すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「アジア人の怒り」⑫

2005年03月12日 | 小説「アジア人の怒り」
 それからどの位の時間、考え事をしていただろうか。ジムに声をかけられて、私は我に返った。具合はどうだ、と聞くと、症状が宮本と同じだ、と言った。私とジムは、同時に宮本の方を見た。そして、自分もいずれこうなってしまうのか、と思った。たぶんジムも、同じことを考えていただろう。私はジムに、10年前に死んでいった人もこんなふうに苦しんでいったのかなぁ、と言った。ジムは、たぶんな、と短く答えた。宮本がこうなった原因は何だ、と聞くと、ジムは、外因が重なったのもあるが、根本的なものはたぶん10年前と変わっていないと思う、と簡単に説明してくれた。そうすると10年前に死んだ人たちはどうして死んだんだ、と聞くと、わからない、たぶんそれ以前にここで死んでいった外人たちと同じことで死んだんだろう、とジムは言った。・・・アジア人の怒りか、と私はつぶやくように聞いた。ジムは、何も言わなかった。ただじっと、宮本を見つめていた。
 私は、ジムの肩越しに、まるで静物画でも鑑賞するように宮本の顔を覗き込んだ。・・・“静物画のように”?なぜ私はそんなふうに感じたのだろう。・・・あぁ、そうだ。口から漏れる空気がひゅうひゅうと音を立てていないからだ。歯だってガタガタさせてないし。・・・・・・!まさか!!
宮本!と叫んだのはジムだった。私は、息が詰まって声にならなかった。ジムは、宮本の肩をつかんで何度も何度も揺すったが、もう2度と、彼の見開いた目が気味悪くぎょろぎょろと動くことはなかった。ただ、首の動きに合わせて、噛み合うことの無い両顎が、かくっかくっと力無く音を立てるだけだった。彼の名を強い口調で叫んでいたジムは、やがて諦めたように、宮本の肩から手を離した。

(つづく)
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