すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「アジア人の怒り」⑪

2005年03月11日 | 小説「アジア人の怒り」
 私たち3人は、洞穴の中で、2度目の朝を迎えた。しかし、いつまで経っても、1人も起き上がろうとはしなかった。いや、できなかったのだ。私はまだ肩が重くて寝返りをうつこともできなかった。宮本は、まだ熱が下がらず、下痢も止まらない。食事も、山に入る前に村の人にごちそうしてもらった後、一度しか取っていなかった。痩せこけて死人のようにも見えたが、恐怖に大きく見開いた目と、殺される殺されると、ほとんど動かない口から発せられる言葉だけが、かすかに彼を生き長らえさせていた。体を包み込む寒さや、外から入り込む湿気までもが、下痢や発熱と一緒になって、宮本の体の隅々にまで悪影響を与えていた。それは、宮本の呼吸を時々困難にさせるまでになっていた。
 私は、傷を受けていない右の腕に全神経を集中させて、なるべく傷を受けた筋肉に力が入らないようにしながら、ようやく起き上がった。私は、死神を見るように、頭のてっぺんから足の先までゆっくりと宮本を凝視したが、宮本の瞳孔は、私を映していないようだった。ジムは、・・・ジムはまだ眠っていた。ジムが昨夜寝付いたのは、夜中を過ぎてからだった。私が肩の痛さで寝付けずにいると、ジムは何度も苦しそうに寝返りをうっていて、そのうち、むっくりと起き出して立ち上がった。どこに行くのか聞くと、用を足しに行くと言った。どうも熱があるらしい、とも言った。私はジムが戻って来ないうちに眠ってしまったが、ジムはその後もしばらく眠れなかったようだ。私は、ジムの腕に触ってみた。熱い。やっぱり、熱っぽいようだ。私は、ジムにやったのと全く違う気持ちで、・・・そう、まるで死人にでも触るように、恐る恐る宮本の体に手を伸ばした。宮本の体に手が触れて、一瞬、血の気が引いた。・・・本当に、死んでいるのかと思った。口元が、かすかに呼吸に震えているのを見て、私はほっとして、長いため息をついた。

(つづく)
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