3月20日(水)にさいたま赤十字病院チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)を開催いたしました。今回は当院初期研修医3名に加えて、他病院の初期研修医の先生も来てくれました。毎回常連の済生会栗橋病院の大久保先生、帝京大学の平岡先生、日本医大の山根先生、戸田市民病院の松宮先生も来ていただき、とても活発な討論をすることが出来ました。皆様に感謝しています。(最近当院のMEさんが参加してくれています。コメディカルとして色々な医学情報を吸収したいという気持ちでの参加、頭の下がる思いです)実診療に生かせる勉強会ということで、難しい症例ばかりではないので、皆さんも程々に復習出来たのではないかと思いますが、ちょっと症例を思い出し、簡単に解説したいと思います。
①慢性好酸球性肺炎症例‥肺内多発胸膜直下優位の非区域性浸潤影でした。「治らない肺炎」のカテゴリーに入る疾患のひとつかと思います。陰影が移動する疾患(migration)としてこの慢性好酸球性肺炎と特発性器質化肺炎(COP)は押さえておきたいところです。「治らない肺炎」、ほかにもたくさんありますよね?腫瘍性疾患(粘液産生癌、肺原発悪性リンパ腫)もありますよ。
②肺非結核性抗酸菌症(M. abscessus症)‥この症例では慢性の繰り返す呼吸器感染症の症例でした。「慢性呼吸器感染症」の原因菌は?インフルエンザ桿菌、緑膿菌は当然として抗酸菌(結核菌、非結核性抗酸菌)、真菌(アルペルギルスなど)、ノカルジア、放線菌などは挙げるようにしましょう。ついでに結核を疑う症例として「粒と空洞を探せ!」を再確認しました。
③サルコイドーシス症例‥粒状影主体の陰影でしたが、詳細に見てみると葉間胸膜に結節、気管支血管束に沿った結節など広義間質病変を強く疑うCT所見でした。サルコイドーシスというと上肺野優位の陰影を来すと有名ですが(上肺野優位分布の疾患は大丈夫ですか?CASSET-Pですよ)、サルコイドーシスの場合、中肺野主体の陰影になったり、胸部CTにて腹側、背側には病変が軽く、いわゆる中間領域に陰影が分布するというのも特徴のひとつであることを理解していただけたらと思います。
④関節リウマチにてMTXや生物学的製剤を使用中に出現した肺病変(呼吸器感染症)で抗菌薬が効かない症例でした。診断はクリプトコッカス症でした。当院に来た時には左下葉主体に浸潤影になってしまっていましたが、前医のCTを見ると、左下葉内に浸潤影以外に結節、斑状浸潤影が散在しており、おおざっぱかもしれませんが、佐藤雅史先生が提唱していた「同一肺葉内多発結節を見たらクリプトコッカス症を疑え!」を思い出す一例でした。当然ながら肺クリプトコッカス症例の画像所見は単発、多発の結節影、腫瘤影、浸潤影で空洞を伴うこともあり、多彩な画像所見を呈するということを覚えてください。また、実臨床的には生検をすると器質化肺炎を認めることが多いため、COPと勘違いされ、ステロイドを使用し、髄膜炎になってしまった症例があり、器質化肺炎の原因として理解しなければいけないとのコメントでした。(器質化肺炎をの原因についてはあとで教科書を見ておいてくださいね)それから、MTX使用中に出現した肺内病変の鑑別として今回のような感染症以外にはMTX肺炎(OPパターン)やMTX関連リンパ増殖性疾患も鑑別すべきとコメントをいただきました。
⑤肺胞蛋白症(PAP)症例‥両側びまん性にcrazy paving appearanceを伴うスリガラス陰影である意味典型的な症例でした。crazy paving appearanceを来す疾患は色々ありますが、慢性経過となるとPAPが高頻度かと思います。(当院ではリポイド肺炎でcrazy paving appearanceを来すと報告したましたが)それから胸部CTを見ると、胸膜直下に台形状のすりガラス陰影を見たらPAPに典型だというコメントもありました。実臨床的には胸部画像所見が派手なのに関わらず症状が乏しい(呼吸不全がない)というのも重要なポイントかと思います。
⑥防水スプレーによる急性肺障害症例‥きちんとした問診をすればわかる疾患ですが、いかに問診するきっかけを持つかも重要です。本例は病変の分布が上中肺野優位で、下肺野とくにcosto-phrenic angle付近には全く陰影を認めませんでした。吸入性肺障害は換気の乏しい領域に陰影が残るため、今回の症例のように上中肺野優位の分布を呈します。ちなみにcosto-phrenic angleを含めた下肺野に病変がないときには今回の吸入性肺障害以外にPAP、ニューモシスティス肺炎(PCP)の三つを考えるべきとコメントをいただきました。
⑦肺癌症例‥今回提示した症例は容積減少があるも気管支入口部は異常なしという症例で、癌自体による線維化が関与しているのでしょうか?その陰影自体は意外と悩ましいのですが、他の部位を見ると小葉間隔壁肥厚、気管支血管束肥厚など癌性リンパ管症の所見がありました。副所見を加えて総合的に判断することも必要かと思いました。
あと2例は大久保先生症例ですが‥
⑧ホジキン病にて化学療法後に発症したPCP症例‥臨床的背景も大事ですが、胸部CT上びまん性すりガラス陰影(モザイクパターン)は典型的かと思います。(自分の経験もそうですが、意外と小葉間隔壁肥厚が目立つ症例が多いように思います)
⑨気管支動脈ー肺動脈ろう症例‥あまりにも難しくて勉強になるコメントが出来なくて申し訳ございません。今度大久保先生に記載してもらいましょうか?
ということで、約2時間の勉強会でしたが、今後の診療に役立つことをたくさんアドバイスをしてもらいました。次回は確実に診断出来るように頑張りましょうね。