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バイオ・微生物実験好きな管理人による、研究仕事、日常、実験技術や理科系ネタのブログ

カビが植物に進入するシステム2

2005-03-11 19:50:03 | 植物の免疫機構と微生物の戦略

以前に書いた記事カビが植物に入り込むときのシステムの続編。

以前の記事では、カビが植物細胞に進入する時、自らの細胞の水分をためて、圧力をかけて穴を開けて入り込む、という仕組みを説明しました。
これをもう少し説明してみたいと思います。

実は、この進入システムというのは、植物の葉の表面で行われている活動です。
このシステムを利用して感染する時、カビは、葉の表面にいるということを何故か感知し、菌糸の先端を吸盤のように丸い細胞へと変化させます。
これを「付着器」と言います。
付着器に変化した細胞は、黒色色素であるメラニンを生産し蓄積することで細胞壁を強化させます。
そして粘性の物質を分泌して葉の表面に密着固定します。
細胞壁が強固になると、細胞は周囲の水分を吸収し、自らを膨らませます。
ここでかなりの圧力(約8メガパルスと言われる)が植物の葉の表面にかかります。
葉の表面には0.1μmほどの小さな穴が空き、そこから菌糸を伸ばして入り込みます。

こういうことがわかると、カビも活発な動物のように思えてきますね。

さて、カビにはもう一つの進入経路があります。根からの進入です。
根から進入することもできるタイプのカビは、根の表面に硬い菌糸で出来た塊(菌核)を形成し、そこから菌糸を伸ばして(菌足とよびます)進入します。
ところがこのタイプのカビは、葉からも進入することが出来る場合があります。
感染システムが2つあるということです。

1.根の表面に菌核を形成し、菌足を伸ばして進入
2.葉の表面に付着器を形成し、膨圧で穴を開けて進入

この2つのシステムは、最近の研究で全く別の遺伝子制御を受けていることがわかってきました。
2のシステムをできないように(例えばメラニン生成を抑制する)しても、1のシステムは全く問題なく作動させることが出来るのです。
逆に、1のシステムを作動させないように(必要な因子となる遺伝子を取り除く)しても、2のシステムは問題なく働くことが可能であることが明らかになっています。
この論文は2004年11月号のNature Reviews Microbiologyに掲載されていますので、詳しく知りたい場合はご一読を。

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植物の免疫システムとカビのキチン

2005-02-26 17:22:06 | 植物の免疫機構と微生物の戦略

前回終了した「カビのキチン」についてです。

丁度タイミングよく、Smile and you will win(管理人::sayakoha55さん)がその分野で研究していたようで、紹介がされていました。タイトルは「植物の免疫」。
(専門の方に対してトラックバックはかなりプレッシャーですが、間違ってたら是非指摘をお願いします。)*2/27記 リンクが間違っていたようです。ごめんなさい。

植物の体内には、私たちの白血球のような免疫細胞はありません。
進入してきた異物に対して、体内から排除するために存在している細胞はないということです。

ところがどっこい、植物は異物が進入してきたということを感知し、対処するためのシステムが存在しています。
それって、人間と一緒なのでは・・・と思いませんか?
人間は異物が侵入してきたときには抗体を作り出し、2回目の進入の時に即座に「異物だ」と判断しています。
抗体は、情報を取得するために働く情報屋であり、いつ進入してきても良いように待機している伏兵タンパク質です。
それと同じシステムが植物の体内にも備わっています。

そこで出てくるのが「カビ細胞壁のキチン」です。
ある種の植物は、「カビが進入して来た」という情報を、その糖(この場合キチン)で知ることが出来るのです。
植物の細胞には、糖情報を知るためアンテナ(受容体)がめぐらせてあります。
そのアンテナに糖が結合すると、この糖が回りにあるから大変だぞ、とか、とりあえずこれだけしておけ、とかそういう情報を解釈して細胞の中に知らせるわけです。
専門用語で言うと、このときの糖のように情報の開始地点となる物質のことを「エリシター」と呼んでいます。

アンテナから発せられた情報は、

<ここから少し詳しいので興味のある方はどぞ>
ただちに細胞膜のイオンチャンネルに伝わり、カルシウムイオンが細胞の中にドドドーっと内部に入れたり(コイツってば、結構な確立で全ての生き物の情報伝達のときに動いている。哺乳類でも受精した瞬間とかね。)、活性酸素が生成されて、そして更にその活性酸素が遺伝子情報の発現を促して、抗菌性物質(専門用語で「ファイトアレキシン」)を生産したりとか、細胞壁を強化するべくリグニンを多量に作っちゃったりとか。それが隣り合わせの細胞に伝わってどんどん防御体制が広がっていく。
<ここまで>


とにかく
そのアンテナのおかげで細胞内が防御体制に入っているわけです。
この仕組みは植物の免疫システム、抵抗性と言われています。


さて、どうして私はキチンにこだわってたんでしょう。
実はキチンの糖を抵抗性発現の開始物質(エリシター)にしている植物がいるわけです。
やっぱりカビとか虫とかに対して抵抗するために身につけているシステムなんだなぁと納得せざるを得ない。

ところで、キチンを分解する酵素、キチナーゼを持っている植物が存在します。
役割は断定できていないけれども、これも植物の防御機構の一種だと考えられています。
カビの細胞壁を分解してやるわけですね。
さてさて、いつもこだわっているレクチンには、キチンに結合するタイプもあるんです。
そのキチン結合性レクチンはキチナーゼと同じような構造を持っていたりします。
キチナーゼは遺伝子的に良く使われるタイプのようです。
よく使われるという事は、その植物にとって重要ということだ、と私は思っています。

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2/27追記
書こうと思っていた事を忘れていたので追加。

キチンというのは、そういう抵抗性開始作用のある物質なので、
作物を育てる時に利用されていたりします。つまりは農薬ということなのですが。
キチンを植物に意図的に与えれば、リグニンの形成などが引き起こされ、
カビに感染しにくかったり、倒れて作物としての価値がなくなったりすることを防いでくれるわけです。
キチン自体はナチュラルなものなので、
化学合成の農薬(強制的にカビを殺すための薬)などより確実に環境にはいいです。
今は盛んに植物の防御機構の研究が進んでいますから、こういう応用のされ方がこれからどんどん出てくると思います。

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なんていうか今日はまとまりが付きませんけれども、
動物も植物も、異物に対してどう反応しているかというのは基本的に変わらないと言いたかったのですよ、文才無くてすみません・・・。


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生き物にとっての水 -リベンジ版

2005-01-20 22:10:56 | 植物の免疫機構と微生物の戦略

…今日は戻るボタンを押さないようにしよう…。
(その前にメモ帳かなんかに書いておけばいいじゃんと頭の中の誰かは言っている)

さて、生き物にとっての水というタイトルですけれども、言うまでもなく生き物にとって水分は重要なもので、細胞が細胞として機能しているのは水があるからこそです。
細胞の中で分子を溶かしてエネルギーをやり取りしたり、老廃物は水と一緒に除去したり、生理活性を正常に保つために水はどうしても必要です。

「母な~る~大地の~♪」という歌があるのですが、それをいうなら海が母だろう!と突っ込みたくなるのは私です。
加山雄三がそんな歌を歌ってたような。かなりジーンと来る歌だったような。

閑話休題。

さて、水の利用の仕方にはいろいろなものがあります。
カビで面白い水利用のシステム(植物への感染)があるのは1月7日のブログでも紹介しました。
そのほかに、子供である胞子を水を利用して広範囲に飛ばすというシステムがあります。

たとえば、イネに感染するイネいもち病(P.oryzae)は、夏の朝、霧が田んぼに発生するのをうまく利用します。
霧が発生すると胞子は霧に乗ります。
他のイネに霧の水分があたり、露となったその中に、胞子もいます。
水滴の中にある胞子は、水分を利用して発芽します。

面白いシステムには、黒かび(Cladosporium cladosporioides)にもあります。
黒かびは、お風呂場や水場など湿気のある場所によく繁殖します。
なぜでしょう?
それは、水分があたると胞子を飛ばすシステムがあるからです。
そういうシステムがあるから水場に繁殖しているのか、それとも水場に繁殖するためにそのシステムを採用したのか、どちらなのか知りたいところです。
たまたま水場を好んでいて、そこには水があたると胞子を飛ばす個体がたまたまいて、大繁殖してきたというのが私の「進化というのはそんなもの」理論。(笑)

ところで、カビには水にたよらず胞子を飛ばすヤツがいて、風に乗って飛ばします。フーッとふくと胞子がぶわわわーっと飛びます。


今度はうって変わって、植物の水の利用。
「オジギソウ」は触ると葉を閉じて垂れ下がる、不思議な植物ですが、オジギソウがお辞儀をするシステムで鍵となるのが水なのです。
触ると何かの信号(これはまだ不明らしい)が出て、葉が付いている茎(葉柄)の根元の水分が、葉の方に移動するのです。
移動すると水分が抜けた根元がクタッとなり、重い葉の部分が下がる。
植物も結構すごいことやってます。
ところでどうしてオジギソウはお辞儀するんでしょうね?
動物がそばを通る時に身を縮めて、折れないようにしているのかなぁ。

植物の例でもう一つ。
植物には自分の体内の水分を調節するために、気孔という「口」を持っています。
気孔は二つの細胞(孔辺細胞)が重なった形
()
のようになっています。ちょうど二つのウィンナーが丸を作るようにくっついてるといえばわかりやすいかな。
二つのウィンナーは、中身がパンパンに詰まっている時、元の形である
 () 
となりますが、中身が抜けてしまうと「しなしな~」となって
 || 
になってしまいます。
つまり中身とは水分のこと。
孔辺細胞に水をたくさん取り込んで(取り込まれて?)気孔を開き、自分の水分を蒸散させる。
自分の水分が少なくなれば、孔辺細胞の水もなくなって気孔が閉じる。


うーん、なんだってこんなに生き物の仕組みって面白いんだろう。
他にも面白い仕組みをご存知でしたらぜひ教えてください。

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カビが植物に入り込むときのシステム

2005-01-07 23:58:57 | 植物の免疫機構と微生物の戦略

カビには植物に病気をもたらすものがあります。うどん粉病とか有名ですね。
他には灰色カビ病とか、萎凋病とか多種多様なものあります。

カビが植物に病気をもたらすということは、カビが植物の体を栄養にして、成長の場にしているということです。
成長の場にしている、ということは、植物の葉や茎に入り込んでいることになります。
単に葉の表面で成長しているわけではなく、葉を構成している細胞の中に入り込んで、細胞の中身を栄養源にする必要があります。

植物の細胞には動物細胞とは違い、細胞壁という硬い膜があります。細胞壁は細胞膜と違い、頑丈で、容易には破れない構造になっています。
しかしカビは細胞壁の向こうにある細胞の中身が必要。
その壁を破らなくてはいけません。
カビは筋力を使って強い衝撃を与えることはできません。
さて、それならどうやって細胞壁を破っているのか?
答えは、水の力です。
カビは細胞壁を破るとき、自分の細胞の中にある水分をいっぱいに集めて、細胞壁を破ろうとする
んです。
水を片一方に集めて、自分の体を膨らますようにして圧力をかけていきます。

珍しく図を描いてみました。矢印が圧力のかかる方向です。
 ①準備  ②水を集めて自分を膨らます "> ③圧力に頼って破りました 

こういうシステムがあるというのはカビにとっては必要不可欠なことなのでしょうが、その仕組みというのはなんとも感心させられるものです。