【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ2-441 佐々木のポニーテール

2007-04-12 | 佐々木視点のss

441 :1/4:2007/04/12(木) 00:10:27 ID:QzD2R3c/
「ねえ佐々木さん、髪型変えてみたら?」
理科の授業の時、同じ班の岡本さんからそう声を掛けられた。
いつからそうしてたのかはよく憶えていないけれど、
少なくとも三年生になってからは、ずっと肩口までのセミロングのままだったと思う。
「うーん、私は別にこのままでも良いと思っているけれど」
「そんなんだから、アイツといつまで経っても進展しないのよ」
「アイツ……キョンの事?」
はあ。一体何度この事を聞かれたのだろう。岡本さんだけにしたって、これで何度目なのか判らない。
「だから彼とはそんなんじゃないんだって。ただの塾友達だよ」
「ただの塾友達が自転車の後ろにいつもいつも乗せてってくれるのかしらね。
 それに、あなただってよくそれに付き合ってる。それでただの塾友達なんて、ヘンだわ」
「だからそれも前に言った通り、道が同じだしバス代が浮くからだって」
「ふーん? 佐々木さんの為ならバス代わりになりそうな男子がここにはいっぱいいる気がするけどね。
 例えば……ほら、そこの須藤とかさ」
水を向けられた須藤君が机の上に突っ伏す。実験机だからきっとあまり清潔じゃないと思うけど。
「ちょっ、勝手な事言ってんなよ岡本?!」
起き上がった須藤君は反論の言葉を上げたが、岡本さんは素知らぬ顔で相手にしない。
「はいはい、怒らない怒らない。ま、そんなのはどうでもいいわ。
 とりあえず一度やってみる事を勧めるけど。彼がどんな反応をするのか。面白いと思うわ」
今は5月の終わり頃。夏日を記録する日も増えてきた辺りだった。
髪型か……彼はどんなのが好みなのだろう?


442 :2/4:2007/04/12(木) 00:12:07 ID:QzD2R3c/
6月に入って最初の土曜日。この日は朝から温度も湿度も高く、かなり不快指数の高い日だった。
何か思う所があった訳でもなく、この前の岡本さんの言葉が引っ掛かっていた訳でもないけれど、
その日、私は髪を結い上げて――世間一般に言うポニーテールで――登校した。
「おはよう、佐々木さん」
教室に入って、挨拶してきたのは岡本さんだった。私も挨拶を返す。
「今日はポニーテールなんだね? すごく良いと思うよ、それ。アイツもイチコロだね」
くすくすと笑う岡本さんに、だからそうじゃないんだ、と反論しようとした時。
「はよー」
彼が来た。
「やあ、おはようキョン。相変わらずだるそうな顔をしているね」
くっくっと喉の奥で笑ってみせる。彼に対しての私のいつもの笑い方だ。
「お前……佐々木か?」
「僕が僕以外の誰だっていうんだい? まったくキョン、キミと来たら早速脳細胞にカビが生え始めたらしいな」
「あ、ああ……」
私を目視確認した後の彼の様子は明らかに変だった。何か呆然としているような、うろたえているような、
どうしたらいいのか判らずに思考がストールしてるような。
「キョン、どうしたんだ? 体調が悪いなら帰って休養する事をお勧めするよ。夏風邪は性質が悪いと言うしね」
「い、いや大丈夫だ。それよりお前、何だその髪型は。珍しいな」
「これか? 今日は暑いからね。しかし素に返った途端にいきなりそんな台詞が出てくるとはね、
 キミはいつものキョンのようだ。心配して損をしてしまったよ」
「ああ、悪かった」
ふと笑った彼は手を振って、自分の席へと向かう。
「……彼もまあ、随分と判りやすい事ね。言った通りでしょ? きっと面白いって」
確かにいつもと違う彼の反応は面白かったけれど――


443 :3/4:2007/04/12(木) 00:14:27 ID:QzD2R3c/
翌週、雨の振る月曜日。珍しく通学路で彼を見掛けた。
「おはよう、キョン」
「おう」
振り返る彼の視線を傘で遮蔽し、ゆっくりと顔を合わせる。
「……さ、さき? お前、髪」
「ん?」
彼の視線の先にはショートカットになった私の顔があるはずだった。
「切った、のか」
「ああ、暑くなったからね」
彼の反応を見て、私は笑った。なるほど、確かにこれは面白い。
「そう、か。そう、だよな。暑くなったもんな」
随分と歯切れ悪く彼が言う。はは、という彼の笑い声も、陽気に似合わず随分と渇いた感じがした。

前言撤回。
もしかして、やっちゃったのか、私は?

どうしよう。どうしよう。
今更ながらによくよく考えてみれば、土曜日彼が見せたあのリアクションは
彼なりの褒め言葉だったようにも解釈できなくもない。早とちりした一昨日の自分が恨めしくてしょうがない。
こんなにも自分が鈍感だったなんて、私って、何て莫迦。


444 :4/4:2007/04/12(木) 00:16:43 ID:QzD2R3c/
その後教室までずっと、私達は無言のまま共に歩いた。
ホームルームが終わっても、頭の中はずっと後悔が渦巻いているばかり。
だからと言っていつまでもこんな気持ちを抱えてもいられない。とりあえず、彼と何か話を――
「佐々木」「キョン」
何て間の悪い! まさかこのタイミングで呼び掛けを同時にしてしまうなんて。
「キョン、キミが僕よりも数ミリ秒程度先に口を開いたのだからまずはキミから話すべきだ。反論は受け付けない」
「そ、そうか、じゃあ……佐々木」
何でだろう、喉が渇く。唾を飲み下した時のごくり、という音がやけに大きく響いたように感じた。
「お前、一限の宿題、やってる?」
「はあ?」
「いや、今教科書を開いて思い出したところなんだ。一限始まるまででいいから、頼む。ちょっと写させてくれ」
「……まったく、キミには呆れたな」
私が一体どんな思いでいたかなんて、キミには何の関係もないんだね。
「まあいい、始まるまでならね。まったく、僕はキミの代わりに宿題をやっているわけじゃないんだけどね」
「あのなあ、それを言うなら俺の自転車の荷台だって、お前専用ってわけじゃないんだぜ」
「塾への輸送分で相殺しようって事かい? くく、まあいいだろう。そういう事にしておいてあげるよ。
 ああそうだね、今日もお願いしようか。なに、傘くらいならキミの代わりに差してやるさ」
そう、彼の自転車の後ろは、代わりなど存在しない私の指定席。
誰にも譲るつもりなんてないんだから。

「ところで佐々木、さっき言いかけたのは何だったんだ?」
「……もう、どうでもいいことさ」

佐々木スレ2-421 「橘京子との遭遇」

2007-04-12 | その他

421 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/11(水) 23:31:49 ID:W2Zy0g+e
橘京子との遭遇

橘「やっと見つけました。佐々木さんですよね?」
佐々木「?初めましてになると思うけど、どこかでお会いしたかな?」
橘「はい。実は4年前から出会っちゃっているのです。ここで話もなんですから、
そこの喫茶店でお茶でも飲みながら話をしませんか?」
佐々木「うん。そういう手合いの勧誘はパスすることにしているんだ。
悪いね。他をあたってくれないかな?」
橘「んん・・・もうっ!仕方ないですね。キョンくんをご存知ですよね?
キョンくんは今北高で涼宮ハルヒさんという方と並々ならぬ関係にあることを
知ってますか?」
佐々木「実に興味深い話だ。たしかにキョンは私が中学3年のときに
最も親しくしていた友人の一人だけど、それと私を知っていることの関連性を
見出せずにいるので、簡潔に述べてくれないか?悪いが塾に行かねばならない。」
橘「それが大アリなのです!キョンくんは涼宮ハルヒさんを選びそうなのですが、
本来なら、佐々木さんあなたが選ばれる人だったんですよ!ね?わかるでしょ。」
佐々木「まったく要領を得ないね。悪いが今日はこれで失礼するよ。また機会があれば。」
橘「・・・あきらめない!次こそは!」

佐々木スレ2-333 初めて2人で塾に行った日

2007-04-12 | 予備校ss

333 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/11(水) 00:56:27 ID:KAyt0RA7
初めて2人で塾に行った日を幻視したので投下


「ちょっとそこで待っててくれ」
 俺はそう言い残して玄関の扉を開けた。
「キョンくんおかえりー。あれ?うしろのおんなのひとはだれー?」
 まるで待ち構えていたかのような妹の突進を受ける。ん?後ろ?しかし、妹よ、その直接的な文言はなんとかんらんのか。
と、質問の意味と妹の将来とに悩む間に、背後から俺の代わりに答えが返ってきた。

「やあ、初めまして。僕は佐々木。キミのお兄さんの、そう、友達さ。」
って、お前いつの間に玄関に入ってきやがった?
「いいじゃないか。外で待つのもここで待つのも僕にとってその時間は変わらないのだから。
それに、ふふ、キミの家族にもいささか興味があったしね。そうか、彼女が件の妹さんか。
なかなかかわいらしいじゃないか」


 俺は2つのにんまり顔に嘆息し、妹に変なことを吹き込まないよう特大の五寸釘を刺して自分の部屋に向かった。
また佐々木に俺を揶揄するネタを献上してしまったことに頭痛を覚えつつ、いつもより1.5倍速で支度をすまし、
早くにこの窮地から逃れるべく玄関に戻ると、3つのにんまり顔が俺を迎えた。
大海原に放り出された漂流者のような顔をしている俺に、くっくっと喉をならしながら待たせ人が目を細める。

「ああ、早かったじゃないか。ちょうど今御母堂に自己紹介をしていたところさ。
上がって待つよう進められたのだが、その必要もないようだね。
それと別にキミの過去を根掘り葉掘り聞いてたわけじゃないからそんな顔をしなくても大丈夫さ」
 先ほどの頭痛が致命傷になってゆくのを感じる。くそ、なんてこった。一刻も早くこの場を離れねば。
「あら、もう行くの?それじゃあ佐々木さん、この子をよろしくね。
あんたもしっかり勉強しないと佐々木さんと一緒の大学に進めないわよ」
 傷口をカスピ海の水で洗うような追い討ちに佐々木が会釈を返している。ああ、この場に隕石でも落ちてくればいいのに。
無論、俺の空しい願いは天に届かず、無言を貫きつつ速やかに出立という次善策を実行する他なかった。


334 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/11(水) 00:57:34 ID:KAyt0RA7

 妹のやたらと元気な声を後ろに玄関の扉を閉め、愛用の自転車を引っ張り出すとようやく一心地つくことができた。
近年最大級の危機を脱した安堵のため息をつく。が、
「いやあ、予想通りといっては何だが、楽しいご家族じゃないか。
御母堂も妹さんもキミを大切にしているのが良く分かったよ」
 俺に安らぎの間はないのか?できればこの15分ほどの記憶に関するシナプスの接続を切っていただきたいのだが。
「別に揶揄してるつもりはないのだがね。僕は本気で羨望の念を抱いているんだ。特に妹さんのあの天真爛漫さは希少だよ」
 そんなに希少なら佐々木が保護してやってくれ。
「そうだね。でも妹さんはキョンの元にいるのが一番良いと言うと思うがね」

 そんな戯言を交わしつつ、自転車の籠に2人分の鞄を押し込み、佐々木を荷台に乗せる。
ペダルを踏み込むと思ってたより楽に発進することができた。どうやら横向きに座っているにもかかわらず、
上手く重心を合わせてくれてるらしい。器用だな。


 しばらく無心にペダルを漕ぐ。佐々木も普段見ない景色でも眺めているのか何もしゃべらない。
幾つ目かの信号で赤に当たり、ブレーキをかける。止まっている間も俺たちは沈黙を守っていた。
再び信号が青に変わり、ペダルにかけた足に力を入れる。佐々木はそれに合わせ、
俺の肩に置いた右手の位置をずらしてバランスをとる。
するとなぜかこれまで何も感じていなかった佐々木の手が、服の上からだというのにやけに熱く感じた。
冷えたか。それとも熱でもあるのか?


335 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/11(水) 00:58:16 ID:KAyt0RA7

「僕は別に健康を害してはない。むしろ爽快さ。キミの後ろは、なかなか乗り心地がいい」
 そう佐々木は手に力を込め直しながら言った。俺はそうかとだけ答えたが、佐々木は話のきっかけでも掴んだらしい。
「しかし、キミの御母堂もなかなか面白いことを言ってくれる」
 ここでその話を蒸し返すのか!なんとか荷台の上の口を黙らせる算段を考えていると、
「一緒の大学に、か。そんな先のことは考えもしなかったが、言われてみればその可能性も無くはないね。
ここまでちょっと想像力を働かせてみたのだが、それは愉快なものになるだろうね」
 今までのだんまりはそんなことを考えてたからなのか。しかしそれには俺の学力というジェリコよりも強固な壁を崩さねばなるまい。
すなわち物理的に無理だな。
「そんなことはない。来年僕らが受けるのは高校受験。大学はさらにその先、3年も後だ。3年もあれば学力なんてどうとでもなるさ」
 お前とは頭の出来が決定的に違うという、天地がひっくり返っても動かし難い事実を突きつけてやろうかと口を開きかけたとき
目的地である塾が見えてきた。
「おや、もう着いてしまったようだね。僕としてはもう少し乗り心地を味わいたかったのだが。ふふ、なかなか新鮮な景色だったよ」

 微笑を浮かべる佐々木を降ろし、自転車を駐輪所に止め、入り口で待っててくれた佐々木と連れ立って塾の階段を上がる。
やれやれ、お袋と妹のせいで大変な道中になっちまったな。
「今日は実に楽しかったよ。うん、良ければ次回も乗せていただきたいものだ」
 肩で笑いながらしばらくこちらの顔を眺め、それからこちらの答えを待たずに階段を駆け上がり、先に教室の中へと消えた。
残された俺は嘆息しつつ、家の外で待っててくれるならなと、消えた後姿に頭の中で答えてやった。




佐々木スレ2-313 「恋人じゃなくて親友」

2007-04-12 | 中学卒業ss

313 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/10(火) 23:53:30 ID:286C73zC
「まさか、それほどまでとは」
古泉は眉間に中指を当て、
「まるで本当に無邪気な中学生同士のたわいも無い恋愛模様の1ページのようではありませんか」
恋愛という言葉に一瞬ピクリと反応してしまった俺を古泉が見逃すわけは無かった。
「…………どうやら彼女とあなたには、もっと深い想い出がありそうですね」
周りにはさぞ爽やかに見えるであろうこいつの微笑は、俺には悪党が人の弱みを握って
さぁどう脅迫してやろうかと考える時に見せるニヤケ面にしか見えなかった。
「何にもねーよ」
「さぁ、どうでしょうか。これは涼宮さんどうこうではなく、
 ただ単に僕自身が、あなたのこれまでの人生について興味があるだけなのですが」
強調するようにこう続けた。
「一般的な青春真っ盛りの高校生として」
思わずかなりの勢いで古泉のほうを振り向いてしてしまったため
椅子の背もたれに肘をぶつけてしまい非常に痛い思いをした。
「お、お前今青春っぽいことでもしてんのか、誰か気になるやつでもいんのか?」
「あなたの中学生時代の思い出を聞かせてくれたら……聞けるかもしれませんよ?」
古泉はニヤケ面を続けているが、俺はこいつの口車に簡単に乗せられるほど単細胞じゃないし
こいつがどういうやつかもそれなりには知ってるつもりだ。
まぁ………こいつの今までの恋愛経験とかにはかなり興味を注がれるが
自慢話を聞いたところで俺の気分がブルーになるのは必然の理だろう。
「仮にお前が期待するようなことが過去にあったとしても、
 俺はそのことを喜んで人に報告する趣味は無い」
俺は優男から目を離し、依然黙々と読書にふける長門に目をやった。
「それは残念です。……しかし、あなたは以前の会誌作成の際にそんな経験などないと
 頑なに否定し続けていませんでしたか?
 さらにあれほど追い込まれても、結局は妹さんの友達とのお遊び体験をお書きになりましたね。」
ミヨキチとのお出かけについてお遊びと称したことに多少反論したくなったが
おしゃべりマシーン古泉に勝てるとは思わなかったので聞き流した。
「あなたも本当に謎多き人だ。」
「……………」

そしてなんやかんやがあって新人部員募集イベントは何の収穫もなく終わった

その夜、久しぶりにあの日の事を思い出した


佐々木に告白されたあの日の事を


315 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/10(火) 23:55:45 ID:286C73zC
それは中学生として過ごす最後の日、これまで世話になった学校や教師、
別々の進路に進む同級生に別れを告げる日。
まぁ簡単に言えば卒業式だ。

式が終わり、夜に学年全員で大きな宴会場を貸し切り夕食。
その後はさらに仲のよいグループに別れて2次会、
各々好きな場所へ、別れる友とは最後の思い出を作りに。
PTAの保護者は宴会場までしか同伴してないのでそんなに遅い時間まではさすがに無理だったが。
しかし大半の人にとっては最高の時間を堪能することができるだろう。
男女交際をしているやつらが二人で会場を後にする姿もよく見かけた。

俺も最初は国木田や他の仲のよい男子グループと一緒に宴会場の外で写真を撮ったりバカ騒ぎをしていた。
佐々木含めた女子グループもその中に入り、談笑の輪を広げていた。
実に中学生らしい初々しい会話が繰り広げられていたことだろう、
…………と、今なら言えるね。

女子グループも混ざってからは、
相変わらず俺は佐々木と中学生生活について色々話していたわけだが。
佐々木と出会ったこと、塾のこと、俺の家で勉強をご教授してもらったこと。
どういう訳か、二人で盛り上がっているうちに他のやつらはどこかへそそくさと消えてしまったらしい。
「気を使ってくれたんだろう。みんなは先に近くのゲームセンターへ行ってるらしい、
 さっきメールが入っていたよ。相変わらず勘違いされてるらしいね。」
一体何の気を使ってくれたんだろうか、
先に行くなら直接誘ってくれればよかったのにと、その時の俺は思ってたなそういえば。


317 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/11(水) 00:00:33 ID:286C73zC
その後ふらふらとみんなのいるゲーセンへ向かう途中のことだ、
「こんな時間にキョンと二人とは、塾の帰りを思い出すね。」
何がおかしいのか独特の笑いと共に佐々木はつぶやいた。
「そうだな、お前ともうこうやって歩けなくなると思うと少し寂しいな」
「……僕もさ」
今思うと、この日の佐々木はいつもみたいな理論や理屈を用いて話すことが少なかったように思う。
それで俺の会話のペースも少し狂っちまったんだろう。
「………」
「………」
無言で歩くこと数分、佐々木が切り出した
「キョン、少し話があるんだがいいかい」
「ん、ああ構わんが」
そう言うと、ちょうど近くにあった公園のブランコに二人で腰掛けた。
少し神妙そうな佐々木の態度から、
高校生活への不安や勉強への悩み、もしくは家庭に何か問題でも生じたのかとすら思ったが。
「キョンは恋愛感情というものをどう思う?」
全く方向違いの質問に意表を付かれた俺は返事に少し時間がかかった。
「………キョン?」
「あ、あぁスマン。いやもっと重大な悩みでも打ち明けられるのかと思ってたもんだから」
「くく、今の僕にとっては中々に重大なんだよ。」
「恋愛感情か、そりゃ人間なら誰もが抱く素敵な感情なんだろうよ、
 というか以前にもこの話はしなかったか?
 お前は恋愛感情なんて抱いても得することはない、とか何とか言ってなかったか?」
確か中学3年のクリスマスの日だったか、クリスマスを塾の冬季講座で過ごした
俺と佐々木が塾帰りにも話した事だった。
「覚えていてくれたかい、キョンの事だからもう忘れてしまっているかと思っていたが」
「さすがの俺でも数ヶ月前の事を忘れたりはしねーよ」
「英単語は3日で忘れてしまうのに」
押し殺したような声で笑う佐々木、俺もつられて笑ってしまう。
「はは、そう言うな。最低でも受験までは覚えているつもりでいるんだ。
 ……で、恋愛感情がどうかしたのか、まさかついに好きなやつでもできたのか?」
ため息をつきながら佐々木は言う。
「キミは本当に困った人だな、
 いつも言ってるがもう少し他人の気持ちに敏感になったほうがいいと思う」
やれやれ、またそれか。いつも佐々木に説教をされた最後にはその言葉を言われる。
俺は空気は読めるほうだと思っていたのだが……

318 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/11(水) 00:02:07 ID:H9jYw7+0
「僕は今でも恋愛感情を抱いても得をすることは何一つないと思っている」
やけにキッパリと告げた佐々木、さらに続ける。
「他人のことを考えて時間を無駄に過ごし、自分自身でいられる時間が減るということは
 人生を過ごすにおいてこの上ない損害だと思っている」
「ああ、お前のその考えは何度も聞いたし俺にも共感する部分はある」
クリスマスの日やバレンタインデーにも聞いたな、
後は俺たちが付き合ってるとクラス中に噂になったときも聞かされた。
少し下を向いたまま佐々木がつぶやく。
「得することは無いと分かっているのに……」
ローテンションなのが少し心配だな、とか思っているとこう続けた。
「……分かっているのに心惹かれている自分がいることに気付いてしまった」
…それはつまり、恋をしても無意味だと思っていたのに好きな人ができた、
と俺の頭の中では理解できた。
「よ、良かったじゃないか、おめでとう」
少し戸惑いながら答える、仕方ないだろう?
佐々木からこんな言葉が出るとは1ミクロンも思わなかったんだ。
「おめでとう、か。相変わらずだね」
「相変わらず気の利いたことが言えませんね、ってことか?」
口下手なのは自分でも分かってる。ただ気になるのは
「誰なんだ?教えたくないなら教えてくれなくてもいいが、
 俺の知っているやつか?」
はぁ、とまた佐々木のため息。そして
「キミだよ、キョン」

319 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/11(水) 00:04:10 ID:H9jYw7+0
……すまん、何だって?
俺の聞き間違えでなければ佐々木は俺のことが好きということか?
まさかそんなこと言って俺の反応を見て実は国木田とかが隠れて覗いててお別れドッキリ大成功だなんて
呆然とこんなことを考えている俺に佐々木は言い続ける、
「僕が何故志望校を元の北高から変えたか知っているかい?」
そうだ、佐々木は2学期途中まで志望高校は俺と同じ北高だったのだ。
しかし佐々木の学力は北高のレベルよりさらに上空を飛んでる、だから俺は
「自分の学力に見合った高校にしたんじゃなかったのか?」
そう今でも思っていた。佐々木は相変わらず真正面を見て続ける、
「高校選択こそ全く無意味さ、大事なのは環境を変えることより自分自身がどう変わりどう行動するかだよ」
「じゃあ何で志望校を変えたん…」
そこまで言ったところで佐々木がこっちを振り向き割り込んできた、
「君の希望進路が北高だったからさ」
……うーむ、良くわからない。仮に佐々木が俺を好きだとしよう、
そうだとしたら俺と同じ北高に普通行きたいと思うんじゃないのか?
いや、俺が逆の立場だったらそうなっていただろう。
「僕はこれ以上キミに対する恋愛感情を育ててしまうわけにはいかない、これ以上一緒にいれない」
好き、なんて直接言われてしまったから佐々木と向き合って会話をしていると
顔が熱くなってくるのが分かる。まあ夜だからそんな気にはならないだろうが。
「高校でまで一緒にいたら、
 本当にキミの事しか考えられなくなりそうで怖い。………そんな自分は絶対に許せない……」


320 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/11(水) 00:05:20 ID:H9jYw7+0
俺は戸惑っていた。身近にいすぎたせいだろう、異性としてほとんど意識したことは無かった、
しかしルックスはおそらくかなりいいほう。性格も社交的で一般的には良い性格、だ。
佐々木のほうから友達感覚で話してくれるので、俺としてもとても付き合いやすい友人だった。
一緒にいると安心するのは確かだし、
……いや待て一緒にいて安心するというのはもしかして俺も佐々木のことを
「返事はいらないよ、もしキョンが僕と同じ気持ちだったとしてもまだ僕は拒否することができそうだから」
佐々木の震えている言葉で思考は遮られた。
「ただ知っておいて欲しかった、僕が好きになった唯一の人に………
 自分の気持ちだけ話してさようならなんてずるいけど、キョンならば理解してくれるよね?」
まっすぐに俺を見つめている瞳からは今にも涙が頬を伝わりそうだ。
俺の頭はやけに冷静になっていた。好きなんて言われた時は思考回路もだいぶ鈍っていたが、
恋をし始めてしまっている自分を矯正するべく、志望校を変えて、溜まった思いを吐き出してまで
新たなスタートを切ろうとしている佐々木独特の考え方。
その考え方は俺にとってとても心地よいもので、それこそが俺が佐々木に惹かれたところであると自覚した。
だから、
「もちろん理解してやるさ、これからのお前も応援してやる。」
佐々木の目から一筋の涙が流れた
ブランコで顔だけ向かい合っていたはずなのにいつの間にか立って手を取り合い向かい合っている
「ただお前にも知っておいてもらいたいことがある」
泣いていて言葉を返せないのか、佐々木は首をかしげるだけだ
「俺もお前のことが好きだった。返事はいらない、ただ知っておいて欲しい」
言った瞬間佐々木に全体重を預けられてよろけてしまった。
まぁなんだ、つまり抱き合ってんだよ。文句あるか。
こんな経験さすがにないから俺もうろたえたさ。

321 :**恋人じゃなくて親友**:2007/04/11(水) 00:06:52 ID:H9jYw7+0
「本当にいい親友と出会えた………これまで生きてきた中で一番の収穫だよ」
佐々木は俺の腕の中で言う、俺も返してやる。
「親友…か。そうだな、これから離れるがずっと親友でいようぜ」
くくっ、と独特の笑いのあと、
「もちろんだ」
見つめ合ってしまった。こんな状況で見つめ合ってしまったらする事は一つだが……
やけに冷静になっている自分の思考を褒めてやりたいくらいだぜ。
親友としてこれからの互いの出発を祝うキス、
おそらく佐々木とは最初で最後になるであろうキスをした後、俺たちは帰路についた。
そこにはいつも通りの親友同士の二人がいた。
結局ゲーセンへは行かなかったな。







そんなことを思い出していると、もう時計の針が0時を回っていた。
睡眠は1日6時間はとらないと体が持たない俺は早々に眠りへとついた。

佐々木が連れて来た橘京子と九曜周防が俺と会うのは次の土曜日のことだ。
一旦END


ひらめいたらまた何か書くかも。