できるだけごまかさないで考えてみる-try to think as accurately as possible

さまざまなことを「流さずに」考えてみよう。"slow-thinking"から"steady-thinking"へ

「原子力ムラ」という言葉を使っている連中が最も「ムラ根性」に染まっている

2012-07-21 23:00:11 | 根っこのところ

今回はやや抽象的な話を。

当ブログ7/14の記事で、「原子力ムラ」という言葉づかいは平気でするのに、大津市のいじめ自殺事件に関しては、マスゴミがなぜか「いじめ隠蔽ムラ」とはなぜか表現しない、ということを問題提起した。

結局は「原子力ムラ」という言葉づかいも「ラベリング(labeling: レッテル貼り)」という言語的な営みの一つであり、大津のいじめ自殺事件に関しては、マスゴミが「いじめ隠蔽ムラ」と「ラベリング」することは自分たちにも不利益だ、とマスゴミたちが意識的にか無意識的にかはわからないが、判断しているということだと私は考えている。

 

昨年の311以来、マスゴミはとにかく「原子力ムラ」という言葉を好んで使ってきた。とかくその扇情性が問題視されているテレビというより、むしろ朝日さんや毎日さんという「全国紙=大新聞」サマが好んで「原子力ムラ」という言葉を使ってきた。ちなみに日本共産党は、国会でもハッキリと「原発利益共同体」という言葉を使っている。彼ら的には、

・原子力に関連する研究に国からカネがつけば、とにかくそれは「原子力ムラ」なる「利益共同体」が存在しているのだ!!

という「仮説」が、あたかも「検証不要な真理」であるかのような扱いである。

例えば以前も扱ったが、今年の1/22の毎日さんの記事。リンク切れのため、リンク先は魚拓のアドレス。

 

原発推進:11大学に104億円 国と企業が提供(毎日さん 2012年1月22日 9時49分(最終更新 1月22日 17時08分))

 東京大や京都大など11国立大学の原子力関連研究に対し、06~10年度、国や原子力関連企業などから少なくとも104億8764万円の資金が提供されたことが、毎日新聞の集計で分かった。規模の大きな大学は毎年、数億円規模で受け取っている。「原子力推進」に沿う限り、研究資金を安定的に得られる仕組みで、大学が国策に組み込まれている構図が鮮明になった。

 各大学への情報公開請求で得た資料を分析した。原子力関連の研究室や研究者が、受託研究▽共同研究▽奨学寄付金▽寄付講座--の形で、国、日本原子力研究開発機構などの政府系団体、電力会社や原子力関連企業から受け取った金額を集計した。未公開部分もあるため、実際にはもっと多いとみられる。

 ほとんどは受託研究が占め93億円。特に国からの委託は高額で、文部科学省が福井大に委託した「『もんじゅ』における高速増殖炉の実用化のための中核的研究開発」(5億1463万円、10年度)など億単位も目立つ。

 共同研究は総額4億1083万円。企業側が数十万~数百万円を負担することが多い。

 奨学寄付金は総額2億1822万円で、研究者が自由に使えるケースも多い。

 個人別で最多だったのは、福島第1原発事故直後、当時の菅直人首相から内閣官房参与に任命された有冨正憲・東京工業大教授で1885万円。有冨氏は「持病があり、学会などで海外渡航する際にエコノミークラスが使えず、旅費がかさむ。その点を配慮してくれているからでは」と話す。

 企業からの寄付が研究結果をゆがめる恐れについては、「気をつけている。私は安全評価より開発研究が中心で、問題は生じないと思う」と話した。

 一方、原発の危険性に警鐘を鳴らし続けてきた京都大の小出裕章、今中哲二の両助教には、「原子力マネー」の提供はなかった。

 寄付講座は4大学が電力会社などの寄付で開設し、総額4億9100万円だった。

 大学別では、京都大33億640万円、東京大25億5895万円、東京工業大16億7481万円の順だった。【日下部聡】

 

毎日さんはお気楽に

>「原子力推進」に沿う限り、研究資金を安定的に得られる仕組みで、

と書いているが、 この毎日さんの記事のどこを読んでも、「研究資金が安定的に得られている」プロジェクトが、「原子力推進プロジェクトだけ」である、ということが示されていない。

反例ならいくらでも挙げられる。当ブログに何度もご登場いただいた早川由紀夫群馬大教授は、きちんと放射線量を測りながら農業をしている福島県の農家の人々を平気で「殺人者」呼ばわりするほどの「反原発」なヒトであるが、きちんと「科研費」をもらっている。しかも311の大震災が起こった2011年にである。

科研費実施状況2011年度報告書

さらに、京大助教の今中哲二氏も、ニコライ・カルパン氏の「チェルノブイリ事故現場での数日間の個人的な体験」を日本語訳するために立派に科研費を使っている。ということは、今中哲二氏にも、科研費はきっちり支給されているということだ。

チェルノブイリ事故現場での数日間の個人的な体験(PDF)

小出裕章助教に至っては、「核実験」についての論文であるはずなのに、なぜか

「なぜアメリカ合衆国を『合州国』と呼ばないのだ!!」

といきり立っている「自称論文」を書いている。これはリンク先のPDFを見てもらえばわかるように、もはや学術論文としてのフォーマット(形式)すら整っていない。「学術論文」というのは、論文末尾に必ず「参照文献・参照論文の一覧」が載っていなければならない。なぜなら、学術論文というものは、過去の知見の積み重ねの上に何をつけ足すか、というところがいつも問題になるからだ。例外はと言えば、ゲーム理論についてのフォン・ノイマンの論文くらいであろう。

朝鮮の核問題(PDF)

つまりこれは「論文」などではなく、単なる「作文」である。残念ながら、小出裕章氏に科研費などの研究費が行かないのは、小出裕章氏が反原発だからなのではなく、単に助教になってからは「学術論文」を書く気がない、あるいはただ書けないからだという見方がはるかに妥当である。

 

しかしながら、毎日さん基準でいえば、今中氏や早川氏に行っている「科研費」は

・「原子力マネー」ではなく、

その他の原子力研究に回っている「科研費」その他の補助金は、精査なしに全てが

・「原子力推進」に沿うもので、

かつ

・「原子力マネー」と分類(ラベリング)されている、

ということになる。

 

・・・日本政府や電力団体などの、毎日さんが「原子力ムラ」とラベリングしたがっている「集団」だけに、「原子力マネー」とやらが回っているとするならば、今中哲二氏や早川由紀夫氏に「科研費」という、立派な日本政府からの補助金が回っていることはどう説明するの??

ということである(今回は表記に公平を期すために、小出裕章や早川由紀夫にも敬称をつけている。我慢できない人にはもうしわけないが、ご寛恕いただきたい)。

しかしこういう疑問に対しても、朝日さんや毎日さんサイドは、やれ「額が少ない」だの、「カモフラージュするために少しは『反原発派』にも金を回してる」だの、検証不能な「陰謀論」さえ「根拠」としてでっち上げれば、こういう反論にもすぐ再反論できた気になる。かくして、この毎日さんの記事は、

・ほら見たことか!「やっぱり」「原子力マネー」が「原子力ムラ」に環流し続けているではないか!

と、情報弱者が好んではやし立てるための絶好の「根拠」となっているわけだ。(というか、文学作品でもないロシア語の翻訳に「科研費」が使われているというのは、ただの「税金のむだ遣い」としか私には思えないのだが。「税金のむだ遣い」には厳しいはずの大新聞サマ(笑)が、このネタに食いつかないのが不思議でしかたがない(苦笑)。)

 

 

ここまでの説明を辛抱強く読んでいただけた方には、私の主旨がもうおわかりいただけるだろう。例えば上記の毎日さんの記事は、その齟齬(おかしな点)を、「反例」を挙げて反論されたときにも、「陰謀論」という「検証不能な命題」を掲げなければ再反論できない類のものなのだ。それはすなわち、この記事は、社会の現実に関して、何ら「根拠」に基づく「説明」ができていないということをも意味する。

 

にもかかわらず、こういう「記事」が、いかにも

・ほら見たことか!「やっぱり」「原子力マネー」が「原子力ムラ」に環流し続けているではないか!

という「印象」を一部の読者に与えているとするならば、それは、この記事が事実に基づいているからではなく、この記事が、「そう信じたい人を信じさせるためだけに書かれた記事」だからである、としか言いようがないわけだ。

 

「社会の木鐸」を自認し、その社会的文化的パワーが巨大であることから、消費税が上がったとしても新聞だけ(ついでに書籍類)は軽減税率を適用せよ!と訴え続けている大新聞社サマの記事が、たったこれだけの「反例」に耐えうる記事が書けていないという現実と、その現実を訴える人間がほとんどいないというもう一つの現実は、何を意味するのか。

それは、「原子力ムラ」という表現に実体がないにもかかわらず、それを冷静に指摘できる状況にない、ということである。実体があるのであれば、毎日さんも上のような「でっち上げ記事」は一本も書く必要がない。虚偽の記事を一本でも書けば、社会の木鐸として、日本新聞協会の綱領を守っている大新聞者サマとしては信用に大きく傷がつく。にもかかわらず、こういう「でっち上げ記事」が平気で書けているサマは、今の日本が極めて危険な方向へ進んでいることを如実に示すものである。

(朝日さんに関しては、当ブログでアーカイブした、これこれこちらの記事で十分すぎるほどだろう。)

 

ただ、この記事ではそれを強調したいのではない。こういう「根拠のないラベリング」がなぜ平気でできるのか、ということである。それこそが、日本人に極めて強い

「ムラ根性」

である、と私は考えている。

 

大津のいじめと同様に、日本の一般的な大人たちも、何らかの主張ないし意見に関して、「根拠」を重視する風土はほとんどないと言っていい。しつこいが、そういう風土があるのであれば、上記の毎日さんの記事などはすぐに猛烈なバッシングに遭い、ヘタをするとこの記事だけで毎日新聞が傾きかねないからだ。しかし現実にはそうはなっておらず、朝日さんと一緒になって、毎日のように

「原子力ムラ」、「原子力ムラ」、「御用学者」、たまーに「プロメテウスの罠(笑)」

と平気で繰り返している。こういう恐ろしい「根拠のないキャンペーン」がなぜできるのかというと、もともと根拠もなく、「原発はダメだ」という先入観があり、昨年の福島原発事故で、

・今が「反原発」を押す時期だ!

と、「多数派」あるいは「潜在的多数派(=煽れば多数派にできそうだと信じられている集団)」の「流れ(空気)」を読んでいるという自信があるからだろう。その、「多数派ないしは潜在的多数派の空気を読む」という作業自体が、日本に極めて強い「ムラ根性」なのだと私は規定したい。

 

そしてこの「ムラ根性」というのは、ある言葉をラベルにして、このラベルを貼った対象を

「向こう側」、

そしてこのラベルを貼る側を

「こちら側」

と、「向こう/こちら」という位置関係に二分化する作用を持つ。ネットで「ネトウヨ」という言葉を使い始めたのがこういう作用に敏感あるいは意識的な「ネトサヨ」サイドであり、その反動として「ネトサヨ」という逆概念が生まれたわけだし、「原子力ムラ」「御用学者」「エア御用(笑)」という言葉に対する反動として生まれた言葉が「放射脳」と言ってもいいだろう。とにかく、「反原発ありき」の決め打ち記事を平気で垂れ流す朝日さんと毎日さんにとっては、

「原発賛成な連中」は、「我々」にとって「向こう側」である、

という「概念イメージ」が存在するわけだ。だからそういう連中に「原子力ムラ」というラベルを貼り、自らの発言の根拠を精査することもなく、ただ

「こいつらはダメだ」

という「結論」だけを一般大衆に刷り込もうとする。

 

こういう観点から見れば、大津の中学校で中学生を「いじめた側」と、それを必死で隠蔽する「学校側と教育委員会側」をなぜ「隠蔽ムラ」呼ばわりしないのかもよくわかってくる。それはすなわち、

 

少なくとも朝日さん、毎日さんサイドにとっては、この中学生を「いじめた側」と「学校側と教育委員会側」を、「自分たちの向こう側」に置けないからである、

 

としか結論のつけようがない。なぜって?「自分たちの向こう側」に置けるのなら、いくらでも上のような「インチキ記事」が書けるからであるし、実際に上に引用したように、そういう記事を書く気は満々にあるからである。

しかしそれが「できない」、あるいは意図的に「しない」、ということであれば、そこにはそれなりの合理的な理由がある、と考えるのが、商業行為としての新聞ジャーナリズムの合理性を考える私にとっては当然の発想なのだ。

 

 

ずいぶんと大回りになったが、「空気」として、叩く対象物が「向こう側」にいる、と認識できるときは平気で

「反原発ムラ」

だの

「御用学者」

だのとラベリングできる連中は、なぜか今回の大津のいじめ自殺事件に関して

「いじめ隠蔽ムラ」

だの

「いじめ隠蔽御用教育委員会」

などという言葉づかい(笑)は決して使わない。それはすなわち、「空気」として、

「いじめを隠蔽する側」

が、

「あちら側」ではなく、「こちら側」である、

と、大新聞者サマは意識的にせよ、無意識的にせよ、ハッキリと「読んで」いる、ということの証拠であろう。少なくとも、原発に関しては平気で上のようなデタラメ記事を乱発してきた朝日さんと毎日さんについては確実にそうであろう。

 

 

・・・ということは、少なくとも朝日さん・毎日さんという大新聞サマは、自分たちが、いじめを隠蔽する側である、ということを、少なくとも無意識的には「知って」いる、ということか。さすが大新聞サマ(笑)である。

 



最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
科研費をみてみると (ぶぶ)
2012-07-22 03:32:32
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/01_shumoku/index.html
科研費で億単位でお金がもらえる高額のものは、「特別推進研究」や「基盤研究S」あたりですが、

http://kaken.nii.ac.jp/
上記URLの科研費のデータベースで、「特別推進研究」や「基盤研究S」と入力して検索してみると、宇宙の成り立ちの解明とか、半導体とか、有機化学、無機化学、ナノ、生理学・・・と様々な分野に高額の研究費が出されていることが見てとれます。

http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/14_kouho/db.html
科研費の審査委員も分野は様々ですね。

余談ですが、玉尾皓平元京大教授も特別推進研究のデータベースにありました。「熊田-玉尾-Corriuクロスカップリング」を開発した世界的権威で、2010年にクロスカップリングはノーベル賞を受賞しましたが、玉尾教授が受賞してもおかしくなかったそうです(クロスカップリングが受賞してしまったので、もう受賞はありませんが・・・)。
ノーベル賞を受賞した根岸教授や鈴木教授は、ブラウン教授の推薦が大きかったようですね。

玉尾教授の特別推進研究は2007年度からですが(クロスカップリングがノーベル賞をもらったから採択されたわけではない)、こういうノーベル賞有望な研究にもきちんとお金が出ているのだな、と思ったもので、余談ですが書いてみました^^;
返信する
循環論法は (白河)
2012-09-01 21:39:00
ようやく地獄のような夏期講習が終わりました。まだかなり疲れていますが。。。

重要だと私が考える記事にコメントをありがとうございます。科研費と一口に言っても、その給付分野はアトランダムと言っていいほど広がっているんですよね。

それを、毎日さんの記事は恣意的に切り取って

「ほら、『原発ムラ』はあるじゃないか!」

とはやし立てる。循環論法がわからんバカを記者に採用するなよ(笑)。
返信する
こちらも残念ですが (白河)
2012-10-16 15:39:12
こちらもローカルルールをお読みいただいていないようなので、2012-10-14 23:35:06のコメントも、近々削除させていただきます。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。