さいたま赤十字病院では膠原病に関連した呼吸器病変に対して呼吸器内科とリウマチ膠原病内科がタイアップして診療しており、週に1度の膠原病肺カンファレンスを含めて情報共有をしながら診療に当たっています。呼吸器内科としては他科とオーバーアップする領域が多く、他科との連携が非常に重要です。幸運にも当科的には他科との連携が非常に良好で、呼吸器専門病院とは異なり、呼吸器総合診療をするには本当にいい環境で仕事をさせてもらており、またそれが我々の誇りでもあります。
先日の膠原病肺カンファレンスでとても興味深い症例がありましたので、提示させていただきます。
中年女性の関節リウマチ(RA)症例です。RAに関して現在MTXなどの抗リウマチ薬投与にて関節症状が改善している経過です。その症例の初診時のスクリーニングの胸部CTにて異常を指摘され、当科に依頼されました。その時の胸部HRCTを提示します。
右中葉に喀痰貯留を伴う気管支拡張、左下葉に喀痰貯留、気管支壁肥厚を伴う気管支拡張、小葉中心粒状影を認めています。慢性炎症性変化を疑う所見です。患者さん的にはほとんど呼吸器症状はなかったのですが、誘発喀痰培養検査を行ったところ、インフルエンザ桿菌が少量検出されました。この症例の呼吸器病変はインフルエンザ桿菌による慢性下気道感染症でいいでしょうか?
本例は呼吸症状が乏しかったため、RAの治療を先行していき、呼吸器病変についてはマクロライドを含め抗菌薬の投与を全く行っていません。
その後8カ月くらいのちの胸部HRCTを提示します。
どうでしょうか?初診時に認めた小葉中心性粒状影、喀痰貯留は著明に改善し、気管支壁肥厚、気管支拡張が軽度残存しているのみです。
この症例の気道病変はRAの治療のみで改善しました。ということはRAによる気道病変として説明可能なのではないでしょうか?
当然ながらインフルエンザ桿菌による慢性下気道感染症、程度が軽ければ自然軽快もありうるシナリオかもしれませんが、今までのRA診療のなかで、肺NTM症でも一般細菌でもいですが気道病変を認めたときに、治療介入をしないと悪化することはあれ、改善することは全く経験がありません。本例は病理学検討はなされていませんが、臨床的にはRAによる気道病変であり、抗リウマチ治療にて改善したと自信を持って提示出来る症例なのではないでしょうか?本当に美しい症例、画像を見させていただきました。
RAにおいて呼吸器病変には十分注目しなければいけない病態かと思いますが、実臨床においては間質性肺炎、慢性下気道感染症が中心になり、RA自体の気道病変には思ったほど注目されていないのではないでしょうか?というか、RAによる気道病変と診断するのがとても難しいからではないでしょうか?ほとんどの症例が呼吸器検体から有意な病原菌が件出されるとそれによる慢性下気道感染症と暫定含め診断しているのではないでしょうか?今回の症例もインフルエンザ桿菌が検出されており、慢性下気道感染症と考え、EMなど内服させてしまうことも十分ありえる経過かと思います。今回はたまたま症状が軽かったため、RA自体の治療のみしか行っておらず、その経過からRAによる気道病変と確定診断が出来たのかと思います。
RAによる気道病変は濾胞性細気管支炎、閉塞性細気管支炎、気管支拡張など多彩な気道病変があります。先日の呼吸器学会地方会で埼玉県立循環器呼吸器病センターからRAに伴うDPBの報告(組織診断されています)もありました。本例の小葉中心性粒状影ももしかしたらDPB様の病理所見であったのかもしれません。実臨床においてはなかなかきちんと診断することが難しくあまりデータがないですが、RA症例もしかしたら思った以上にRA自体の気道病変が多いのではないかと思いました。今回の症例もそうなのですが、喀痰検査、気管支鏡による検体から病原菌が検出されたときにそれによる慢性感染症と言い切ってしてしまうことは早急なのではないかということです。RAによる気道病変があればその気道に一般細菌、抗酸菌がコロニゼーションし、その後感染症を発病しても何らおかしくはないですよね。すべての気道病変を感染症と決めつけてしまうのはよくないかと思います。なかなか病理がと取れない現状のなか、細菌培養の結果のみで診断してしまってはいけないという教訓的な症例であったのではないかと思います。膠原病のなかでは最も症例数の多いRAについて、RA自体の気道病変にも今後さらに注目すべきかと痛感しました。さらに深く検索するためにクライオ生検も生かせるかもしれないですね。
今後もリウマチ膠原病内科の先生方と頑張って診療していきたいと思います。
追伸。年末になり、新型コロナウイルス感染症患者さんが急増しています。本当に恐ろしい世の中になってしまいました。今自分たちに出来ることは何でしょうか?一人ひとりよく考えて行動しなければいけないですね。とにかく密にならないように努力しませんか?他人とのアルコールを含めた飲食を自粛するだけでも全然違うのではないでしょうか?胸に手を当てて、よく考えながら行動していきましょう。