とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

RECOVERY trialでトシリズマブの有効性が示された

2021-02-13 09:42:49 | 新型コロナウイルス(治療)
Preprintではありますが、The Randomised Evaluation of COVID-19 therapy (RECOVERY) trialにおいてtocilizumabの有効性を示す研究結果が発表されました。RECOVERYは英国のNHS hospitalsで行われている、様々な治療薬の有効性・安全性を検証する大規模なtrialで、これまでにもデキサメサゾンが有効であることを示しています。今回の論文は抗IL-6受容体抗体tocilizumabの有効性を示したものです。RECOVERY trialではmain randomisation(Part A: dexamethasone, lopinavir-ritonavir, hydroxychloroquine, azithromycin, colchicine, Part B: 回復期患者血清、抗体製剤, Part C: aspirinの有用性を検証しているもの)の後、COVID-19症状の臨床的な進行が見られた患者(room airでSpO2<92%または酸素吸入要かつCRP≥75 mg/L)に対してsecond randomisationとしてtocilizumabとno additional treatmentの比較をしています。このようなデザインになっているのは他の治療薬に比べてtocilizumabが高価なためだと思われます。結果として4116名(人工呼吸患者14%、非侵襲的な補助呼吸が41%を含む)がランダム化され、2022名がtocilizumab群、2094名が通常治療群に割り付けられました。82%の患者ではステロイド投与が行われていました。Tocilizumabの用量は体重に応じて決定されています(90 kg超では800 mg, 65-95 kgでは600 mg, 40-65 kgでは400 mg, 40 kg以下では8 mg/kg)。この用量を一度IV投与し、改善が見られない場合には12時間から24時間後にもう一度投与します。
結果としては①tocilizumab群で28日以内の死亡率が改善(rata ratio 0.86; 95% CI, 0.77-0.96, p=0.007)②28日以内の生存退院が上昇(54% vs 47%; rata ratio 1.22; 95% CI, 1.12-1.34, p<0.0001)というものです。改善率としては目を見張るようなものではありませんが、他の治療法が奏功しなかった患者に行われた試験であることを考えれば、有望な結果と言えそうです。

ワクチン接種をためらう理由は?(長いです)

2021-02-11 12:01:04 | 新型コロナウイルス(治療)
「ワクチン接種をためらう理由は?(長いです)」
天然痘やポリオの例を見ても、ワクチンが人類の感染症との戦いにおいて強力な武器であることは間違いありません。今回の新型コロナウイルス感染症においても優れたワクチンの開発をうけて、「感染の拡大を抑え込んで日常生活を取り戻したい」と考えている人々にとっては、ワクチンへの反対や拒否は「けしからん」ことなわけです。しかし私の周囲にも「接種するつもりだけど怖い」という声もきかれます。医学・科学リテラシーが高い方でもそうなのですから、一般の方々にとって不安はもっと強いのだと思います。この記事中のDeborah Jones先生のように”But what strikes me is how many people are still hesitating. Vaccine hesitancy will slow down our return to normal.(田中訳:しかし、びっくりするのは[ワクチン接種を]まだためらっている人がたくさんいることです。ワクチンを躊躇することは正常への復帰を遅らせるのにね)” というような上から目線の言い方では、迷っている人にはきっと納得してもらえないでしょう。かといって「感染予防効果は**%で重症化予防効果は**%です。**%に副作用が、**%に重篤な副作用がでます」と詳しく説明をうけても、「10万人に1人というワクチンの重篤な副作用は、通常の薬で副作用が出るよりも少ないです」と言われても、基本的に安全よりも安心を優先させるのが人間の常なので(交通事故にあうよりも飛行機事故にあう方が怖い)、なかなか決めきれないわけです。
集団免疫という観点からはなるべく多くのヒトにワクチン接種を受けていただいた方が良いわけですから、全国民に強制的に接種という(全体主義的な)国があっても不思議ではありません。一方で「私は接種したくない」という自由を尊重するというのも、民主国家のあるべき姿であり、過度の同調圧力が働いて、未接種者を差別したり疎外したりというのは避けたいところです(ありそうな未来ではありますが)。それではこのような中で国としてワクチン接種率を高めたいとすれば、どうすれば良いのでしょうか?
まずワクチン接種をためらう理由を思いつくままに列挙してみます。「ワクチンにはマイクロチップが入っていてCIAに行動を観察される」というようなトンデモ理由はとりあえず除外します。
1. これまでに経験のないワクチンなので(副作用が)怖い
2. 発熱や注射部位痛などの副反応が怖い
3. デメリットを上回るメリットが理解できない
4. ワクチン自体の有効性を信じていない
5. 変異したウイルスには無効なので接種しても無意味
6. たかが風邪のウイルスに対してそんな大げさなことはしたくない
7. 実験台になるのが嫌
8. ワクチンを打たなくても私は感染しない
9. 注射が嫌
10. とにかく嫌
など様々な理由がありそうです。
大きく①副作用や副反応に対する(当然の)恐怖、②科学的なようで科学的ではない理由、③心理的な壁、その他、などに分類できそうです。
①(1, 2, 3など)は当然の不安です。これについては副反応・副作用の頻度や程度といったデメリットと、感染予防や重症化防止というメリットを理解し、メリットが大きいことを納得してもらうしかありません。私は積極的に接種するつもりですし、デメリット<<<メリットだと考えているのですが、それでも未経験なものに対する恐怖は(ある程度)あります。
②(4, 5, 6など)を主張する方々は、一見科学的な理由を主張されます。例えば「ワクチンを接種しても感染した例が報告されている(田中の意見:ワクチンの効果は集団として威力を発揮するので、一例一例の感染を取り上げるのは科学的ではないと思います)」「95%の有効性といっても95%が感染しないという訳ではなく接種の有効性は否定的(田中の意見:そもそも感染しない人がほとんどなのであたりまえで、ワクチンとはそういうものです。だからと言って有効性が否定されるわけではありません)」「変異したウイルスには無効だから接種しない(田中の意見:完全に無効だと証明されたわけではないですし、日本でドミナントな従来タイプには有効なのですから、これをもって接種しない理由にはならないと思います)」。6を主張される方は「重症化する人は一部でほとんどは軽症」ということを根拠にされます。重症化するのがごく一部であることは間違いありませんが、それを言えばポリオもそうです。現時点ではどのような方が重症化するのかがまだ完全には分かっていませんし、感染防御のために現在病院でいかに特別な対策(コスト的にも、マンパワー的にも)を必要としているかを理解していただく必要があると思います。「そんなのは必要ない」と言われればそれまでですが、病院では感染対策は十二分に行わないといけないのが実情です。これ以外にも先端的な基礎研究を根拠にするバージョンもありますが、多くの場合は正確な理解に欠けた議論になっているように思います。このような方々に納得していただくのはかえって難しい(きちんと説明してもまた新たな根拠を出してくる)ので静観するしかないのですが、接種率が高くなってきた場合には宗旨変えをされるケースも多いかもしれません。
③(上記以外)については個人の意思を尊重するしかありませんが、時々いる医療従事者で7(まず初めに医療従事者に接種するなんて、我々を実験台にしようとしているのか)のようなことを仰る方は、これまで治験などの臨床試験に参加されてきた方々のことをどう考えているのでしょうか?そもそも世界的に見ると何千万人もすでに接種しているわけですし。。
ということで私自身はワクチンは接種したほうがいいと考えており、患者さんに聞かれたらそのようにお話ししているのですが、国全体としてワクチン接種を推進していこうと思えば、反対・拒否される方々の理由や背景を十分に理解した上で、それに応じてコンセンサスを形成していくしかないのではないか、と思います。
個人的には「コロナワクチン接種後に高齢者死亡!!」というような詳細な背景や解析をすっとばしたセンセーショナルな見出しで煽るマスメディアやSNSは勘弁してほしいですがε-(-ω-; )
Nature NEWS 10 FEBRUARY 2021
”Trust in COVID vaccines is growing. Survey spanning several countries finds encouraging trends, but researchers warn vaccine hesitancy could slow pandemic recovery.”by Emiliano Rodríguez Mega

新型コロナウイルスに対する抗体製剤カクテル(REGN-COV2)の有効性

2021-01-22 13:20:44 | 新型コロナウイルス(治療)
新型コロナウイルス感染症対策の切札としてワクチンに期待が集まっており、現在接種する順番や段取りなど具体的な流れをどうするかが懸案になっています。一方で感染した患者に対する治療薬としてはステロイド、レムデシビルなどが正式に使用可能ですが(英国では抗IL-6受容体抗体も)、中々決め手に欠ける感は拭えません。ウイルスを排除するという点では中和抗体が有用な事は疑いなく、このような観点から回復期患者血漿が世界各国で実際に使用されています。これについては効果が限定的という報告もありますが(1)、早期に高タイターの血漿を投与すると有効であるとする報告もあります(2)。しかし回復期患者血漿は当然患者頼みで患者が少なければ集まりませんし(そもそも必要ないですし)、中和抗体価のばらつきも大きく、未知の感染症伝染のリスクもゼロではありません。このような中で、人工的に作成した抗体(生物学的製剤)が期待できるのではないかと考えておりました。Regeneron社は早くから抗体療法に照準を合わせて開発に乗り出しており、抗体製剤であるREGN-COV2がアカゲザルおよびハムスターのモデルでSARS-CoV-2の複製を抑制することを示しています(3)。この抗体の特徴はSARS-CoV-2の受容体結合部位に対する2種類のIgG1モノクローナル抗体casirivimab, imdevimabのカクテルであるという点です。彼らは抗respiratory syncytial virus抗体suptavumabの臨床試験において、単独抗体の投与では治療抵抗性のウイルスが出現したという経験から、2種類以上の抗体カクテルが有用と考えて、このような製剤を開発したようです(4)。
今回の論文は現在進行中であるREGN-COV2(SARS-CoV-2 receptor bindind domainに対する2種類のIgG1モノクローナル抗体casirivimab, imdevimabのカクテル)のPh1-3臨床試験の中間解析結果です。入院していないSARS-CoV-2感染確定患者で、陽性診断からランダム化まで72時間以内、症状出現から7日以内の患者275人を対象に、1日目に1:1:1の割合でランダム化し、プラセボ, REGN-COV2 2.4 g (low dosage, LD), 8.0g (high dosage, HD)投与を行いました。主なアウトカム評価は7日目までの検出ウイルス量の変化、安全性などで、臨床評価については29日までにCOVID-19に関連した1回以上の病院受診の有無を調べています。Baselineで抗SARS-CoV-2抗体を有しているかどうか、ウイルスタイターなどで層別解析も行っています。
(結果)1日目⇒7日目のウイルス量の変化はbaselineで抗ウイルス抗体を有していない群ではプラセボと比較してREGN-COV2投与群で−0.56 log10 copies/mLの減少、全体では−0.41 log10 copies/mLの減少といずれも有意でした。ウイルス量の減少は特に元々の検出ウイルスタイターが高い群で顕著でした。臨床評価である病院受診患者は、プラセボ群6/93(6%), REGN-COV2投与群6/182(3%)と49%低く、抗ウイルス抗体陰性患者ではプラセボ群5/33(15%)、 REGN-COV2投与群5/80(6%)と59%の減少が見られました。 REGN-COV2投与による有害事象はinfusion reactionも含めてプラセボ群と違いはありませんでした。また抗体の半減期はcasirivimab, imdevimabいずれも25-37日程度でした。
今回の中間解析はあくまでウイルス量の変化を見ているということですので、この抗体によって臨床症状が改善するか、予後を変化させるかなどについては今後の報告を待つしかありませんが、イーライリリー社のモノクローナル抗体LY-CoV555が単独では入院患者の予後を変えなかった(5)という報告や、上記の回復期患者血漿の報告を考えると、今回の抗体カクテルは比較的早期に投与することでウイルス量を減らし、重症化を抑制するという効果は期待できるように思います。
PS:完全に見落としておりましたが、同じ号のNEJMにLY-CoV555の投与によって軽症~中等症患者のウイルス量減少と入院患者数減少が見られたことは報告されていました(6)。やはり感染早期の抗体製剤投与は有効であると考えられます。
1) Simonovich et al., N Engl J Med. 2020 Nov 24:NEJMoa2031304. doi: 10.1056/NEJMoa2031304. A Randomized Trial of Convalescent Plasma in Covid-19 Severe Pneumonia.
2) Libster et al., N Engl J Med. 2021 Jan 6. doi: 10.1056/NEJMoa2033700. Early High-Titer Plasma Therapy to Prevent Severe Covid-19 in Older Adults.
3) Baum et al., Science 2020; 370: 1110-5. REGN-COV2 antibodies prevent and treat SARS-CoV-2 infection in rhesus macaques and hamsters.
4) Simoes et al., Clin Infect Dis. 2020 Sep 8:ciaa951. doi: 10.1093/cid/ciaa951. Suptavumab for the Prevention of Medically Attended Respiratory Syncytial Virus Infection in Preterm Infants.
5) Sandkovsky et al., N Engl J Med. 2020 Dec 22:NEJMoa2033130. doi: 10.1056/NEJMoa2033130. A Neutralizing Monoclonal Antibody for Hospitalized Patients with Covid-19.
6) Chen et al., . N Engl J Med. 2021 Jan 21;384(3):229-237. SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody LY-CoV555 in Outpatients with Covid-19.


英国でTocilizumab, SarilumabがCOVID-19に承認された

2021-01-09 23:35:47 | 新型コロナウイルス(治療)
最近のニュースで少し意外だったのはtocilizumab, sarilumabという抗IL-6受容体抗体がCOVID-19患者の死亡率を低下させ、英国で治療薬として承認されそうだ(された?)というものです (1)。これまで、いくつかの観察研究ではCOVID-19に対するIL-6阻害療法の有効性を示す結果が報告されていましたが、Bostonの7病院で行われたRCT(BACC Bay Tocilizumab trial)では挿管または死亡率に差はなく(入院28日後までのhazard ratioは0.83, 95% CI 0.38 to 1.81; P=0.64) (2)、それ以外にもCOVACTA trial (3), RCT-TCZ-COVID-19 trial (4), CORIMUNO-TOCI-1 trial (5)などのRCTで、やはり死亡率や重症化率に有意差がないことが報告されており、がっかりしていました。最近NEJMに掲載されたEMPACTA trial (5)では、primary outcomeである「28日後の死亡あるいは人工呼吸器装着率」はtocilizumab投与患者で有意な改善が見られましたが(tocilizumab vs placebo; 12.0% vs 19.3%, P=0.04)、死亡率だけを見ると有意差がないとの結果でした(10.4% vs 8.6%, weighted difference 2.0%, 95% CI -5.2 to 7.8)。
今回の英国における承認の報道はpreprintとしてmedRxivに報告されたREMAP-CAP trial (7)の結果を受けてのことのようです。この試験では、353名をtocilizumab, 48名をsarilumab, 402名をプラセボ群に割り付けて人工呼吸器やECMOが必要になるまでの日数、死亡率などを検討し、介入群で有意に良好であるという結果でした(21日目までの死亡率はtocilizumab, sarilumab, placebo群それぞれで28.0%, 22.2%, 35.8%)。これらのtrialの結果の違いがどのような理由なのかはわかりませんが、組み入れ患者の重症度に違いはあるようです。BACC Bay Tocilizumab trialとEMPACTAではbaselineの重症度が異なっており(後者の方が重症患者を多く含む)、今回のREMAP-CAPでは組み入れ患者の3割程度が人工呼吸器装着患者ということで、重症例を多くふくんでいるようです。治療の選択肢が増えることは結構なことですが、REMAP-CAPはpreprintの段階ですし、タイトルに"Preliminary report"とあるように、まだ内容については精査が必要な気がします。ワクチンの超早期承認の時もそう思ったのですが、COVID-19流行早期の失敗に懲りてのことか、英国はやや前のめり過ぎる(焦りすぎている?)ように見えるのは気のせいでしょうか。
1) Arthritis drug tocilizumab cuts Covid death risk by a quarter | News | The Times
2) Stone et al., N Engl J Med 2020;383:2333-2344.
3) Rosas et al., https://www.medrxiv.org/con.../10.1101/2020.08.27.20183442v2.  preprint
4) Salvarani et al., JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181(1):24-31.
5) Hermine et al., JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181(1):32-40.
6) Salama et al., N Engl J Med. 2021 Jan 7;384(1):20-30
7) The REMAP-CAP Investigators. https://doi.org/10.1101/2021.01.07.21249390. preprint

新型コロナウイルスワクチン投与によるアナフィラキシー反応

2021-01-01 23:01:31 | 新型コロナウイルス(治療)
ワクチンによって天然痘が根絶されたという歴史的な成功例を考えれば、ワクチンは集団レベルでは疾患予防において切り札ともなりうる存在であり、有効なワクチンがあるのにそれを拒否する人々に対して、医療従事者としては「科学リテラシーに欠ける」と批判したい気持ちはよくわかります。しかし最近日本語訳が出版された「ワクチンレース(Meredith Wadman著 羊土社)」を読むと、かつての狂犬病ワクチンのように、かなりな高頻度で致死的な副作用が出た例や、逆にワクチンに疾患予防効果が見られないケースがしばしばあったことも記されています。有効なワクチンであっても100%の有効性を示すことはありませんし、少ないとはいえ重篤な有害事象が出現した本人にとってみれば「ワクチンを投与していなければ」と悔やむのはやむを得ないでしょう。少なくとも無条件に「ワクチン=善」とも言えないことも真実かと思います。もちろんこのような失敗を繰り返さないために、現在ではワクチンの臨床応用に際してはしっかりした臨床試験が義務づけられているわけですが、承認されたワクチンであっても投与後に医学的に説明できないような症状を示すこともあり、日本で子宮頚癌ワクチンの普及を妨げる原因ともなっています。
前置きが長くなりましたが、現在英国や米国でemergency use authorization(EUA)が認められているCOVID-19に対するワクチンは、臨床試験で極めて高い有効性が認められ、また重篤な有害事象が無かったとされています。しかし実際に多数の人々に投与してみると、アナフィラキシー(様)反応が通常のワクチンの10倍程度に見られたことが問題になっています(とはいえ10万人に1人くらいですが)。現在使用されているPfizer-BioNTecおよびModernaのワクチンはいずれもmRNAワクチンですが、mRNAの安定性を増すためにlipid-based nanoparticle carrierおよびポリエチレングリコール(PEG)が使用されており、これら(特に高分子PEG)に対するアレルギー反応がアナフィラキシー反応の原因ではないかと考えられています。幸いいずれの例もエピネフリン投与で回復しているようですが、アナフィラキシー反応を呈した人の多くが過去に食べ物や薬剤に対するアレルギー症状を呈し、エピネフリンの自己注射を行っていたという事実から、何らかのワクチン添加物に対してアナフィラキシー反応の既往を有する人はこれらのワクチン投与を避けるようにとの指示がCDCなどから出されています。またどちらかのワクチン投与によってアナフィラキシー反応を呈した場合はもう一方のワクチン投与も避けるべきとされています。
感染力が高い今回のウイルスに対しては、人口のうちある程度以上の割合(60%以上ともいわれていますが)が免疫を有することがパンデミック終息に必要であるとされています。今後ワクチンの有効性を最大限に引き出すためには、安全性に関する情報を十分に収集、公表に努め、適切な投与を推奨していくことが必要でしょう。これには政策決定者のかじ取りが極めて重要になってきます。海外データですが、2020年11月30日から12月8日までに調査した成人1676人のデータによると、COVID-19ワクチンが承認され、広く利用できるようになった場合、34%はできるだけ早く接種する、39%は待つ、9%は仕事や学校で必要な場合のみ接種する、15%は絶対に接種しない、という結果だったそうです(JAMA. 2020 Dec 29. doi: 10.1001/jama.2020.26553参照)。一方感染症や入院のリスクが高い黒人では、ワクチンの接種意向が低く、すぐに接種するが20%、待つが52%で、このあたりは人種差があるようです(ちなみに上記JAMAのreviewに対して国立病院機構京都医療センターの林先生がコメントを出しておられますが、日本人のCOVID-19ワクチン接種希望は60%だったそうです)。成人へのワクチン義務化は難しいと思いますが、実際は日本でも医療機関によってはインフルエンザワクチンが事実上義務になっているようなところも多いですし、COVID-19ワクチンについてもいずれそのような形になるかもしれません。ワクチン義務化には倫理的な問題もあるので政策立案者の判断が重要ですが、日本では子宮頚癌ワクチンの例をみてもわかるように、義務化はおろか積極的推奨さえもできず、腰砕けになる可能性が高いように思います。
Castells MC, Phillips EJ.  Maintaining Safety with SARS-CoV-2 Vaccines. N Engl J Med. 2020 Dec 30. doi: 10.1056/NEJMra2035343.