日曜早朝、イカ釣り漁船等が停泊している港の端に、全長800メートル、300以上の露天が、忽然と現れる。
平日は人影も少ない岸壁に、まるで蜃気楼のようにこの市場は出現する。
数年前、旅の途中に偶然行き着いたのだが、その情景は心に深く刻み込まれている。
市場で働いているのに、他所の市場に強く惹かれるのはなぜだろうと思い、再び訪れてみた。
八戸線の一番電車に乗り、陸奥湊駅で降りる。
駅前広場には、これまた大好きな「陸奥湊駅前朝市」があって、“イサバのカッチャ(魚売りのお母さん)”と、方言混じりで話すのが楽しいのだが、あいにく日曜なので、閉まっている。駅前の石碑に、草間時彦の名句「降りかかる 雪に筋子や 陸奥湊」と刻まれている。
間もなくそんな季節が来る。
駅から徒歩10分、目指す館花岸壁に着くが、すでに人がいっぱい。
並ぶ露天は、地面にビニールシートを広げて、ぶちまけた茄子でいっぱいの店、小型のトラックの荷台を改造し、赤々と炭を起こし、魚を焼く店、手作りの梅干しや漬物、ズラッと並んだ鍋から波なみと注がれたせんべい汁…。
クコの実は、焼酎に漬けておくと、打撲に効くというので、つい購入。
フキの塩漬けは、2回水を替えて一日戻してから煮物にと言われ、購入。
手のひらほど大きな、カリカリ梅の紫蘇漬けも購入。
鮭の塩漬けを2枚におろして、干すために身をこそげた、“生に近いトバ”も欲しかったが、旅の途中なので諦めた。
豆腐の味噌焼き、おにぎりの味噌焼きを食べて、竹籠を背負ったカッチャや割烹着のカッチャに混ぜてもらって、少し勇気を出して、おしゃべりする。
できれば、一日雇ってもらって、魚を売って、そのまま居付いてしまいたい…。
そういえば、30年前、そうして築地に足を踏み入れて、そのまま居付いたっけ。
年を経ても、考える事は変わらないものだと思う。