史報

中国史・現代中国関係のブログ

「蟻族」を生み出した原因 (1)

2010-02-02 21:36:48 | Weblog

 廉思『蟻族』の全文がネット上に公開されていたので抄訳してみた。

廉思『蟻族』 

愛問―共享資料
http://ishare.iask.sina.com.cn/f/6025181.html?from=isnom

   「蟻族」の現象が生まれるのは、国家の就職状況が厳しいことに原因があるだけではなく、わが国の戸籍制度も要因もあれば、「集住村」それ自体に固有の問題だけではなく、都市・農村の関係に共通の問題があり、そして大学卒業生自身に固有の問題だけではなく、人口移動に共通した問題もある。

1 マクロな原因

(1)大都市の吸引力
 社会学者のルイス・マンフォードの視点によれば、大都市はひとつの磁石のようなものであり、何万もの数の人材とさまざまな資源を一同に集めるが、特に大都市の経済社会の不断の発展は、都市の魅力と吸引力をも不断に増強させている。現在、首都北京を含む国内のいくつかの大・中都市は、その経済的な活力と生活水準が既に相当なレベルに達しており、地方の小都市(小城鎮)あるいは西部の都市と比べると、大学生に恵まれた待遇とよりよい発展のための空間を提供していて、卒業生は当然ながら可能な限り大都市あるいは沿海地区での就職を選択するのである。プロジェクトチームの研究が明らかにしたところでは、北京、上海、広州、武漢、西安などの大都市に等しく大規模な「蟻族」が存在している。この他にも、わが国の戸籍制度の客観的な影響によって、大部分が農村から来た大学生がみな都市にとどまって仕事をしている傾向があるが、これは疑いなく大都市の磁石の効果である。例えば北京では、北京はオリンピックの開催に成功した後、その巨大なカリスマ的吸引力の下に、北京の内外で大学卒業生はみな北京でさらに多くの発展のチャンスを得ることができる、その外での仕事は発展のリスクが高まっていると考えたことによって、北京で仕事に就くことを一層望むようになったのである。

(2)わが国の就職情勢の変化
 2003年はじめ、当時のわが国は最初に拡大募集による大学生が社会に進出し、リストラで再就職の労働者や出稼ぎ労働者の波(民工潮)とが重なって、就職市場は最高水位となり、わが国就職の圧力に空前の強まりを作り出した。その後、わが国大学生の数は年を追って増加し、2004年に280万、2005年に338万、2007年に485万、2008年には599万人に達している。中国社会科学院の『社会藍皮書』の統計によると、2009年の大学卒業生の人数は2008年の599万からさらに50万前後増加し、650万人に達しようとしている。これと同時に、わが国の社会は都市化、人口構造の変化、労働市場の転換、高等教育体制の改革のなどの一連の構造的な要因による変化を経験しているところである。こうした要因の総合的な作用のもとに、わが国の都市とくに大都市のなかで、必然的に大学卒業生が滞留する現象が出現しているのである。

(3)わが国の就職政策の調整
  2002年3月、教育部、人事部、公安部、労働保障部は共同で「普通高等学校卒業生の就業制度に関連する問題をさらに深める事に関する意見」を制定した。それは、いまだ仕事についていない大学の卒業生は、学校が本人の意思により、二年の間は戸籍を卒業した高校に継続して保留することができ、仕事を得て落ち着くようになった後に戸籍を仕事場のある所在地に移す、ということを規定したものである。急激に厳しくなった就職情勢は、ある部分の学生に対して、大学院の受験あるいは他の就職のチャンスを探すために大都市に留まらざるを得なくさせている一方で、他方では国家の就職政策も、ある部分の人に対して継続的に大都市に留まって政策への支持を与えることにもなっている。

(4)大学生の職業選択観の相対的な遅れ
  1998年に始まった大学の拡大募集は、わが国の大学の進学率をたった7、8年で21%にまで到達させ、2020年までにわが国は高等教育の進学率を40%にすることを目標にしており、国際的な基準に照らしても既に高等教育の大衆化の時代に突入している。そのように、これは必然的に大学卒業生に就職のエリート化から大衆化を要求するものでもあり、多くの高等教育を受けてきた人に普通の労働者の行列に入らせるものである。・・・・しかし、非常に多くの学生は思想的にまだこうした転換に適応しておらず、人材が飽和している発展地域あるいは大都市ほど職業を選択しに行く者も多いが、逆に人材を緊急に必要している発展の遅れた地域の中・西部地区あるいは農村ほど、人材の招聘が難しくなっている。「地方で一軒家を持つよりも、北京でベッド一つのほうがいい」という状況は依然として普遍的に存在しており、後進的な地域からでてきた大学生は大都市で「漂一族」になっても、自らの故郷に帰ることや発展の遅れた地域で仕事につくことを望まないのである。

(5)高等教育の発展と社会的な需要の落差
 大学生の就職のプロセスで非常に多くの体制上の障壁があることも、「蟻族」の出現を導いている原因のひとつである。近年、社会の大学生に対する需要の増加速度は大学卒業生増加の速度にまったく追いついておらず、単純労働者になることのできる高校生と職業専門校生の需要はずっと増え続けている。このことは、高等教育の大衆化に伴って、大量に大学教育を受けても何の技術も持たない大学生が就職で身動きが取れなくなっている局面直面していることを説明するものである。ほかにも、大学が専門学科の設置に全力を尽くしていることも、部分的にこうした事態を後押ししている。大学卒業生は既に社会化し、自主的に職業選択を行っているが、市場の需要の状況は、それに対応して専門学科を設置して、募集人数を確定する基準にはまったくなっていない。学生募集の部署は、ただ学校の施設と教師の力量などの基本的条件に照らして学生募集を請け負っているに過ぎず、このことが学校の専門学科設置と市場のニーズにずれを作り出し、専門学科の需要と供給の矛盾が突出し、大量の大学卒業生の就職上における困難の出現を導いている。こうした、大学教育体制のメカニズムと社会的な需要の落差が、「蟻族」を形成する潜在的な原因となっているのである。

次回「2 ミクロな原因」に続く。