【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ10-430 「くくっ、キョンは良いお父さんになれそうだ」

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

430 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 18:32:13 ID:FjNZA3U5
「いいかい、ノンバーバル(非言語的)コミュニケーションによって、
人間は言語に頼らないコミュニケーションも一定程度可能だ。
ただし、そのためには個体に関する情報の蓄積が必要になる。
残念ながら貴方と僕の間にはこれまで一面識もなく

……ああ、もう、どうしてこの子は泣きやまないんだろう、なんとかしてくれ、キョン!」

「佐々木……お前は赤ちゃんの相手が苦手なんだな。
そんなことじゃいい母親にはなれないぞ」

「だから今練習してるんだ、あ、あ……」

「うう、酷い目にあった、笑わないでくれないか、キョン」
「いや、優等生の佐々木にも苦手なものがあるんだと知ってな。親近感が湧いたよ」

「それにしてもキョンは乳児の世話になれているんだね、意外と言っては失礼かな?」
「妹の世話で慣れてるからな」

「くくっ、キョンは良いお父さんになれそうだ。僕も練習しないとね」



佐々木は言葉が通じない相手は苦手そうな気がした。


431 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 18:38:53 ID:gWKl+MJl
「くくっ、キョンは良いお父さんになれそうだ。将来の赤ちゃんの世話は全てキョンに任せることにするよ。」

「何で俺がお前んとこのベビーシッターを押し付けられんといかんのだ。自分でするか旦那にやってもらえ。」


432 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 18:39:56 ID:fXkYtxm3
>>430
うーん、まずは・・・そうだな、母乳をあげる訓練をしてみないか?佐々木よ
やはり赤ちゃんは母乳で育てるべきだと思うんだ
・・・いや、他意はないんだ、本当だ
そもそもそんな積極的に見たいほど立派なおっぱry


433 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 18:44:28 ID:4sw8pwYX
>>432
いくら無いも同然とはいえ見てみたいものだが


434 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 18:46:43 ID:gaD/CT6X
>>433 そもそもの期待値が低いので、何が出てきても喜ぶといえよう。


435 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 18:58:43 ID:CUnVDc22
またこの流れかww
佐々木は微にゅ、じゃない美乳ってところだろ
高校生にしては大きい方ジャマイカ?


436 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:13:11 ID:+Xjlqev5
>>432-435
おまいらもうすぐ頼んでないピザが届くから待ってろよww


437 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:21:01 ID:Zul/xDTX
>>432-435は神隠しにあうとして…
佐々木が母親になったら子供にどういう風に接するのかな


438 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:24:07 ID:MONXwWTD
娘がもしいたら、佐々木の真似して僕っ子口調になりそう


439 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:31:53 ID:Yl+DR/jK
娘「ボクはキョン君が世界一だぁいすき~」
佐々木「ぼ・僕だって負けてないよ、キョン」
キョン「……やれやれ」


440 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:33:04 ID:CUnVDc22
子供に塾に行かせたりして頭の固い親になりそうな気が…


441 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:36:05 ID:uX8F/WhB
>>439
Greatest!!!!


442 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:37:12 ID:MONXwWTD
>>439
新ジャンル「幼女で僕っ子」


443 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:40:05 ID:Zul/xDTX
>>439
これはキョン苦労するだろうなぁw


444 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:45:37 ID:fXkYtxm3
ちょっとヤバい母親のような


445 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:51:59 ID:P8mwmFsZ
娘「おとうさんきいてー」
キョン「なんだほしい物でもあるのか?」
娘「ママがねー、このよの生物は死んだらたんぱく質のカタマリになるんだってー♪」
佐々木「くっくっ。幼い子供というのは本当に面白いね。」
キョン「オイ」


446 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:57:07 ID:Zul/xDTX
>>445
これはワカメ以上に黒い子になるぞww


447 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:58:03 ID:uX8F/WhB
>>445
俺だったら
間違いなく、「・・・。何だって?」ってなるな


448 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 19:59:27 ID:w6JTxACR
「ねえパパ、うちの姉妹全員母親違うのに、どうしてみんな同い年なの?」



という電波を受信した。


449 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:01:07 ID:ZBbOCOmw
>>448
何人姉妹ですか?


450 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:01:24 ID:uX8F/WhB
>>448
これは全俺最驚のカオスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


451 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:05:34 ID:Zul/xDTX
>>448
キョン、たらしってレベルじゃねーぞww


452 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:06:28 ID:P8mwmFsZ
古泉「今夜はどうも、ご馳走様でした。奥様によろしく」
キョン「いいってことよ、またいつでも遊びに来いよ!」
ハルヒ「今度はもっと豪勢な物出しなさいよ!」
娘「ばいばいみくるちゃーん」
みくる「ばいばーい♪」



みくる「キョンくん、幸せそうでしたね…」
ハルヒ「……………キョンもパパか…」

ハルヒ「ぐすっ」
みくる「す、涼宮さん?」
ハルヒ「な泣いてなんかないわよ…」
古泉「今日は、みんなで飲み明かしましょうか」


453 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:06:28 ID:CwPqR1xi
>>420
御世基地かわいいよ御世基地
キョンのフラクラっぷりに久々に殺意を覚えたw


454 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:08:18 ID:cXQZlOlf
キョンは婿養子になったのか。


455 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:09:17 ID:Zul/xDTX
>>452
ハルヒ好きってわけじゃないけどハルヒがカワイソウになった…


457 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:11:34 ID:CUnVDc22
>>452
なんかリアルだw


459 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:17:29 ID:Rvf54dw3
>>452
キョンの娘が、キョンの妹そのまんまに思えてならない…
つーか朝比奈さんはいつまでこの時代に滞在してるんだw


460 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:20:28 ID:MONXwWTD
>>459
キョン妹を佐々木の髪型にした感じかな?


461 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:21:53 ID:uX8F/WhB
>>460
妹を大きくしたのが佐々木
胸は残念なが(ry


462 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:23:15 ID:zfcl8nTA
>>459
なんかつっこまれるまでずっといる気がする


464 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:33:39 ID:FDFf6J8b
>>452
途中で
長門「・・・・」
を挟んでほしかった


465 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:35:19 ID:Zul/xDTX
佐々木が大人になったらやっぱりポニーにしてるのかな


466 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:40:12 ID:CUnVDc22
そういえば佐々木ってキョンがポニー好きって知らないんだっけ?
改めてキョンの中でハルヒ>佐々木ってことを認識させられて鬱になる…orz


467 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:41:34 ID:fXkYtxm3
ポニー好きってあれ本心なのか


468 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 20:53:01 ID:CUnVDc22
>>467
そうだろうな

思ったんだけど佐々木の髪型って何なんだろうな
おかっぱではないよな


469 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:07:28 ID:4sw8pwYX
>>468
おかっぱがおっぱ(ry


470 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:09:51 ID:PGl+NVKa
佐々木は胸が無いからこそ佐々木なんだよ


471 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:17:42 ID:FDFf6J8b
小さくは無いんじゃないか?
普通以下ならそれでいいけど


472 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:17:50 ID:fXkYtxm3
おっぱいパインパインで「僕」言われても困るよな
えっちょっと何この美少女なのに美少年ぽい口調はっ?
という背徳的な雰囲気を醸すためにはスレンダーでなくてはっ


473 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:25:06 ID:rm51uSrJ
粗品には粗品のよさがあるのです!!!!


474 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:28:55 ID:MONXwWTD
>>473
ツインテールの癖に…


475 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:30:18 ID:4sw8pwYX
チチが嫌いな男子なんかいません!!!!


476 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:31:06 ID:FDFf6J8b
>>475
男が100人いたら5人はガチなゲイってハルヒが言ってた


477 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:31:35 ID:pXJOLC5R
だから、尻だって。


478 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:31:49 ID:Zul/xDTX
佐々木はボブ、橘はツインだな
九曜はポニーにしたらいいとオモ


479 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:33:49 ID:sZvppAwM
●<僕は胸の大きさよりも包容力があるほうが良いですね。背がそこそこに
高くて面倒見のいいタイプなんか最高です。偶然にも団員で一人そういう方を
ご存知なんですよ。


480 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:35:12 ID:EjuOZIw4
>>449
9人ジャマイカ? ※喜緑さんは外してます


481 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:40:04 ID:CwPqR1xi
ハル長みく佐々橘昆鶴朝ミヨ の九人?


482 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:40:45 ID:CUnVDc22
>>479
自重しろww

>>478
成る程、ボブか
てか昆布がポニーにしたら恐ろしいことになるぞwww

あれ?背後に喜緑、いや、鬼緑さんg


483 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:58:13 ID:rm51uSrJ
ワカメ自ちy


484 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 21:59:10 ID:AzGL3JOl
ながるんが佐々木の胸に関する記述を明記してないから実際どんなもんか分からん

しかし靴の特集ののいじ絵ではハルヒとそう変わらんぐらいあったぞ






は!もしや驚愕の真相は佐々木の胸が!!!1!1!


485 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:03:16 ID:ZBbOCOmw
>>448
うちの子が一番可愛い、うちの子が一番賢いとかでもめそうw
その隙にキョンは娘にすらフラグを立て(ry


486 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:09:18 ID:PGl+NVKa
佐々木はハルヒと対を成す存在だろ?
ハルヒは変化を望み、佐々木は平穏を望む
ハルヒは胸が大きいから、佐々木は(ry


487 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:16:35 ID:Zul/xDTX
ハルヒが大きいだけで高校生にしたら佐々木は十分な胸の大きさだと思うけどなぁ


488 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:34:52 ID:CUnVDc22
佐々木より胸が大きいキャラって誰がいる?
あまり思い浮かばないな


489 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:35:40 ID:rm51uSrJ
くっくっ・・・なんだい、このちちスレは・・・#


493 :480:2007/06/02(土) 22:49:26 ID:EjuOZIw4
wktk

あとさっきの奴だが、10人or11人だった。
涼宮ハルヒ
長門有希
朝比奈みくる
鶴屋さん
朝倉涼子
阪中
佐々木
橘京子
周防九曜
吉村美代子
以上10名に加え、場合によっては

でw


494 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:55:00 ID:fXkYtxm3
>>493
問題は佐々木が第何夫人なのかってことだな


495 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 22:55:19 ID:CUnVDc22
佐々木は分かるけど後のメンバーの中に子供を産めるか疑問なキャラがw
あと血の繋がった兄弟の間にできた子供は障害を持って生まれてくるんだぞ…


497 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 23:02:29 ID:FjNZA3U5
>>495
必ず、ではないしTFEIや神様がいれば問題ではない


498 :480:2007/06/02(土) 23:06:13 ID:EjuOZIw4
>>494
佐々木はハルヒと同格だから、第1か第2と妄想

>>495
たしかTFEI達が、キョンの遺伝子データと自身の構成情報を掛け合わせて、『子』となるインターフェースを生み出す、とかってネタがあった気がするから、種の保存機能が無ければそれでw
あと近親交配は先天性障害を持って産まれてくる可能性が高くなるだけで、絶対にと言うわけじゃあ無いさw


499 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 23:08:20 ID:Rvf54dw3
ここで黒キョンを貼ってみる
ttp://www.youtube.com/watch?v=ePqzH5uhV_I
つまり、血が繋がってるとは限らな(ry


500 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 23:09:23 ID:Zul/xDTX
意味は分かってるけど近親交配の危険性を佐々木に説明してもらいたいなw


503 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 23:22:33 ID:MONXwWTD
>>500
俗に言うなんたらタブーだな


508 :もし佐々木団+キョンが北高生でSOS団が光陽園学生なら:2007/06/02(土) 23:50:45 ID:sZvppAwM
今日の分はここまで。もうちょっと進もうと思えば進めるけど焦るとよくないしまた
明日か明後日あたりにかきます。

>>500
●<僕でよければ説明させて戴きますよ。


509 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 23:58:05 ID:AsVQ5Y0C
>●
お手並み拝見といこうか

あと乙ですた


514 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/03(日) 00:27:16 ID:Uh7CS0Jl
>>509
●<おっと、僕はそろそろアルバイトの時間みたいです。代役を立てておきますよ

「確かに普通に交配するよりも精神や肉体に遺伝子的疾患や死産の確立は
数倍ほどになるが元々の確率が低いからそれほどたいした問題じゃない。
そもそも近親交配がタブー視されているのは倫理的な観念があるからさ。
これはウェスターマーク効果による刷り込みが…って聞いてるのかい?」


517 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/03(日) 00:41:49 ID:T6JgSsiX
でも、昔は近親交配は結構あったらしいよ
特に皇族とか


>>492
俺は早い時は2日で30Kいける
遅い時は一週間で10K
携帯厨だから休ませながらやらんと携帯が熱暴走するんだぜ


518 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/03(日) 01:34:55 ID:eu9tEddL
>>492
1レス(60行弱)分でも書き下し~推敲含めて2時間くらいかなあ
それでも誤字脱字が減らないのは何ともはや

あと最近書く気が減退してて悲しいorz

>>517
源氏物語とか近親(大体3親等以上)ばっかりですね
まあ貴族だと家の事情もあるのだろうけれど


527 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/03(日) 02:40:48 ID:Zihn5sX9
まあ一回や二回の近親交配で問題が起きる可能性はごくわずかだな。
多少免疫能力は落ちるかもしれんが。
昔の王族皇族貴族みたいに延々近親ばっかりだと少々アレな子供が生まれたり、血友病とかの遺伝子系の疾患が多発したりするが。
現代で問題になるのは大部分が倫理面だろうな。

佐々木スレ10-413 「冬の日のコンフェッション」

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

413 :冬の日のコンフェッション 1/7:2007/06/02(土) 15:18:30 ID:yZ5bybz1
 あれは俺がまだ、SOS団などという奇矯かつ奇天烈で何をしたいんだかわからない団体
に所属していなかった、退屈ではあったが毎日をつつがなく過ごすことの出来た頃のこと
だ。
 今から考えれば貴重な日々だったとしみじみ思う。
 当時俺はそ中三であり、人生を謳歌すべきモラトリアムの途中で立ちはだかる、高校受
験という障害物競走に挑まなくてはならない立場であったある日のことだ。

「キョン、キミはいったいどういった女性が好みなのかな?」
 特別ではないごくありふれた昼休み、机を向かい合わせにして共に給食をつついていた
時、佐々木が藪から棒にそんなことを尋ねてきた。
 俺は呆気にとられて、食いかけの玉子焼きを佐々木の皿の上にはじき飛ばしてしまった。
「いらないのかい? なら僕が頂こう」
 佐々木はそう言うと、ひょいと俺の食いかけを箸でつまみ上げ、そのまま口に放り込ん
だ。
 これって、間接キスか? なんてドギマギするほど俺はうぶではないし、また佐々木相
手にそういった気持ちになることはない。佐々木もおそらくそうだろうが。
 俺は宙をさまよっていた箸を休め、代わりに佐々木を見据えてその意図を探るかのよう
に、
「佐々木、今いったいなんて言ったんだ? それに、俺からそんなことを聞き出してどう
しようってんだ?」
 佐々木は俺にそう返されることなど予想済みで、すでにそれに対する答えを用意してい
るいった様子でよどみなく答えた。
「実は、酔狂にもキミに思いを寄せている女生徒がいてね。彼女からキミの女性に対する
嗜好を聞き出してくれないかと依頼されたわけだよ。まあ、僕としても多少興味を憶える
話題でもあったのでね、引き受けてしまったよ」
 酔狂って、そりゃないだろう。しかし……俺に思いを寄せている女生徒がいるだと? 
なんつーか、ピンとこねえな。
 まあ理由は簡単で、生まれてこの方女にモテた試しがないからだ。自慢ではないが。
 もちろん、それが嬉しくない訳じゃない。それなりに関心はあるし、あわよくば相手を
見てみたいとも思ったりもする。付き合う付き合わないは別としてだ。
 すると、俺の邪念が表に出てたわけではないだろうが、佐々木は犯人の匂いを嗅ぎ取っ
たシェパードのような顔つきで俺を凝視し、
「キョン……おい、キョン! みっともない顔をしてないで、早く食べたまえ。それから
さっきの問いに答えてくれないか?」
 みっともない顔とは失敬なやつだ、などとはとは思いつつ、俺は白州に登場した奉行の
ように顔をやや引き締め、
「そりゃあ答えることはやぶさかではない。しかし佐々木、なんでそんなに機嫌が悪そう
なんだ?」
 俺がそう答えると、佐々木はさらに顔をムッとさせて、
「僕はそんな顔はしていない。キョン、キミの見間違いだ」
 どう見ても機嫌が悪そうにしか見えないが、これ以上何かを言うことはよしておこう。
というのも、肉食獣の接近を感じ取った草食動物のような俺の第六感が、警報のサイレン
をジャンジャン鳴らしていたからだ。これは学校というサバンナで生きていくのに必要な
処世術さ。
 気まずい雰囲気が俺と佐々木の間に漂った時、いち早く給食を食い終えた国木田が、ま
るで壊れかけた橋を補修する工兵部隊のように絶妙のタイミングで俺たちの席の横に近づ
き、そして話しかけてきた


414 :冬の日のコンフェッション 2/7:2007/06/02(土) 15:19:28 ID:yZ5bybz1
「キョン、ひょっとして犬も食わないようなけんかの真っ最中だったかな?」
 周りからクスクスと漏れる笑い声。こいつら、聞き耳立ててたな?
 しかし、またその話かよ。まったく、俺と佐々木はただの友人だと何度言ったらわかる
んだ。
「それは置いておいて。佐々木さんさっきの話だけどね、キョンは年不相応な容姿をして
いる女の子が好きなんだ。例えば年上なのに幼い顔しているとか、逆に年下なのに妙に大
人っぽいとか」
「こら国木田、さらっと何を言いやがる。俺の性癖を勝手に決めつけるんじゃない!」
 それってただの変態じゃないか。
 しかし俺のツッコミにはどこ吹く風の国木田は、関係者の制止を振り切る芸能レポー
ターのようにさらに話を続けた。
「この間もね、キョンは妹さんの友達のことを、まるで自分の彼女のように散々ほめち
ぎっていたもんね」
 ミヨキチのことか? 確かに国木田に自慢しちまったような記憶はある。
 それを聞いた佐々木は平然としているようだったが、少し口元を引きつらせたように感
じるのは何故だろうな。
 だが、もし俺をロリコンの気があると誤解しているのなら大きな間違いだ。ミヨキチを
一目見てくれれば、佐々木にだって俺の礼賛が決して大げさじゃないことはわかるに違い
ない。
 そうだな、今度佐々木に引き合わせてやろう。驚くぜ、佐々木は。
 なんてことを俺が考えている間も、国木田は俺たちだけでなくクラス全員の視線を集め、
そしてそれにまるで気づいた素振りもなく、まるで制御棒のない原子炉のようにその舌は
回り続け、その天然ぶりを存分に発揮した。
 もしここでクラスの連中の視線から視聴率を取ったら、間違いなく80%を超えるだろ
うな。まったく、俺たちはこの連中の退屈しのぎの対象かなんて思ったりもする。
 国木田はさらに付け加えるように、
「あとは、本人を前にして言うのも何だけど、佐々木さんみたいに一風変わった感じの子
もけっこう好きなんじゃないかな」
 そこで、わぁっと小さな歓声が起こった。何を喜んでいるんだ、こいつら……。
 だが佐々木はさしたる動揺もせず、ただひたすら俺を見つめていた。やや焦点が合って
いないように感じるのは、俺の考えすぎだろう。それと、さっきからまるで箸が進んでい
ないんだが、些末な問題だな。
 しかし、もうなんて言うかこれはノーコメントだ。ちょっとそこの窓から、ひょいっと
飛び降りたい気分になってきたぜ。
 まったく国木田のやつ……俺に変な属性を付け加えるなっての! 俺はノーマルであっ
て、お姉さん好きでもロリコンでも、はたまた変わった女が好きだなんて属性でもないぜ。
「ほう、ではなにかい? 僕のような女は、決してキミの好みには合わないということか
な?」
 つい口を滑らせてしまったうかつな俺に向かって、まるで獲物のヌーを見定めたライオ
ンのように視線を鋭くし、佐々木はそう述べた。
 俺はわけもなく、背中に氷を滑り込ませられたかのように氷点下を感じた。
 佐々木、お前は恋愛など精神病の一種と言っていたじゃなかったのか? それでも好み
じゃないといわれるのは、乙女心をいたく傷つけられるのだろうか。そう言ったつもりは
ないんだが。


415 :冬の日のコンフェッション 3/7:2007/06/02(土) 15:20:27 ID:yZ5bybz1
 難しいね、女ってやつは。
 それでも俺は佐々木をなだめるために何とか弁解しようとした。
「いや、そうではなくてだな、これは言葉の綾ってやつであって、お前を対象とした言葉
じゃないんだ。そもそも、すでに友人関係を結んでいるのだから、好みだとかは関係ない
じゃないか」
「友人ね……確かにそうだな。いや、すまないキョン、僕としたことがつい取り乱してし
まったようだね。お恥ずかしい限りだよ。許してくれるかな」
「よかったね、キョン。これで元の鞘だね」
「お前は少し黙ってろ!」



 そして放課後、今日は塾に行く日であったので、俺たちはまず俺の家に向かった。そこ
でママチャリを出してきて佐々木を後ろに乗せてそのまま塾に向かおうというのだ。
 帰り道、辺りの風景が緩やかに後方に流れて行くのを目の端に捉えながら、俺と佐々木
はてくてくと歩を進めた。
「キョン、ちょっと聞きたいんだが、さっきの話はどこまでが本当なんだい?」
 しばらく歩いていると、隣の佐々木が不意にそんなことを尋ねてきた。
「あれは国木田が勝手に言ったことであって、俺の好みとは関係ないぜ」
 本当は、少し当てはまるところもあるなんてことは言えない。
「そうかい、じゃあ本当のところはどうなんだい? どう言った女性が好みなのかな?」
 今日の佐々木はやけにこだわるな。それほど依頼をしてきた女生徒の約束を律儀に守る
つもりなのか。
「別に好みだとかはないさ。もし俺が誰かを好きになったとしたら、それが好みだったん
だろうよ」
 俺はそう答えておいた。
「上手く逃げられたような気もするが、わかったよキョン。その子にはそう伝えておこ
う」
 ふっと息をついて、俺の方に顔を向け、そして柔らかく微笑みかける佐々木。
 別に逃げた訳じゃないさ。それも俺の本音なのだからな。
「佐々木、ところでその子のことだが、どういう子なのか教えてもらえないか?」
 別に助平心とかじゃなくてだな、少し関心があるだけだ。しょうがないだろう、健全な
青少年なんだから。って、俺はいったい誰に弁解しているんだろうね。
 俺の問いかけを受けた佐々木はやや瞳を細めて俺を一瞥し、
「なんだいキョン。キミは彼女にそんなに興味があるのかい? しかし、残念なことに僕
には彼女との約束により、守秘義務というものがあってね、君の意向には沿えそうにない
よ。まったく、残念なことだね。くっくっ」
 佐々木は喉を鳴らして独特の笑い声を漏らしたが、しかしながら顔は笑っていないとい
う複雑かつ表現しがたい様子であった。どうやら、それ以上は質問をするなと言うことか。
 これは教室での一件とダブりそうな妙な空気だ。俺の何がまずかったのかわからんが。
 そこで俺はどう話題を変えようかと頭を悩ませていたが、幸いにも俺の家が見えてきた
ところでその会話は終了だ。


416 :冬の日のコンフェッション 4/7:2007/06/02(土) 15:21:30 ID:yZ5bybz1
 それからほどなく俺たちは家に到着したが、まだ塾に向かうにはかなり時間があるので、
佐々木には家で適当に時間をつぶしてもらうことにした。
 木製のドアを開け、玄関をくぐると靴を脱いだ。そして制服姿のままの佐々木を案内し
て、リビングに向かうことにした。
 俺たちがリビングまでやって来ると、その入り口からは妹のかしましい声がまるでザル
に注ぎ込んだ水のように際限なく漏れ出てきた。
 それを迷惑に思いながらも、俺たちがリビングに入ると、そこには下手をすれば小学校
低学年に見られかねない妹と、とてもその同級生とは思えないほどの容姿を備えたミヨキ
チがソファに座ってテレビを見ながら談笑していた。
 俺と佐々木に気がついた妹は嬉しそうに「キョンくんお帰りー」と太陽を真っ青の明る
さで俺たちを歓迎してくれた。ミヨキチは俺を見て彼女もまた嬉しそうにしていたが、
佐々木を見た途端に一瞬戸惑ったようで、まるで薄雲がたれ込めたような表情になった。
 なんだろうな、とは思ったが、きっと初対面だからだろうとあたりを付け、それに気づ
かぬ素振りで、
「やあ、ミヨキチ。キミも来ていたんだ」
 と俺が軽く挨拶すると、
「お兄さん、こんにちは。お邪魔しています」
 とミヨキチはやおら立ち上がり、礼儀作法のハウツー本そのままのきれいなお辞儀をし
た。
 俺は彼女の礼儀正しさにに感心しつつ、それに気持ちを和ませながら、
「ミヨキチ、2週間も会わないうちにずいぶん大人っぽくなったし、それに綺麗になった
ね。本当に妹にも見習わせたいよ」
 ミヨキチは俺の言葉を受け途端に顔を赤く染め、
「お兄さん、そんな大人っぽくだなんて、その……恥ずかしいです」
 俺の手放しの賞賛に恥じらい、くすぐったそうにしているミヨキチはとても初々しく、
そしてどこまでもかわいらしかった。俺は庭に咲く花のようにいつまでも愛でていたいと
思ったぐらいだ。
 しかし、ふと隣で無言で座っていた佐々木が、俺に無言のプレッシャーとも言うべきエ
ネルギーを発しているのが感じられた。
 俺はぎょっとして佐々木を見やると、まるでなんでもない表情だ。というより、無理に
表情を消していると言った様子か。
 それをミヨキチも感じ取ったのかはわからないが、俺の方に体ごと向き直るとおそるお
そる、
「あの……そちらのお姉さんは、お兄さんのお友達の方ですか?」
「ああ、こいつは佐々木っていって俺の……」
 と言いかけたところで佐々木が、俺の返答を遮るようにゆっくりと口を開き、
「友人さ。ただし、普通の友人ではないつもりだけどね」
 と言った後、佐々木はミヨキチと視線を合わせた。だがそれに対するかのように、ミヨ
キチも臆することなく佐々木を見つめている。
 それにしても、普通の友達ではないってどういう事だ? まあ、普通よりはやや親しい
ことは確かだが……。おそらく、佐々木が言っているのは、そういった意味なんだろうな。
 しかし二人の様子は、まるで米ソの冷戦をこの場で見るようだった。今にも中距離弾道
ミサイルが飛んできそうであり、キューバ危機ってのは、こういうのを言ったんだろうな。
 ……しかし、これはいったいどういう事なのだろう。それに、俺には彼女がいつもの冷
静な佐々木には思えなかった。
 ひょっとして、二人を会わせたのはまずかったか? だがまさか、それほど相性が悪い
とは思わなかったんだ。俺の失策だな。


417 :冬の日のコンフェッション 5/7:2007/06/02(土) 15:22:30 ID:yZ5bybz1
 すると隣にいた佐々木が、不意に俺へ殊更笑みを浮かべて顔を向け、
「キョン、この綺麗なお嬢さんが国木田の言っていたキミの妹君の友人かい?」
「ああ、そうだ。彼女は……」
 と言いかけたところで、今度はミヨキチが佐々木に向き自己紹介を始めた。
「あの、わたし、吉村美代子です。お兄さんにはミヨキチって呼ばれてます」
 こういう状況にもかかわらず、ミヨキチは律儀にもお辞儀をしていた。俺の妹の友達に
しては本当に良い子なんだよな、ミヨキチは。
 佐々木は俺の耳元で囁くように、
「本当に、おどろいたよ。彼女の姿形は……そうだね、中学生と言っても差し支えないほ
どじゃないか。それよりも驚嘆の声を上げざるを得ないのが、彼女が僕よりもすでに上
回っている部分……いや、なんでもない。今のは忘れてくれたまえ」
 と、佐々木はまずいことを言ってしまったという表情を浮かべた。
 上回っている部分とはなんだろう……? 
 ……今、ふと思い当たったたのだが、しかしこれは言うべきではないだろう。佐々木の
名誉のためにも、ここは俺の胸にしまっておくことにする。それは言わない約束だよ、お
とっつぁんってことだ。
 しかし俺がそんなことを考えていたとき、それまで俺たちのやりとりとをおもしろそう
に鑑賞していた妹が、ミヨキチの自己紹介に付け加えるように佐々木に対し口を開いた。
「あのね、ミヨちゃんはねえ、キョンくんのことが大好きなんだよ!」
 妹はまるで邪気のない、天真爛漫な笑みを浮かべてそう発言した。
 その瞬間、佐々木はギョッとしてそのはずみでお茶が気管に入ってしまったらしくゴホ
ゴホと咳き込んだ。
 一方、ミヨキチは妹の発言を耳にして一瞬青ざめ、今度はまるで信号機のように顔をは
じめとして裾から伸びる手足や首筋まで全身を赤く染めた。
 そして、そのリビングでは、佐々木とミヨキチの2人がまるで小さな悪魔に呪文を封じ
られた魔法使いのように、しばらくの間フリーズしていた。
 そこで俺は真意を確かめるため、何の気なしにミヨキチに尋ねてみた。
「ミヨキチ、今妹が言ったことは本当かい?」
 すると、ミヨキチは体をビクッとさせ、俯いていたその赤い顔のままゆっくりと見上げ、
そして俺に視線を合わせた。
「は、はい。ほ……本当です!」
 最後はまるで叫びにも似た返答だった。
「そうか……そう思っていてくれたのか。うん、俺は嬉しいよ」
 と言って、俺はミヨキチに対して優しく微笑みかけた。
 すると、ミヨキチはいかにも信じられないといった表情でまじまじと俺を見つめ、
「あの、お兄さん……それって……」
 続いて佐々木が、驚きと怒りとその他解析不可の感情をないまぜにした複雑奇妙な表情
で、
「キョン、キミはまさか……」


「ああ、ミヨキチ。キミは俺のことを兄のように慕ってくれているんだろう? ありがと
う、本当に嬉しいよ」



418 :冬の日のコンフェッション 6/7:2007/06/02(土) 15:23:27 ID:yZ5bybz1
 本当にミヨキチは良い子だよ。俺を本当の兄のように好きだって言ってくれているんだ
からな。
 だがその瞬間、なぜか部屋の中が凍り付いたような気がした。
 なんだ? と思ったのもつかの間、一瞬にしてパンパンに張り詰めた風船から空気が抜
けるように、何かが霧散した。
 ふと見てみると、二人とも気の抜けたというより、魂が抜けたしまったような虚ろな瞳
で俺を見ている。
 おいおい、なんだよいったい? 怖いぞ。
 しかし、わずかな間をおいて我に返った佐々木は、長嘆息した後に自嘲的な笑みを浮か
べ、
「キョン、見事だよ。本当に、キミってやつはどこまで……」
 いや、なんのことかわからないんだが……。
 ひょっとして俺はバカにされているんだろうか。
 そこでふと気になって、斜向かいを窺ってみると、ミヨキチもなにやらホッとしたよう
ながっかりしたような、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。
 俺、何か変なことを言ったか? などと俺の脳みそから、ほんの3分前の記憶を絞り出
すように呻吟していると、佐々木が何か思い出したように俺に顔を向け、
「キョン、そろそろ塾に向かう時間じゃないかな? あんまりのんびりしていると開始の
ベルを聞くことなく今日の授業が始まってしまうぞ。さあ、いつものように僕を後ろに載
せてくれないか?」
 すっかり失念していた。だが、今からだとギリギリじゃないか?
 それに気がつき、俺は一刻も早く出発するため、やや焦り気味に玄関に向かおうとした。
 だが、ミヨキチは俺を呼び止め、
「お兄さん、あの……さっき私がお兄さんのことを好きだと言ったのは、本当のことです
から」
 そう言い終えると、ミヨキチはまるで瞬間湯沸かし器のように頭から水蒸気をもうもう
と出しかねないほどに赤くなってソファに座って俯いてしまった。
 しかしその時、なぜか妹が『ミヨちゃんがんばって』としきりに囁いていたのが印象的
だった。
 何をがんばれと言うんだ? つうか、がんばるのはお前だろう。お前は少しミヨキチを
見習って、もう少し兄に対して敬意を払ってくれ。そうだな、とりあえずはいつまでも兄
に対して『キョンくん』と呼ぶのは止めようぜ。
 そんなことを考えながら俺は、押し黙ってミヨキチを見つめていた佐々木に声を掛けリ
ビングを出た。去り際にミヨキチと妹に対して手を振りながら……。



 受験が間近に迫った真冬の夕方、俺は佐々木を後ろに乗せ、いつもの1割増しの速度で
北口駅前に向かう緩やかな傾斜を下りゆく。
 眼前の夕陽を視界に入れながら、俺はしみじみと考えていた。
 もはや恒例のイベントとなった佐々木を後ろに乗せて塾に向かうこともあとわずかかと
思うと、少し寂しくもあり、逆に本来なら余暇の時間として与えられているはずのこの夕
凪の時間を塾などという収容所から解放されることに嬉しく思うこともある。まあ、なん
ていうか感傷的になってるんだろうな。似合わんことだが。
 それからしばらくは無心にペダルを踏み続け、ママチャリがそろそろ平坦な道に差し掛
かったとき、それまで沈黙を保っていた佐々木がおもむろに俺の背中へと話しかけた。
「キョン、吉村美代子さん……彼女は本当にすばらしい女の子だね」
 ああ、それには大いに同意したい。よく俺の妹の親友になってくれたものだ。
 佐々木はふっと笑い、
「それに彼女は、妹さんによるハプニングがきっかけとはいえ、あそこまでキミに対して
はっきりと言えるなんてね……」
 はっきりって、俺を兄として慕っていると言ったことか?
 しかし佐々木は、喫茶店で注文を間違えられた客のように、さも呆れたような溜息を漏
らし、
「やれやれ、結局はそれか。ふぅ……キミときたらまったく……。しかし、だからこその
キミだな。僕はある意味安心したよ」


419 :冬の日のコンフェッション 7/7:2007/06/02(土) 15:24:19 ID:yZ5bybz1
 何やらまたも佐々木にバカにされたように思うのだが、気のせいだろうか? それでも
佐々木の口調が少し優しげだ。例えるなら、至らない我が子をむしろ慈しんでいるようで
もあった。
 だが佐々木は再び沈黙し、何かを考えている気配が後ろからひしひしと感じられた。
 そして俺の漕ぐママチャリが支線の沿道に差し掛かった頃だろうか、佐々木が魔法書の
封印を解くかのように沈黙を破り、そして、
「キョン、もし僕がキミのことを……」
 と言いかけたところで、無遠慮にやってきた電車がレールを叩きつける音と、それに被
さるように警笛の音が佐々木の言葉を全てかき消した。
 俺は佐々木の言葉を確認するため停車し、後ろを振り返ったが佐々木は何でもなかった
かのように首を振り、
「さあ、早く行かないと遅れるぞ。例え塾とはいえ、僕はこれでも無遅刻無欠席で通して
いるんだからね」
 佐々木は殊更明るい声で俺を促した。
 それを受けて、俺は気持ちを切り替えるように再びペダルを踏み込んだ。

 ――あの時、佐々木は俺に何を言おうとしていたんだろうか。


 それから一年を経て佐々木と再会した日の夜、俺はそんなことを考えながら部屋で本日
のSOS団強制イベント、市内探索で手に入れた戦利品の品定めをしていた。

 ああそれと、佐々木が言っていた俺に思いを寄せる女生徒とやらは、ついぞ現れること
がなかったことをここに追記しておく。結局は謎のままで終わった。
 もちろん、佐々木が語ってくれることもなかった。


終わり

佐々木スレ10-387 「僕は、ここにいる」

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

387 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/02(土) 05:34:20 ID:IMKvClDm
 なぜ私はここにいる?
 きっかけは何だ?
 ・・・これは、ええと学校の校庭・・・象形文字?
 「私は、ここにいる」
 これが、スイッチか。
 ああ、我が半神よ、君はここから・・・。
 だから、私は生まれたのか?
 くっくっ、ああ、色々と繋がったよ、なるほど。
 「地ならし」・・・だけじゃないな、もしもの時のバックアップ・・・あるいは可能性のひとつか。
 ・・・おや、世界の改変が可能なのか。
 ならば、私が主になることも・・・くっくっ。
 おもしろい、おもしろいよ、これは。
 君のあの奇矯な振る舞いはこのためか。
 唯我独尊でありながらも溢れる優しさ。
 自らが生まれるための行為でありながら、それによって押しつぶされるモノたちへ反逆の機会を用意しておくとは。
 またひとつ、君の愛らしさを知ることができたよ。
 よろしい、ならば勝負だ。
 どちらが世界の主となるか。
 もっとも、私がそう決意するのも世界創造の一部かもしれないがね。
 それでも抗わせてもらおう、それが役目なのならば。
 君は私が勝利することを許しているのだからね、これは公正な勝負だ。
 勝てる可能性は十分にある、くっくっ。
 ええと、それでは私自身を再構成しようか。
 このままの記憶と能力を保ったままなら勝利は簡単なんだが、君はそれを望んでいないだろうし、こちらとしてもおもしろくなさそうだ。
 ゲームには一定のルールが必用だからね。
 では、私をこの世界に割り込ませようか。
 ふむ、個人情報はこんな感じで、彼女と交差するタイミングはこんなものかな?
 ええと、名前は・・・今日は七夕か。
 七夕と言えば、笹の葉に願い事か。
 じゃ、笹の葉から・・・佐々はちょっとマイナーだから、無難なところで佐々木かな?
 よし、これで介入、改変すべき情報に抜けは無いね。
 それでは、ゲームスタート。
 
 「僕は、ここにいる」

佐々木スレ10-324 佐々木は友達とゲーセンとか行ったことあるのかな

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

324 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:19:31 ID:kQLveJm9
佐々木は友達とゲーセンとか行ったことあるのかな


325 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:25:27 ID:IN/LWbzS
実は夜遅くまでゲーセンで脱衣麻雀するのが密かな楽しみだったりして
あ、キョンと塾の行き帰りする前ね


326 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:35:30 ID:71cd26hL
>>324
放課後、塾が無い日にキョンに連れて行ってもらった初めてのゲーセン。
UFOキャッチャーで彼が取ってくれたぬいぐるみや、
初めて撮った好きな人とのツーショット…もといプリクラは、
僕の一生の思い出です。


327 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:37:04 ID:kQLveJm9
ちょww
脱衣麻雀はねーよw
キョンと一緒にプリクラ撮ったりしてたりして


328 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:41:25 ID:IN/LWbzS
いや冗談だすまん
プリクラだと当たり前すぎてな
でもゲーム大好きっぽい気がすんだけどな


329 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:41:58 ID:P7hEfsa3
佐々木は結構格ゲー強そうだ


330 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:43:33 ID:SxrsNDG6
なんだろう…マジックアカデミーとかやってそうな印象はある、あとテトリスは確実に強い
俺の経験上から知りうる法則だ!


331 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:44:33 ID:qvxaCipQ
ゲームとか毛嫌いしてるイメージがある。
やってパズルゲーとボードゲームぐらいじゃないだろうか。


332 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:44:49 ID:fCM7Ka7D
佐々木はテトリス下手そう。

「あ、わわ、キョン! これどうするの!?」


333 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:47:46 ID:IN/LWbzS
塾帰りの美少女がひとりで何故か麻雀ゲームやってたら萌えるなと
ひとりでプリクラしててもいいんだけどね


334 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:50:23 ID:kQLveJm9
>>326
泣いた…

佐々木はアナログゲームは好きそうだけどテレビゲームは苦手そうだな
テレビゲームをやってたとしてもスーファミ世代しかやらなさそうだ


335 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:53:46 ID:++dDIJe1
ぼくはファミコンには興味が無くってね
佐々木よ…、テレビゲーム全般をファミコンと呼ぶだなんておばちゃんだな
おばちゃんとは失礼だな…。じゃあなぜファミ通とかいう雑誌があるんだい?


336 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:54:19 ID:P7hEfsa3
>>333
一人でプリクラは寂し杉だな…
佐々木団(藤原はいない)で遊びに行ったりすることはあるのかね?
ゲーセンで橘たちとプリクラとか撮ったりして遊んでたりして


337 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 20:59:16 ID:kQLveJm9
>>335
なんか佐々木らしくてワロタw
佐々木はポケモンみたいな育成ゲームは好きそうだな
あと逆転裁判みたいのも


338 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:06:35 ID:pzevsANi
>>335
橘はともかく昆布はそういうことに興味は無さそうだけどねw
プリクラ撮るとき妙に佐々木に密着する橘が連想された

>>336
ポケモンは伝説ポケばっかのメンバーにしてそうだ


339 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:10:19 ID:pzevsANi
安価ミス
>>336>>337


340 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:13:59 ID:kQLveJm9
>>338
そしてオドシシ等のポケモンのニックネームを全てキョンにしてる佐々木さん


341 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:16:54 ID:SxrsNDG6
>>340
モンジャラは九曜かな?いや、モジャンボかw


342 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:26:06 ID:pzevsANi
ハルヒキャラ全員ポケモンに例えたいけど佐々木が例えにくいな


343 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:30:43 ID:kQLveJm9
>>341
奴に消されるぞ…
でもしっくりくるw
>>342
佐々木はポケモンで例えたら知的そうなサーナイトかミロカロスジャマイカ?


344 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:35:34 ID:FCfWYp1y
ヤマモト・ヨーコ並みのA級シューターだったりして

「怒首領蜂大往生?ああ、なんとか2周目まではいけるのだがね。それから先がどうもね」


345 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:36:29 ID:SxrsNDG6
虫姫さまやってほしい


346 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:40:48 ID:ClAG4LU0
トリガーハート…



いや、やっぱいい


347 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 21:55:31 ID:6ImEs8l+
60秒避けラスト0秒で引っ掛かって落胆する佐々木。


348 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 22:05:37 ID:P7hEfsa3
Fateみたいな伝記ノベルゲームも好きそうだな

「キョン、これはどっちの選択肢を選べばいいんだい?」


349 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 22:12:59 ID:y1KnvWSI
昨日の佐々木団+キョンが北高生でSOS団が光陽園学生ならのSSの続きをそろそろ
書き込みます。


350 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 22:16:27 ID:0jagrczw
>>348
1.イリヤを助ける。
2.イリヤを助ける。
3.イリヤを助ける。


351 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/06/01(金) 22:21:50 ID:kQLveJm9
>>348
選択肢を間違えて死んで凹む佐々木やえちぃシーンを慌ててスキップする佐々木が目に浮かんだ

>>349
wktk

佐々木スレ10-311 「流星に何を願う」 (5)

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

311 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 15:57:31 ID:dxIrdRCf


        8


 冬休みを目前に控えた週末、その夜。
 いつも通りに塾帰りに佐々木を家まで送り届け、めしを食ってテレビを見た後、風呂に
入って冷えた体を温めていた。
 そう言えばクラスメイトたちの間では冬休みの話題で持ちきりで、特にクリスマスは誰
と過ごすなんてことで盛り上がっていた。とりあえずその会話の輪に加わっていた俺は、
誰かが「みんなで集まってクリスマスパーティーをやろう」と言い出したのでそれに参加
を表明すると、「あんたは佐々木くんとラブラブクリスマスでしょ」というよくわからな
い理由で何故か丁重に断られた上、仕舞いには「ファイト、だよ?」と主語も目的語も無
いよくわからない応援をされて、一体何と闘えばいいのか俺は首を捻った。
 なんでみんなして揃いも揃って同じような誤解をするんだ。俺と佐々木はそんなんじゃ
ないんだってば。……そんなんじゃないよな? うん、そんなんじゃない。
 なんてことを、さっきテレビでやっていた〈お風呂でできるバストアップ体操〉をとり
あえず試してみながら考えていた。
 テレビじゃあ一ヶ月続ければ効果が出るとか言っていたけど、初日にして既に飽きた俺
はさっさと風呂を上がることにし、その時、何気なく風呂場の大鏡に目をやった。
 鏡に映った自分の姿をしげしげと眺めて思う。
(意外と悪くないんじゃないか?)
 そりゃあ、雑誌のモデルみたいには起伏のある体じゃないけどさ、ウェストの細さには
まあまあ自信が無くはないし、佐々木を乗せて自転車を扱いでるおかげか太腿の筋肉も良
い感じに締まってる。
 ちょっとポーズなんかとってみちゃったりして。腰と頭に手を当てる。うん、なかなか
様になってるじゃないか。鏡の中の自分にウィンクしてみる。
「何やってんだ? 馬鹿みたいだからやめたほうが良いぜ」
「うわあっ!?」
 突然の声に驚きながら振り向くと、パジャマ姿の弟がドアのところに立っていた。
「お前っ、バカー! ひっ、人が入ってんのに勝手に開ける奴が居るか! 出てけ! ス
ケベ! 変態!」
「なんだよ、キョンのくせにいっぱしの女ぶって――痛ってえ!」
 弟の脳天に拳骨をかまし、脱衣所に上がってバスタオルで前を隠した。
「んで? 何なんだよ」
「電話」と言いながらコードレスフォンの受話器を差し出した。
「ドアを開ける前にそれを言え!」
「お姉さんは居ますかって言うから、キョンなら居ますよって」
「誰からだよ?」
「お・と・こ」
 弟はキシシ、と笑うと、もう一回殴られるのを予期したのか逃げるように出ていった。
 俺は受話器を耳に当てて言った。
「もしもし?」
 受話器から一番最初に聞こえてきたのは、聞き慣れた笑い声だった。
『くっくっ、やあ、キョン。決して盗み聞きをするつもりではなかったんだが、全部聞こ
えていたよ。面白い弟さんだね』
 これだ。弟は保留ボタンを押すことを覚えない。
『入浴中だったのかい? それはすまなかった。掛け直したほうが良いかな?』
「ううん、ちょうど上がろうと思ってたところだったし。で、何?」


312 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 15:58:43 ID:dxIrdRCf
 俺は体を拭きながら応対した。
『うん、それがね、せっかくお風呂に入った後で申し訳無いんだが、今からちょっと出て
こられるかい?』
「今から? なんで?」
『君に見せたいものがあるんだ』
「見せたいもの?」
『ああ。きっと喜ぶだろうと思って』
「う~ん、急に言われても時間が時間だしなあ。明日じゃだめなの?」
『ああ、明日でも明後日でもだめだ。今日、今からじゃないと』
 俺は困惑していた。思えば、佐々木がこんなふうに熱心に俺のことを誘うのは珍しい。
いや、ひょっとしたら過去無かったかも知れない。佐々木が俺に見せたいと言うものにも
興味はある。
 だけどこんな夜更けに? 正直な気持ちを言えば、せっかく風呂に入って体が温まって、
さあこれから寝ようという時に再び寒空の下へ出掛けていくのは気が引ける。
 しばらく考えたあと、溜息をつきながら言った。
「わかったよ」
『来てくれるかい? じゃあ、今から僕が言う住所に来てくれないか。時間は、準備がで
き次第で構わないよ』

 佐々木が呼び出した場所、それは佐々木の家から程近いところにある高層マンションの
前だった。
 自転車の乗って指定された場所に到着すると、佐々木は既に待っていて、その傍らには
見知らぬ男が居た。
「やあ、よく来てくれたねキョン」
 佐々木が挨拶した。
「この人は誰?」
「彼は僕の仲間だよ」
 隣の男はにこやかに微笑んで喋りだした。
「始めまして。君のことは佐々木くんから聞いてるよ。よろしく」
 佐々木の仲間という男は、遠目で佐々木と二人でいるのを見た時は年上のように見えた
けど、それは隣の佐々木の外見が幼すぎるからで、近寄って見れば同年代らしかった。
「それじゃあ、早速上に行こうか」
「上?」
「屋上さ」
 仲間の男が、入り口にあるパネルのテンキーを操作して自動ドアを開けた。そうか、彼
はきっとこのマンションの住人なのだろう。佐々木と一緒に俺のことを待っていたのは、
佐々木ひとりではこのドアを開けられないからだ。
 エレベーターに乗り込むと、佐々木が屋上のボタンを押す。
 俺はそこで、いよいよ疑問をぶつけた。
「ねえ、屋上に何があるの?」
 佐々木はエレベーターのドアの上にある階表示を見つめたまた答えた。
「地球の公転軌道と――」
「え、何?」
「交差するように、〈ダストトレイル〉という細かい宇宙塵(ダスト)が構成するリング
がある。そのダストは彗星が太陽付近を通過する際に、あとに撒き散らしていったものだ。
地球が〈ダストトレイル〉の軌道に差し掛かった時、無数のダストが地球目掛けて降りそ
そぐ。その光景は――」
 エレベーターが屋上に到着した。
「ちょっとしたスペクタクルだよ」


313 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 15:59:42 ID:dxIrdRCf
 屋上には、また何人かの人が居た。彼らも佐々木の仲間たちなんだろうか?
 見れば彼らはカメラを手にしていたり、それにあそこに置いてあるのは――望遠鏡?
 星? 星を見るの?
「このマンションはこの近辺では高い建物だ。観測するにはうってつけなんだよ。そして
この時間にもなれば、段々と民家の明かりやネオンも消える。ほら、見てごらん」
 そう言って佐々木は天頂方向を指差し、頭上を振り仰いだ。つられるままに、佐々木の
視線の方向に目をやる。
 するとにわかに、漆黒の空を切り裂く一条の光の筋。
「流れ星?」
 光はすぐに消えた。けど、またすぐに別に方角に光が現れる。
「えっ、また? あっ、今度はあっち! あっちにも! うわっ凄い、今度は二ついっぺ
んに! 何なのこれ? 佐々木、凄いよ!」
「流星群さ。三大流星群のひとつに数えられる、十二月のふたご座流星群だよ。流星群自
体は数日間に渡って続くが、今日はそれがもっとも活発になる日なんだ。一時間で約八十
個ほどの流星が観測できる」
「流星群……」
「これを君に見せたかったんだ」
 佐々木は視線を夜空から俺に移して言った。
「突然呼び出したりして悪かったと思ってる。事前に約束を取り付けておけば良かったか
も知れないとも思うけど、この週末は曇りの予報だったから、こうやってきちんと観測で
きるという確証は持てなかったんだ」
 そして佐々木は、俺が滅多に聞いたことの無い、不安そうな声を出した。
「わざわざ足を運んできただけの甲斐はあったかい?」
「うん。素敵。本当に……凄いロマンチック」
 俺がそう答えると佐々木はほっとしたように微笑んだ。
 そのまましばらく、俺は夜空を駆ける流星の乱舞に心奪われていた。
「これだけあったらさ、願い事し放題だね」
「流れ星に願い事か。いかにも女の子の好きそうなことだね。何をお願いするんだい?」
「うん? えーっとね――」
 俺は口ごもった。
 何をお願いすれば良いんだろう?
 お金が欲しいとか、勉強しなくても成績が良くなりますようにとか、スタイルが良くな
りますようにとか、そんな程度のことだったらすぐに思い付く。でも、そんなことよりも
もっと何か別の大切なことがあるような、そんな気がする。
 俺は、何をお願いしたいんだろう?
 考えても思い付かなかったから、ここは誤魔化すことにした。
「内緒だよ」
 そうだな、ここはひとつ受験生らしい願い事にしよう。志望校に――北高に受かります
ように。
「ずっと上見てたら首が疲れちゃった」
 俺は地面に腰を下ろしてから、仰向けに寝転んだ。
 夜空に時折引っ掻き傷のように白い線が走り、そしてそれは文字通り瞬く間に、儚く姿
を消していく。
「本当に綺麗……」
 そうやって俺は、流星の群れを眺めながら、いつしかまどろんでいった。


314 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 16:00:45 ID:dxIrdRCf

 目が覚めたのは部屋の中だった。窓の外は藍色に染まり、その光が部屋の家具の曖昧な
シルエットを映し出している。
 部屋の中に、もう一人人間が居ることに気が付いた。顔が見えない。真っ黒い影が俺を
覗き込んでる。
「誰?」
 俺は影に向かって尋ねた。
「やあ、お目覚めかい?」
「佐々木……?」
 名前を口に出したことで、平坦だった影がにわかに厚みを帯びて、そこに佐々木の顔が
現れた。影が佐々木に変身したみたいだ、と思った。
 俺は部屋の中を見渡し、そこでようやく、ここが自分の部屋じゃないことに気が付いた。
「ここ、どこ?」
 ふいに蛍光灯が点き、俺は目に刺すような痛みを覚えた。
「起きた?」
 声がして、入り口のほうに目をやると、最初に佐々木と一緒にいた男が、コーヒーカッ
プを二つ乗せたトレイを手に持って立っていた。
「ここは僕の部屋だよ」
 男は言った。
「屋上であのまま寝てたらさすがに体に毒だと思ってね。ぐっすり寝てたから起こすのも
しのびなくて、しょうがないから僕の部屋に運んだんだ」
「すいません、ご迷惑をおかけしちゃって……」
「いいって、別に。これ飲みなよ」
 そう言って男はテーブルの上にコーヒーカップを置いた。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
 俺がカップを口元に運ぶのを、佐々木は自分のコーヒーに砂糖とミルクを入れながら見
て、こう言った。
「あれ? キョンってコーヒーはブラック派?」
「うん。あれ? 知らなかった?」
「初めて知ったよ。と言うか、今まで僕の前でコーヒー飲んだことって無かったんじゃな
い?」
「そんなことないと思うけど」
「そうか、じゃあ僕が今まであまり注意して見ていなかったってことだね」
 佐々木はスプーンで掻き混ぜていた手を止めると、コーヒーに息を吹きかけて冷まし、
ゆっくりと口をつけた。
 俺も一口飲んだ。熱い液体が喉を通って腹の中まで落ちていくのが感じられた。

 コーヒーを飲み終えて、マンションを出る頃には外は明るくなっていた。
「すいませんでした本当に。色々と」
「いいって。じゃあ、気をつけて帰りなよ」
「はい。ありがとうございました。じゃあね、佐々木」
「うん、また月曜日」
 朝靄に霞む街を、家に向けて自転車を扱ぎ出した。朝の空気は冷たくて、口から吐く息
は真っ白になったけど――。
 多分、コーヒーで温まったおかげかな。
 自転車のペダルは、とても軽やかだった。







315 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 16:01:49 ID:dxIrdRCf


        9


 年が明けた三日目。
 受験を目前に控えた身にそんな余裕があろうはずもないのに、俺はしっかりとテレビの
年越しカウントダウンイベントも見た挙句、今現在もおせち料理をつまみながら、つまら
ない正月特番に見入って、寝正月を決め込んでいた。
 親の手前、少しくらいは勉強をする姿勢を見せるべきなんだろうけど、何しろ家族全員
揃ってだらけムードで、だらけてないのは弟くらいのもんだ。親も正月くらいは大目に見
てくれてる。
 そんなだらけきった我が家の門を正月から叩く奇特な奴がいた。
 来客を告げるベルの音に呼ばれていった母さんが俺の名前を呼んだ。
「お友達よ」
 はて、今日俺を訪ねる予定のある友達はいないはずだけど。
 俺は口の中の伊達巻をお茶で流し込み、奥歯に数の子が挟まってるような感覚を覚えな
がら客人を出迎えた。
「あけましておめでとう、キョン」
 うすうす予想はしてたけど、客人の正体は佐々木だった。
 佐々木はよほど寒がりなのだろうか。耳当てをして帽子を被り、マフラーと手袋を着け
ていた。小柄な佐々木がずんぐりに着膨れていて、その様相はまるでぬいぐるみのようで、
妙に愛らしさがあった。
「初詣に行こうと思って。合格祈願も兼ねて。やや遅くなった感もあるけど、昨日、一昨
日は親戚回りでね、今日やっと暇になったんだ」
 暇になったんなら寝てりゃあいいのに。とは口には出さなかった。
「で、俺はまた駅までお前を乗せて自転車を扱がなきゃいけないわけだ」
「バスもあるよ」
「いいよ別に。もったいない。たださ」
「何?」
「お前が事前に俺に電話をして自分の家まで来いって言ったら、俺がお前を乗せて走る距
離は半分で良かったわけだし、何よりお前もバス代使わなくて済んだんじゃないか」
「あっ、なるほど、それは迂闊だった」
 これだ。佐々木は賢いくせに時々妙に抜けている。俺にはこいつの思考回路は読めない。
 ま、そうは言っても俺は別に佐々木を乗せて走るのは嫌じゃないし、良いんだけどね。
 俺は一旦佐々木を待たせて自分の部屋に戻り、外行きの服に着替えた。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
 佐々木を自転車の荷台に乗せて、走り出した。

 電車で二駅行ったところに、この地域で一番大きい神社がある。
 新年明けて三日になってもまだまだ沢山の初詣客で溢れかえっていて、三日目でこれで
は元日がどうだったかを想像すると恐ろしくなった。
 人込みの中へ分け入っていくと、早速佐々木の姿が消えた。
「さっ、佐々木!?」
「キョン! ここ! ここだよ!」
 声はすぐ近くからした。後ろを振り返ると、俺のすぐ後を歩いていた人の肩から、ぴょ
こぴょこと飛び跳ねる手が見え隠れしていた。あの手袋は確かに佐々木のだ。
 なんのことはない。ただ俺と佐々木の間に人が一人二人割り込んだだけだ。
 そして、たったそれだけのことで見失ってしまうくらい、佐々木は小さかった。


316 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 16:03:23 ID:dxIrdRCf
「ああ、びっくりした」
「気を付けなよ。この人の中に埋まっちゃったら二度と見つけられないぜ」
 俺と佐々木ははぐれないように手を繋いで進むことにした。
 しかし、それでも不足だということをすぐに思い知ることになる。
 進むにつれてさらに人の密度が増した。すると、突然繋いでいた手が急激に後ろに引っ
張られ始め、俺の手を握る佐々木の力が抜けてするりと俺から離れていった。
「佐々木!」
 佐々木の腕が人込みの中へ飲み込まれて消えていく。俺はそれを見失う寸前に掴むこと
に成功し、力ずくで強引に引き寄せた。
「本当にお前は、もう」
「すまない」
 手を繋いでもだめならしょうがない。俺は佐々木の肩を掴んで、しっかりと抱き寄せて
その状態で進むことにした。
 やれやれ、こういうのは本当なら俺がされる側だと思うんだけど。
 そうやってなんとか賽銭箱の前まで辿り着いたのはいいけど、このおしくらまんじゅう
状態では財布を出すこともままならない。両腕が自由な佐々木はまだ良いけど、特に片腕
で佐々木の肩を掴んでいる俺はどうしようもない。放したら佐々木はどっか行っちまう。
「佐々木、俺のぶんも投げといてよ。代金は後払いで」
「それってご利益あるのかな」
「知らない」
 賽銭箱の前でも立ち止まることは許されず、人の流れに流されて、折り返し地点を通過
し強制的にUターンさせられて、佐々木がようやく財布から二枚の硬貨を取り出した時に
はだいぶ賽銭箱から離されていた。
「えい!」
 佐々木は力いっぱい賽銭を放ったけど、賽銭箱よりもずっと手前で失速して落下してし
まった。たぶん誰かの頭を直撃したことだろう。南無。
 賽銭箱に向けて無数の硬貨が飛び交う様は、機銃の一斉掃射を連想させた。
 俺たちは少し人の流れから外れて、境内の隅のほうで休憩することにした。
「はああ、疲れる」
「全く、僕などは呼吸もままならないよ。この服装は失敗だったかな。人込みの中は暑い」
「あ、あそこでおみくじ売ってるよ」
 俺と佐々木はおみくじを買って開いた。
「やった! 大吉だって。佐々木は?」
「末吉だってさ。残念。試験はもう間もなくだから末に良くなっても遅いな。まあ、所詮
こんなものはただの紙切れ、当たるも八卦、当たらぬも八卦だよ」
 そう言う佐々木はどこか悔しいのを堪えているようで、俺はなんだか可笑しくなってし
まった。
 俺は自分のくじに書かれている文をもう一度見直した。
『待ち人来る』
(待ち人……ねえ)

 初詣を終えて地元の駅に戻ってきた俺たちは疲労困憊していた。
「やっと帰ってきたよ。疲れた」
「ほらほらキョン、もうひと頑張りだ」
 佐々木は小悪魔的な笑みで自転車を指差した。
「ちぇー、図々しいの。ねえ、たまには佐々木が運転しない?」
「うん、それは無理だな」
「へいへい、わかりましたよ」
 悪態をつきながらでも、自転車に跨って、佐々木の両腕が腰に回されると頑張る気にな
ってしまう。
 不思議なもんだな、と俺は思った。





317 :流星に何を願う:2007/06/01(金) 16:05:43 ID:dxIrdRCf
(――続く――)



とりあえずここまで。
次あたりで完結できると思います。

佐々木スレ10-212 無題(1)

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

212 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/31(木) 19:52:18 ID:S2tw+ild
「よぉ、佐々木。待たせたな。」
駐輪場で待ってもらっていた佐々木は、声をかけてようやく俺の存在に気がついたようだ。
「ああ、気にしないでかまわないよ。
ただ、キミが運悪くも先生に仕事を頼まれてしまった、それだけのことだろう。
まさかそのあとどこかで道草を食っていたとも思わないし、そんなことはないだろう?」
ああ、俺は人を待たせてそんなことをするやつじゃないぜ。
「ところでお前の持ってるそいつは何だ?」
「ああ、これかい?最近の若者はあまり使っていないようだね、ラジオだよ。携帯式の。」
そうかい、確かに最近のやつらはケータイもってるからな。使わんだろうよ。
そういいながらぐちゃぐちゃに絡み合った自転車の中から自分のものを引きずり出す。
「ほら、乗ってくれ。」
「ああ、いつもすまないね。ただ、今日はキミの用事で少しばかり時間をとってしまった。
少しばかり以上に急がないと遅れてしまいそうだね。」
そう言って左腕につけている丸っこい小さな腕時計を見せ付ける。その腕の白さと細さに
ああ、やっぱり佐々木は女なんだなと最近時々思うようになった。
「ん?どうしたんだいキョン。僕の腕時計に何か思うところでもあったのかい?」
「いや、なんでもない。さて、急ぐぞ。俺が遅れることはなんとも思わないが、
俺のせいでお前が遅れるようなことがあったら、何を言われるかわからんからな。」
しっかりつかまってろよ、振り落とされないようにな。
そういうが早いか、全速力で出発。
「キョン、ちょっと早すぎはしないか?さすがにこの速度だと、
抑えていてもスカートがめくれてしまいそうだ。
いや、僕としてはそこまで大きな問題だとも思っていないんだがね。
やはり、少しは気になるものなのだよ。このぐらいの年頃では特に、ね。」
むぅ、そういわれては速度を落とすしかないじゃないか。だが、それでは塾に遅れてしまう。
塾に遅れたら、お前は困るだろ。
「どうするのが最善の策だ。俺には思いつかん。」
「おやおや、キョン思考放棄かい。
まあ、確かにどうしようもないという選択も1つの選択肢であることに間違いはないけれど、
あまり良い考えだとはいえないな。」
云々、佐々木の話を聞いているうちに結局そのままついちまった。
「どうやら間に合ったようだね、結局先ほどの問題は解決されないままだが、
また今度改めて考えることにしようじゃないか。くっくっ」
佐々木は何がおかしいのか、肩を揺らして笑っている。
自転車止めてくるから先に行っとけ。ここまできて遅れたらそれこそ元も子もない。
「そうかい、悪いね。では教室で先に待たせてもらうことにするよ。」
さて、どこが空いてるかな。あーくそ、こういうときに限って空いてねぇ。
きちんととめることをあきらめて、誰かの自転車のあいだに押し込む。
そこから教室までダッシュ!


213 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/31(木) 19:55:25 ID:S2tw+ild
「やぁ、キョン。どうやら間に合ったみたいだね。でも、どうせ自転車置き場に空きがなくて、
そのままあいだに押し込んできたんだろう。帰りには誰かが躓いてドミノ倒し的にこけているかも
知れないね。ところで、キョン、もともとドミノというのは倒して遊ぶものではなく外来遊戯のひとつで……」
そこで、教師が入ってきた。
「よーし、はじめるぞ。38ページをひらけ~」
奇妙なピンクのシャツを着た中年男の話を右から左へ流しつつ
(ラジオか、確か昔古くなったやつをもらって物置にしまっといたよな。)
あとで引っ張り出してくるか、とかいろいろ考えているうちに授業は終わっていた。

みんなが、ぞろぞろと帰っていく中その波に乗って自分も駐輪場に向かう。
っと、佐々木はどこだ?
「キョン」
後ろから、突然。
「ああ、佐々木。」
「どうしたんだいキョン。誰か探しているのかな。それとも、
僕が先に教室を出たのに気づかずに、『っと、佐々木はどこだ?』とでも思ってたのかな?」
ご名答、よくわかるな。
「それはキョン、キミのことだ、授業で半分眠ったようになっている頭で、
ほかの人より、そんなに背の高くない僕を見つけるのは難儀なことだろうからね。
それにしても、わざわざ親御さんに高いお金を払ってもらっているんだから、
せめて、ノートぐらいはまともに取るべきではないかなと忠告しておくよ。」
ちゃんととってあるさ、それだけはやってるはずだ。ここでは
「だったら、あとで見直してみるといい。きっと半分は読めないだろうからね。
まあ、僕もそんなに忙しい身じゃないし、わからないことがあったら休憩時間にでも
きいてくるといい。わかるように説明できるかは保障できないがね。」
テスト前は頼むぜ。
「そういえば、お前、今日ここにくる前ラジオ聞いてたよな。」
「ああ、これのことかい。」
そう言って佐々木が取り出したのは黒いポケットラジオだった。
「これは、先日うちにきた従兄がくれたものだ。今大学2年生でね。僕が3年になって
受験勉強をしていると聞いて、くれたんだ。受験前になるとどうしても
親が、テレビを見る時間を減らすだろうから、部屋でこれでも聞きながら勉強しろとね。
それで、聞いてみるとなかなか面白いじゃないか。それですっかりはまってしまってね。
朝の登校中なんかにも聞いたりしているのさ。」
ってことは、学校に持ってきてるんだろ、休憩時間にでも聞けば良いのに。
「何をいっているんだいキョン。学校ではキミがいるじゃないか。僕にとってもっとも有意義な
時間だよ。それをわざわざつぶしてまでラジオを聞こうとは思わないさ。」
「そ、そうか」
「あぁ、バスがきてしまったみたいだ。キョン、また明日学校で…」
ああ、またな。
その日から、時々ラジオを聞くようになった。確かになかなか面白いもんだな。
初めて投書するときは、さすがに緊張した。結局放送されなかったけどな。
まあ、そんなこともある。そして、このなかには佐々木の投書も混ざっているのだろうか?


214 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/31(木) 19:57:40 ID:S2tw+ild
そして、春休みも過ぎた頃だ。

「やぁ、キョン。」
この前佐々木と会ってからまだ、2週間ほどしかたっていない。
「佐々木か、よく会うな、最近。」
「そうだね。僕にとっては大変喜ばしいことだよ。キミにとってもそうではないかな。
もし、キミに合いたくなかったんだと言われたなら僕はとてもショックだが、
キミは仮にそう思っていたとしてもそんなことは言わないだろうね。
キミは優しすぎるほどに優しいから。」
「さあな、俺が優しいかどうかは俺にはわからん。
ただ、ただお前に会いたくなかったなんてことはないな。」
むしろ、お前に会いたくないなんてやつがいるなら見せてもらいたい。
「そんな、僕は会いたくないと思われる人がいないほどの善人ではないと思うけれどね。
まあ、人に恨みを買うような行為をわざわざするつもりもないけれど、中学時代に
僕が振ってきた彼らは僕にあったらどんな顔をするだろうね。くっくっ。
ところでキョン、ここにいると言うことはまた涼宮さんたちを待っているのかな?」
今日は誰を待ってるんでもねーよ。テスト前だからな。国木田のとこにでも行って
わからんところを教えてもらおうと思っただけだ。約束してたわけじゃなくて、
今から押しかけようとしてるだけなんだがな。
「そうかい、確かに彼の説明はなかなかに明瞭だ。ただキミのわからないところというのは
要するに寝ていたところではないかな、特に数学の。それより、キミは現在話している相手が
僕だということを失念していないかな。さすがにそれはないって。
だったら、僕が協力させてもらっても問題ないだろう。彼よりもうまく教えられるという
とは言い切れないけれども。彼とはいつでも話せるだろう。久しぶりに2人で時間を取れるんだ
こんなときぐらいは頼ってもらえないだろうか?」
お前が教えてくれるほど頼りになるモンはないな。家庭教師をできるぐらいの秀才だしな。
「家庭教師か、どうだろうね。あまり僕に向いた仕事とは思えないしそんなに僕は秀才でも
ないよ。君が思っているほどはね。ただ、『キョンの』家庭教師というのであれば、
それにはまったく不服はないね。むしろ光栄なぐらいだ。キミほど教えていて楽しい生徒は
いないだろうからね。」
どうせ俺は基礎の問題でも当然のように躓く授業中に寝てる劣等生だよ。
「キョン、拗ねないでくれたまえ。僕はただほめているだけだ、以前に話したかもしれないが、
キミは授業を理解していないのではなくて理解しようとしていないだけではないかな?
現に、中学のときのテストでも、僕が教えたところだけは、ほぼ全部正解していたし。」
学校の授業中には羊がそこら辺を漂って俺を睡魔と言う魔物にひきあわせてるんだよ。


215 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/31(木) 20:00:27 ID:S2tw+ild
「くっくっ相変わらず面白いねキミは」
ところで佐々木よ、お前誰かを待ってるんじゃないのか?
「どうしてだい、キョン。僕は別に誰も待っていないさ。第一誰かと約束があるのなら
僕はキミに勉強を教えようかなどとは言わないと思うはずだ。キミがどうして
僕が誰かを待っていると思ったのか。ぜひとも教えてほしいね。」
そういわれてみればそうだな、どうやらテスト前で注意力が散漫になってるんだろうよ。
「どうしてかっていわれたら、それだな。」
そう言って、佐々木の胸元を指し示す。そこにあったのは、黒いラジオだった。
「このラジオは、確か前に見せたことがあったね。いつも君が先生に呼び出されて
それを待っているときだったかな。確かに、誰かを待っているのでもない限り、外で
わざわざラジオを聞くような変わり者は少ないかもしれない。ただ、今回は
買い物に行くついでにバスの中で聞いていただけのことさ。気に入っている番組が
この時間にあってね。」
買い物って、何買うんだ?
「服をね、先日目をつけていたものが、2着ほどあったんだけど、1着しか金銭的に
都合がつかないんだ。ちょうどいい、キョン、キミに決めてもらおうじゃないか。」

佐々木にぐいぐいと腕を引っ張られて、デパートに引きずり込まれる。やれやれ、
昔からこんなに強引なことがあっただろうか。せいぜい、傘を忘れたときに無理やり
入らされたぐらいだと思うんだがな。
「さて、キョンどちらが良いだろうか。キミのことだ、服にたいしたこだわりはないだろう
こんなときはむしろ悩まずに直感で決めてくれたほうが、いいのかもしれないね。」
そういわれてもな、さすがに決めかねるぜ、俺でも。
自分のならテキトーにこれでいいやで決められるんだが、そうだな。
いくらか手にとってじっくり見た後
「こっちだ。」
一方を示す。
「決めかねると言った割には存外あっさりと決めてしまったね、キョン。
一体どういった基準で決めたのかな。」
気にするな。第六感ってやつが俺にささやいてきたんだよ。
「では、そういうことにしておこうか。」
支払いを済ませて、俺たちは駐輪場へ向かう。
「しまったな。」
「ん、どうしたんだいキョン。何か買い忘れたものでもあったかな。昔からキミは
何かにつけ、遅刻したり、忘れ物をしたり、課題をやってこなかったりしたものだが」
「ああ、悪い、ノートと赤ペン。切れてんだ。すぐ戻るから。先に駐輪場行っててくれ。」



216 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/31(木) 20:02:43 ID:S2tw+ild
言うが早いか彼は走っていってしまった。
「まったく、こんなときは小さな買い物でも一緒にしたいと言うのが乙女心だと
わからないのかな。まあキョンらしいと言えばキョンらしいのだけど。」
はぁ、と浅いため息がこぼれる。私がこんなにも思っているのに
彼は何で気づいてくれないのだろう。ああ、そういえばラジオの電池が切れたんだった。
駐輪場へと向かいながらケータイを取り出す。1コールで反応。彼にしては早い
「キョン、僕だ。」
『佐々木、どうした?何かあったか?』
こんなときでも心配してくれる。彼のいいところであり好きなところでもある。
「いや、ただついでに単4電池を買ってもらおうと思ってね。
それとももう支払いは済んでしまったかな?」
『ああ、まだだ。わかった、ついでに買っとくよ
………………………ああ、はいそれで良いです。』
小さい声で彼の誰かとの会話が聞こえる。敬語を使っていることから推測するに店員だろう。
年上の女性の・・・まったくキョンは・・・
『じゃあ、切るぞ。いいか?』
「ああ、悪かった。頼むよ。」
それにしても、なぜノートと赤ペンを買うのに店員と話をする必要があるのだろうか。
妙にあせっていたようだけどそれと何か関係あるのだろうか。

「やあ、キョン、ノートと赤ペンを買うにしては少し遅かったね。」
悪かったな、ノック式の赤ペンが見つからなかったんだよ。
「で、勉強場所は、どうする。ここからだと俺の家が近いが。」
「そうだね、いや。やっぱり、僕の家ですることにしよう。久しぶりに君の自転車にも
乗りたいしね。」
「そうかい、そんなにいいもんか、あれが。」
「人の価値観はそれぞれさ。キミにとってつまらないものでも僕にとってはかけがえのない
ものだってあるだろう。その逆もまた然りだね。」
まあ、そうかもな。それにしても、あれからもう1年経ってるとはな。
「そうだね。キミは涼宮さんのおかげで楽しそうだね。忙しそうではあるけど。」
「そうかもな、お前はどうだ。何か楽しいことは?」
「先日話したばかりだが、やっぱり勉強のための勉強というのは押し付けられている
感じがしてどうも性に合わないし、キミがいないとこういった話をする相手がいなくてね、
すこしつらいかな。おっと、久しぶりでもろくなっているのかな。
いつになく弱気になってしまったようだね。何心配しなくても良いさ。
僕は大丈夫。なにせ今日キミに会って存分に話をしていられるからね。」
わるいな、わざわざ土曜日つぶしてまで勉強につき合わせて。
「キョン、それを聞いて僕はキミが僕の話を聞いているのか少しばかり不安になってきたよ。
つらいのは日々の勉強をすることによって消耗していく体力ではなく。
話す人がいないという孤独感からくる精神の消耗なわけだ。
そしてキミとの会話はその精神の消耗を回復する手段の一つなんだよ。」
わかってる。そういう意味じゃなくてだな、勉強以外のことができればよかったってことだよ。
「そうかもしれないが、それはまた次の機会にとっておこう。さて、ついたね。
僕としてはもう少し乗り回してもらいたい気もするが、そのせいでキミの勉強時間を
削るのも罪悪感があるしね。ああ、自転車はそこに置いておいてくれたまえ。」

佐々木スレ10-126 無題

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

126 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:35:27 ID:vpVqWq6O
人が人を好きになる瞬間と言うのはいつなのだろうか。
俺の場合それは恐らくあいつと一年ぶりに出会った日だった。

四月。太陽の光がぽかぽかと暖かくなり、そろそろ半そでで外に出てもいいんじゃないかと心も軽くなる季節。
俺が佐々木と再会したのは春を象徴するかのようないい天気の日だった。
虫達と一緒にハルヒの活動もより活発となり、俺たちはまたいつものように駆り出されていた。
佐々木に会ったのはそんなどこにでもある日常だった。
出会いは唐突でまったく予期していない出来事だったが、久しぶりに見る佐々木は変わっていなかった。
肩のところで切った栗色の髪、相変わらず勉強ばかりしているのか白い肌に細い肩。涼しげに笑う口元。
春風になびく髪はそよぐ茂った草木をイメージさせた。
それなのに佐々木の眼の色はこの陽気な季節とは不釣合いでどこか寂しげだった。

「ほ、ほらキョン!いつまでボーっとしてんのよ、さっさと行くわよ!」
「あ、あぁ」

ハルヒがぐいと強引に俺の腕をひっぱる。

「またね、キョン」

佐々木はハルヒの方を少し見てどこか寂しそうに俺を見て笑っているだけだった。
そのときからだろう、俺の頭の中の隅にいつも佐々木がいるようになったのは。
佐々木が時折見せる物憂げな顔、その曇りを晴らしてやるのが俺の役目のような気がした。運命と言うやつであろうか。
佐々木を笑顔にしてやりたかった。


127 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:36:24 ID:vpVqWq6O
最初のデートの誘いはいたって簡素な物だった。「久しぶりに話でもしないか」とかいったそんな簡素なメールを送っただけである。
そうして俺たちは喫茶店で待ち合わせることにした。
高校に入ってしゃれっ気も出たのだろうか、普段見るより幾分かおしゃれだった佐々木は新緑の季節に輝いて見えた。
二人だけでこうやってちゃんと会って話すのは少し気恥ずかしかったが、一年のブランクなどすぐに埋まり、
会話は思っていたより弾んだ。

それからも佐々木とはちょくちょく二人で会うようになり、俺は佐々木に想いを告げようと決心した。
どこの誰が考えたのか知らないが、六月の花嫁は幸せになれる。そんなコピーを覚えていた。
別に結婚とかそういった大げさな物ではないが、俺にとっては告白もプロポーズも同じような物である。
きっと佐々木を幸せにしてやる。そういう意気込みもあった。

六月の灰色の空は街行く人々の気持ちを暗くし、しとしとと降り続ける雨は止むことを知らない季節に
俺は佐々木に思いを告げた。
生まれてこの方一度も告白などしたことがなかった。テレビドラマや小説の中で、主人公はヒロインに甘い文句を連発し、
世界中では今もこの瞬間にいくつものカップルが誕生しているだろうが、あんなに緊張するものだとは知らなかった。
佐々木は少し照れたように含み笑いをしながら
「いいよ、君がそう言うなら。」
といってくれた。
その日以来すべてが輝いて見えた。水びたしになった建物や草木はきらきらと光り、汗ばむ肌も陽気な夏の到来を予感させ、
自転車に乗れば常に追い風が吹いている気さえした。チープな表現だが俺は無敵だった。
俺は幸せだった。


130 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:38:12 ID:vpVqWq6O
夢を見た。
いつものように佐々木と会う夢。これからどこへ遊びに行こうか、今日は少し背伸びしておしゃれなレストランへ行ってみようか、
そんなことを考えていると佐々木がポツリと言う。
「ねぇキョン、僕の名前を覚えてる?」
佐々木の名前?バカだなそんなの忘れるわけが――
あれ、なんだっけ。佐々木の名前――

夢はそこで終わった。
俺の見る夢にはぼんやりとはっきりしとはしないがなんとなくなら覚えている夢、そして起きた後も生々しく記憶に残る夢の
二種類の夢を見る。今回の夢は後者だった。佐々木の名前、もちろん忘れるわけがない。はっきりと覚えている。
だが―
学校に行く途中ずっと頭がはっきりしなかった。頭の中をもやもやが取り巻いていてすっきりしない。
佐々木の名前のことだ。はっきりと思い出せるが何か得体の知れない違和感のような物が頭の隅にあった。
教室に入ると俺は中学校が同じだった国木田のところへと向かった。国木田も確か佐々木と面識があるはずである。

「やぁおはようキョン」
「国木田、変なことを聞くがいいか?」
「どうしたのさ?」
「実は――」

国木田から聞いた佐々木の名前は俺の知っている佐々木の名前と同じ物だった。当たり前である。
国木田は俺のことをさして変なやつと可笑しそうに笑っていた。
そうかこいつは俺と佐々木のことを知らないんだったな。俺は佐々木とのことを誰にも話していなかった。
谷口やハルヒにばれるといろいろと面倒くさそうだったからである。そしてそれ以上に周りに秘密にしていることが楽しかった。
一時間目の国語が始まり、俺は古典の教科書を開いた。ノートが湿気でべたつき気持ち悪かったので俺はノートをとる事を破棄し、
しばらく雨の降る校庭を眺めていたが、30分が過ぎたころで俺は教師の講義の声を子守唄にして眠りについた。


131 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:39:35 ID:vpVqWq6O
―――キョン
―――ねぇ、キョン

誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。佐々木か?
目の前に佐々木が現れ、また俺に言う。
キョン、僕の名前を思い出してくれたかな
忘れるものか、お前の名前は――

「キョンったら!」

俺は背中をつつかれ眼を覚ました。

「あんたいつまで寝てるつもりなの?そろそろ授業が終わるわよ。」

なんだ、夢の中の声はハルヒだったのか。
時計を見るとハルヒの言うとおりあと五分少々で授業が終わろうとしているところだった。
結局黒板を写したのは最初の三行だけ。まったく中間試験が近づいてきているというのに、われながら呆れる。
それより――またあの夢を見た気がするな…。今回の夢ははっきりと覚えていなかった。

休み時間、俺はもう一度国木田の席へと向かった。
朝ともう一度同じ質問を国木田にすると、予想通り不思議そうな顔をして答えた。

「どうしたの?さっきも言ったじゃないか。佐々木の名前は――」

あれ?そうだったっけ、佐々木の名前。
信じられないことだが俺は今生まれてはじめて佐々木の名前を聞いたような感覚に陥った。
国木田から聞いた佐々木の名前は確かに俺の知っている佐々木の名前だったが…
なんだろう、この今はじめて聞いたような響きは。
その感覚は「新鮮な響き」という表現とは遠く、なにかもっと気味の悪いものだった。


132 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:40:50 ID:vpVqWq6O
昼休み。いつものように谷口国木田の二人と昼食を取った俺は五時間目の準備をし、
食堂から帰ってきたハルヒと雑談していた。

「なあハルヒ、おまえ人の名前忘れたことってあるか?」
「え?」
「だから、クラスメイトの名前を思い出せなかったりとか…」
「なによいきなり。忘れるも何もこのクラス全員の名前を言えって言われたって無理よ」
「そんなんじゃなくてさ、もっと身近な人の名前だよ。例えば、朝比奈さんや長門なんかの」
「そんなの忘れるわけないじゃない。」

そうだよな、それなのに俺の頭はどうしてしまったんだろうか。
もうなんかいもあいつの耳元で囁いたはずである佐々木の名前を忘れるなんて。

授業が終わってからも俺の頭のもやもやが晴れることはなかった。
直接佐々木に会いたかったが部活をサボろうとするとハルヒが烈火のごとく怒り出すのは火を見るより明らかだったので、
俺と佐々木が会えるのはもっぱら休日のみだった。佐々木もそれを理解していてくれた。

佐々木は俺たちの他人が知っても何の面白みのない部活の話をいつも楽しそうに聞いていた。
自分も北高に入って俺たちと一緒にそんなわけの分からないことをしたかったと、うらやましそうに語っていた。

部活が終わると用事があるとみんなには嘘をつき、一人だけ帰り道からはぐれ佐々木に電話をかけた。
せかすようにコール音が数回鳴ると佐々木が電話を取った。もしもし。
佐々木の声…最後に聞いてからそんなに時間は過ぎてないはずである。佐々木の声、こんなんだっただろうか。
いつもは俺の心を満たしてくれる佐々木の声は、俺に何の感動も起さなかった。
会いたくてたまらないはずなのにあまり長く喋る気にはならなかった。
俺は会話を済ますと電話を切った。
俺は寄り道することなくまっすぐ家へと向かい、中学の卒業アルバムを探した。
やはり佐々木のことが気になっていた、俺の中の佐々木が消えかかっている。そんな不吉な思いさえした。

物置でホコリまみれになっていた卒業アルバムを引っ張り出してくると、佐々木のページを祈るように開いた。
いつもの佐々木を感じたかった。俺を安心させてほしかった。
だが――

俺は背筋が凍りつくかと思った。
そこにあったのは黄ばんだ紙面にびっしりと印刷された無機質な数字や見たこともないような文字。
まるで佐々木のページだけが文字化けを起したかのように、まるっきりそのページだけが異質な世界だった。


133 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:42:00 ID:vpVqWq6O
一瞬気を失いそうになった俺は目を閉じて深呼吸すると、改めて恐る恐る佐々木のページを覗き込んでみた。
そこには今さっきのようなおかしな文字はなく、あったのは他のクラスメイトとなんら代わりのない、各々の好きな歌手や将来の夢などを書き連ねた
何の変哲もない卒業文集の1ページだった。
ふつう卒業文集を開くときはノスタルジーな気持ちが生まれるものであるが、今の俺にはそんな余裕はなかった。
あるのは得体の知れない恐怖だけだった。
俺は佐々木のページのある文章に目が止まった。

「はやくみんなでタイムカプセルを開けたい」

タイムカプセル…。そうだ、俺たちは卒業式のあとクラスメイトみんなで校庭の桜の木の下にタイムカプセルを埋めたのだ。
俺の記憶では確かに佐々木もタイムカプセルに参加したはずである。
何かが狂っている。俺の知っている佐々木とみんなが知っている佐々木。何かがズレている気がする。
気付いたときには俺はスコップと懐中電灯を準備して雨の中を自転車で全力疾走していた。

外はすっかり暗くなり雨も本降りとなっていた。
びしょ濡れになっていることなんか気にも留めず俺はかつて通っていた中学校を目指した。
天気が幸いしてか外を出歩いている人もおらず、誰にも見つかることはなかった。
校門を乗り越えると、俺はなるべく周囲を警戒してタイムカプセルを埋めた桜の木へと急いだ。

桜の木に近づくにつれ気付いた。誰かが立っている。
俺はスコップを身構えながら恐る恐る近づく。だんだんとシルエットがはっきりしてきた。
そいつは傘もささず、ただぽつんと俺を待っていたかのように立っていた。
懐中電灯をゆっくりと向けると、俺はそこに立っているのが誰だかわかった。

「長門…」


135 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:42:59 ID:vpVqWq6O
長門は雨が降りしきる中じっと俺の眼を見ていた。
いつから立っているのか、ずぶ濡れになっていた。

「長門、こんなところで何をしている」
「あなたを待っていた。」
「俺を?」
「計画は失敗した。」

長門は意味不明な言葉をつぶやくと続けた。

「話がある。」

今俺は長門のマンションの一室にいる。髪と服を乾かした俺は、長門と向き合って座っていた。

「なんだよ話って」
「順を追って説明する。まずわたし達ヒューマノイドインターフェイスがこの惑星に送り込まれた理由について」
「ハルヒの観察だろう?」
「そう、当初の主な目的は涼宮ハルヒの観察だった。もうひとつの目的は監視。
この全宇宙の有機生命体において彼女の存在は並外れて特異であり、
宇宙の環境さえ変えてしまう可能性があった。しかし途中で状況が変わった。原因はあなた」

そういって長門は俺を見た。

「なんだと?」
「あなたが涼宮ハルヒと接触を開始してから古泉一樹らの言うところの"閉鎖空間"と呼ばれる次元断層の発生が活発化された。
情報統合思念体は次元断層の拡大は宇宙を飲み込み、やがては世界を崩壊させる。そう判断した」
「…」
「涼宮ハルヒは人間にとっても、宇宙にとっても危険をもたらす爆弾。このままではいつそのときが訪れるか分からない、
起こりうる危惧に対しては事前に防護策をとるべきと判断した。そして情報統合思念体はある計画を遂行した。
情報統合思念体の作り出した有機生命体に、涼宮ハルヒの人智を超えた能力を移植させようというもの」


136 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:43:59 ID:vpVqWq6O
俺は背中に寒気を感じた。佐々木が長門の一味が作り出した人間だったと言うのだ。
信じられなかった。
こんなウソのような話、誰が信じるものか。しかし長門が言うことによって、その信じがたい話はよりいっそうリアリティを増した。
長門がハルヒをかれこれ一年もの間だまって観察していたのはこのためだったのだろう。
俺が佐々木の顔を思い浮かべると、長門はまた続けた。

「彼女はわたしたちと同じタイプのヒューマノイドインターフェイスではない。どちらかと言えばあなたたちと同じく
感情を持ち、成長する有機生命体。そして同時に器の存在。彼女は4月に生まれたばかり。それまでの生い立ちなどは
情報操作によりあなた達の記憶の中に刷り込ませた。」
「な、じゃあ俺が佐々木と過ごした中学三年間ってのは…」
「あなたの記憶の改ざんによって造られた幻。このまま行けば万事うまくいく予定だった。
ただここでまたひとつ不具合が生じた。あなたが原因で彼女の存在を維持出来なくなった。
ここ数日あなたが感じた違和感がそう。」
「俺が原因って…」
「造り出された彼女をこの世界に融和させるにはあまりに複雑な情報操作が必要。エラーの発生を回避することは困難だったが、
これほどのまでとは予想外だった。親密な人間関係はより彼女に関する情報の複雑化を強いられる。だから」
「それが、俺のせいだって言うのかよ」
「……」
「それで、佐々木はどうなるんだ!」
「………」
「長門!!」

正直言ってここから先は聞きたくなかった。
佐々木はもう長門たちにとってはエラーなのだ。冷酷非情な長門の親玉がエラーに対しどう処理するかなんて、聞かなくたって分かる。

「彼女をこのままにしておいて安全であるとは断言できない。この先世界に対して何らかの悪影響を与える可能性は無いと言えない」

そのひと言は、俺を絶望させるには十分だった。

「なんとか…佐々木を助けてやれる方法はないのか…」
「無い訳ではない。今ある選択肢は2つ、ひとつは彼女をこの世界から消し去ること。もうひとつは彼女から涼宮ハルヒに繋がる力をなくすこと。
この場合彼女は今までと同じように生活を送ることができる。ただし、後者を選んだ場合、彼女の記憶を一切消すことになる。」
「な、なんだと!」
「酷な選択なのは分かっている。わたしもあなたのことを思って最善を尽くしたつもり、分かってほしい。」

長門は同情の眼で俺を見ていた。その眼が俺に対するものか佐々木に対するものかはわからないが…
それよりも今回のことは長門でもどうしようもなかったのだ。
俺が4月に佐々木と再会したことを、いや初めて出会ったことを勝手に運命だと感じているのなら、これもまた運命なのだろう。

「情報連結解除開始は今から24時間後、それまでに…」

それ以上は何も言わず長門は俺にスイッチを渡した。これを押せば佐々木は普通の生活を送ることが許され、助かる。
だが俺は佐々木を失うことになる。その代償は俺にとってあまりに大きかった。


137 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 22:45:07 ID:vpVqWq6O
最期の日、俺は佐々木にめいっぱいいい思いをさせたかった。
今まで俺は何もしてやれなかった。もっと二人だけで遠くに出かけてみたかったし、誕生日も祝ってやりたかった。
せめてなにかと、俺は佐々木にプレゼントを渡した。俺と佐々木のイニシャルの入った指輪。
例え佐々木の記憶がなくなったとしても、佐々木の近くに俺の身代わりを置いておきたかったのだ。
少しサイズが大きかったが、佐々木は満足そうな顔をしてくれた。

「ありがとう、大切にするよ」
「サイズわるかったな、今度からはちゃんと調べるよ」
「じゃあ指輪はその時まで待ってこれはネックレスにして首にかけるよ。
今度はペアにしようか!ねキョン、いいアイデアだとは思わないかい?」

落ち込んで見える俺を励まそうとしたのか、佐々木は楽しそうに笑った。
今度は――か、本当に今度があったらと思えば思うほど涙がこぼれそうだった。

「キョン、今日はずいぶんと優しいんだね」
「そうかな」

夕暮れが近づいてきていた。
佐々木には本当のことは言わないでおこうと決めた。

「なぁ佐々木」
「なんだい?」
「もし佐々木が次の朝起きて記憶喪失になってしまったらどうする?俺がどこの誰かも分からない、そうなったらどうする?」

佐々木は一瞬あっけに取られたような表情になったが、すぐにいつもの表情に戻るといつものように笑った。

「そのときはキョンが僕を助けてくれるんだろう?」


夕日に照らされた佐々木の顔はきれいだった。
そうだよな、また一からやり直せばいいだけだよな。
またこうやって一緒に夕焼けを見られる日が来るのはいつになるか分からないが、諦めないさ。
佐々木がいる限り。

FIn

佐々木スレ10-70 佐々キョンバカ+1

2007-07-20 | その他佐々木×キョン

70 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 09:06:21 ID:JpDkLYHg
佐々キョンバカ+1

「橘、お前はどんな超能力が使えるんだ?」

「えっと…内緒です…」

「ふぅん…まぁいいさ。ところで、だ。俺だって超能力の一つや二つ、行使できん事もないぞ」

「そ、そうなんですか!?」

「ほう…キョン、それは初耳だね。キミが超能力を使えるとなると、僕はキミに対しての認識を改める必要が生じるよ」

「まぁ見ててくれ。今から佐々木の顔を真っ赤にしてみせるからな」

「ワクワク…」

「ドキドキ…」

そして俺は佐々木の耳元で囁いた。

「愛してる…」

「…///」

「…///」

「橘、お前まで赤くなる事はないだろ…」

「あ、あなたの超能力の効果範囲が広すぎるのです!」

「き、キョン…もう一度頼むよ…」

ったく、しょうがねえな。

「今度は佐々木の鼻血を出す超能力だ」

再度耳元に口を寄せる。

「佐々木、俺はお前と生涯を共にしたいんだ。結婚してくれ」

「…///」ボフッ

「…///」ボフッ

「だ~か~ら~橘。佐々木はともかく、なんでお前まで鼻血を放出してるんだ?」

「あ、あなたの超能力が下手くそなのです!範囲を設定してください!」

「キョン…もう一度、もう一度だけ…」

以下エンドレス

佐々木スレ10-47 テクニシャンk

2007-06-18 | その他佐々木×キョン

47 :1/1:2007/05/30(水) 00:59:23 ID:akXjtE+g
「ふふ、気持ちいい――一体何処で覚えたんだい?」
「そうか? どこでってなあ……昔妹によくやってやったもんだが」
「なるほどね。キミの妹さんが羨ましいよ」
「つってもなあ、もう何年も前の話だぜ? あいつだってもう高校生なんだ」
「そうだね、もしかしたら妹さんも僕達みたいな事をやっているのかもしれないよ」
「……」
「くっくっ、力んだね、今。動揺を隠せない証だ。やはり妹さんの事は格別に大切なようだね。
 キミは全くいいお兄さんをやっているよ。
 ちなみに今のは僕のブラフだ。妹さんには彼氏はまだ居ないようだよ」
「やれやれ、相変わらずからかってくれるぜ。――何でそんな事知ってるんだ?」
「何でって、毎日メールの遣り取りをさせて貰っているからね」
「はあ? いつの間にお前らそんな仲に」
「別に意識的にキミに黙って居た訳じゃ無いさ。
 彼女も僕もキミの所有物になった覚えはない。それぞれ、只の一個人同士の付き合いさ。
 それとも――くく、疎外感を感じて焼き餅でも焼いているのかい? 可愛いところがあるじゃないか」
「ばっ……! 別に俺は、そんな」
「まあそう照れる事もあるまい。褒めているのさ」
「この歳で男が可愛いなんて言われたって嬉しくねえっての」
「そうかい? じゃあもっと言ってやろう。キョン可愛いよキョン。くっくっ」
「くそ――こうしてやる! こうしてやる! どうだ佐々木?!」
「わ、そんな乱暴な――やめたまえ、やめたまえよキョン。
 僕もいささか調子に乗り過ぎたようだ。謹んで詫びさせて頂こう」
「はは、別に良いけどな」
「あ、それだ、その優しい指遣いがたまらなく心地良い。この時は僕のささやかな毎日の愉しみなのさ」
「そいつはどうも。しかし、そんなに良いものかね、俺なんかのシャンプーが?」
「世辞は言わない主義だからね。くく、いっそ美容師にでもなったらどうかな?」
「……商売でやれる自信はねえよ」

---

同棲生活とかしたらこんななのかねえと受信
>>1乙です。


48 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/30(水) 01:13:35 ID:dCl3GzOX
>>47
なんからしくない二人に萌えるw

佐々木スレ9-930 「おもろい夫婦」

2007-06-18 | その他佐々木×キョン

930 :おもろい夫婦:2007/05/29(火) 20:58:16 ID:1X6fffUj
新婚佐々キョン

「ご覧よキョン。これがお祝いにいただいた、かのイエスノー枕だ。イエスノー枕
だよ。くっくっ…まさか本当にこのようなものがこの世に存在するとは、思いも寄
らなかったよね。念のために説明するとこの枕は、夫婦の営みが今晩行われるべき
と意思表示をするならイエス、夫婦の営みが今晩行われるべきではないと意思表示
をするならノーの側に置いておくというものだよ。つまりこの枕がイエスの側に置
かれていれば今晩の夫婦の営為が行われるべきでありこの枕がノーの側に置かれて
いれば今晩の夫婦の営為は行われるべきではないという」
「わかったわかった。お前興奮しすぎ。というかそれ、本当に使うとは思わんぞ?」
「そこにあるだけで、何とも淫靡じゃないか。イエス・オア・ノーだ。やるかやら
れるか、刺すか刺されるかということだよ。何とデジタルかつ論理的なんだ。中間
値はない。ちなみに僕はいつでも勝負事は真剣で臨む主義だ。絶対に負けないよ?」
「な、何だよその気合は。というか、やるかやられるかってどのみちやるんじゃねえか」
「ほらご覧。僕は今この枕をイエスの側に置いたよ。ほらイエスだよ?つまり今夜
は、イエスってことなんだよ?それでいったい何がイエスなのかなんて、ままま間
違っても僕に聞くなよっ、せっかくイエスで置いたんだからっ/////」
「あー、さっきから散々説明されてるから概ねわかるけどな」
「あ、そ、そうなんだ。せっかくの迂遠な意思表示にエロティシズムを感じるどこ
ろか面と向かってわかったと言われては仕方がないけどね…じゃあ僕はシャワーで
も…」
「食後のチェスだろ?先々週のゲームがまだ終わってないからな、さて続きを~」
「まったくキミってひとは…」
「どうかしたか?」
「…そういうところも好きなんだけどね」


931 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 21:03:18 ID:3EIOoyqn
>>930
この二人で漫才組めそうww
萌えキャラ同士の夫婦も良いなぁ


939 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 21:39:23 ID:OC52u9yl
キョン「何でやねん!」
ペシッ!
プニュゥ…
キョン「…あ」
佐々木「…///」

結論:キョンがツッコミだと佐々木がデレる


940 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 21:46:27 ID:3EIOoyqn
>>939
かわいいw
ツッコまれるとデレるってことは佐々木はドMか


948 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 22:06:38 ID:JBqpCMEj
「そんな……キョン、待ってくれ、まだ心の準備g(以下自己規制

佐々木スレ9-960 「キョンと佐々木のチュートリアル」

2007-06-18 | その他佐々木×キョン

960 :キョンと佐々木のチュートリアル:2007/05/29(火) 22:33:41 ID:AYgXVNBA
佐「いい季節になってきたね」
キ「そうだな」
佐「僕たちにはあまり関係ないと言えば関係ないんだけどね」
キ「まあな」
佐「ところで、あしたは日曜で休日な訳だが、キミは何をして過ごすつもりかな?」
キ「特に予定も無いが、せいぜい駅前の本屋に立ち読みに行くぐらいだろう」
佐「そうかい」
キ「そう言う佐々木は何をするんだ?」
佐「僕はやはり勉強だな」
キ「え?勉強?なんで、なんで、なんで?」
佐「いや、そりゃ、やはり来年には受験が控えてる訳だし」
キ「ええ?じゃあ、あした起きたらまず何の勉強しようとか決まってるのか?」
佐「あ、ああ」
キ「えええ?!そうなんか?ちょ、ちょっと落ち着かせてくれ」
佐「何なんだよ一体」
キ「ええー、やるなぁ」
佐「何がだよ!」
キ「じゃあじゃあ、まず何の勉強するつもりなんだ?」
佐「えーと、まず英語」
キ「英語!英語言うとあれか、Hello. My name is Nancy.とかそんなのか?」
佐「初歩すぎるよ!」
キ「英語の次は?」
佐「英語の次は……、数学?」
キ「数学?!」
佐「なんで驚くんだよ!」
キ「じゃあ、やっぱり解の公式なんかも覚えてるのか?」
佐「そりゃもちろん」
キ「本当か!すごいな!」
佐「キミも覚えないといけないんだよ!……あー、なんか勉強する気が無くなってきた。僕もあしたは駅前に遊びに行こうかな」
キ「ふうん」
佐「そこはスルーなのか!」

佐々木スレ9-560 鬱ネタ

2007-06-18 | その他佐々木×キョン

560 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/26(土) 15:42:13 ID:Hy56JZfK
「ブツブツ…」
「さ、佐々木、どうしたナイフなんか持って!危ないじゃないか下におけよ、な?」
「……この前、朝比奈さんと仲良く手をつないで歩いてたよね。僕と言う存在がありながら」
「あ、あれは朝比奈さんが勝手に…」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ彼女にもたっぷりおしおきしてあげないとね。くっくっ。」
「や、やめろ!朝比奈さんに手を出すのだけは!」
「キョンは優しいね、大好きだよキョン。うふ…あはは、アハハハハ!!!
 ハァハァ!ごめんキョン…も、もう我慢できないや、誰にも君を渡さない。僕の中で永遠に生き続けてよ、ね?キョン」
「うわ、や!やめてくれ!助けてくれ!」
「くくっ。死ぬのって怖いかい?大丈夫、痛くしないよ。すぐに死なせてあげるから」
ザクッ

「………な、なんで…」
「こ、こうしないと、俺がやられるとことだったからな…悪く思うな」
「………イヤ、イヤだよキョン…僕、死にたくないよ…」
「すまん、諦めてくれ…」
「…キョンのこと、ずっと好きだった。最後にもう一度耳元で愛してるって言ってくれないかな…あのころみたいにさ…」
「佐々木…」
「キョン…」
「ボソ(俺は朝比奈さんと幸せになる。お前は邪魔者だったわけだ、よかったな最期に大好きな俺の役に立てて。)」
「!!絶対、ゆ…ゆるさな……」

なんか暗い話を読みたかったので自分で書きました
真昼間からスマン

佐々木スレ9-418 「流星に何を願う」 (3)

2007-06-18 | その他佐々木×キョン

418 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:23:30 ID:EXhSwFIf
投下します。キョン子×佐々男モノ。途中微エロあり注意。
続き物なので先に前編を読んでください。


419 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:24:32 ID:EXhSwFIf


        5


 お盆は毎年、家族総出でお祖父ちゃんの家に帰省するのが慣わしだった。
 帰省とは言っても、俺が生まれたのは両親が今の家に引っ越してからのことだから、正
確に言えば間違ってる。
 お祖父ちゃんの田舎は山奥にあった。
 今年は佐々木のおかげで宿題もさっさと終わらしちまったし、さすがの母さんもわざわ
ざ田舎に来てまで受験勉強に精を出せとは言い出さなかった。それどころか『あまり根を
詰め過ぎても良くないから、お盆の間くらいはゆっくり羽根を伸ばしなさい』なんて言い
出すもんだから一体どういう風の吹き回しだろうと思っていたんだけど、母さんからして
みたらどういう風の吹き回しだか知れなかったのは七月中に宿題を終わらせるなんて前代
未聞の偉業を成し遂げた俺の方に違いない。
 そんなわけで、お祖父ちゃんち滞在中は晴れて勉強から解放されることになった。
 でもなあ、このド田舎ときたら、ろくなレジャー施設やショッピングモールも無いんだ。
中学三年生女子が暇を潰すにはいささか退屈過ぎる。俺は勉強なんか大っ嫌いだけど、こ
の退屈を紛らわすことができるものならそれすらも恋しいと思った。
 近くには川が流れていて、確かに小さい頃はそこで遊んだこともあったけど、さすがに
この歳になって川原で水遊びは無いぜ。あーあ、せめてお祖父ちゃんちが山じゃなく海の
近くだったならまだ良かったのに。
 なんてことを、小さめの岩に腰掛けて、賽の河原でもないのに小石を積み上げつつ、地
元の子供に混じって遊ぶ弟とそれを見守る母さんを眺めながら考えていた。
 何とはなしに立ち上がって歩き出す。何処へ行くわけじゃない。ただ、座っていても暇
だったんだ。歩いて暇が解消されるかと言えば、そうも思えなかったけど。
 上流の方で、釣り糸を垂らしてる人を見つけた。
 釣りイコール年寄りの趣味っていう先入観から、釣り人はてっきり地元のおじさんだと
思って近付いたら違った。
 釣り人はまだ青年だった。ひょろりと痩せて背が高い。高校生?
「こんにちは」
 おずおずと話しかける俺にじろりと一瞥をくれると、男は無愛想な声で返事をした。
「こんにちは」
「何してるんですか?」
「見りゃわかるだろ。釣りだよ」
「釣れる?」
「全然」
「何を狙ってるの?」
「別に。何か釣れりゃいい」
 男はあからさまに面倒臭そうにしながら、それでも返事はしてくれた。
「お前、何処から来た?」
 初めて男のほうから質問した。俺は自分の住む県と市の名前を教えた。
「都会か」
「う~ん、都会と言われればそんな気もするし、でもそれほどでもないような……まあ、
ここよりかは都会ってくらいかな」
「そう」
 自分から訊いたくせに、男の返事は素っ気無かった。


420 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:25:30 ID:EXhSwFIf
「あなた、名前はなんていうの?」
「ジョン・スミス」
「……外人? ハーフ?」
 初めて男の表情が変化を見せた。必死に笑いを堪え続けた後、とうとう堪えきれなくな
って吹き出して大笑いした。
「あっはっは! まさか真顔でそんなことを訊き返されるとは思わなかったよ。俺が外人
に見えるか?」
 男は息絶え絶えになりながら、なんとか呼吸を整えなおして言った。
「お前の名前は?」
「君はジョンだよね?」
「え? ああ」
「じゃあ、ケイトだと思って」
 男はまた笑い出した。俺も一緒になって笑った。
 その時、母さんが俺を探している声が聞こえた。
「ごめん、行かなきゃ」
「ああ。じゃあな、ケイト」
 男は出会った時とは180度違う笑顔で、西洋風の『バイバイ』の仕草をして見せた。
「クスッ、バイバイ、ジョン」
 俺も同じ仕草で返した。

 お盆だと言うことで、夜はお祖父ちゃんの兄弟やら父さんの兄弟やら、要するに親戚一
同が集まって賑やかな宴会になった。
 だけど、年寄りの寄り合い話に俺の入り込む余地は無い。話の矛先が俺に向きながら、
それでも俺は黙って箸を口に運ぶ以外無かった。
「もう中学三年生になったかい。それじゃあ高校受験で大変だな」
「そうなんですよ。この子ったら勉強嫌いだからどうなることかと思ってたんですけど、
でも最近は真面目にやってるから安心したわ。なんでも塾で仲の良い男の子が出来たらし
くて、一緒によく勉強してるみたい」
「へえ、男が! いやいや、もうそんな年頃かね。わしが肩車してやったのもついこの間
だと思ったけんど。それじゃああれだな、しっかり勉強して彼氏と一緒の高校行けるよう
に頑張らねえとな」
 全く何を言ってるのかわからない。なんで俺が佐々木と進路を同じくしなきゃいけない
んだ? 佐々木とはそんなんじゃないんだ。そんなんじゃないし、もし仮に本当にそんな
んだとしたら、この場でそんなことを平然と暴露してのける母さんの神経を疑う。
「おい、うまくねえか?」
 一瞬何のことを言ってるのかわからかった。料理のことを指してるのだと気付くのにし
ばらくかかった。
「あー、いや、おいしい……です」
「そうかい、んなら良かった。育ち盛りじゃ、勉強だってなんだって食って力つけんとな。
本当だったら鹿でも捕ってきて食わしちゃろうと思ってたんだけどよ、最近じゃあ、鹿も
減っちまって、ようけ捕れん。ところで、お前さんよ、退屈しとりゃあせんか。なにせこ
こいらはなーんにもねえからよ。この辺の子達は、バス乗って街の方まで遊びに行ってる
ようだが」
 ただでさえ聞き取りにくい方言なのに、酒でろれつが回らなくなっているもんだから何
を言ってるのか半分くらいしか聞き取れなかった。いや、一生懸命聞くことを耳が放棄し
たと言うべきかも知れない。何しろ心ここにあらずだったのだ。
 俺の代わりに母さんが返事をした。
「まあでもせっかくこっちに来たんですからね。ここは空気も良いし、周りも静かだし。
ねえ?」


421 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:26:42 ID:EXhSwFIf
「うん」
 完全に空返事だった。
 俺はこんなにも退屈しているというのに、なんでこの年寄りどもはこうも楽しげにして
いられるんだろう? 全く不愉快だ。気に食わない。
(馬鹿だ。なんて子供じみたことを考えるんだ?)
 頭の中で別の声が聞こえた。うるさい、そんなの、自分でわかってる。
「そういえば――」叔父さんが話し始めた。
「明日は役場で盆踊りがあったな。都会のお嬢さんは他にもっと面白いことがいっぱいあ
るだろうから退屈かも知れないけど、行ってみるといいよ。地元の子とか、お盆でこっち
に戻ってきてる子とか、同年代の子もいっぱい居ると思うから」
 全く興味なんて無かった。でも行かないわけにいかないだろう。だって他にすることな
んて何も無かったんだから。
 つくづく失敗したと思った。勉強道具を持って来るべきだった。
 でも、わからない時に咄嗟に訊ける人間が傍に居なければ、はかどるわけはないぜと思
い直した。

 二段に組まれた櫓から、四方に提灯の群れが伸びる。大音量でかかる演歌、それに負け
ないほどの喧騒。過疎の進んだ田舎にしては随分と人でごった返していた。なるほど、お
盆で帰省している人が多いというのは間違いではないようだ。
 弟は凄まじい力で母さんの腕を引っ張り、かき氷やら綿飴やらを次々と所望して、その
まま人込みの中へと消えてしまった。
 付いていくことはできた。でも俺はわざと歩調を遅くして、母さんと弟の背中が見えな
くなるのを見送っていた。
 なんでだろう。母さんが振り返って「早く付いてきなさい」とでも言うのを期待してた
のだろうか? 金魚の糞みたいに母さんの後を付いていく年齢は、もうとっくに卒業した
というのに。
 夜店で買った、少ない割に値段の高い、さしてうまくもまずくもない焼きそばをたいら
げて、歯に付いたソースやら青海苔やらを舌でなぞり取りながら歩いてると、人込みの中
から現れた三人組の男に声を掛けられた。
「へえ、可愛いじゃん。ヘイ、彼女、一人?」
 第一印象で思うに、見るからに頭の悪い三人組だった。おそらく同い年に違いない。三
人のうち二人は俺とほとんど同じ身長で、一人は俺よりも背が低かった。
「君、地元の子じゃないよね? 俺ら地元なんだけどさ」
 訊いてねえよ。
「夏休みでこっち来てる系? 家どこ? 歳いくつ? 地元に彼氏居る系?」
 せめて質問はひとつずつにしてくれないか。だいたいなんだ、系、系って。これがこの
地方の今どきの方言なのか? 耳から入ってくるだけで生理的に拒否反応を起こす声。
 この手合いは無言で立ち去るのが正しい対処法なのだろう。けどこの時の俺は虫の居所
が悪かった。
「失せな」
 めいっぱいドスをきかせたつもりだった。しかし所詮女の声帯、狙ったとおりの声色が
出たかは怪しかった。
「お呼びじゃねえんだよ」
「うほう、怖いねえ。まあまあそう言わずにさあ。どうせ一人で暇してる系でしょ?」
 男は断られ慣れしてるようだった。男にしてみれば、無視されずに何かしらの返事が返
ってきただけで万々歳なのだ。
 下品で悪辣な笑い顔をしながら近付いてくる男の顔面を、俺は拳で思いっきり殴った。
 しかし少々力が足りなかったようだ。殴り抜けた腕をそのまま相手に掴まれてしまった。
「てめえ! 何してくれてんだよ! お高くとまってんじゃねえぞブスが!」


422 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:27:41 ID:EXhSwFIf
「触んなよ! 離せ!」
 その時、俺の腕を掴む男の腕を、第三の腕が掴んだ。
 もう一人の男はナンパ男の腕を凄まじい握力で捻りあげたらしく、ナンパ男はたちまち
苦悶に顔を歪ませた。俺の腕が解放される。
「お前ら、俺の連れに何してくれちゃってるわけ?」
 もう一人の男の顔を見る。それは、あのジョン・スミスだった。
 ジョンは俺の腕が自由になってるのを確認すると、ナンパ男の腕を離してポケットに両
手を突っ込み余裕の態度を見せた。
「ああ?」「てめえ誰だよ」「ぶっ飛ばすぞこら!」
 三人組は口々に奇声を張り上げた。とりわけ腕を捻られた男は怒っている。
「だからこの子の連れだよ。悪かったな。他を当たりな」
「スカシてんじゃねえよ! かかって来いや!」
 ジョンは挑発には乗らなかった。やがて観衆の目が集まり始めると、三人組は悪態をつ
きながら人込みの中へ消えていった。
 三人組の姿が見えなくなると、ジョンは会場の出口に向かって歩き出した。
「何処へ行くの?」
「つまらない奴のせいで、気分が下がっちまったからな」
 俺は黙ってジョンの後に付いていった。ジョンは付いてくるなとは言わなかった。
 やがて辿り着いた場所、そこは、位置は違うけれど、あの時の川原だった。ジョンは岩
に腰を下ろし、俺の方は振り向かずに黒い川を見つめていた。
 俺はその時になって、ようやくお礼を言うことが出来た。
「ありがとう」
「あ? ああ……」
 再び長い沈黙。
 人でごった返していた盆踊り会場と違い、この川原は涼しかった。
 周囲に明かりが無いおかげだろう。頭上には天の川がはっきりと見えた。
 俺は足元の石を拾って水辺に立ち、アンダースローで放り投げた。水の音が四回した。
「へえ、うまいじゃん」
 俺はジョンの方を向いて得意気な顔を作って見せたけど、この暗闇の中では相手の表情
などわからない。
 ジョンも立ち上がり、足元の石を拾って川に向けて投げた。水の音が一回、二回、三回、
四回――やがて数えられないような細かい連続音になって、突然乾いた音に変化した。対
岸に到達したのだ。
「凄いね」
 ジョンの真っ黒な顔は、満天の星と月明かりの下で、確かに笑ったように見えた。
「ケイトは――」
「何?」
 一瞬何のことだかわからなかった。この男の前では、自分はケイトであることを失念し
ていたのだ。
「ケイトは毎年こっちに来てるのか?」
「うん」
「そうか。今まで会わなかったな」
 ジョンの声は、どことなく寂しそうだった。
「俺さ、今年大学受験なんだ。県外の大学へ行くつもりだから、受かったら家を出る」
「そうなんだ」
 俺は、ジョンが何を言わんとしているのか、わかったような気がした。
「受験生仲間だね。俺は高校受験だけど」
「そうか、頑張れよ」
「うん、ジョンもね」


423 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:28:46 ID:EXhSwFIf
 そのまましばらく、俺達は二人で川を眺めていた。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「ああ」
「ありがとう、助けてくれて。じゃあね」
「嫌いにならないでくれよ」
「え?」
 突然のジョンの言葉だった。
「あんな奴も中には居るけどさ、あれはあいつらが悪いんであって、田舎が悪いんじゃな
い。だから、ここを嫌いにならないでくれよ」
「わかってるよ、大丈夫。それはジョンが証明してくれた」
「じゃあな、ケイト」
 ジョンは西洋風の『バイバイ』をした。暗闇の中で、確かにそれは見えた。
「うん。バイバイ、ジョン」

 家に戻ると、男衆が連夜の酒を飲み交わしていた。
 俺の存在に気付いたのは、廊下が見える位置に座っていたお祖父ちゃんだった。
「おう、おかえり。早かったな。お母さんたちはどうした?」
 俺は答えなかった。
 叔父さんが振り向きながら言った。
「やっぱり面白くなかったかい? 悪いことしちゃったな」
「ううん。叔父さんのせいじゃない」
 俺は寝室に戻って、畳の上に身を投げ出した。
 初めてだ、こんなことを思うのは。
 夏休みなんて、早く終わってしまえば良いと。



                             「流星に何を願う」(4)に続く

佐々木スレ9-418 「流星に何を願う」 (4)

2007-06-18 | その他佐々木×キョン


424 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:29:43 ID:EXhSwFIf


        6


 焼け付くような日差しはいまだ衰えを見せず、それでも吹く風には段々と冷たい空気が
混じり始め、そろそろ秋の訪れを感じ始める季節のこと。
 五限の数学は担当教師が不在なので自習になった。
 自習とは言っても、一応課題は出されてるものの大半の生徒の認識としては延長された
昼休み以外の何物でもなく、惰眠を貪る者、席を移動して談笑する者など様々だ。
 俺は課題として出された教科書の問題の教えを乞うために佐々木の机に椅子を横付けし
ていて、佐々木が何の苦も無くあっさりと全問を解いてしまうと、その後はとりとめも無
い雑談をしていたのが、どういう話の流れだかこうなった。
「僕が思うに、恋愛感情などというものは精神病の一種なのだと思うな」
 佐々木は言い放った。
「恋の病、なんていう言葉だって昔からあるのだよ。恋をしている人間の精神状態は明ら
かに平常ではない。僕自身には経験が無いから確かなことは言えないが、恋をしている人
間は意中の相手のことを想うあまり集中力が欠如したり、食欲不振に陥ったりする。そし
て、もしその恋が成就せずに終わった場合、鬱状態になったり、ヒステリーを起こしたり、
特に重度の時は自殺を図ったりすることもあるそうじゃないか。どう贔屓目に見ても、そ
のような精神状態が健常であるとは言いがたいね」
「そんな馬鹿なことあるもんか。だって、世間の大半の人間は恋愛をして、結婚して子供
を生むんだぜ。俺の両親やお前の両親だってそうさ。その人達みんなが精神病にかかって
るって、お前はそう言うつもりか?」
「まさしくそう言うつもりだよ。世の中で恋愛感情ほど蔓延した精神疾患は無いね」
「わからないな。恋をするっていうのは病気じゃない。機能さ。人間は――人間だけじゃ
ない。ほとんどの生き物には雄と雌があって、結婚して子孫を残すじゃないか。子孫がで
きなかったらすぐに滅んじゃうだろ」
「君は、恋愛感情が無ければ結婚はできないと思っている?」
「はあ? だって結婚て、恋愛をしてするもんだろ。人間世界には政略結婚なんてのもあ
るけど、それは例外中の例外だ」
「恋愛感情などというものは人間にだけ備わっているものだよ。動物達はもっと単純なも
のに従っているに過ぎない」
「もっと単純なもの?」
「本能さ」
「本能?」
「つまり、雄はより多くの雌の体内に自分の遺伝子を残そうとする、雌はより優秀な雄の
遺伝子を受けようとする、その本能だよ。動物は人間のように不必要に入り組んだ恋愛観
など持ち合わせてはいない。動物の目的は、とにかく自分の気に入る相手を見付け、互い
が合意すればその場でセックスし、遺伝子を渡す――あるいは受け取ることだ」
 俺は身じろぎした。佐々木が――この背が低く童顔で色白で、やもすれば少女のように
見えるこの少年が、その高く澄んだ声色で、この教室という空間で、何のためらいも無く、
そう、それはまるで数式を読み上げるような淡々とした口調で、『セックス』などという
単語を口にしてみせたからだ。
 さらに言うなら、女子――つまり俺――の目の前でだ。
 そんな俺の動揺を知ってか知らずか、佐々木はなおも続けた。
「確かに君が言ったように、子孫を残さなければ種は滅んでしまうね。三大欲求というも
のがある。これは、それをしなければ滅んでしまう、だからしなければならないという基
本的な三つの欲求のことだ。その内容とはは食欲、睡眠欲、そして性欲の三つ。食べ物を


425 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:31:01 ID:EXhSwFIf
食べなければ当然餓死してしまうね。睡眠を取らなければ、脳が異常をきたし精神が崩壊
する。同じことさ。理想の異性とセックスしたいと願うことは生物としての正常な生理反
応だが、しかし、それは恋愛感情とは別のものだ」
 またしても放たれた刺激の強い単語に、前後の文の内容を忘れてしまうそうになりなが
ら、なんとか質問を挟むことに成功した。
「別ってことはないだろ?」
「いいや、別だよ。人間には、多くの動物にあるような特定の繁殖期が無い。逆に言えば、
年中発情しているとも言える。それは恋愛をしているしていないとは全く関わらずね。人
間は常にセックスするパートナーを探し求めている。恋愛が発展して、セックスに至るの
ではないんだよ」
 全くこの男の話すことは心臓に悪い。周りのクラスメイトがこの会話に聞き耳を立てて
いるかも知れないとは考えないのか? 頼むから、その甘い綺麗な声でセックスセックス
と連呼しないでくれ。
「でも、結婚するってことは一生一緒に居るってことだろ? 遺伝子的に優秀だってだけ
じゃ、パートナー選びの条件としては不足じゃないのか」
「君には弟さんが居るね」
「何の話?」
「弟さんは男性、そして君は女性だが、弟さんを異性として意識したことは?」
「まさか。あるわけないだろ。いきなり何を言い出すんだ?」
「でも弟さんのことは大事に思っている」
「そりゃ、まあ。家族なんだし」
「だろう? つまりそういうことさ。家族として大切に思うことと、性の対象として意識
することは全く別の、切り離された現象なんだ」
 なんだかうまくはぐらかされただけのような気がするけど、俺はそれ以上追及すること
はやめておいた。これ以上話しても俺が佐々木を納得させることも、佐々木が俺の納得の
いく答えを出すことも無いように思えたから、この会話はもう切り上げることにした。
 時計を見ると、針は授業が終わるまさにその時刻を指していた。チャイムが鳴るまであ
と数秒といったところだろう。
 最後に俺は、ひとつだけ佐々木に質問を投げかけた。
「佐々木も、その……せっ……性欲、あるの?」
 佐々木はやけに大人びた笑顔でこう答えた。
「さあ、どうだろうね。どうやら僕は平均よりも二次性徴が遅れているようだし――」
 少し間を置いてからこう付け加えた。
「今のところは、まだ」
 チャイムが鳴った。

 その日の夜、俺はベッドの上で考えていた。
 佐々木の言ったこと――恋愛感情は精神病の一種だというのは、俺にはなかなか承認で
きないことだった。とは言え、博学で聡明な佐々木にああもきっぱり言われると、それが
正しいことのように思えてしまう。
 いや、正しいか正しくないかはこの際問題じゃない。佐々木がそういうふうな考えを持
っていること、そして、その考えをどうにも曲げるつもりはないだろうこと、そっちのほ
うが問題だと俺は思った。
『セックス』
 何の前触れも無く、唐突に、頭の中に佐々木の声が響いた。
 セックスか。俺だって思春期を迎えた女だ。そういうことに全く興味が無いかって言え
ば嘘になる。それでも俺が今に至るまでバージンなのは、俺にとって“それ”は、奇妙で、
滑稽で、不可解で、自分とは無縁のもの、何処か遠く掛け離れた別世界にあるもののよう
に思えたからだ。


426 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:32:02 ID:EXhSwFIf
 ところがクラスメイトのうち何人かは、この夏に既に初体験を済ませてしまったらしい。
 ある者はずっと付き合ってきた彼氏と念願叶って、ある者は旅行先でたまたま知り合っ
た行きずりの男に処女を捧げてしまったと言っていた。
 恋愛感情を精神病だと豪語する佐々木にとっては、前者よりも後者のほうが正しいセッ
クスの在り方なんだろうか。
 いや、それも違うと思う。佐々木が言うには『生き物は優秀な遺伝子を求めてセックス
する』んだから、興味本位や肉体的快楽に溺れるセックスは本来の正しいセックスの姿と
は言えないだろう。
『セックス』
 再び頭の中で佐々木の声が聞こえた。
 とにかく、俺がうかうかしてる間に友人たちは先んじて大人の階段を昇ってしまったわ
けだけど、考えてみれば俺にだってこの夏、やる機会はいくらでもあった。
 佐々木とは勉強会で何度も二人きりの時間を過ごしてきた。特に、佐々木が突然俺の家
を訪ねてきたあの日、下着にTシャツなんて格好で出迎えた俺を見て、佐々木が少しでも
俺のことを女と感じたなら――。二人きりの部屋、二人の汗の匂いが充満する部屋で、熱
に浮かされた頭のせいにして、汗まみれの体を重ね合わせることができただろうか。
 あるいは、お祖父ちゃんの田舎で出会った、あの年上のジョン・スミスと? 最後の時
間を過ごしたあの川原、あそこなら真っ暗なうえに人通りも無かった。彼に恋人が居たの
かは聞かなかったけど、もし経験があったなら、初めての俺をリードしてくれただろう。
そうして、もう二度と会うことはない青年とのひと夏の思い出とともに、処女を捨て去っ
てしまうことができただろうか?
 いや、できなかった。
 その当時も、それに夏が終わってから今までも、そんなことは考えも、いや思いつきも
しなかった。やらなかったんじゃない。最初から頭に無かったんだ。
 じゃあどうして俺は今になってこんなことを考えてるんだ?
 決まってる。佐々木のせいだ。
『セックス』
 佐々木の薄い唇に覆われた小さな口から放たれた、顔に似つかわしくない――いや、似
つかわしくないどころの話じゃない。全く異質だと言っていいほどの、淫靡な言葉。
『セックス』
 もちろん今、佐々木がここに居るわけはない。でもその声は、驚くべき実感を伴って俺
の耳に響いてきた。
『セックス』
 俺の中の佐々木が何度も耳元で囁く。耳に吹きかけられる吐息さえも感じられるような
強烈なリアリティ。
『セックス』『セックス』『セックス』
 声は止まらない。佐々木が一度繰り返すたびに、他の思考が頭から追い出される。『セ
ックス』という単語が脳を支配する。
 気付くと俺は下着の中に手を差し込んでいた。
 最初の吐息は、憂いの溜息に近かった。それが段々と、獣のような荒々しい息遣いに変
化していく。秘部に湿り気を感じると、それはすぐに湿りから濡れになって、やがて雫と
なって滴り落ちた。時折、喘ぎ声が漏れそうになるのを歯を食いしばって必死に耐えなが
ら、俺は行為を続けた。
 想っていたのは誰のこと?
 佐々木? それともジョン?
 ううん、きっと、どちらでもない。
 それは『セックス』という言葉そのもの。ただの片仮名四文字の羅列でしかないもの。
アルファベットで書けば『SEX』と三文字。その記号が持つ意味、記号が指し示す行為
が持つ妖しい魔力そのものに。


427 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:33:03 ID:EXhSwFIf
 ただ『セックス』その言葉だけを頭の中に思い浮かべて。その言葉だけで頭の中を全て
満たして――。
 自慰、オナニー、マスターベーション、呼び方は何でもいい。
 俺はこの日、生まれて初めてそれをした。


431 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 15:01:16 ID:EXhSwFIf


        7


 この日の帰りのホームルームで、あまりよろしくないものが配られた。
 わざわざもったいぶって言うものでもないので言うと、進路希望用紙って奴だ。
 否が応にも自分が受験生であることを再認識させられる。わかってはいたけど、こうし
て目の前に突きつけられると、残された時間が刻一刻と迫っていることを実感せずにはい
られなかった。

 塾が終わった帰り道。自転車の荷台に乗って俺にしがみついている佐々木が話しかけて
きた。
「キョン、志望校はもう決まったかい?」
「んー、決定したわけじゃないけど、うちは余裕が無いから金のかかる私立は最初から除
外だし、通える範囲で履歴書に書いて恥ずかしくない学校っつったら、北高になるかな」
「北高か。いや、学校説明会には行ったけど、あの学校も凄い立地だね。とてもじゃない
けど僕にはあの通学路を三年間通う自信は無いな」
「へん、よく言うよ。佐々木の成績じゃあ、はなっから北高なんか考えてないくせに」
「キョンだって狙おうと思えばもっと上を狙えるはずだよ。確かに現時点での学力では北
高が適正かも知れないが、君の偏差値はいまだに向上し続けているんだから」
「本当に佐々木様さまだね。でもいいんだ、俺は。無理して高いとこ狙って滑りでもした
ら本末転倒だよ」
「君の良くない傾向だな。もっと志は高く持ったほうが良い。ボーイズ・ビー・アンビシ
ャスだよ」
「俺はボーイじゃないよ」
「おや、これは失礼」
 佐々木はくっくっ、と喉を鳴らした。
「佐々木はもう決めたの?」
「僕は市外の私立に行こうと思ってる。選択科目が多くてね、カリキュラムの自由度が高
いんだ」
「そうなんだ」
 素っ気無い返事になってしまったと思って、もう一言付け足した。
「受かると良いね」

 家の前に着き、佐々木は荷台から降りると、いつも通りにこう言った。
「ありがとう、キョン。それじゃあ、また明日」
「うん、おやすみ」
 春からずっと何十回と繰り返されたやりとり。日常的な光景。
 佐々木の姿が玄関の中へ消えた後、ふと俺は頭上を仰ぎ見た。
 急に、夏に見たあの満天の星空を思い出して、あれと較べて随分と星が少ないことに、
今さらながら気付いた。
 家に向けて自転車を扱ぎ出した。佐々木が降りた後の自転車のペダルは軽い。
 なんでだろう、今日に限って、それが無性に寂しかったんだ。


(――続く――)


432 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 15:02:15 ID:EXhSwFIf
やっと書けた……。
最後の最後で引っかかったんでしまりが悪いな。orz

佐々木スレ9-382 「奴はペインキラー」(3)

2007-06-08 | その他佐々木×キョン

382 :奴はペインキラー・インターミッションその2:2007/05/25(金) 00:10:41 ID:O2nhJqXV
「いずれーわーたしーがーしぬーとーきーはー♪あなーたーもみーちづれー♪」
「橘よ、他に質問する奴もいないようだし一応聞くが何だその歌は?」
「いえ、このスレではジョジョネタが通じにくいと言う事でしたので、
ちょっと趣向を変えてこういう歌はどうかしらと思いまして。
ちょうど少し前にヤンデレネタで盛り上がってましたし」
「いやもうけっこう前だけどな。このスレは妙に展開速いし。
それに絶対ジョジョよりそのネタの方が分かりにくいだろ」
「でも気持ちはよくわかるよね」
『さっ、佐々木(さん)!?』


384 :奴はペインキラー・13:2007/05/25(金) 00:12:34 ID:O2nhJqXV
以前の分を見たい方は保管庫へどうぞ。



その日は、あの部活なのかどうかよく分からない不思議戦隊SOSの会合が
いつもより早く終わったので、俺は久々に本屋でも寄っていこうかと
商店街へ自転車を飛ばした。
さて、いざ本屋についてみると、駐輪スペースに見慣れた影が。
「佐々木か?」
一瞬びくりとして振り向いたその端正な顔は、
間違いなく中学時代において俺の一番の親友であり、
また不思議存在のお導きで最近になって再開を果たした佐々木、その人だった。
「やあ、キョン」
おい待て、これはいったい何事だ?
…振り向いた佐々木は顔色が真っ青で前髪が汗で額に張り付いているという、
絵に描いたような「具合の悪い人」だった。
いったい何があったんだろうか。
「…このところ寒暖の差がはげしくてね…少し調子が悪いんだ」
俺の疑問を察したか、佐々木はそういって力なく笑った。
…そうなのか? 俺は全然そんなの気がつかなかったな。
なんつったって身近に太陽よりよっぽど暑苦しい
人間スーパーノヴァがいるせいかもしれんが。
「…ああ、彼女はいつだってプロミネンスを吹き上げていそうだものな。
僕にはちょっと、真似できそうにないよ」
別にハルヒの真似なんざして欲しくはないがな。
人間それぞれのよさってのがあるもんさ。
「…昨今流行の、オンリーワンとか言う世迷言かい?
不思議存在を身近に抱える人間にしては凡庸この上ない台詞だね」
いいだろ、別に。それにお前が何を勘違いしているかは知らんが、
俺は徹頭徹尾凡庸な一般人だぜ。
「そうか、そうだね…」
「? なんか今日のお前は変じゃないか?」
なんというか、棘のあることを言ったかと思えば弱弱しくも見えたり。
こんな不安定な佐々木を見るのは初めてかもしれない。
「なんでもないよ、変だとすればそれはきっとキミのほうだ。
…ああ、すまないけど今日は急ぐんでね、このあたりでお開きとしたい」
まあ、それはかまわんが。あ、そうだ佐々木。
「…なに?」
むう、目が怖いぞ。
「お前その右手、どうしたんだ?」
そう、さっきから気になっていたのだ、佐々木のやたら線の細い腕、
その右手の手首から肘近くまでぐるぐると無雑作に包帯が巻いてあるのだ。
しかし、どうもかばっている様子は見られなかったし、何より普通に
自転車のハンドルを握って帰ろうとしてたってのがどうにも解せない。
「!」
…俺が尋ねたとたん、佐々木は一瞬体を震わせた後、呆然とした顔でこちらを見た。
その様子は、何か信じられないものでも見たような、具体的に言うなら
部下と妻の浮気を目撃した課長のような、驚愕と絶望を一緒くたにした
どろどろの釜の底みたいな顔だった。
…今日は始めてみる佐々木の表情が多いな。
くそ、こんな新鮮さなんて誰が欲しがるかよ。
佐々木はそのまま自転車に飛び乗ると、呆然としている俺を尻目に
一目散という言葉そのものの勢いで走り去っていった。


385 :奴はペインキラー・14:2007/05/25(金) 00:13:28 ID:O2nhJqXV



「…こんなところで、満足か?」
「んー……」
橘はレトロな探偵のように、顎に手を当てたポーズで黙り込んでしまった。
似合ってないぞそれ。
「もう、ほっといてください!
……ところで、包帯を巻いてたって言いました?」
「おう」
「…正直、思い当たる点がないわけではないんですが」
本当かよ。どれだけ名探偵なんだお前は。
「推理でもなんでもないのです。
…というより、男の子はこういう話に興味がないのが当たり前だもの」
男が、興味のない話? ますますもって分からんぞ。
「正直、あまり佐々木さんのイメージには合わないんですが…
一言で言ってしまえば、これはうr」
『余計な事言わないでくれる?』


底冷えのする声に振り返ると、近くのマンションに部屋の明かりで
「ssk」の文字が浮かび上がっていた。器用だな。それなんてラー○フォン?
『橘さん、私の名誉に関わる事をあんまり言いふらしてほしくないの』
普段は夕焼け小焼けを鳴らすしか仕事のない街灯上のスピーカーから
佐々木の声が聞こえてきた。
『やめなよ!キョンが分かってくれるのが一番だって言ってるじゃない!』
『しかし確かに、当初のルールではキョンが"自分で"気づくのが条件だ』
『こんなのノーヒントでやられて、わかるほうかどうかしてるよ!』
『さて、橘さん。多分あなたが思い至ったのは正解。
でも、だからといって現状をかき回して欲しくない。ということで、
あなたには少し枷を与えるわ』
突然、橘の口の中にどこからか飛来した青い光が飛び込んだ。
慌てて逃れようとするも、光の帯はたっぷりと飲み込まれてしまった後だ。
「た、橘! どうした!」
「ヴェ、ヴェーイ?」
「…は?」
一瞬沈黙が訪れた。
『あははは、橘さん、余計な事喋れないようにあなたの発声器官を狂わせたの。
大丈夫よ。キョンがゲームをクリアしたら戻してあげるから』
「ヂョッドゥ、ザァザァギザァン!  ナルスヅンディス!」
「な、なんだってー!!!」