森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

第9話

2009年05月27日 | マリオネット・シンフォニー
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 プラントとアイズの押し問答は、アイズの勝利に終わった。
 根負けしたプラントと共に村中の配電設備を点検して周り、すべての作業を終えた頃には、既に東の空が白く輝き始めていた。
 今からでも休むように言われ、プラントと別れたアイズだったが、
「って言われてもね~」
 割り当てられた部屋でベッドに腰かけ、窓越しにぼんやりと発電所を眺めていた。
「こんな時間まで起きてたから、すっかり目が冴えちゃったわ。かといって、何かすることがあるわけでもないし……」
「ん……あれ? アイズさん……」
 隣のベッドで眠っていたトトが、アイズに気づいて目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃったわね」
「いえ、こちらこそ一人で先に寝てしまって。帰ってこられてたんですね」
「うん、割とすぐにね。今、目が覚めたところよ」
 心配させないよう、小さな嘘をつく。
 トトは起き上がると、アイズの隣に腰かけ、同じように窓の外を眺めて言った。
「いい所ですね、アイズさん」
「そうね。景色は綺麗だし、いい人ばかりだし。トトだって、お兄さん、お姉さん達に会えて嬉しいでしょ?」
「はい」
 トトは頷くが、その表情はあまり明るくない。
「でも……どうしてでしょうか。何だか胸騒ぎがするんです」
「まあ、ここも色々あるみたいだしね。けど、大丈夫だよ、きっと」
 アイズはトトをぎゅっと抱き寄せ、自身の不安を打ち消すようにニッと微笑んでみせた。

 着替えを済ませると、アイズとトトは寝室を出て居間に向かった。
 二人にあてがわれたのは、ドールズ達が共同生活を営む家の一室だった。ちょうど一つだけ空き部屋があり、ベッドも物置に余っていたので、空き部屋に運び込んで相部屋にしたのだ。ちなみにルルドはナーの部屋にいる。
 居間に入ると、まだ誰も起きてきていないようだった。
 トトと目線で会話をし、皆が起きてきたときに驚かせようと、なるべく静かに朝食の準備を開始する。
 そこに。
 玄関扉を突き破りそうな勢いで、ロバスミが息を切らして駆け込んできた。
「大変です、発電所にあいつらが!」


第9話 前奏曲<プレリュード>


「アイズさん、やはり無理をしないで休んでいたほうが……」
「大丈夫です、脚には自信ありますからっ!」
 アイズとプラントは、発電所に向かって森を疾走していた。
 ロバスミの話を聞いて反射的に家を飛び出して間もなく、同じく異変を聞きつけて発電所に向かう途中のプラントと合流したのだ。
 アイズは全身汗だくになっているのに、プラントは呼吸一つ乱していない。この人どういう鍛え方をしてるんだろう、とアイズは思った。これまで陸上競技で負けたことはなかったのに。
 と、二人の頭上を飛び越えて、カシミールが前方に着地した。
「プラントさん、村への連絡は完了しました。すぐにみんな来ます」
「すまないね、カシミール」
「急ぎましょう」
 言うなり、カシミールの背中がグングン小さくなっていく。花畑でも駆けるかのような軽やかな足取りだが、一歩で10mぐらい進んでいそうだ。
「うわ~。あんなに細いヒールの靴を履いてるのに……」
 先程感じたプラントの逞しさに対する畏敬は何処へやら、結局は地道に地面を駆けるしかない互いの姿に、妙に親近感を覚えるアイズだった。
 
 やがて、発電所が近づいてきた。
 発電所の上空には、黒く巨大な十字架型の空中戦艦が浮かんでいた。それに乗ってきたらしい黒服の男達が、周囲を何重にも取り囲んでいる。足下まで届く黒いローブを身に纏い、何人かは銃器を携えているようだ。
 先に到着したカシミールは、彼らと話をしている様子だった。
「あの人達は?」
「太陽教団の方々ですよ」
「プラントさんの宗派ですか?」
「いえ、本来この土地の者とは交わらない存在です。ここより更に奥地に、彼らの修行地があるのです」
「その皆さんが戦艦持って何の用なんですか?」
「ご近所付き合いで揉めてましてね」
 プラントはアイズに動かないように言うと、歩いていってカシミールの隣に立った。すると、教団側からも数人の男達が進み出て、携えていた文書を読み上げた。周囲の者達とは服装が違う。どうやら位の高い、神官に位置する男達のようだ。
 彼らの目的は発電所の撤去と、責任者の謝罪だという。この発電所は我々の聖地を汚すものである、と彼らは主張した。
「お願いします、このまま立ち去ってはいただけませんか?」
 カシミールが告げても、神官達に引き下がる気配はない。むしろ敵意を増したように見える。
 彼らは明らかに、カシミールに対して警戒の眼差しを向けていた。しきりに「人形のくせに」「人造の生命体が」などとささやき合っている。
「前回もお話ししましたが、この施設は政府の事業によるものです。これ以上、妨害行動を続けると仰るのでしたら、こちらも相応の対処をしなければなりません」
「そうですね。以前より政府に要請していた監察官が、ちょうど昨日、村にお見えになりました」
 プラントが告げると、神官達に動揺が走った。
「あなたがたの行動は、すべて監察官を通して政府に報告させていただきます。どうぞ、戻って政府からの連絡をお待ち下さい。計画に意見があるのでしたら、その際直接政府に伝えていただくのがよろしいでしょう」
 神官達がにわかにざわめき始める。
 と、突然空中戦艦から、スピーカーを通したような大声が響いた。

『ハ~イ、皆さん、お待たせ~! す~ぐに行くから待って~てね~!』

 声を聞いて、神官達が活気を取り戻す。どうやらかなりの実力者が降りてくるらしい。
 そしてカシミールは、驚いた後、露骨に顔をしかめた。
「ジューヌ……! あのバカ、どこで何をしているのかと思ったら……!」

 皆が見つめる中、戦艦から一人の少女が飛び降りてくる。
 彼女が着地すると、何処からともなくファンファーレが流れた。
「ま、後は私達に任せておきなさい。このジューヌ様にね」


 少女は楽団の演奏者とも、サーカスの団員ともつかない奇妙な服装をしていた。無数のピンやビーズで髪を留めており、良く言えば斬新、悪く言えば奇抜な髪型をしている。

「どこから流れたんですか? さっきの音楽」
「彼女は<楽器>ですから……アイズさん、待ってて下さいと言ったでしょう」
「あはは、すいません」
 プラントの背後に隠れながら、アイズは誤魔化し笑いを浮かべた。

「さて……バカとは何よ、カシミール! 仕事の邪魔しないでよね!」
 ジューヌと呼ばれた少女は、無駄に優雅な手つきでカシミールを指さした。
「よりにもよって、太陽教団に味方するなんて……何を考えているのよ」
「ビジネスよ、ビ・ジ・ネ・ス」
 ジューヌは大げさに天を仰いだ。
「姉妹間の愛情も、失われた祖国への郷愁も……すべては時の流れの中に立つ、砂の城のごとし」
 ジューヌはそこで言葉を切った。小さなため息と共に、残りの言葉を吐き出す。
「もう、どうだっていいのよ。そんなことは」
「それが、貴女の出した答えなの?」
「そ~いうこと」
 ジューヌは右手をひらひらさせながら、発電所に向かって歩き始めた。周囲を取り囲んでいた男達の人垣が、彼女の歩みに従って割れる。
「悪いけど、発電所は壊させてもらうわよ」
「やめなさい!」
 カシミールが叫ぶが、ジューヌは立ち止まらない。

 しかしカシミールの言葉は、ジューヌだけに向けられたものではなかった。

「この裏切り者!」
 カシミール、そして男達をも飛び越えて、白蘭がジューヌに襲いかかる。
「ふん、この世間知らずが!」
 白蘭の振るった剣をかわすジューヌ。彼女は一旦距離を取ると、白蘭に向けて右手を突き出した。
 金管楽器の音色を凝縮したような、強烈な音が響く。同時に、白蘭の足元の地表が弾け飛んだ。音の塊をぶつけた、そう形容するしかない攻撃だ。
 白蘭は土煙の中から飛び出すと、再びジューヌに切りかかった。

「ああ、もう始まっちゃってますね」
 近くの岩陰に避難していたアイズとプラントの隣にナーがやってくる。その後ろには疲れ果てた様子のロバスミがいた。村と発電所を走って往復したのだから無理もない。
「白蘭は大丈夫かな?」
「接近戦なら白蘭のほうが強いと思います。ジューヌ姉様も戦闘向きのタイプではありませんから」
 答えつつ、ナーは周囲を探るように見渡した。
「一対一なら……ですけど」

 戦いは続いた。ナーの言葉通り、接近戦では白蘭に分があり、徐々に追い詰められていくジューヌ。
 その時、
「白蘭、後ろに跳んで!」
 ナーが叫ぶと同時に、別の方向から白蘭に向かって音の攻撃が放たれた。かろうじて直撃を免れたものの、体勢を崩した白蘭が地面を転がる。
 再び距離を取るジューヌ、その隣に一人の青年が並ぶ。
「フェイム! 何やってたのよ、遅いじゃない!」
「うるさいな、これでも精一杯急いで来たんだ」
 フェイムと呼ばれたのは、まだ幼さの残る青年だった。容姿と裏腹に口調は荒い。
「とりあえず、ある程度の調べはついた。今はこいつらを何とかするぞ」
「当然よ!」
 フェイムが右手を突き出し、鏡合わせになるように、ジューヌが左手を重ねる。
 二人は同時に叫んだ。
『連携・開始!』

「何が起きたの?」
「彼はフェイム……『コピー』の能力を持つ兄弟です」
 険しい表情を浮かべ、ナーが説明する。
「コピーした能力の出力はオリジナルの7割程度ですが、オリジナルと連携すれば戦力は数倍になります」
 ナーの言葉通り、戦いはジューヌ・フェイムの優勢に転じていた。絶妙なタイミングで繰り出されるフェイムの援護が、ジューヌの攻撃力を倍増させている。
「くっ……!」
 遠距離攻撃ができない白蘭は、咄嗟の判断で神官達を背後に取った。今まさに音の攻撃をしようとしていたジューヌが、慌てて手を止める。
「やるわね、白蘭……! フェイム、足を狙って動けなくするわよ!」
「お優しいことで」
 ジューヌの指示に、フェイムは呆れたように呟いた。
 
「5秒程使わせてもらいますからね……ええ、5秒で充分です。心配しないで下さい、博士。ジューヌは私の妹です」
 カシミールが通信を切るのと、白蘭がジューヌ・フェイムの攻撃を受けて弾き飛ばされるのが同時だった。距離が開き、しかも上空に飛ばされた白蘭に向けて、二人の手が振り上げられる。
「まずい……!」
 カシミールが動くよりもわずかに早く、強烈な音の塊が白蘭に向けて放たれた。

 次の瞬間、凄まじい突風が巻き起こった。

「なに!?」
 驚くジューヌとフェイム、そしてカシミール。
 音の攻撃は突風に乱されて威力を失い、白蘭の身体も弾かれたように横に逸れる。
 そのまま落下するかに見えた白蘭を空中で受け止め、見事に着地を決めたのは、風を操る一人の青年。
「な……! ど、どうしてアンタが!?」
「大丈夫ですか? 白蘭さんでしたね」
 スケアは白蘭を立たせると、ジューヌとフェイムに視線を定めた。
「そんな、まだ動ける状態じゃ……」
「大丈夫です。貴女が治療してくれましたから……それよりも、来ますよ!」

 話は後回しにし、戦い始めるスケアと白蘭。接近戦を得意とする白蘭に、風の魔法で音の攻撃を妨害することができるスケアの連携攻撃は、ジューヌとフェイムのそれを上回った。
「何なんだ、あいつは!」
 フェイムが叫ぶ。
「相性が悪すぎる! 風を操る奴がいるなんて聞いてないぞ!」
「……クラウンよ」
 ジューヌが呻く。
「知ってるのかよ?」
「ええ、知ってるわ……とてもよく知っているわ」
 ジューヌは、血が滲むほどきつく唇を噛んだ。
「退くわよ、フェイム」
「何言ってんだ、これからじゃないか!」
「退くって言ったら退くのよ! クラウンにはあんたじゃ勝てないわ!」
「勝手に決めるな! 俺は万能の力を持つ最強の人形だ!」
 言い争いに注意が逸れた隙を見逃さず、スケアが風を放つ。フェイムはかろうじて避けたが、ジューヌが既に退却したことに気づくと、渋々引き下がって姿を消した。
 
「は、話が違うぞ!?」
 残された男達は、ジューヌ達が撤退したのを見て大きくざわめいていた。
「どういたしましょうか?」
「ここまで来て引き下がれるか!」

「あ~、太陽教団の皆さん」
 プラントが男達に呼びかけた。
「そろそろ村の皆が起きてくる頃だ。今日のところはお引取り願えませんか?」
「他教の者が……」
 言いかけて、男達が口をつぐむ。
 いつの間に来ていたのか、プラントの背後には武器を携えた村人達が立ち並んでいた。更に後ろにはモレロが、上空にはベルニスの操縦する飛行機が滞空している。
「カシミール君も言ったが、私達は争いごとを望みはしない。少なくとも、貴方達が望まない限りはね」
 モレロが無言で近くの大岩をつかみ、担ぎ上げて歩いてくる。
 男達は慌てて後ずさると、そのまま一目散に退散していった。
「モレロ君、もういいよ」
 プラントはモレロの肩を叩いた。
「ついでだから、その岩を向こうに持っていってくれないかな。前から邪魔だと思ってたんだ」
「了解です」
 
「素人にしてはよく訓練された動きだ」
 船底のカメラ越しに村人達を見ながら、ベルニスは呟いていた。昨夜のパーティーでは相当量の酒が振舞われたというのに、早朝からこれだけの統率された行動が取れるのは、日頃から危機意識を持って訓練しているからだろう。
「そして……あれがプライス・ドールズとクラウン・ドールズか。凄まじいな」
 カメラの照準を、村人達からドールズに移す。
 コックピットのモニターには、今まさに地面に倒れたばかりのスケアの姿が映し出されていた。

「あたしのせいだ……!」
 意識を失ったスケアを抱き締め、白蘭は必死で治癒魔法を施していた。
「あたしが手を抜いたから……戦える状態じゃなかったのに……!」
 いつもは気丈な瞳から、大粒の涙がこぼれる。
「過ちに気づいたのなら、それを償えばいいわ。手遅れになる前にね」
 カシミールが優しく告げる。
 白蘭は涙を拭うと、そうね、と頷いた。
「ナー! ロバスミ! スケアさんを運ぶわよ!」

「償えばいい……か」
 白蘭達が大騒ぎしながらスケアを運んでいくのを見つめ、カシミールは呟いていた。

「大丈夫でしたか、アイズさん」
「そのうち怪我しちゃうよ、お姉ちゃん」
 気がつくと、アイズの近くにはトトとルルドが来ていた。
「ん? いや、今回は別に、私は何もしてないから」
「さっきのお二人は……№15『ジューヌ』姉様と、№17『フェイム』兄様ですね」
 悲しげな表情で、二人が去っていった方角を見つめるトト。
「兄弟同士で戦うなんてことが……あるんですね」
「家族だからって全員が仲良くできるなら、とっくに戦争はなくなってるよ」
 ルルドが呟く。
 フジノとのことを思い出しているのだろう。そうアイズは思ったが、
「可愛くないことを言わないの」
 ルルドの頭を軽く小突くと、不満げに頬を膨らませるルルドの肩を抱き、トトと3人で村に向かって歩き始めた。

 少し後。
 ジューヌとフェイムは、小型の飛空挺で太陽教団の神殿に降り立った。
 教団の本拠地は、アイズ達のいる村からさほど離れていない山の頂にある。望遠鏡を使えば互いに見えるほどの距離だが、両者は険しい渓谷によって分断されており、徒歩で直接行き来することはできない。
 神官達の乗る十字型戦艦はまだ戻っていなかったが、ジューヌは神殿内の自身にあてがわれた部屋に入ると、早々にフェイムを追い払って椅子に座り込んだ。
 割り切ったつもりになってはいたが、親とも言える存在を裏切り、兄弟姉妹と敵対した事実が心に重く圧し掛かる。
 そして、あのクラウン。
 姿は少し変わっていたが、間違いない。“あの”クラウンだ。

 思い出が脳裏を駆け巡る。
 懐かしくも悲しい、今は存在しない国で過ごした日々の光景が。
「カシミール、あんたはどうするわけ……?」

 その時、部屋にあった電話のベルが鳴った。
『私だ』
「……毎回凝った演出で連絡してくるわね、エイフェックス」
 受話器から聞こえてきた声に、ジューヌはため息をついた。この電話は何処にも繋がっていない。ただ机の上に置かれているだけの骨董品だ。
 
 エイフェックスと名乗る謎の男にジューヌ達が雇われたのは、ほんの一ヶ月ほど前のことだ。ペイジ博士の元を離れ、フェルマータの南部で何でも屋をしていた二人に、エイフェックスは接触してきた。
 彼についてはわからないことだらけだが、軍需産業に関わっていることは確かだ。この太陽教団において、彼がすべての武器を調達しているのだから。
 ドールズを毛嫌いする者達の中にありながら、ジューヌとフェイムが好意的に受け入れられているのは、二人もまたエイフェックスが用意した“武器”だからだ。
「発電所の破壊は失敗したわよ」
『構わんよ。予想通りだ。君達はその間に例の件を進めてくれればいい』
 事態が長引けば、その分より多く武器が売れるということだろう。
『しかし、武器を売るなら宗教関係だな。あんな趣味の悪いデザインの戦艦に乗ってくれるのは彼らくらいのものだ。在庫処分ができて良かったよ』
「あれはレンタルだって言ってなかったっけ?」
『素人が扱って、貸し出した時と同じ状態で戻ってくるはずがないだろう?』
「……あくどいわね」
 声からすると、かなり大柄で体を鍛えている壮年の男性ってところかな、とジューヌは考えた。低くて渋い声だが、子供っぽい無邪気な響きが混ざっている。こっそり村の連中にも粗悪な武器を提供しようとしたら見事に突っ返されたよ、と彼は楽しげに語った。
 何を考えているのかわからないが、声に人を動かす力があるのは確かだ。今回の件も、彼の依頼でなければ引き受けなかっただろう。
『さて、今日は別件で頼みがある。もうすぐそちらに到着する者を出迎えて、彼女らに協力して欲しいんだ』
「誰が来るの?」
『それは会ってのお楽しみだ』
 ということは、自分の知っている者か。
 一体誰が、と考える間もなく、神殿の外に数人乗りの小型船が到着する。フェイムと共に迎えに出たジューヌは、船から降りてきた者達の姿を目にして顔色を変えた。
「カ、カルル姉様!? それに貴女……まさかフジノ、フジノなの!? 信じられない、二人とも死んだとばかり思っていたのに……!」
「本当、お互いに無事でよかったわ……」
 カルルが不気味に微笑む。
「早速だけどジューヌ、手伝ってくれるわよね? あのクラウンと、カシミール、モレロ、カトレア、ナー……それから妙な黒髪の小娘よ。あいつらを皆殺しにするの……」
「え? み、皆殺しってそんな」
「先生だって、あのクラウンが憎いでしょう?」
「フジノ……」
「お久し振りです。お変わりありませんね」
 場違いな程に明るい笑顔を見せ、丁寧に御辞儀をするフジノ。
「先生?」
「黙ってなさい、フェイム」
 カルルとフジノのまとう異様な雰囲気に、ジューヌは背筋が冷たくなるのを感じた。
 二人とも、最後に会ったのは10年以上も昔のことだ。フジノに至っては成長して容姿が変わり、すっかり大人になっている。しかしそれでも、目の前の二人は、彼女の記憶にある二人とは決定的に何かが違っていた。
 そんなジューヌの様子など気にならないといった様子で、フジノは自身の後ろに隠れていた小さな女の子に自己紹介をさせた。




「ルルド・ツキクサです。よろしくお願いします」




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