仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「柔らかな頬(上・下)」 桐野夏生

2006-10-02 11:07:09 | 讀書録(ミステリ)
「柔らかな頬(上・下)」 桐野夏生

お薦め度:☆☆☆☆ /
2006年9月17日読了


平成11年の直木賞受賞作。

主人公・カスミの長女が北海道で謎の失踪を遂げる。
夫の友人と不倫關係にあるカスミは、不倫相手の別莊に家族で遊びに行き、そこで密會をしてゐた。
さういふ状況での失踪だけに、カスミは長女の失踪に後めたい思ひを抱いてゐる。
カスミはひとりで長女を搜し續けるが、まるで消息がわからない。
さうかうしてゐるうちに、元刑事の内海が搜索の協力を申し出た。
内海はガンであと半年の命だと宣告されてゐる。
刑事時代は出世のために犯人を追つて來たが、いまとなつては、内海を動かしてゐるのは純然たる事件への興味、いはば死ぬまでの暇つぶしなのだつた。
二人で事件を調べ直さうとするカスミと内海。
内海の病状は次第に惡化してゆく。
二人は眞相に辿り着くことが出來るのだらうか。

この作品をどのカテゴリーに分類するか。
長女失踪の謎を追ひかけるといふストーリーは確かにミステリーの範疇に入る。
しかし、その謎も讀すすめていくうちに、どうでもよくなつてくる。
私の思ひは、むしろカスミの人生や内海の人生にフォーカスされていつた。
特に内海が登場してからは、彼の存在感が大きくて、彼の持つてゐる虚無の深さに壓倒される思ひがした。
讀後感は、ミステリーを讀んだといふ感じではなくて、或る種の恐怖小説を讀んだやうな氣がしてゐた。


桐野 夏生 / 文藝春秋
Amazonランキング:14,407位Amazonおすすめ度:
誰も救えない世界凝縮された一級のミステリー謎解きではなく、事件を通した登場人物達の心情の変化、魂の漂流に重きをおいた作品


9月14日讀了


桐野 夏生 / 文藝春秋(2004/12)
Amazonランキング:11,375位Amazonおすすめ度:
誰しもひとり。それはないでしょう・・・どうしていつもすぐに


9月17日讀了


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