『医師臨床研修制度の評価に関するワーキンググループ』は、平成27年度研修から適応される見直しに向けて、臨床研修の実施状況を把握して、論点を整理することを目的にして開催されています。
先日、厚労省HPにアップされていたのでどんなことが議論されているのか読んでみました。
いくつか論点がありますが、ここでは最近のテーマである教育と評価に関わるところに焦点を絞って、論点に関する解説をします。
到達目標とその評価
(現状)
施行通知において『臨床研修の目標』は、『臨床研修の到達目標』を参考にして、臨床研修病院が当該研修プログラムにおいて研修医の到達すべき目標として作成するものであり、『臨床研修の到達目標』を達成できる内容であること。
『臨床研修の到達目標』は、 行動目標(医療陣として必要な基本姿勢・態度)、 経験目標(A経験すべき診察法・検査・手技、B経験すべき症状・病態・疾患、C特定の医療現場の経験)により構成されている。
議論された《論点》は到達目標の内容と評価手法でしたが、ここでは到達目標について解説します。
《到達目標に関する論点》
・基本理念や社会情勢、関係者の評価等を踏まえて、現在の『行動目標』や『経験目標』をどう考えるか。
・コンピテンシーを踏まえた到達目標の在り方をどう考えるか。
・『経験目標』における『経験すべき症状・病態・疾患』の種別について、どう考えるか。
・到達目標を急速な高齢化に対応して見直すことについて、どう考えるか。
【解説】
到達目標についての議論は以前からありました。「なぜ、この項目なのだろう?」「なぜ、この項目がないのだろう?」という素朴な疑問が多く、指導医養成WSではこの『到達目標』に関しての質疑応答から始めなければいけないこともありました。
『これは厚労省がまず定めたものなのです。』
これが当時の私たちの答えでした。
ところが、ワーキンググループの意見や最近の厚労省のコメントでは、雰囲気が変わっています。
『研修の目標』は、厚労省の示す『臨床研修における到達目標』を参考にして、研修病院で作成するものであるとのなんだか責任逃れのようなコメントになっています。
当時は、とにかくこの目標を修得すべきである!的な雰囲気の指導がありました。
あまりに増えすぎた臨床研修病院に、きちんとした研修を行わせるための説明だったかも知れませんが、ちょっとあまりにお役所的で、一生懸命にプログラムを考えてきた立場からすると寂しい気持ちになります。
実際に、大学の指導医たちからは『本学だけ厳しい目標になってないか?』と意見さえもありますが、やはり、『厚労省の示す臨床研修における到達目標』の中身をきちんと見直して、不必要なものがあるのか議論すべきです。
多くの臨床系講座(医局)ごとに検討したとします。
想像するに、それぞれの領域で目標が増える可能性はあっても減る可能性が少ない。事実、指導医養成WSで取り組む課題でも、『行動目標』はあれもこれもと数多く上がってきます。この『行動目標』のとらえ方が変わらない限りおそらく減らないのだと思います。
先日、解説したようにいまだに教育工学的な『行動目標』であるかぎり、ゲーム感覚のアイテムのゲットと戦闘回数によるレベルアップ的な臨床研修になってしまうのです。
ワーキンググループの意見にあるコンピテンシーが重要だという考えは大切ですし、多いに賛成です。問題はそのためにはきちんとした評価が必要となるという基本原則を忘れてはならないと思います。
さらには、高齢者社会に向けた若い医師の養成には、地域医療での研修が必要不可欠です。
また、その場合にはA=B的な関係にない訴えに真摯に対応できる能力が必要となります。この能力は『真正な評価』でみていく必要があります。つまり細分化された『行動目標』では対応できないからです。リアルな課題に取り組ませるべきなのです。
あまり、そのような具体的な研修内容にまで踏み込んだ意見が出ていないのが少し気になるところです。