さいたま赤十字病院呼吸器内科 『こちら彩の国 呼吸器科』

さいたま市近隣での呼吸器診療に興味のある、
若手医師、医学生の見学(平日)を歓迎します。ご連絡ください。

3月のチェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)から

2019年03月21日 | カンファレンス室

3月20日(水)にさいたま赤十字病院チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)を開催いたしました。今回は当院初期研修医3名に加えて、他病院の初期研修医の先生も来てくれました。毎回常連の済生会栗橋病院の大久保先生、帝京大学の平岡先生、日本医大の山根先生、戸田市民病院の松宮先生も来ていただき、とても活発な討論をすることが出来ました。皆様に感謝しています。(最近当院のMEさんが参加してくれています。コメディカルとして色々な医学情報を吸収したいという気持ちでの参加、頭の下がる思いです)実診療に生かせる勉強会ということで、難しい症例ばかりではないので、皆さんも程々に復習出来たのではないかと思いますが、ちょっと症例を思い出し、簡単に解説したいと思います。

①慢性好酸球性肺炎症例‥肺内多発胸膜直下優位の非区域性浸潤影でした。「治らない肺炎」のカテゴリーに入る疾患のひとつかと思います。陰影が移動する疾患(migration)としてこの慢性好酸球性肺炎と特発性器質化肺炎(COP)は押さえておきたいところです。「治らない肺炎」、ほかにもたくさんありますよね?腫瘍性疾患(粘液産生癌、肺原発悪性リンパ腫)もありますよ。

②肺非結核性抗酸菌症(M. abscessus症)‥この症例では慢性の繰り返す呼吸器感染症の症例でした。「慢性呼吸器感染症」の原因菌は?インフルエンザ桿菌、緑膿菌は当然として抗酸菌(結核菌、非結核性抗酸菌)、真菌(アルペルギルスなど)、ノカルジア、放線菌などは挙げるようにしましょう。ついでに結核を疑う症例として「粒と空洞を探せ!」を再確認しました。

③サルコイドーシス症例‥粒状影主体の陰影でしたが、詳細に見てみると葉間胸膜に結節、気管支血管束に沿った結節など広義間質病変を強く疑うCT所見でした。サルコイドーシスというと上肺野優位の陰影を来すと有名ですが(上肺野優位分布の疾患は大丈夫ですか?CASSET-Pですよ)、サルコイドーシスの場合、中肺野主体の陰影になったり、胸部CTにて腹側、背側には病変が軽く、いわゆる中間領域に陰影が分布するというのも特徴のひとつであることを理解していただけたらと思います。

④関節リウマチにてMTXや生物学的製剤を使用中に出現した肺病変(呼吸器感染症)で抗菌薬が効かない症例でした。診断はクリプトコッカス症でした。当院に来た時には左下葉主体に浸潤影になってしまっていましたが、前医のCTを見ると、左下葉内に浸潤影以外に結節、斑状浸潤影が散在しており、おおざっぱかもしれませんが、佐藤雅史先生が提唱していた「同一肺葉内多発結節を見たらクリプトコッカス症を疑え!」を思い出す一例でした。当然ながら肺クリプトコッカス症例の画像所見は単発、多発の結節影、腫瘤影、浸潤影で空洞を伴うこともあり、多彩な画像所見を呈するということを覚えてください。また、実臨床的には生検をすると器質化肺炎を認めることが多いため、COPと勘違いされ、ステロイドを使用し、髄膜炎になってしまった症例があり、器質化肺炎の原因として理解しなければいけないとのコメントでした。(器質化肺炎をの原因についてはあとで教科書を見ておいてくださいね)それから、MTX使用中に出現した肺内病変の鑑別として今回のような感染症以外にはMTX肺炎(OPパターン)やMTX関連リンパ増殖性疾患も鑑別すべきとコメントをいただきました。

⑤肺胞蛋白症(PAP)症例‥両側びまん性にcrazy paving appearanceを伴うスリガラス陰影である意味典型的な症例でした。crazy paving appearanceを来す疾患は色々ありますが、慢性経過となるとPAPが高頻度かと思います。(当院ではリポイド肺炎でcrazy paving appearanceを来すと報告したましたが)それから胸部CTを見ると、胸膜直下に台形状のすりガラス陰影を見たらPAPに典型だというコメントもありました。実臨床的には胸部画像所見が派手なのに関わらず症状が乏しい(呼吸不全がない)というのも重要なポイントかと思います。

⑥防水スプレーによる急性肺障害症例‥きちんとした問診をすればわかる疾患ですが、いかに問診するきっかけを持つかも重要です。本例は病変の分布が上中肺野優位で、下肺野とくにcosto-phrenic angle付近には全く陰影を認めませんでした。吸入性肺障害は換気の乏しい領域に陰影が残るため、今回の症例のように上中肺野優位の分布を呈します。ちなみにcosto-phrenic angleを含めた下肺野に病変がないときには今回の吸入性肺障害以外にPAP、ニューモシスティス肺炎(PCP)の三つを考えるべきとコメントをいただきました。

⑦肺癌症例‥今回提示した症例は容積減少があるも気管支入口部は異常なしという症例で、癌自体による線維化が関与しているのでしょうか?その陰影自体は意外と悩ましいのですが、他の部位を見ると小葉間隔壁肥厚、気管支血管束肥厚など癌性リンパ管症の所見がありました。副所見を加えて総合的に判断することも必要かと思いました。

あと2例は大久保先生症例ですが‥

⑧ホジキン病にて化学療法後に発症したPCP症例‥臨床的背景も大事ですが、胸部CT上びまん性すりガラス陰影(モザイクパターン)は典型的かと思います。(自分の経験もそうですが、意外と小葉間隔壁肥厚が目立つ症例が多いように思います)

⑨気管支動脈ー肺動脈ろう症例‥あまりにも難しくて勉強になるコメントが出来なくて申し訳ございません。今度大久保先生に記載してもらいましょうか?

 

ということで、約2時間の勉強会でしたが、今後の診療に役立つことをたくさんアドバイスをしてもらいました。次回は確実に診断出来るように頑張りましょうね。

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気管気管支結核

2019年03月17日 | カンファレンス室

雑誌「Respiration」に気管気管支結核の論文が出ていました。(Respiration 2019 ;97: 153-159)

気管支気管支結核は決して頻度の高い疾患ではないですが、注意しないといけない疾患のひとつです。実臨床的には咳の持続にて医療施設を受診しますが、胸部レントゲンでは肺病変が当初は目立たないため、結核の可能性を考えず、喀痰検査をする機会を失ってしまうことが多いとされています。また気道狭窄により胸部聴診上喘鳴が聞かれることがあります。まじめに聞けば左右差があり、気管支喘息とは異なると気づくはずなのですが、忙しい外来の中ではそこに気づかず気管支喘息と考え、吸入ステロイド(ICS)を処方してしまうこともあります。気管支喘息と思ってしまっているから、その後症状が改善しなくてもレントゲンをフォローアップする機会を失ってしまい、大分経過してから胸部レントゲン異常に気づき、喀痰塗抹検査で強陽性になり、診断されます。診断時には相当感染のリスクの高い症例として、院内感染対策上相当問題になるのではないでしょうか?

今回の論文は中国からの論文です。1年の観察期間に2034例の肺結核症例を集め、そのうち1442例に気管支鏡を行い、345例(23.9%)に気管気管支結核の合併を証明しています。中国という国の問題かとは思いますが、相当の頻度で気管気管支結核が合併しているという驚き以上に肺結核の症例に診断時より積極的に気管支鏡を施行している姿勢にさらに驚きでした。(日本ではありえない話かと思います)女性、50歳以下の若い症例、都会に住んでいる、咳が4週間以上持続している症例に多いということで、この辺りは教科書に書かれている内容と同じかと思います。病変部医は上葉が45%と最も高頻度ですが、主気管支、気管が各30%で続き、下葉は19%と頻度が低いとされています。気管気管支結核症例の59.7%が気道狭窄を認め、そのうち23.3%の症例が高度狭窄を来しているとのことでした。肺結核症例において、中年女性、4週間以上の症状(咳)持続症例においては診断時より積極的に気管支鏡による評価が必要だという結論でした。結論にいては感染リスクなどを考えると早急に気管支鏡を施行すべきかどうかは疑問であり、胸部CTを施行した症例においては気管、主気管支など内腔の不整、狭窄などないかを検討することが重要なのではないかと思います。また、経過の中で咳、喘鳴、呼吸困難などの症状の持続、悪化時には胸部CTをフォロ‐アップしながら、気管支鏡の施行するタイミングを図るのでもよろしいのではないでしょうか?

我々としては気管気管支結核のように胸部レントゲンだけでは見逃しやすい結核感染症があるということ、慢性咳嗽症例において鑑別疾患のひとつに気管気管支結核を挙げ、特に中年(というか若い)女性には要注意、片側性の喘鳴にも要注意というところでしょうか?是非とも足元をすくわれないように注意しましょうね。

ちなみに以前右中葉無気肺の画像を呈した気管支結核を経験しました。気管支結核の病変部位としては上葉、主気管支、気管が多いですが、容積減少を伴う気管支結核症例としては中葉が一番頻度が高いということで、中葉および舌区に病変があるとまず肺非結核性抗酸菌症と言ってしまいますが、本当に大丈夫かという言う気持ちは常に持った方がいいかもしれないですね。

また、論文の中に気管気管支結核症例は喫煙者が少ないとのことです。本当に意味での機序は不明かと思いますが、喫煙が気道上皮を変性させてしまうため、結核菌が気道で常在、増殖することを防いでいるのではないか?男性の方が女性より喫煙率が高いから女性の方に気管気管支結核症例が多いのではという考察があり、とても興味深く読んでいました。

とにかく「臨床医たるもの、常に結核感染症には注意しましょう」ということでどうでしょうか?

 さいたま新都心にもおいしいお店がありますよ。

 

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チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)のお知らせ

2019年03月16日 | お知らせ

もう目の前に春がやって来ています。まだ少し寒く、風が強いですが、もう少しの辛抱です。春のなれば少しは呼吸器内科の入院患者さんは減るのでしょうか?少し期待して待っていようと思います。

話は変わりますが、毎月恒例のさいたま赤十字病院チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)ですが、今月3月は3月20日(水)に開催いたします。いつもと同様午後7時よりさいたま赤十字病院7階第3会議室で行います。興味のある方々は奮ってご参加くださいね。今年に入ってあふれるように呼吸器の患者さんが入院し、気管支鏡を含め多数例に検査をしており、その中で診断出来た興味深い症例がたくさんあります。是非とも興味深い呼吸器症例を皆様と一緒に勉強し、シェアしたいと思います。当日は皆様とお会いできることを楽しみにしています。

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放射線学的読影が有用だった1例

2019年03月10日 | カンファレンス室

ある女性の関節リウマチ(RA)患者さんが当院に紹介転院してきました。RA自体治療抵抗性であり、PSL、MTXに加えて生物学的製剤を追加投与し、RA自体の症状は改善傾向でしたが、発熱、呼吸困難が出現し、某医療施設に入院、胸部異常陰影にて抗菌薬を投与するも改善せず、精査加療目的にての紹介でした。前医では間質性肺炎も鑑別に挙げられていたのですが‥

当院転院時に施行した胸部CTでは、左下葉主体の浸潤影(感染症でしたら大葉性肺炎としても矛盾ないCT所見ですね)であり、間質性肺炎ではないと思いますし、もしあるとすれば器質化肺炎は鑑別に挙がるかとは思いました。

では、前医にて施行した胸部CTを再評価してみます。

このスライスでは左下葉にすりガラス陰影を伴う浸潤影で当院入院時とはそれほど違いがないように見えますが‥

違うスライスを見てみますと

  

左下葉内には結節が散在したり、浸潤影も離れて存在しているように見えます。通常の細菌性肺炎には見えないCT所見ではないでしょうか?

「同じ肺葉内に結節などの陰影が多発する!」何か聞いたことがある言葉ではないですか?

当院にて毎月行われているチェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)でも講師の佐藤雅史先生が何度も解説してくれましたよね。

本例はその解説通り肺クリプトコッカス症でした。

肺クリプトコッカス症の画像所見は単発ないし多発性の結節影、腫瘤影、浸潤影で一部空洞化することもあるという本当に多彩な所見です。つまり胸部維持う陰影を見たら常に考慮しなければいけないくらい注意すべき疾患のひとつかと思いますが、そのなかでも「同一肺葉内に多発する陰影」という所見が肺クリプトコッカス症を強く疑う所見になるのではないかというのが胸部放射線の専門医の先生方の格言のようになっています。

本例のように胸部CT所見からクリプトコッカスを疑えば、血清クリプトコッカス抗原を測定するチャンスを持つことが出来るわけです。

是非とも皆さんには「同一肺葉内の多発結節を見たらクリプトコッカス症を疑い!」なんていう格言をひとつでも多く身に着けていただければ幸いです。胸部画像診断に段々自信がついていくはずですよ。

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日本画像医学会に参加してきました。

2019年03月10日 | 日記

3月8日から9日の2日間にわたり東京にて第38回日本画像医学会が開催されました。日本画像医学会は放射線科と臨床医学科とがコラボして企画されており、放射線科と臨床医学科で学会長を交互に出すという独特な学会です。今回の第38回は私の恩師である自治医科大学さいたま医療センター放射線科の田中修教授が学会長を務められました。その田中教授より2週前に声をかけられ、急遽参加させていただくことになりました。当然ながら呼吸器領域もとても充実したシンポジウムが企画され、とても勉強になりましたが、その企画の大半を私の尊敬する先輩である神奈川県立循環器呼吸器病センターの小倉高志先生がなされたことと思います。その小倉先生が専門にしている間質性肺炎のCRPT症例検討会は自分たちが普段若干苦手にしている領域でもあり、今回のシンポジウムもとても勉強になりました。

そのなかでひとつとても勉強になった(というか知らなかった)ことがありました。それは、「広義間質病変」と言われている小葉間隔壁肥厚、気管支血管束肥厚の意味(原因)についてです。

日常臨床ではびまん性陰影を症例を多々経験しますし、その画像所見に対してどのように鑑別するかとひとつのヒントとして、HRCTにおける小葉間隔壁肥厚、気管支血管束肥厚などいわゆる広義間質病変とされる陰影に注目することかと思います。HRCT所見から広義間質病変を思わせる陰影を探すと、「広義間質病変を来す疾患は?」というクエスチョンになり、ズラッと鑑別疾患を挙げるわけです。このブログにも書いたことがあるかと思いますが、①サルコイドーシス、②悪性リンパ腫を含めたリンパ増殖性疾患、③IgG4関連疾患、④MCD、⑤肺胞出血(ヘモシデローシス)、⑥アミロイドーシス、⑦間質性肺炎ならば薬剤性肺炎、⑧Erdheim-chester病‥とある程度鑑別疾患を絞ることが可能になるわけです。⑦にも挙げましたが、間質性肺炎を考えうる陰影の症例で小葉間隔壁肥厚、気管支血管束肥厚などいわゆる広義間質病変を認めたら、特発性肺線維症などは可能性が低く、薬剤性肺炎など二次性間質性肺炎をより疑うものと認識していました。ところが今回のシンポジウムで特発性肺線維症などの小葉辺縁性線維化を来す疾患でも進行すると小葉間隔壁肥厚、気管支血管束肥厚を来すということを病理学的検討を合わせて教えていただきました。

確かに考えてみると広義間質領域に接して肺胞は存在し、そこに胞隔炎(線維化)を来せば肺胞の虚脱により広義間質領域があたかも厚く(目立つように)なっても不思議ではないですよね。そのことをあまり認識せずに日常診療をしていたことを本当に恥ずかしく思います。

いわゆる「広義間質病変」と言われる陰影を見たら、安直に広義間質病変のみを鑑別しないで小葉辺縁性分布を来す間質性肺炎にも是非とも注目していただきたいと思いました。

今後も呼吸器画像診断、一生懸命勉強していこうと思います。

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