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「心の被害」はどこまで補償されるべきか<脱線事故 マンション補償

2005-06-07 02:47:26 | Weblog
衝突マンション 購入価格で買い取り(読売)
(引用ここから)

「上乗せできない」JR西 補償方針

 兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故でJR西日本は5日、同市内で、電車が衝突したマンション「エフュージョン尼崎」の住民に対する説明会を初めて開いた。垣内剛社長が謝罪したうえで、「マンション全戸を購入時の価格で買い取りたい」などと、補償交渉に臨む基本的な考えを示した。今後は個別交渉に入るが、住民側には「元の住環境を取り戻すには不十分」と不満が強く、交渉は難航が予想される。

 説明会には全47世帯の住民95人が出席。垣内社長が「幸せな暮らしを壊し、苦しみを与えてしまい、申し訳ございません」と謝罪し、〈1〉購入価格での買い取り〈2〉事故による心身の不調にかかった治療費の負担〈3〉新居に移るまでの仮住まい家賃の負担――などの補償方針を示した。

 これに対し、住民側は「購入価格は比較的安く、同じ条件のマンションは見つけられない」と反発したが、JR側は「上乗せはできない」と応じない考えを示した。垣内社長も終了後「時価が通常だが、(より高い)購入価格としたのは補償の意味合いも含んでいる。かなり踏み込んだ提案と思う」と説明した。

 2002年11月に完成した同マンションは鉄筋コンクリート9階建て、分譲価格2700万~1700万円。近くのマンションに比べ手ごろな価格が人気を呼んだ。事故後の国土交通省の調査では、マンションを支える柱に大きなひびなどはなく、構造上、建て替えの必要はないと判断された。

 住民でつくる事故対策本部の畠利明代表は「元の暮らしに戻りたいだけ。子供たちも苦しんでいるのに心の問題にも触れず、誠意が感じられない」と主張し、心の傷に対する慰謝料などを求める要望書を、垣内社長に手渡した。

 事故を巡っては、「多くの方が犠牲になった場所にはつらくて住めない」と転居を希望していた45世帯が、賃貸住宅で仮住まいを続けている。残る2世帯も、補償交渉にめどが立てば同様に転居する考えという。


住み続けたかった/不安ばかり大きく 住民

 会場となった尼崎市総合文化センターの会議室で、JR幹部と住民95人が向き合った。補償に関する垣内剛社長の説明が終わると、住民から矢継ぎ早に質問が飛んだ。「私たちはこのまま住み続けたかったのに、たった3年で出ないといけないんです」。涙声で訴える女性もいた。

 80歳を超える両親の代理で出席した女性(52)は顔を曇らせた。「謝罪の気持ちはわかったが、補償内容に大企業の冷たさを感じた。年老いた両親と、私たちとでは1日の重みが違う。早く安心して暮らせるようにしてあげたいのに、これでは次のステップを踏み出せない」

 事故当時、怖くて救助活動ができなかったという30歳代の女性は、今も自分を責め続けている。しかし、こうした心の傷への補償については一切、触れられなかった。女性の夫は「事故前の生活、心を取り戻したいだけなのに……。JRは何もわかっていない」。

 4階の主婦(46)も「事故以来、夫は仕事のやる気が起こらないといい、たばこと酒の量が増えた。ちょっとしたことで夫婦げんかになってしまう」とつらそうに語った。

 同マンションの近くで仮住まいをしている主婦、平田麻美さん(31)は4人家族。小学校に通う長男が転校をいやがっているという。「この内容では、同じ校区内に新しい物件を探すのは難しい。少しでも先が見えて気持ちが軽くなればと思って来たが、不安ばかりが大きくなった」と、肩を落として会場を後にした。
(引用ここまで)


 被害者の方々には同情申し上げるが、私も犯罪被害者になったことがある経験者として言うと、現在の日本は、被害者だからと言って無制限の補償を受けられる法的状況にはない。

 物損の場合の慰謝料は、数年住み続けたことによる価値の目減り分を差し引いた「時価」が算定の基準になることが多い。それを今回は、それよりも高い「購入時の価格」を慰謝料として算定し、なおかつ、治療費と仮住まいの負担を補償しようというJR西日本の今回の提案は、重大事件であることを考えた上での「踏み込んだ提案」であるという評価はできる。これを裁判に持ち込んだ場合、裁判所が従来の判例を覆し、「精神的苦痛に対する慰謝料を大幅に上乗せし、同条件で他の場所に引っ越す費用全てを補償する」という判決を下す可能性は、私は低いと思う。

 しかも、もともと線路沿いの物件ということで、騒音に我慢する条件があったからこそ、他の住宅より割安だったことが想像できるから、いくら今回の事件が予見不可能だったとしても、元々「より割高」だとわかっている「同条件の近隣の住宅」を買い、転居する費用を全て「精神的苦痛に対する慰謝料」でペイしようとするのは、申し訳ないが「そこまでは無理でしょうね」と言わざるを得ない。


>子供たちも苦しんでいるのに心の問題にも触れず、誠意が感じられない
>謝罪の気持ちはわかったが、補償内容に大企業の冷たさを感じた。
>事故前の生活、心を取り戻したいだけなのに……。JRは何もわかっていない。
>この内容では、同じ校区内に新しい物件を探すのは難しい。少しでも先が見えて気持ちが軽くなればと思って来たが、不安ばかりが大きくなった。


 残念ながら、多くの一般人が心情として同情できるかどうかということと、加害者側が、被った被害を全て金銭で補償してくれるかどうかというのは全く別の問題なのだ。現在の日本の判例では、多くの場合、被った被害に対する慰謝料は決して高くない。治療が長引くことで、純粋に治療費だけで赤字になることも少なくないのだ。

 このマンション住民にとって、次のステップは、「心の問題」をどれだけの慰謝料として求められるか、ということであろう。この問題に関しては、日本に限らず、ある程度の法治国家であればどこでも必ず「判例」という壁が立ちはだかるであろう。心の被害に対する慰謝料を、新居購入の費用とは別次元のものとして考え直すことで、(提訴するのであれば)担当する弁護士や裁判官の心証も変わってくると思う。

 少し前の週刊新潮によると、今回の件に便乗して、「被害者だから」という理由で、遺族の家族や「親戚」が北新地の寿司屋など、数万円単位の領収書をJR西日本に回して「普段こういうものを食べているから払え」などと、飲食代をせびるなどの例があるそうだ(実際には、ここには書ききれないほどのさまざまな例が載っている)。悲しみをこらえ、担当のJR職員にいたわりの声さえかける遺族が多い一方で、このような「心ない」「遺族の怪しい『親戚』」がいるせいで、今回のこのマンション住民たちに対しても、過剰なバッシングが向かないことを祈るばかりである。

 しかし…被害に乗じて徹底的にたかる最低の人種は、どこにでもいるものだな。


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