最近の雑誌「Respiration」に片側(一側)上葉優位型肺線維症の論文が出ていました。間質性肺炎の診療、研究で非常に有名な神奈川県立循環器呼吸器病センターの関根先生の報告です。本報告は上葉優位型肺線維症(以前網谷病と言われ、近年はPleuroparenchymal fibroelastosis:以下PPFEとしてまれな間質性肺炎として記載されています)の片側肺のみにおこる病型です。4年間に6例の症例を経験し、臨床病型はPPFEに類似しているのですが、病変の分布のみが異なります。本症例の特徴として6例全例が肺癌を含め開胸手術を受け、その後平均8.4年後に病状が進行、手術側の上葉主体に線維化(fibroelastosis)を来してきます。当然ながら病側の換気、血流が著明に低下し、著明なる拘束性換気障害を来します。PPFEと同様経過とともに進行していくようで、予後は不良なのではないかと推察されます。一側のみにPPFE様病変が起る機序として①開胸手術による術側の胸郭運動能低下が関与?②全例にapical capを認めたことから、上肺野肺の虚血が炎症を促進している?③胃食道逆流(GERD)による不顕性誤嚥が関与?などが挙げられていますが、それのみでは説明は不可能ではないかと考察しています。
今回の論文を読んで自分にも同じような経過でずっと悩んでいた症例がいますので紹介させいただきます。
症例は60歳代に肺癌(右下葉)にて右下葉切除術を施行した女性です。
背景肺を詳細に見てみると、右肺尖部胸膜直下に軽度ですがapical cap様に見えるところがありました。(当然ながら手術時には全くのノーマークです)
術後4年後くらいより労作時息切れが出現、徐々にではありますが、悪化しているということで、術後9年後再診したところ、胸部レントゲン所見が激変していました。
胸部CTでは胸膜肥厚に加えて牽引性気管支拡張性変化を伴う著明な線維化を認め、TBLBでは線維化のみの所見で、明らかな病原菌は認めていません。現在も無治療にて定期的に経過観察をしていますが、本当に徐々に進行しているような印象です。
今回の論文を読んで自分の症例とそっくりと思い、記載させていただきましたが、このような症例は程々にはいるのではないか?術後の変化ということであまり注目されずに過ごされている症例がいるのではないか?と思いました。報告者の関根先生も「new disease entity related to thoracotomy」と記しているように間質性肺炎の新しい臨床病型になる可能性があると思われ、今後も症例の集積に努めていきたいと思います。
開胸手術に関連した肺線維症、最近肺癌治療においては胸腔鏡下手術がメインになっていることから、今後このような症例は減ってくる可能性もあるかもしれませんが‥