さいたま赤十字病院呼吸器内科 『こちら彩の国 呼吸器科』

さいたま市近隣での呼吸器診療に興味のある、
若手医師、医学生の見学(平日)を歓迎します。ご連絡ください。

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症における高吸収粘液栓

2017年07月23日 | カンファレンス室

昨日第9回慈恵呼吸器疾患診断カンファレンスに参加させていただきました。本カンファレンスは2部構成になっており、前半が症例検討、後半が特別講演でした。

前半に4例の症例検討が行われたのですが、4例とも非常に難易度が高く、1例1例が本当に勉強になりました。

そのなかの1例で、胸部CTにて気管支内に高吸収粘液栓を認めたアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の症例がありました。ABPAにおいてこの高吸収粘液栓(high-attenuation mucus:以下HAM)は18.7~30%に認められる所見とされています。アスペルギルス含め真菌アレルギーによる鉄、マンガン、カルシウム、濃縮された分泌物により高吸収域(骨格筋より高いCT値)になり、ABPAにおけるHAMの感度が39.7%、特異度が100%ですから、HAMを見つけられればABPAの診断間違いなしということになります。是非とも注目していただけたらと思います。もちろん、単なるhigh-attenuationを探すのではなく、その病変が気管支内病変か否かという検討はきちんと行わなければいけないのは当然です。「気管支内HAMを見たらABPAを強く疑え!」是非とも覚えてくださいね。

最近当院でもHAMを認めたABPA症例を経験したので、胸部単純CT画像を紹介します。

右B7領域の気管内に立派なHAMおよび無気肺があるのはお分かりかと思います。とても美しいHAMのCT所見と思います。

カンファレンスの症例に戻ると、紹介された画像は造影CTのみで単純CTの提示がなかったので、本当にHAMなのか?造影されてHAMに見えるのか?との議論が少しありました。

当院の症例、単純CTでは典型的なHAMを認めていると思いますが、造影CTはどうでしょうか?

なんと右S7全体が淡い造影効果を示し、単純CTにて認めたHAMは不明瞭になっているではないですか?HAM周囲の肺は容積減少(無気肺)を呈しており、無気肺は非常によく造影されてしまい、HAMが見えなくなってしまったわけです。ABPAの特徴的組織所見(気管支内粘液栓+無気肺)から考えると、造影した方がHAMが不明瞭になることは納得いただけるかと思います。

胸部CT所見の読影、つい造影CTの方に目が行ってしまいますが、造影CTのみでなく、単純CTにも目を向けてくださいね。

また時間が許せば、次回のカンファレンスも参加したいと思います。

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チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)のお知らせ

2017年07月16日 | お知らせ

毎日本当に暑い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?普通に生活していると熱中症になってしまいそうですね。是非とも健康には十分注意していただけたらと思います。

さて、毎月恒例のチェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)ですが、今月7月は19日(水)に開催いたします。いつもと同様午後7時よりさいたま赤十字病院7階の第3会議室で行います。興味のある方々は奮ってご参加いただけたら幸いです。今回のカンファレンス、毎回講師をしていただいている佐藤雅史先生が急用のため、参加できないとのこと、本カンファレンス常連の済生会栗橋病院放射線科部長大久保先生にアドバイザーをしていただきながら、会を進行していこうと思います。基礎的な症例から興味深い症例まで幅広く用意していますので、是非とも一緒に楽しく勉強していきましょう。(毎度のことですが、軽食の用意はありますので、お腹の方の心配は無用です)

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呼吸器疾患における胸部CTサイン

2017年07月09日 | カンファレンス室

雑誌「CHEST」の6月号に呼吸器疾患における胸部CTサインの特集が組まれていました。(2017;151(6):1356-1374)CT画像を含めて詳細に記載してありますので、興味のある方々は一度読んでみてください。

ここでは代表的なCTサインについて簡単に紹介します。

①Air crescent sign:浸潤影または結節の内部に透過性亢進した領域を認めるサインで侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)に特徴的所見とされていましたが、他にも肺結核、肺化膿症、肺癌でも認めうる所見とされています。

②Monod sign(Monod先生が提唱したサインのようです):空洞内に周囲を空気に囲まれ重力に依存して存在する腫瘤影のことで、アスペルギローマに典型的な所見ですが、IPA症例の治療反応性良好症例の経過中にも出現するようです。

③halo sign:周囲をすりガラス陰影に囲まれた結節、腫瘤影のことで、IPAによく見られる所見ですが、ムコール症などの他の侵襲性真菌感染症、肺癌(腺癌)、肉芽腫性多発血管炎(GPA)、アミロイドーシス、サルコイドーシス、転移性肺腫瘍でも起こしうる所見のようです。

④Atoll sign(reverse halo sign):環状珊瑚礁サインとも言われています。特発性器質化肺炎(COP)のCT所見として発表されましたが、決して特異的ではなく、侵襲性真菌感染症、ニューモシスティス肺炎(PCP)、リンパ腫様肉芽腫(LYG)、GPA、リポイド肺炎、サルコイドーシス、肺癌(腺癌、肺胞置換性進展癌)でも認める所見です。

⑤Cherrios sign:肺内結節の中に気管支が開いて見える所見で、肺癌(腺癌)、ハンゲルハンス細胞組織球症(LCH)などが有名ですが、真菌感染症、肺癌(転移を含む)、悪性リンパ腫、リウマチ結節、GPAでも認めうる所見です。

⑥comet tail sign:円状無気肺症例に見られる特徴的所見とですが、もちろん肺癌は鑑別に挙げられると思います。(造影CTの所見が異なるかとは思います)

⑦corona radiata sign:腫瘍の周りに放射状に線状影が広がる所見で、肺癌に特徴的所見です。

⑧crazy paving sign:敷石状に見えるCT所見で、肺胞蛋白症に特徴的所見とされていましたが、他にも肺水腫、癌性リンパ管症、粘液産生腺癌、サルコイドーシス、外因性リポイド肺炎、肺出血、PCPなどでも認めえます。

⑨galaxy sign(銀河サイン):サルコイドーシスに特徴的所見とされていますが、progressive massive fibrosis、活動性肺結核でも認められることがあります。

⑩mosaic attenuation:肺野濃度が地図状分布を示すCT所見であり、肺疾患(PCP、慢性好酸球性肺炎、COP、過敏性肺炎、など)なのか?気道病変(air trappingを来す疾患、BOなど)なのか?血管異常(肺血栓塞栓症、血管内リンパ腫、微小血管への転移:PTTMなど)なのか?をきちんと鑑別することが必要です。

⑪head cheese sign:肺野濃度の低濃度、正常高濃度の領域が整然としている所見で、過敏性肺炎に特徴的所見とされていましたが、サルコイドーシス、マイコプラズマなどの感染症でも起こりえます。

⑫sand storm sign:肺胞微石症に認められる所見です。(まれな疾患ですが、この所見があれば肺胞微石症を強く疑えるのではないでしょうか?

⑬water lily sign(水蓮サイン):エキノコッカス症にて認められる所見(嚢胞内に浮遊物が認められる)

⑭air bronchogram sign:大葉性肺炎にてよく見られる所見ですが、肺水腫、重症間質性肺疾患、非閉塞性無気肺でも認められます。

⑮positive bronchus sign:この所見があると、気管支鏡下生検にて90%診断できるとされています。

⑯signet ring sign:隣接する血管径に対する気管支径の比が1以上の所見で、気管支拡張症で認める所見です。

⑰tram-track sign:これも気管支拡張症の所見です。

⑱tree-in-bud sign:小葉中心性粒状影で、木の芽様に見える所見とされています。当初は肺結核症に気道散布病巣に特徴的とされていたが、最近は濾胞性細気管支炎、肺非結核性抗酸菌症、ウイルス性肺炎、誤嚥性肺炎でも認めます。

⑲CT aingiogram sign:造影CTを施行すると病変内に肺血管が描出される所見で、粘液産生腺癌に特徴的とされていましたが、悪性リンパ腫、閉塞性肺炎、肺水腫でも認めます。

⑳feding vessel sign:腫瘤など病変内に血管が入っていくCT所見で、敗血症性塞栓に多いとされていましたが、肺梗塞、転移、AVMでも認めます。

㉑polo mint sign:造影CTにて肺血管内に欠損部分を認める所見で、肺塞栓症に特徴的所見です。

㉒split pleura sign:胸膜肥厚を認め、臓側胸膜、壁側胸膜が分離して認める所見で、膿胸、悪性胸水(特にタルクによる胸膜癒着術後、悪性胸膜中皮腫)に認めます。

22個のCT所見が記載されていましたが、所見としては知っているも名前がついていたなんてという所見が多かったのではないかと思います。

オリジナル的にはある疾患に特異的所見とされ発表していますが、なかなかそうはいかず、特異度はそれほど高くないのではないでしょうか?ただ、上記のような所見を一生懸命探すこと、その所見から鑑別疾患を挙げるきっかけになるという意味では臨床上重要な所見と思います。

是非とも自分のものにしていただけたら幸いです。

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