我々呼吸器内科の外来診療の一部に「胸部異常陰影(検診異常)」があります。胸部異常陰影で紹介されるわけですから、当然ながら診断をつける努力をするかと思います。では、呼吸器内科医以外の先生方においても「胸部異常陰影」というシチュエーションで診療することはあるかと思います。多分検査の一環としてCTを施行してみたら、胸部に異常を指摘されたなんてまあまあ多いのではないでしょうか?そのとき皆さんならばどうしますか?
例えば70歳代の患者さんで、たまたま他の疾患にて施行したCTにて異常を指摘されました。(呼吸器症状はなしです)
確かに右下葉縦隔側に1.5センチ台の結節が認められます。年齢などを考慮したら鑑別疾患として肺癌含めた腫瘍性疾患は挙げられますが、次のステップはいかがでしょうか?一番の末梢に位置しており、気管支鏡下生検は相当難しそう、エコーで描出できる位置ではない、CT下生検も意外と難しそう‥そう考えると呼吸器内科医の中でも外来にて厳重に経過観察という方針をとる人いるかと思います。
ところがこの症例、次のフォローアップの前の2か月後に肺癌と診断されたのです。それも骨転移(病的骨折)にて発見されたというのです。肺癌としてもここまで早いなんて‥担当医としてはとてもショックですよね。
では、本例のCT所見をもう一度見直してみましょう。腹部、骨盤までスキャンしていました。すると‥
なんと左腸骨は骨破壊をし、軽度ですが腫瘤形成を来しているのです。原発巣が1.5センチとすごく小さい段階で指摘されたときにはすでに骨転移(Ⅳ期)を来していたのです。
この症例の教訓はふたつです。
①胸部異常陰影症例、どのような症例も診断をする努力を惜しんではいけないのではないでしょうか?あらゆるモダリティーを駆使して診断できるかどうかを一生懸命考えないといけないのだと思いました。もし診断をつけるすべがない、または頑張ったけれど診断に至らなかったときにはきちんと説明をしなければいけないことだと思います。検査結果が出ないことイコール悪性ではないと勘違いしてしまう誤解を絶対与えないようにしないといけないかと思います。
②たった1.5センチの肺癌、このような小さい癌でもⅣ期など全身に広がることがあるのだということを肝に銘じておくべきかと思います。
今回提示した症例は診断が出来ていなかった最初のCTのときにすでにⅣ期の進行癌ですから、患者さんの経過としてはあまり変わらなかったのは間違いないですが、あとで病名が分かったということになると、ちょっとがっかりしてしまいます。やはり自分の力で診断したいですから。
胸部異常陰影のなかで原因が肺癌であることが一番多いかと思いますが、安直に「経過観察」を選択しないで「どのようにしたら診断に導くことが可能か?」をよく考えてください。色々検討しても診断が出来なかったときには「現在の状況が進行癌があることも含め全く分かっていない(ひやひやものの診療である)」ということをきちんと説明しなければいけないと思います。そして「肺癌は腫瘍径が小さくても十分転移する可能性があるんだ」という言葉を胸にとどめて欲しかったと思います。
「胸部異常陰影」というありきたりの言葉に対して真摯な態度で患者さんおよび家族の方とお話することが必要かと思います。是非ともお忘れなく!