前回終了した「カビのキチン」についてです。
丁度タイミングよく、Smile and you will win(管理人::sayakoha55さん)がその分野で研究していたようで、紹介がされていました。タイトルは「植物の免疫」。
(専門の方に対してトラックバックはかなりプレッシャーですが、間違ってたら是非指摘をお願いします。)*2/27記 リンクが間違っていたようです。ごめんなさい。
植物の体内には、私たちの白血球のような免疫細胞はありません。
進入してきた異物に対して、体内から排除するために存在している細胞はないということです。
ところがどっこい、植物は異物が進入してきたということを感知し、対処するためのシステムが存在しています。
それって、人間と一緒なのでは・・・と思いませんか?
人間は異物が侵入してきたときには抗体を作り出し、2回目の進入の時に即座に「異物だ」と判断しています。
抗体は、情報を取得するために働く情報屋であり、いつ進入してきても良いように待機している伏兵タンパク質です。
それと同じシステムが植物の体内にも備わっています。
そこで出てくるのが「カビ細胞壁のキチン」です。
ある種の植物は、「カビが進入して来た」という情報を、その糖(この場合キチン)で知ることが出来るのです。
植物の細胞には、糖情報を知るためアンテナ(受容体)がめぐらせてあります。
そのアンテナに糖が結合すると、この糖が回りにあるから大変だぞ、とか、とりあえずこれだけしておけ、とかそういう情報を解釈して細胞の中に知らせるわけです。
専門用語で言うと、このときの糖のように情報の開始地点となる物質のことを「エリシター」と呼んでいます。
アンテナから発せられた情報は、
<ここから少し詳しいので興味のある方はどぞ>
ただちに細胞膜のイオンチャンネルに伝わり、カルシウムイオンが細胞の中にドドドーっと内部に入れたり(コイツってば、結構な確立で全ての生き物の情報伝達のときに動いている。哺乳類でも受精した瞬間とかね。)、活性酸素が生成されて、そして更にその活性酸素が遺伝子情報の発現を促して、抗菌性物質(専門用語で「ファイトアレキシン」)を生産したりとか、細胞壁を強化するべくリグニンを多量に作っちゃったりとか。それが隣り合わせの細胞に伝わってどんどん防御体制が広がっていく。
<ここまで>
とにかく
そのアンテナのおかげで細胞内が防御体制に入っているわけです。
この仕組みは植物の免疫システム、抵抗性と言われています。
さて、どうして私はキチンにこだわってたんでしょう。
実はキチンの糖を抵抗性発現の開始物質(エリシター)にしている植物がいるわけです。
やっぱりカビとか虫とかに対して抵抗するために身につけているシステムなんだなぁと納得せざるを得ない。
ところで、キチンを分解する酵素、キチナーゼを持っている植物が存在します。
役割は断定できていないけれども、これも植物の防御機構の一種だと考えられています。
カビの細胞壁を分解してやるわけですね。
さてさて、いつもこだわっているレクチンには、キチンに結合するタイプもあるんです。
そのキチン結合性レクチンはキチナーゼと同じような構造を持っていたりします。
キチナーゼは遺伝子的に良く使われるタイプのようです。
よく使われるという事は、その植物にとって重要ということだ、と私は思っています。
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2/27追記
書こうと思っていた事を忘れていたので追加。
キチンというのは、そういう抵抗性開始作用のある物質なので、
作物を育てる時に利用されていたりします。つまりは農薬ということなのですが。
キチンを植物に意図的に与えれば、リグニンの形成などが引き起こされ、
カビに感染しにくかったり、倒れて作物としての価値がなくなったりすることを防いでくれるわけです。
キチン自体はナチュラルなものなので、
化学合成の農薬(強制的にカビを殺すための薬)などより確実に環境にはいいです。
今は盛んに植物の防御機構の研究が進んでいますから、こういう応用のされ方がこれからどんどん出てくると思います。
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なんていうか今日はまとまりが付きませんけれども、
動物も植物も、異物に対してどう反応しているかというのは基本的に変わらないと言いたかったのですよ、文才無くてすみません・・・。
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spirillumさんはカビを中心に研究されているのですか(違ったらごめんなさい)?私は植物側の研究なのでとても興味深いです。今度ゆっくり拝見させていただきます(^ ^)
学生時に最先端の科学を切り開く作業は大変貴重ですし、羨ましいです。影ながら応援しております。お暇な時の気分転換にでも読んでくださいませ。
私は学生時代は植物タンパク質&DNAの研究をしていました。どこかで出てくると思いますが、レクチンという糖結合性タンパク質に関連しているので、糖質なども多少勉強しました。
仕事としてはバイオレメディエーション関連の細菌を、現在では衛生・農業関連で細菌とカビ(病原菌が主流)を扱っています。
植物と細菌の話が多いのはその所為です。
たまに出てくる昆虫や動物は、やっぱり切り離せない部分があるということで取り上げてます。
生物のシステムって面白いなーと思うところを気ままに綴っております。
ちょっと疑問なんですが、植物が免疫機能的なものを示すのは”かび”が侵入して来た時だけなんですか?かびのみ天敵ということでしょうか。
植物が免疫システムを働かせる開始因子がエリシターですが、カビの細胞壁の分解物のほか、病原性細菌の代謝物がエリシターとなっている例が報告されています。
つまりは細菌も植物にとって危険な存在だと認識していると言えそうです。
私は細菌側も植物側も好きなので、両方から攻防戦を見ていると面白かったりします。(笑)