さいたま赤十字病院呼吸器内科 『こちら彩の国 呼吸器科』

さいたま市近隣での呼吸器診療に興味のある、
若手医師、医学生の見学(平日)を歓迎します。ご連絡ください。

難治性気管支喘息の治療としての気管支サーモプラスティー

2015年07月20日 | カンファレンス室

先日気管支サーモプラスティーについて説明を聞いてきました。気管支サーモプラスティー(以下BT)は、高用量の吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用型β2刺激薬(LABA)でコントロールつかない難治性喘息に対して行う経気管支的治療です。軟性気管支鏡を通して、高周波エネルギーを気道壁に通電加熱することにより、肥厚した気道平滑筋を減少させ、気道平滑筋による気道の収縮能力を抑えるとされています。重症喘息にこのBTを施行し、QOLの向上、増悪頻度、救急外来受信頻度の減少が証明され、さらには5年間効果が継続するとされ、今までの喘息治療とは趣きの異なる魅力的な治療と思いました。内視鏡治療と言っても、普段我々呼吸器内科医が慣れ親しんでいる軟性気管支鏡にて治療が可能であり、また手技的な重篤な合併症の報告もないことから、適応する症例があれば、トライする意味は十分あるように思います。

気管支喘息治療の進歩は目覚しく、当直をすると毎日平均して2ないし3人は救急受診していた喘息患者さんが吸入ステロイド薬を初め治療薬の進歩により、今やほとんど救急受診しなくなったのは事実ですが、重症喘息の頻度は決して減っていないと言うのも事実です。今までの診療を振り返ってみると、ICS/LABAのみでは喘息のコントロールがつかず、もうひとつICSを加えたり、抗コリン薬、抗ロイコトリエン受容体拮抗薬、抗IgE抗体などフルに使用している患者さんがいるのも事実です。そのような患者さんに対してこのBTは非常に期待できる治療なのではないか?と考えます。もう少しデータの蓄積を待ちたいところですが、それに平行して、治療の仕方(ハンズオン)など少しずつ勉強、準備していけたらと思います。せっかくの機会ですので、自分らが担当している気管支喘息症例の治療内容などを整理してみようと思います。

数年前より呼吸器内視鏡学会などで、海外の著明な先生からBTの話を聞いていましたが、まさかこのように日常臨床に導入されるとは夢にも思いませんでした。本当に呼吸器病学の進歩に感激です。

 

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ニューモシスティス肺炎(PCP)において

2015年07月20日 | カンファレンス室

先日ニューモシスティス肺炎(PCP)を経験しました。PCPはAIDS、ステロイド剤、免疫抑制剤投与中など日和見感染症にて発症する臨床的には重要な疾患のひとつです。我々呼吸器内科医にとっては、PCPを疑われて紹介されることもたまにはありますが、びまん性胸部陰影の鑑別疾患のひとつとして大切な疾患のひとつです。

それでは、PCPは胸部画像所見から診断が容易なのでしょうか?胸部レントゲン所見としては両側肺野にスリガラス陰影、浸潤影を来たすとされ、非特異的な画像所見です。文献的には15%が胸部レントゲン正常とされ、驚くべきことかと思います。(AIDSのPCPではたまには経験され、以前はガリウムシンチで早期診断が可能と言われていたと思います)胸部CT所見は、両側びまん性にスリガラス陰影を来たし(モザイクパターンを来たすこともあり)、症例によってはコンソリデーション、crazy paving appearance、嚢胞性陰影を来たします。基礎疾患により画像所見が異なるのも臨床上悩みの種です。教科書をたくさん読んでもPCPの画像診断に自信を持つのは難しいのではないでしょうか?

今回経験したPCP症例は、約1ヶ月の経過の微熱、咳、呼吸困難の症例で、呼吸不全はありませんでした。胸部CT所見は両側肺のスリガラス陰影で、両側下葉に胸膜下線が見えました。通常の特発性間質性肺炎の画像パターンとはやや異なるような気がして、薬剤性肺炎などの原因のある間質性肺疾患を疑いましたが、初診時にはPCPを鑑別に挙げられませんでした。診断された後胸部CTを見直してみましたが、PCPでもいいかなあ?とは思いますが、今でも自信を持って意見を言うのは難しいと思っています。本症例は紹介してくれた先生、私の二人の呼吸器学会指導医が疑うことが出来なかった症例です。

ただ、初診時に気になることがありました。間質性肺疾患を疑っていたので、入念に胸部聴診をしました。背部の聴診を深吸気で行いましたが、fine cracklesを初めラ音は聴取されませんでした。「胸部聴診所見の乏しい間質性肺疾患は?本症例のポイントはここだと思いました。PCPの箇所を読むと、「進行例でないと、呼吸音は異常を来たさないことがある」と記載されている教科書もありましたが、最近の教科書に聴診所見を触れているものはほとんどありません。(ちなみに最近出版された「呼吸器専門医テキスト」にはPCPの聴診所見は触れられていません)胸部聴診所見と乏しい間質性肺疾患の鑑別疾患にPCPは是非とも挙げていただきたいと思います。胸部画像所見の割りに胸部聴診所見が乏しい疾患としては他には肺胞蛋白症が挙げられるでしょうか?逆に胸部画像所見が軽くても必ずfine cracklesが聴かれるという疾患の代表は過敏性肺臓炎かと思います。

また、本症例は当院入院時とその2週間前の2ポイントで胸部CTが撮られているのですが、無治療にも関わらず、当院入院時のCTの方が陰影が改善していました。これも大変興味を持ちました。「PCPは原因問わず、自然軽快することがある」ことを記憶しておいてください。学会発表などではAIDS、非AIDS問わず自然軽快するPCP症例の報告が散見されますが、決して誰もが経験していることではないと思います。ただ、自分が初めて経験したAIDS合併PCP症例は、入院後改善傾向を示し、一見過敏性肺臓炎ではないか?と疑った症例でした。「自然軽快するPCPがある」ということを知らないと、鑑別の段階で足元をすくわれることになりかねません。是非とも認識していただけたらと思います。

臨床たるもの、本当に奥深いですね。これからも、呼吸器の臨床を頑張ってやっていきたいと思います。

 

追伸。

7月より呼吸器診療部門に新しい先生(呼吸器外科の先生です)が仲間入りしたので、記念撮影をしました。(当日院外で講演しなければいけないスタッフがおり、全員での記念撮影ではなかったのですが)今後も呼吸器系の地域医療の充実のために頑張って生きたいと思います。また、呼吸器内科においても、スタッフの充実を図ることが出来るようになりました。今後さらに教育、研修のほうに力を入れて行きたいと思います。後期研修など何か相談がありましたら、連絡いただけたら幸いです。

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