沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝

　キックボクシングを創設。沢村忠と一大ブームを起こし、五木ひろしを世に送り出した伝説の男。その数奇な人生―。


　父親の代から、その足跡を追うと言う長大なドキュメンタリー。
右翼の筋から、当地、新居浜にも縁故があって、数年住んでいたという事実を知り、いささか驚いた。
そこには、剣道で有名な個人名も上がるし、武徳殿や住友鉱山も出てくる。

　ボクシングのプロモーターから、キックボクシングというムエタイを焼き直したような競技を興す。
それを広める為に利用されたのが沢村忠。
全盛期には毎週試合し、全てKO勝ちしたというから、常識ではあり得ない話。
キックボクシングの人気を支える為には、負けることが許されなかった。
要するに、結果の約束された試合を繰り返してきたという訳だ。

　しかし、その過程で、この野口修という人の無茶ぶりが時として微笑ましくもある。
初めての大会を主催した時に、レフェリーを雇うのを忘れ、ゴングが鳴っても選手が戦おうとしないのを見て漸く気づいたり、ずっと伏せてきた秘密兵器のリングネームを、インタビュー中問われて、咄嗟に「沢村忠」と命名したり。

実は、この名前は、1964年に最初にタイで行われたムエタイ対空手の試合でKO勝ちした極真の中村忠から取ったもの。
本当は、彼を誘い込みたかった訳である。
この辺りのいい加減さが妙に受ける。

　そこから芸能界にも進出していく中で、華々しい過去が披歴される。
が、やがてそれらも衰退し、ついにはひっそりと死んでゆく。


　その遍歴は、まるで週刊誌を読むようで、時代の変遷とも相まって、興味深い。
でも、人はやがて老い、そして死んでゆく。

　古今東西、こうして数多の人間が生きて戦って交錯してきたんだと。
諸行無常、それらはやがて一つの例外も無く、消えてゆくんだと。

　それは、寂しいというよりも儚い。
だから美しいとも思える。


　「それでいいのだ」


　そんな心境にさせてくれる本ではあった・・・

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