村上春樹の作品には超現実のものが多いのに、
敢えてわざわざ「奇譚」って名付けるところがちょっと面白い。
一番印象に残ったのは「偶然の旅人」です。
正確には一番印象に残った文なんですけど。
(内容も良いけど、この文が印象に残りすぎて)
「僕は偉そうなことを言える立場にはないけれど」と彼は言った。
「しかし、どうしたらいいのかわからなくなってしまったとき、僕はいつもあるルールにしがみつくことにしているんです」
「ルール?」
「かたちのあるものと、かたちのないものと、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。それが僕のルールです。壁に突きあたったときにはいつもそのルールに従ってきたし、長い目で見ればそれが良い結果を生んだと思う。そのときはきつかったとしてもね」
(村上春樹「偶然の旅人」)
ぐわーん、とハンマーで殴られたような衝撃でしたね。
この作品を読んだのが、ちょうど生徒が修学旅行に行っているときで、
(修学旅行中の情けない愚痴については過去の記事を参……照しなくていいです(苦笑))
一体、俺何やってんだろ、と思っていた時期だったんです。
そして、授業で「水の東西」を扱ったばかりであるというのも作用しました。
そうして、形がないということについて、おそらく日本人は西洋人とは違った独特の好みを持っていたのである。「行雲流水」という仏教的な言葉があるが、そういう思想はむしろ思想以前の感性によって裏づけられていた。それは外界に対する受動的な態度というよりは、積極的に、形なきものを恐れない心の現れではなかっただろうか。
(山崎正和「水の東西」)
いや~、そうは言われても「かたちのないもの」を選ぶというのは大変なことですよ。
言葉よりも想いを。
証拠よりも約束を。
そして、金銭よりも会社としての誇りを。
手に触れられないものを選ぶのは大変に勇気のいることです。
たとえ、触感がざらっとしていようと、ぬめっとしていようと、
何かに触れ、触れられているというのは安心するものです。
そして、そこに寄りかかっていたいという思いも人間は決して否定できないと思う。
約束は 要らないわ
果たされないことなど 大嫌いなの
ずっと繋がれて 居たいわ
朝が来ない窓辺を 求めているの
(椎名林檎「本能」)
ただ、確かなものなど何もない中で、
我々は不確かで、「かたちのないもの」にすがりつくべき時があり、
その勇気をもたねばならんのだろうなあ、とも思う。
生徒からの信頼や思いはかたちをとらず、
ゲームのように数値で確認することもできない。
そんな頼りない「かたちのないもの」を信じることはとても勇気のいることだけど、
同時に尊い行為でもあるのかなあ。
書評とは大きくかけ離れてしまっているけど、
こういう書き方の方が、
つくも自身が感じたことがよりよく伝わっているような気がします。
詳細で「がってん」ボタン押しまくりのレビューは、
団さんのサイトで読んで下さい!
(衝撃の「有頂天ホテル」手法の再来(笑))
敢えてわざわざ「奇譚」って名付けるところがちょっと面白い。
一番印象に残ったのは「偶然の旅人」です。
正確には一番印象に残った文なんですけど。
(内容も良いけど、この文が印象に残りすぎて)
「僕は偉そうなことを言える立場にはないけれど」と彼は言った。
「しかし、どうしたらいいのかわからなくなってしまったとき、僕はいつもあるルールにしがみつくことにしているんです」
「ルール?」
「かたちのあるものと、かたちのないものと、どちらかを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。それが僕のルールです。壁に突きあたったときにはいつもそのルールに従ってきたし、長い目で見ればそれが良い結果を生んだと思う。そのときはきつかったとしてもね」
(村上春樹「偶然の旅人」)
ぐわーん、とハンマーで殴られたような衝撃でしたね。
この作品を読んだのが、ちょうど生徒が修学旅行に行っているときで、
(修学旅行中の情けない愚痴については過去の記事を参……照しなくていいです(苦笑))
一体、俺何やってんだろ、と思っていた時期だったんです。
そして、授業で「水の東西」を扱ったばかりであるというのも作用しました。
そうして、形がないということについて、おそらく日本人は西洋人とは違った独特の好みを持っていたのである。「行雲流水」という仏教的な言葉があるが、そういう思想はむしろ思想以前の感性によって裏づけられていた。それは外界に対する受動的な態度というよりは、積極的に、形なきものを恐れない心の現れではなかっただろうか。
(山崎正和「水の東西」)
いや~、そうは言われても「かたちのないもの」を選ぶというのは大変なことですよ。
言葉よりも想いを。
証拠よりも約束を。
そして、金銭よりも会社としての誇りを。
手に触れられないものを選ぶのは大変に勇気のいることです。
たとえ、触感がざらっとしていようと、ぬめっとしていようと、
何かに触れ、触れられているというのは安心するものです。
そして、そこに寄りかかっていたいという思いも人間は決して否定できないと思う。
約束は 要らないわ
果たされないことなど 大嫌いなの
ずっと繋がれて 居たいわ
朝が来ない窓辺を 求めているの
(椎名林檎「本能」)
ただ、確かなものなど何もない中で、
我々は不確かで、「かたちのないもの」にすがりつくべき時があり、
その勇気をもたねばならんのだろうなあ、とも思う。
生徒からの信頼や思いはかたちをとらず、
ゲームのように数値で確認することもできない。
そんな頼りない「かたちのないもの」を信じることはとても勇気のいることだけど、
同時に尊い行為でもあるのかなあ。
書評とは大きくかけ離れてしまっているけど、
こういう書き方の方が、
つくも自身が感じたことがよりよく伝わっているような気がします。
詳細で「がってん」ボタン押しまくりのレビューは、
団さんのサイトで読んで下さい!
(衝撃の「有頂天ホテル」手法の再来(笑))
つくもさんのレビュー、とても好きですよ。
作品に触れることによって、自分のなかにいろいろな想いが生まれたり、自分のもやもやしていた感情があるかたちを与えられたりする、っていうのが読書の醍醐味。内容、本文の解説なんて誰でも出来ますから。つくもさんにしか書けないレビューだと思います。
えっと、レビューを読んでいて、ふと思い出したのが桜井和寿様による次のようなフレーズ。
僕はつい見えもしないものに頼って逃げる
君はすぐ形で示して欲しいとごねる
矛盾しあった幾つものことが正しさを主張しているよ
愛するって奥が深いんだなぁ
Mr.Children「NOT FOUND」桜井和寿、2000
恋愛の世界もまた、然り、ということで。
いや、いつも他人のふんどしで相撲を取らせてもらってますが、
ただ単に客観的に作品を読むことが苦手なだけです。
大学時代も今イチ「テキスト」って概念になじめませんでしたから。
頼りなくも読書の主体であるつくもには、
そこに胡座をかいた文章しか書けないのれす。(れす!?)