夢のあと

sakuraと申します。ゲームのプレイ感想と読書感想を書いています。

『禁断ロマンスII ~騎士と王女編~』(フレッド×セシリア)

2011年04月08日 | 「身代わり伯爵」シリーズ 二次小説
「ひ、姫様ーっ!い、い、一大事でございますっ!」

 叫び声を上げながら、侍女のローズが慌ただしくセシリアの部屋に飛び込んでくる。

「な、なにごとなのっ!?騒々しいわね!落ち着きなさい!」

 ペンを片手にうっとりと妄想の世界に浸りながら乙女日記をつけていたセシリアだったが、ローズの叫び声で無理矢理現実に引き戻された。
 駆け寄ってきたローズはセシリアの近くに立つと、息を整える間も惜しむように手にしていた『白薔薇通信』を差し出した。

「ご、ご、号外でございます・・・っ!い、急いでご覧下さいませ!」

 尋常ではないローズの様子をセシリアは怪訝に思いながら、差し出された一枚の紙を受け取ると目の前に広げた。

「あら、また号外なの?し、仕方ないわね。そんなに言うなら見てあげようかしら。言っときますけど、あなたがあまりにも騒ぐから仕方なくなんですからねっ!」

 誰にともなく言い訳をしてから、本来は週に一度発行される『白薔薇通信』を楽しみにしているセシリアは逸る心を抑えながら最近頻繁に発行される号外記事に目を通した。
 飾り文字を使って大きく書かれた見出しに、まず目がいった。

『王宮内禁断ロマンス!?フレデリックさまと副官ラドフォード卿、密室の逢引き!?禁断の愛発覚!?』

 セシリアの身近すぎる人物達が取り上げられていることに驚く。
 そして次に、すぐ下の欄にある現場を見たという白薔薇乙女の会員の一人の証言に、セシリアは目をむいた。
 記事を読み進めながら、紙を持つ手が震えていくのが分かった。

「・・・はあっ・・・も、申し訳ございません、姫様。何でも今回の号外は、会員達が我先にと目の色を変えて飛び付いたという曰く付きの号外だったらしく、わたくしも二日程経ってからようやく入手することが出来ました」

 しかし、記事を食い入るように読んでいたセシリアの耳には、ローズの言葉は一切入っていなかった。

「・・・伯爵をお呼び」
「え?は、伯爵でございますか?」

 息を整えていたローズは、突然のセシリアの言葉が理解出来ないように聞き返した。

「いいからっ!さっさと伯爵を今すぐお呼びっ!」
「ひぃっ!は、はい!ただ今ーっ!」

 手の中でぐしゃりと『白薔薇通信』を握り潰すセシリアのただならぬ殺気を感じたローズは、慌てて部屋を飛び出したのだった。


      *      *      *


「お呼びですか?王女殿下」

 至急の呼び出しにも関わらず、フレッドは優雅に笑いながらセシリアの部屋を訪れた。
 伯爵に問い詰める内容が内容だけに、ローズを始めとした他の侍女達は隣室に下がらせていた。
 目の前でにっこりと優しい笑みを浮かべるフレッドに、セシリアの胸がとくんと高鳴る。

(・・・ああ、やっぱりいつ見ても、伯爵は格好良くて素敵だわ)

「殿下?」

 うっとりと見惚れていたセシリアだったが、フレッドの呼び掛けでハッと我に返った。
 いけない。見惚れている場合ではない。
 伯爵を呼び付けた理由があったことを思い出し、セシリアは軽く息を吸い込んでから臨戦状態に入った。

「ええ、あなたに聞きたいことがあったのよ。一体これはどういうことなのです?」
「『これは』と、仰いますと?」
「しらばっくれないでちょうだい!起きたばかりの事でしょう!?」

 セシリアは憤然としながら、テーブルの上に勢い良く『白薔薇通信』号外版を叩き付けるように置いて見せた。

「あれ?その薄桃色の紙は・・・。もしかすると、ぼくの為に作られた『白薔薇通信』ですか?王女殿下がそのような物を見るなんて意外でした」

 フレッドの言葉に、セシリアは内心でぎくりとした。

「・・・べ、別にわたくしが毎週見ているわけではなくてよ!?た、たまたまよ!?たまたまなんですからねっ!ええと・・・し、『白薔薇通信』?こんな物があったことだって、今日初めて知ったくらいだわ!ローズに無理矢理見せられて、仕方なく読んであげただけなんですからねっ!あなたのような人のことが書かれた記事を読むなんて、物好きな人達もいるのねっ!」
「へー」

 セシリアの力一杯の言い訳を、フレッドはニヤニヤしながら聞いている。

「そ、そのヘラヘラした笑いを今すぐやめなさい!そんなことより、あなたを呼んだのはこの記事の内容についてです!」

 セシリアは真っ赤になりながら、『白薔薇通信』を指さした。
 フレッドはそれ迄浮かべていた笑みを消すと、テーブルの上に置かれた『白薔薇通信』を手に取った。
 何故かくしゃくしゃになっている。
 どうやら、何かの理由で丸まった紙を開いて伸ばしたようだった。
 このままでは文字を読むのも大変そうだが、発行されたばかりの号外の内容は既に知っていたので特に支障はなかった。
 大きく書かれた見出しが目に入る。

『王宮内禁断ロマンス!?フレデリックさまと副官ラドフォード卿、密室の逢引き!?禁断の愛発覚!?』

「ああ、これですか」
「伯爵、これは一体どういうことなの!?何がどうなってこんな恐ろしい誤解が・・・!さあ、今すぐ説明してちょうだい!」

 セシリアから見たフレッドとリヒャルトは自分の騎士団の団長とその副官という立場であり、また憧れる王子様と優しい兄のような存在なのだ。
 その二人が『禁断愛』などと書かれているのだから、とてもじゃないが平静ではいられなかった。
 実は、『白薔薇通信』は伯爵への愛が溢れ過ぎて、未確認情報を載せることがままある。
 もしかしたら今回の号外も、その手の行き過ぎた記事かもしれないとセシリアは考えていた。
 誤解が生じた理由を伯爵から説明されるのを、セシリアは固唾を飲んで待ち受けていた。

「実は、ぼくも困っていたところなんです」
「・・・あ、あなたが困ってようが、わたくしには関係なくてよ!?それに、この記事を読む限り、矢面に立たされるのはラドフォード卿の方じゃなくて!?」

 そうなのだ。
 どう考えても鮮やかに危機を回避しそうな伯爵より、優しいあの人が白薔薇乙女の会の犠牲になりそうな予感がする。
 いや、どう考えても間違いなく犠牲になるのはラドフォード卿だ。
 熱狂的な愛を伯爵に注ぐ者達ばかりが集まる白薔薇乙女の会の末端に席を置くセシリアには、彼女達の恐ろしさを嫌という程知っているつもりだった。
 彼女達はやると言ったら絶対にやる。
 リヒャルトの身を案じるセシリアに、フレッドは爽やかに笑って見せた。

「大丈夫ですよ、殿下。リヒャルトのことでしたら、ご心配には及びません」
「・・・伯爵?」

 もう解決済みなのかと、流石は伯爵と胸を撫で下ろしたセシリアにフレッドはさらりと告げた。

「リヒャルトでしたら、既に彼女達にボコボコにされましたから。これ以上、身の危険はありませんよ」
「何ですってーっ!?」

 恐ろしいことを爽やかに告げるフレッドに、セシリアはくらりと目眩を覚えた。

「ラ、ラドフォード卿は大丈夫なの!?もしかして怪我をしたのでは・・・!」

 青くなりながらおろおろとリヒャルトの心配をするセシリアに、フレッドは安心させるように優しく微笑んだ。

「大丈夫ですよ。殿下も彼の騎士としての強さを知っているでしょう?致命傷になる攻撃は避けていますし、それに彼だけの優しい妖精に癒されていましたから、逆に良い思いをした筈です」
「妖精?」

 フレッドの告げた言葉に、セシリアは小首を傾げた。
 傷を癒してくれる妖精が彼の傍にいるのだろうか。
 瞬時にラドフォード卿と小さな妖精が戯れている光景を想像して、セシリアの表情が夢見心地に変わる。

(やっぱり傷を癒してくれるという妖精は光り輝いているのかしら。住んでいる場所は、お城の近くの森の中?今度ラドフォード卿に会った時に、その妖精について尋ねてみようかしら・・・)

「リヒャルトについては安心して頂けましたか?でしたら、ぼくはこれで――」
「――お待ちなさい!」

 そのまま退室しようとしたフレッドを、セシリアはすかさず呼び止めた。

「妖精の話を出して、わたくしを煙に巻こうとしても無駄です!記事の真相について、まだ説明を聞いてなくてよ!?」
「・・・あ、やっぱり気付きました?」

 恐ろしい形相で睨み付けるセシリアに、フレッドは「てへっ」と舌を出して笑って見せた。

「ですから先程も申し上げましたように、ぼくも説明出来なくて困っているんですよ。うーん、どうやってご説明差し上げればよろしいでしょうか」
「・・・一体、それはどういうことなの?」

 普段と違い珍しく歯切れの悪い伯爵の物言いに、セシリアは眉をひそめた。

「当事者のあなたが説明出来ないなんてことがあるのかしら?」
「『彼等』の話を信じると、どうやらリヒャルトから護身術を習っていたようです。それがどうしてあんなことになったんだか・・・。しかも運の悪いことに、何故かその体勢の時を見計らったようにぼくの妖精さん達が現れて目撃されてしまったようです」
「・・・『彼等』?妖精さん達?」

 伯爵の言っている意味が、良く分からない。
 伯爵とラドフォード卿のことについて聞いているというのに、『彼等』とは一体誰のことなのか。
 セシリアは腕を組みながらフレッドの説明になっていない説明を理解しようと、必死に頭を働かせた。
 しかし、次の瞬間セシリアはハッと我に返った。

(もしかして、伯爵はまたわたくしを煙に巻こうとしているのでは・・・!?)

「しかし、リヒャルトも運が悪いというか間が悪いというか。折角の二人っきりのチャンスだったというのに・・・って、あれ?殿下?」

 兄として温かく見守っているフレッドがミレーユとリヒャルトの進展しない関係に頭を悩ませていると、ふと目の前のセシリアの気配が不穏なことに気付き顔を上げた。
 見ると、セシリアが長椅子を頭上に掲げていた。

「・・・わたくしが子供だと思って!よくも・・・同じ手には引っかからなくてよっ!」
「で、殿下?何を仰って・・・うわっ」

 フレッド目掛けて物凄い早さで長椅子が落下してくる。
 しかし、フレッドがひらりと避けると、セシリアは近くに置いてある小物を手当たり次第に次々と投げ付け始めた。

「この・・・ちょこまかと!今日という今日は、その軽薄な口を二度ときけないようにしてやるわっ!ええい!避けるのをおやめーっ!」
「ええー?避けなければ当たってしまうじゃないですかー」

 セシリアが次から次へと投げる物を、フレッドは優雅に笑いながら足取りも軽く避け続ける。

「お待ちなさ・・・きゃっ!?」

 壷を手に持ったセシリアがフレッドに近付こうと足を一歩踏み出すと、既に無残に広がる床の散乱物に足先を取られた。

「殿下!」

 フレッドはとっさに腕を伸ばすと、セシリアの腕を引っ張って自分の胸へと引き寄せた。
 しかし、フレッドの足場も悪く、体勢を崩した二人はそのまま倒れ込んでしまう。
 セシリアが手に持っていた壺が後方で割れる音がした。

「・・・いたた」
「ふうっ。・・・瓦礫の山に顔から倒れ込むところでしたね。お怪我はありませんか?」
「・・・えっ」

 柔らかい物が自分の下敷きになっていることに気付き、セシリアは顔を上げた。

「大丈夫ですか、セシリアさま?何処も痛くありませんか?」
「なっ・・・!?」

 すぐ目の前に、恋い焦がれて止まない端正な伯爵の顔があった。
 そして、彼の体と必要以上に密着しているのが分かる。
 セシリアは、仰向けになっているフレッドの上に乗っていたのだった。
 自分の置かれた状況を把握して、セシリアは瞬時に真っ赤になった。

「な、な、なななな・・・」
「ご無礼をお許し下さい。殿下の可愛らしいお顔に傷が付かなくて本当に良かった」

 すぐ近くで伯爵の優しい声が聞こえる。
 考えられない至近距離にセシリアは真っ赤になったまま固まっていた。
 フレッドは何かに気付いたように「ああ」と呟くと、そのままの姿勢でセシリアに告げた。

「殿下、どうやらこれが真相のようです」
「・・・え」

 フレッドの上に乗りながら固まっていたセシリアの思考がようやく動き出す。

「『白薔薇通信』号外の『禁断愛』の真相ですよ。今まさに、あの時と同じ状況だったんです」
「・・・・・・」
「とりあえず、起きましょうか。――こんな所を見られたら、ぼく達も『王宮内禁断ロマンス』と噂されるかもしれませんね?」

 魅惑的に笑うフレッドに一瞬見惚れたセシリアだったが、彼の言葉に現実に引き戻される。

(わ、わわわ、わたくしったら!伯爵の上に乗ったままだったわ・・・!)

「・・・だだだ、誰があなたなんかとっ!」

 セシリアは熱くなった頬を意識しながら勢い良く立ち上がると、フレッドから距離を取った。

「・・・よっと」

 セシリアが元気に立ち上がるのを見届けてから、フレッドもゆっくりと立ち上がる。

「お元気そうで安心しました。殿下、何処も痛くありませんか?」
「え?・・・え、ええ。わたくしは何ともないわ。伯爵こそ、わたくしを庇って倒れたのよね?その・・・何処も怪我はなくて?」
「これでも殿下の騎士団の団長を務めているんですよ?これくらい、何ともありません」
「伯爵・・・」

 綺麗で爽やかで格好良いだけじゃなく頼りになる素敵な騎士に、セシリアは再びぼうっと見惚れてしまう。

「とりあえず、この部屋を片付けましょうか」

 フレッドはそう告げると、怯えながら部屋の外に控えていた侍女達に片付けを命じ始めた。
 侍女達が次々と部屋の中を片付け始めるのを横目に、フレッドはセシリアに告げた。

「さて、先程の話の続きですが。納得して頂けたでしょうか?」

 突然、話を振られたセシリアはハッとしながらフレッドを見た。

「え、ええ。先程のように、事故だったと言いたいのね」

 そう言いながらセシリアは伯爵と密着したことを思い出し、更にカッと頬が熱くなるのが分かった。

「そうなんです。ぼくがつまずいてリヒャルトを巻き込んで、一緒に倒れてしまったんです」

 セシリアの言葉を受けて、にっこりとフレッドは笑って見せる。
 何となく腑に落ちない物を感じながらも、これ以上伯爵の顔を見ることが出来ないセシリアは無理矢理納得することにした。
 ぷいっと横を向きながら口を開く。

「だ、だったら、ラドフォード卿がおかわいそうだわ!不運にも巻き込まれただけなのに、こんな扱いを受けるなんてっ!」

 ちらりと『白薔薇通信号外』を見ながら告げる。

「ええ、それはぼくも同情します。しかし、その後に彼も良い思いをしているのですから、一概に不運だとも言えない気もしますよ」

 まただ。
 伯爵は時々、噛み合わないことを言う。
 言葉遊びを楽しんでいるのだろうか。

「も、もう退室しても結構よ!事情が分かれば、あなたになど用はないのですからっ」

 真っ赤になった顔をこれ以上見られたくなくて、セシリアはつんとそっぽを向きながら早々にフレッドに退室を促す。

「承知致しました。それでは、ぼくはこれで失礼致します。殿下にはご機嫌麗しく」

 セシリアの退室命令にフレッドは優雅に礼をして見せてから、くるりと踵を返した。

「あ・・・」

 伯爵の顔を見るのが恥ずかしいのに、彼が去って行こうとすると名残惜しくなってしまう。
 フレッドの背を見送っていたセシリアだったが、ふと彼が足を止めたことに気付く。
 そして、再び踵を返すと今度は自分に向かって歩いてきた。
 何事かと驚いていたセシリアに近付くと、フレッドが内緒話をするように小声で告げてきた。

「――殿下にお願いが」
「な、何ですのっ!?」

 心の準備もないままに端正な顔を近付けられ、セシリアは胸の鼓動が早くなっていくのを自覚した。
 思わず声が裏返ってしまった。

「ぼく以外の男の人の上に乗ったら駄目ですよ?――ぼくが面白くないですから」

 フレッドの言葉にセシリアは瞬時に真っ赤になった。

「な、なななな何を・・・っ!?乗るわけがありませんわっ!それに、どうしてわたくしがあなたを面白がらせなければなりませんの!?」
「うーん、・・・ちょっと意味が違うんですけどね」

 ぽりぽりと頭を掻くフレッドに、セシリアは益々逆上していった。

「だ、大体、わたくしがまたそのようなことをすると思っているの!?ふしだらだわっ!」
「あっ、そうだ殿下」

 セシリアが顔を真っ赤にして怒る姿を見ながら、フレッドは思い出したことを口にした。

「殿下は妖精のように軽くてお可愛らしいですが、もう少したくさん食べることをお勧めします。ぼくとしても、どうせならもっと女性らしい体型をされている方の下敷きになりたいですから」
「は・・・?」

 にっこりと笑いながら告げるフレッドの言葉に首を傾げていたセシリアだったが、暫くして彼の言いたいことを悟った。

「・・・・・・この」

 セシリアの周りに再び不穏な空気が流れ始める。

「みんな、一旦避難して!」

 フレッドの言葉と同時に、部屋の中にいた侍女達が素早く待避を始める。

「女ったらしーっ!今日こそ死ぬがいいわーーーっ!」
「ひどいです!ぼくは殿下の為を思って・・・」
「おだまりっ!」

 セシリアが投げ付けるのに手頃な物を探していると、フレッドが口を開いた。

「殿下、賭けをしませんか?」
「・・・賭けですって?」

 その言葉に、沸騰していたセシリアの頭が一気に覚めた。
 思えば伯爵と初めて会った日にも、賭けを持ち出された。
 あの時は「何て憎らしい人」と思ったものだが、あの賭けのお陰で自分は声を出すこと出来たし、自分を心配してくれていた優しい人達を安心させることが出来たのだ。
 あの思い出は、今では自分が伯爵に対して特別な想いを抱き始めたきっかけとなっているのだ。
 だから、伯爵の告げる『賭け』という言葉を、セシリアは無視することは出来なかった。

「そうです。賭けをしましょう。――殿下が素敵なレディになれるかどうか」
「・・・なんですって?」

 セシリアが怪訝な顔をしてフレッドを見つめる。

「何故、わたくしがそのような賭けをしなければいけないというの」
「あ、もしかして賭けに勝つ自信がないんですか?」
「なっ・・・!あるに決まっているでしょう!あなたなんかに言われなくても、わたくしは素敵なレディになってみせるわ!」
「では、問題ありませんね。あ、賭けの期限ですが、無期限じゃ面白くないですから期限を設けましょうか。そうですね――殿下が大人になられる迄、では如何ですか?」

 セシリアが驚きながら優雅に微笑むフレッドを見ていると、彼は更に告げた。

「流石にそれ迄に素敵なレディになっていなければ、救いようがありませんからね」
「なんですって・・・!」

 何処か馬鹿にしたような伯爵の態度に、セシリアはカッとなった。

(とても恰好良いのに、相変わらずなんて失礼な人なのかしら・・・!)

「わ、わたくしを子猿か何かと思っているようね!失礼だわ!」
「ええー?少なくとも『レディ』ではありませんよねー?」

 ちらりと部屋の中を見回しながら告げるフレッドに、セシリアは怒りで震え出していた。

「み、見てなさい!素敵なレディになって、あなたをぎゃふんと言わせてみせるんだからっ!ええいっ!出てお行きっ!」
「ははは、殿下が素敵なレディになられるのを楽しみにしていますよ。でも、ぼくはぎゃふんと言わないと思いますよ。ぼくも殿下は『素敵なレディになる』に賭けますから」
「・・・は?」

 フレッドの思わぬ一言に、投げ付けようとしていた椅子と一緒にセシリアの動きがぴたりと止まった。

「・・・それは賭けにならないのではないかしら?」
「あ、そうですね。では、もし殿下が素敵なレディになれなかった日には、ぼく達以外の誰かにぎゃふんと言って貰いましょうか」
「・・・・・・」

 フレッドの意図が分からず、セシリアはまじまじと見つめていた。

「それでは、ぼくはそろそろ失礼します。この部屋の片付けに白百合の男手を何人か寄越しますね。・・・あ、殿下。明日から素敵なレディになる為に頑張って下さいね」
「あ、あなたに言われなくても頑張るわよっ!」
「楽しみにしてますよ」

 爽やかに笑いながら、入室してきた時と同じく颯爽と退室していく伯爵の背を見つめながら、セシリアは混乱していた。

(伯爵は一体、何を考えていらっしゃるのかしら・・・。もしかして、また子供扱いされたのかしら?)

 ふと見ると本棚の中に綺麗に納められた本に気付き、一冊を抜き出すとそっと抱き締めた。
 伯爵から贈られた本だった。

(悔しいけど伯爵との年齢差も三つあるのだから、今はまだ子供扱いでも仕方ないわ。そうよ、素敵なレディになって伯爵に振り向いて貰えるよう頑張るわ・・・)

 泣いてるだけだった小さな赤毛の女の子は、金髪の素敵な王子様と出会って自らの足で歩き出す勇気を貰った。
 いつか夢が叶ってあの人の隣に並べる時が来たら、その時は王女としてではなく一人の女性として微笑んで貰えるようになりたい――。

 いつの間にか部屋の片付けを始めている侍女達を横目に、セシリアは『素敵なレディ』になる為の計画を練り始めるのだった。




~Fin~




<あとがき・・・という名の言い訳>

最後迄読んで下さり、ありがとうございます!m(__)m

今作は、過去の『身代わり』二次創作第六弾『禁断ロマンス』の後日談になります。
後日談ですが、カップリングはフレッド×セシリアです。
『身代わり』二次創作も二十四作目になりますが、リヒミレ以外のカップリングをメインで描いたのは初めてかもしれません。

実は今作を描きながら、気付いたことがあります。
セシリアの王女様言葉が意外と難しかったです(笑)。
セシリアはまだ十四歳だし、あまり高飛車過ぎても可愛くないしな~。
そう考えると、ミレーユの口調って庶民だけあって描きやすいんだなと実感しました。

ここ迄ご覧頂き、本当にありがとうございます!
ドタバタしていて落ち着かない話になっていますが、ご覧下さる方に少しでも楽しんで頂ければと思います。
とにかく初カップリングに挑戦してみましたので、フレセシのイメージを壊してないかとそれだけが心配です。
ミレーユが殿下の上に乗った時は全く恥ずかしくなかったのに、何故かセシリアがフレッドの上に乗る描写は描きながらやたらと気恥かしくなりました。
セシリアが自分の気持ちを自覚している乙女だからかもしれません。

よろしければ、今作のご感想をお待ちしております!m(__)m


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4 コメント

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一番乗り。 (moa)
2011-04-08 11:05:59
こんにちは。フレリア!フレリア!フレリア!
ということでご馳走様でした。
セシリアのツンがとても可愛いです!
・・・余震の大きさに皆様のご無事を祈ることしか出来ません。更新されている様子に元気をいただいています。
どうぞご無理なさらないように日々をお過ごしください。
それでは失礼します。
返信する
☆moa さま (sakura)
2011-04-09 00:48:48
こんばんは。
この度も『身代わり伯爵』二次創作をご覧頂き、そしてコメントをありがとうございます。

>一番乗り。
ありがとうございます!
moaさまから最速でコメントを頂けて、本当に嬉しく思っています!

>フレリア!フレリア!フレリア!
はい。
この度、初めてフレリアに挑戦してみました!ヽ(´∀`)丿♪

>セシリアのツンがとても可愛いです!
今回の創作はかなり自信がなかったので、そう仰って頂けただけでもう満足です!(´;ω;`)
ありがとうございます!
柴田五十鈴氏の描くセシリアが可愛すぎて、最近はセシリアがお気に入りだったりします。
フレッドと結ばれてほしいです。

>余震の大きさに皆様のご無事を祈ることしか出来ません。
そのお気持ちだけで充分だと思います。
私も東京電力を使用している関東の人間として、福島原発と被災地のこれからを見守り続けたいと思っています。
色々とご心配して頂き、ありがとうございます。
これからも日々の呟きはツイッターの方で気軽に呟きたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします!
返信する
こんにちは! (イエロー)
2011-04-12 16:38:17
ふぁぁ!出遅れました!
流石のフレッドもセシリアの前では少~し地が出ているような…抱き心地がよくなる頃(笑)にはゴールイン出来るとイイなぁ~…素敵なお話ありがとうございました!
薄い本…めっちゃ楽しみにしているんですが、多分、会場には行けないので、もし通販していただけたら嬉しいです。
返信する
☆イエロー さま (sakura)
2011-04-13 02:16:04
こんばんは。
この度も『身代わり伯爵』二次創作をご覧頂き、そしてコメントをありがとうございます。

>出遅れました!
いえ、全くそのような事はありません。
いつもご覧頂き、ありがとうございます!

>フレッドもセシリアの前では少~し地が
初めてフレッド×セシリアに挑戦してみたのですが、実は二人の性格を良く掴めていません(笑)。
頑張って、フレッドを理解したいと思います!

>抱き心地がよくなる頃(笑)にはゴールイン
私が描くと、殿下もフレッドもむっつりになるようです(笑)。
フレッドとの約束の二十歳になる頃には、セシリアも綺麗になっているのでしょうね。
でも、ツンデレ姫は治ってないと思います。

>素敵なお話
勿体ないお言葉、ありがとうございます!(´;ω;`)
これからも精進します!

>薄い本
ありがとうございます!
現在、薄い本用の創作を陰ながら執筆中です。
・・・禁断の桃色創作になりますが、心の準備は大丈夫でしょうか(笑)。
実は、どれくらいの方が読みたいと思って下さるのかが全く見当もつかない為、「楽しみ」だと仰って頂けると励みになります!
ご覧頂いても恥ずかしくない物に、頑張って仕上げたいと思います。
私も相馬さまとまみみさまのお話を拝読したいので、薄い本が欲しいです!
通販については、三人で話し合いたいと思います。
企画が実現出来るよう、頑張りたいと思います!
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