先日ニューモシスティス肺炎(PCP)を経験しました。PCPはAIDS、ステロイド剤、免疫抑制剤投与中など日和見感染症にて発症する臨床的には重要な疾患のひとつです。我々呼吸器内科医にとっては、PCPを疑われて紹介されることもたまにはありますが、びまん性胸部陰影の鑑別疾患のひとつとして大切な疾患のひとつです。
それでは、PCPは胸部画像所見から診断が容易なのでしょうか?胸部レントゲン所見としては両側肺野にスリガラス陰影、浸潤影を来たすとされ、非特異的な画像所見です。文献的には15%が胸部レントゲン正常とされ、驚くべきことかと思います。(AIDSのPCPではたまには経験され、以前はガリウムシンチで早期診断が可能と言われていたと思います)胸部CT所見は、両側びまん性にスリガラス陰影を来たし(モザイクパターンを来たすこともあり)、症例によってはコンソリデーション、crazy paving appearance、嚢胞性陰影を来たします。基礎疾患により画像所見が異なるのも臨床上悩みの種です。教科書をたくさん読んでもPCPの画像診断に自信を持つのは難しいのではないでしょうか?
今回経験したPCP症例は、約1ヶ月の経過の微熱、咳、呼吸困難の症例で、呼吸不全はありませんでした。胸部CT所見は両側肺のスリガラス陰影で、両側下葉に胸膜下線が見えました。通常の特発性間質性肺炎の画像パターンとはやや異なるような気がして、薬剤性肺炎などの原因のある間質性肺疾患を疑いましたが、初診時にはPCPを鑑別に挙げられませんでした。診断された後胸部CTを見直してみましたが、PCPでもいいかなあ?とは思いますが、今でも自信を持って意見を言うのは難しいと思っています。本症例は紹介してくれた先生、私の二人の呼吸器学会指導医が疑うことが出来なかった症例です。
ただ、初診時に気になることがありました。間質性肺疾患を疑っていたので、入念に胸部聴診をしました。背部の聴診を深吸気で行いましたが、fine cracklesを初めラ音は聴取されませんでした。「胸部聴診所見の乏しい間質性肺疾患は?」本症例のポイントはここだと思いました。PCPの箇所を読むと、「進行例でないと、呼吸音は異常を来たさないことがある」と記載されている教科書もありましたが、最近の教科書に聴診所見を触れているものはほとんどありません。(ちなみに最近出版された「呼吸器専門医テキスト」にはPCPの聴診所見は触れられていません)胸部聴診所見と乏しい間質性肺疾患の鑑別疾患にPCPは是非とも挙げていただきたいと思います。胸部画像所見の割りに胸部聴診所見が乏しい疾患としては他には肺胞蛋白症が挙げられるでしょうか?逆に胸部画像所見が軽くても必ずfine cracklesが聴かれるという疾患の代表は過敏性肺臓炎かと思います。
また、本症例は当院入院時とその2週間前の2ポイントで胸部CTが撮られているのですが、無治療にも関わらず、当院入院時のCTの方が陰影が改善していました。これも大変興味を持ちました。「PCPは原因問わず、自然軽快することがある」ことを記憶しておいてください。学会発表などではAIDS、非AIDS問わず自然軽快するPCP症例の報告が散見されますが、決して誰もが経験していることではないと思います。ただ、自分が初めて経験したAIDS合併PCP症例は、入院後改善傾向を示し、一見過敏性肺臓炎ではないか?と疑った症例でした。「自然軽快するPCPがある」ということを知らないと、鑑別の段階で足元をすくわれることになりかねません。是非とも認識していただけたらと思います。
臨床たるもの、本当に奥深いですね。これからも、呼吸器の臨床を頑張ってやっていきたいと思います。
追伸。
7月より呼吸器診療部門に新しい先生(呼吸器外科の先生です)が仲間入りしたので、記念撮影をしました。(当日院外で講演しなければいけないスタッフがおり、全員での記念撮影ではなかったのですが)今後も呼吸器系の地域医療の充実のために頑張って生きたいと思います。また、呼吸器内科においても、スタッフの充実を図ることが出来るようになりました。今後さらに教育、研修のほうに力を入れて行きたいと思います。後期研修など何か相談がありましたら、連絡いただけたら幸いです。