで色々な)役所と折衝を行っているような人間であっても、その不満は同じである。
とは言え、最近はかなり良くなってきたのもまた事実で、我々のようなそれぞれの役所の事情をよく知る立場の人間から言えば、制度と市民の間に板ばさみで、役人も大変だなと思うことがしばしばである。

しかし、そう思う一方で、「ちょっとそれは」と思わせることも結構多い。
国の出先機関が、実際の運用に当たって、その地方ごと、その出張所や支局ごとに違う運用になることは珍しいことではない。

これは、全国一律の運用でよく名が通っている法務省関係の出先機関でも同じである。
法務省の出先機関で有名なものは、何と言っても法務局だが、例えば、会社を設立する際に、事前に調べておかなければいけない類似商号調査や、会社の目的についての解釈は、微妙に違ってくる。
外来語をどの程度まで使ってよいのか、その基準は、現代用語辞典で使われているレベルというが、それだけで表現しようとすると、実態とずれが生じる。依頼者にしてみれば、その微妙な違いが結構気になるもので、どうにかしてくれと頼まれることは当たり前。
この違いは、裁量権の範囲なのか、それとも、単なる情報不足で発生したものなのか。前者ならば、「そうですか」とばかりにすごすごと引き下がるしかないし(と言いながら、実際はそう簡単には引き下がらないのが私のしつこいところ)、後者なら、こちらから情報不足を補ってあげなくてはいけない。

また、役所の部署によっても、世の中の流れに敏感なところ、旧態依然としているところ、いろいろあって、そういったことを敏感に感じ取って話のレベルを合わせていかなければいけないのも、難しいことなのだ。

と考えると、単なる法律論云々よりも、優れたコミュニケーション能力こそが、仕事を円滑に進めるための重要な武器になると感じる毎日である。

自転車での移動

2004年11月12日 19時44分17秒 | つぶやき
11月になり、自動車での携帯電話使用が取り締まり対象となったことを受けて、私も注意するようにしている。
その一環と言っては何だが、自動車の使用を控えて、自転車での移動を多くしようと思っている。
これは別の面から見れば、省エネにもなるし、健康にもよいし、最近高騰するガソリン代の節約にもなるし、渋滞に巻き込まれることも無いし、いいこと尽くめである。

最初はそう思って始めたのだが、いざ実践してみるとあれこれと問題があることに気付く。
特に今年は、天候不順の日が多いため、やむなく自動車で移動になってしまうことが度々ある。
今日も見事にそれにやられた日であった。昼近くになって天気は回復してきたかと思い、少々遠いのだが、自転車で小1時間のところにある法務局まで行くことにした。スケジュールに余裕がある時にしか出来ないのだが、風を受けながらのサイクリング(?)は、結構気分がよいものだ。
と、思いながら軽快に自転車を飛ばしていると(本当に飛ばしてます。時速40キロぐらいは出ているかと・・・)、突然雨が降り出すではないですか。なんとまあ、天気予報を信じて事務所を出発したのは良いが、自転車ではどうにもならず、近くのコンビニに飛び込んで、雨がやむのを待つのでした。
せっかく気合を入れて新しいことに取組もうと考えていたのに、こういうロスを考えると、やっぱり車移動主体に戻るべきかと悩んでしまう。

現場主義再び(その2)

2004年11月03日 10時16分53秒 | つぶやき
昨日の続きで恐縮である。

現場主義を常日頃から訴えつづける私であるが、そこから見えるものは何か。
今、この場で本当に必要とされているものが何か、ということである。

外国人政策という限定でしか話が出来ない私であるが、昨日のフォーラムでは非常に物足りない内容だったことは既に書いたとおりである。

では、外国人の就労に関する制度上、今後議論していくべき点が何かについて、その出発点となる話題を、現場からの視点で紹介してみたい。

まず一つ目が、留学生(就学生を含む。以下同じ。)の進路選択というものである。
20年前、時の中曾根康弘首相が留学生10万人計画を宣言して、昨年ようやくその計画を達成したのは記憶に新しい。となると、次に問題になるのがその留学生の進路ということになる。ところが、この問題になると至ってお粗末で(留学生の受け入れ態勢も、正直お粗末そのものなのだが、敢えてここでは触れない)、政府として何の対策も考えていない。「勝手にどうぞ」という状況なのだ。
ここで、一応統計的数字を確認しておきたいが、10万人いるという留学生のうち、専門学校なり大学なりの学校を卒業後、日本に留まる留学生は全体の三分の一程度である。ということは、残りの三分の二は海外へ流れ出ていることになる。日本の教育機関は、国公私立を問わず、少なくない額の税金が投入され、人材の育成が行われているのだが、この統計を見る限り、日本でそうやって育成した優秀な人材が海外へ流出するというのは、長い目で見れば大きな損失になるのではないか。
実際、留学生の進路の希望を聞くと、日本での就職や起業を挙げる人が多く、これらの人に日本での経済活動に参加してもらうことは、非常に有益であると考える。しかし、就職する際にも、細かな規定(詳細は割愛する)を定められているため、職業選択の自由が無い(実際、入国管理局の担当者も「外国人には職業選択の自由が無い」という発言をしている)。起業に至っては、経営者のビザを取得するためのより高いハードルをクリア出来ないため、帰国後起業しているというケースをよく耳にする。
ところが、同じ条件の日本人で考えてみれば、これがいかに厳しい規制であるかがよく分かる。例えば、今や大学を卒業しても定職につかずフリーターであるモラトリアム生活を送る人がどれだけ多いかを考えても良いだろう。起業する場合も、アルバイトをして生活費を稼ぎながら、事業に打ち込むことも当たり前の話である。
外国人であるというだけで、起業に対する制約が非常に大きくなる。これでは、優秀な頭脳も海外へ流出してしまうのも仕方が無いのではないだろうか。せっかく日本で育った優秀な人材が、海外へ流出するのである。「知」の流出である。これをどう見るかは、それぞれ違うだろうが、私はあまりにも大きな損害だと考えている。だが、この点について議論されることはあまり無いのが現状である。

二つ目は、現在の外国人労働者政策の正当性に対する疑問を提案してみたい。
昨日も書いたとおり、外国人の就労が認められている分野は限られていて、「法律会計」「医療」などの専門資格を持つ職業、「技術」「人文知識国際業務」などの専門知識を必要とする職業、「技能」などの長い経験を必要とするその国独自の伝統文化に基づく職業など、ごく一部である。
しかし、穿った見方をすれば(私は決して穿った見方をしているとは思わないがそういう評価も出来ると思って敢えて皮肉も込めて表現してみた)、こういった高度な知的労働を条件とすることで、日本での特殊な技術、技能、知識といった「知」の蓄積を阻害する結果になることも考えられる。高度な知的労働を外国人労働者に向けて解放することは、すなわち、良し悪しの評価でなく事実として、日本人の参入余地が減ることを意味し、日本人に蓄積されるはずであった「経験」などの「知」が外国人に蓄積されることになる。そして、その外国人の労働力が日本に永く留まってくれれば良いが、多くの場合数年で海外へ流出することになる。この傾向が顕著に現れるのが、欧米の外資系金融機関やコンサルティングの業界であろう。彼らは、日本で「知」の蓄積をすると同時に、高給取りでもあるため、日本からの通貨流出も加速する。
日本の国際競争力ということを考えた時に、ノウハウといった「知」の蓄積は、特許や商標のように形になって見える知的財産と同時に守らなければいけない財産ではないかと考えられる。実際、国際的な知的財産権の議論では度々話題に上がるのだが、これと外国人労働者との関係についてまでの議論は今まで聞いたことが無い。

現場から見えてくる話題は数多いが、今後の日本経済に大きな影響を与えるであろうこの二つの問題は、突っ込んだ議論をして欲しいものだ(が、その気配はどこにも無いのが残念でならない)。なお、二つ目の疑問は何百人という外国人と接して体験的に感じることであって、具体的に例示が出来ない点は申し訳ないと思っています。

不思議な電話

2004年11月03日 01時45分42秒 | その他
不思議な電話が掛かってきた。
正確には、不在着信があったと言った方が良い。
普段外出中の事務所宛て電話は、携帯に転送しているのだが、今日は発信者の番号が全く表示されない着信があったのだ。
非通知なら「非通知着信」と出るし、公衆電話でも「公衆電話」と表示される。

今日の番号無し電話は一体どこから掛かって来たのだろう???
せめて出られれば良かったのだが・・・

現場主義再び(その1)

2004年11月02日 22時24分17秒 | つぶやき
本日は、業務遂行の上で何らかの役に立てばと思い、日本経済新聞社主催の「東アジア経済連携推進フォーラム」に出席してきた。
テーマはFTA(自由貿易協定)についてであるが、そこで最近話題になっている人的交流の自由化、つまり日本のビザの規制緩和についての討論があった。こういったことについて時間をかけて討論が行われるのはそれ程多くないため、良い機会だと思った。

ところが、現場で日々これらの問題と格闘している私の立場から正直に申し上げるならば、あまりにお粗末な内容であった。パネリストは著名な有識者ばかりということであったが、群馬県太田市長以外のパネリストは、現場を知らないあまり、話題が観念論に偏りすぎていた。

そこでの主な話題は、
1.人的交流の動向
2.これからのあるべき姿に対する各パネリストの考え方
の2点。

1.については、ここ数日の新聞報道でも知られているとおり、フィリピンからの看護師や介護士の受け入れ、タイからのマッサージ師の受け入れの2点についてその具体的内容を紹介したのだが、この程度の話題をわざわざ有識者を集めておきながら話題に出している時点で議論のレベルが疑われる。だが、問題は2.についてである。

識者であるとされる人たちが、議論の前提となる外国人の日本における現状を殆ど把握していないのだ。統計にあがってくる数字と、公的なレポートだけでは絶対に見えてこない現場での問題を知らないがゆえに、議論があまりに観念論に偏っている。それだけでなく、現在の法制度がどうなっているかを知らないから、議論されていることが現場では当たり前の話であったりするため、退屈そのものだった。

例をあげてみよう。
議論されていた中に、
「専門職能を持つ人材の受け入れは良いが、単純労働の人材は認めない」
「研修制度を利用して技能職も育てよう」
「外国人にも日本人と同じ労働条件を満たすようにすべき」
「不法就労には厳しい処分を」
などの話題があった。
既に日本の外国人労働市場は、この意見そのものの状態になっているのであって、改めてここで主張すること自体、全く以って意味の無い議論なのだ。これらのうち、労働条件が劣悪であるのは、単にその条件を外国人が納得した上で就労している不法就労であったりするために、改善の余地が無いのであって、制度の上では議論されていた理想論どおりになるようになっている。不法就労の問題も厳罰化が叫ばれているが(実際12月2日施行の改正入管法では罰則が厳しくなる)、外国人に対する罰則強化は、殆どと言っていいほど無力である。なぜなら、不法就労となる人たちに、その罰金を支払うだけの資力が無い上、罰金に代わる労役場留置(刑法18条各号)もまた、施設の収容能力の限界を超えていて、現実性が無いのが実態であるからだ。よって、取調べ終了後、直ちに強制送還と上陸拒否10年という、従来とさほど変わらない処分で終わる可能性が高いと考えられるのだ。研修制度に至っては、制度成立の理由も現在の制度の目的も全くわかっていないようであった。日本で労働するための制度で無いので、今回の議論の対象になり得ない話題である。

こういったことは、現場の人間でこそ知っている話であり、今回のパネリストに我々のように外国人と市井で交流のある人間からの発言が欲しかったのが、率直な感想である。

ただ、唯一の救いは、太田市長の現場からの叫びである。問題点を具体的に浮かび上がらせ、必要な措置が何かを的確に指摘していた。
「外国人の国内での移動が行政側に把握できないため、せめて国勢調査の対象と出来るだけの動向を把握する制度を国が用意すべきである」と指摘する点や、「専門的職能者が優秀なので法律を守り、単純労働者がそうでないため日本の秩序を乱しているという偏見を改め、日本の最低限のルール、すなわち納税の義務や社会保険の加入、更には地域社会でのマナーを守ることなどを受け入れの条件にするべき」という考え方である。
さすが外国人と接する最前線にいる人であると聴く者をうならせるものがあった。

常日頃から、現場主義を主張する私であるが、改めてその重要性を感じさせられたイベントだった。

追記:2004年11月3日付日本経済新聞に詳細が掲載されるそうです。