さいたま赤十字病院呼吸器内科 『こちら彩の国 呼吸器科』

さいたま市近隣での呼吸器診療に興味のある、
若手医師、医学生の見学(平日)を歓迎します。ご連絡ください。

2018年度大宮医師会肺癌症例検討会

2018年10月28日 | カンファレンス室

先週2018年度大宮医師会肺癌症例検討会に出席してきました。昨年度大宮医師会肺癌検診にて診断された肺癌症例28例のうち画像の揃っている21例について検討レビューする会です。

講師は済生会栗橋病院放射線科部長の大久保先生でした。大久保先生はさいたま赤十字病院チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)にも毎回顔を出してくれ、我々に色々アドバイスをくれたり、教訓的な症例を提示してくれたりと本当に指導力のある先生です。とても期待して会場に向かいましたが(会場を間違え、ちょっと遅刻してしまいましたが)、予想通りとても分かりやすい講演でした。

今回提示された21例のなかで、今回初回受診者も程々いましたが、数年にわたり検診を受診し続けている症例もあり、そのような症例を1年でも早く発見出来ないかということが今後の課題かと思います。

今回の大久保先生の講演を聞いて重要と思ったことが3つありました。

ひとつは、まったく読影不能なレントゲン写真に対して「異常なし」としてしまっている症例があるということです。画像の悪いレントゲン写真は読影する価値がないということをきちんと判断し、再撮影するようにコメントすることが重要です。実際自分たちが読影している現場において「見える範囲では異常なし」なんて言葉を発していることがありますが、その言葉はまず言ってははいけない言葉なのですね。反省です。

次に大久保先生の講演の中でレントゲン写真を白黒反転させて紹介している症例が目につきました。画像を白黒反転させるだけすごく異常を指摘しやすい症例があるのに気づきます。実臨床においても、悩ましい症例の時には白黒反転し、もう一度評価し直すことはよく行っています。検診読影のときにはどうしても症例数が多いため、そのあたりまで行っていることは少ないかと思いますが、ちょっと怪しいと思った症例においては、次の症例に行く前に「白黒反転」を確認するというスタンスは大事なのではないでしょうか?「白黒反転」の意味については後日大久保先生にお聞きしてみようと思います。

最後に我々にとって胸部単純レントゲンにて見逃しやすい箇所をきちんと把握しておくことです。見逃しやすい箇所は①肺尖部、②肺門部、③心臓の裏、④横隔膜の下の4か所です。我々のチェストカンファレンスでもいつも声に出していますが、「小三J」読影法を再確認していくことが必要かと思います。

一例でも早く肺癌症例を診断するために、今後も胸部画像診断のレベルを少しでも上げていきたいと思います。そのためにも当院にて毎月行っているチェストカンファレンスのさらなる内容の充実化に今後も努力していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

先週家族の者が上高地に行ってきました。(自分は他に大事な用があり、行くことが出来ませんでした)上高地の紅葉、先週の段階で終盤を迎えていました。今週はもう終わってしまったのでしょうか?

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COPD治療における吸入ステロイド剤の位置づけ

2018年10月14日 | カンファレンス室

本日東京にてCOPDの研究会に行ってきました。先週末より連日の勉強会であったため、最後ばててしまいましたが、とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。

COPDの薬物治療は飛躍的に進歩しました。自分が医師になったころはCOPDの有効な治療はなく、キサンチン製剤などの気管支拡張薬で綱渡りをしていたことが多々ありましたが、現在は長時間作用型抗コリン剤(LAMA)、長時間作用型β2刺激薬(LABA)、そして近年合剤(LAMA/LABA)が多種類上市され、COPD治療の選択肢が大分広がりました。この勢いですと、まだまだ治療は進歩しそうですね。その反面今まで重症のCOPDに使用していた吸入ステロイド剤(ICS)の位置づけが変わってきました。以前は増悪を繰り返す重症COPDに対してLAMA、LABAにICSを加えて3剤治療を行っていました。最近のエビデンスとしてICSを中止しても増悪の頻度に差がなく、またICSによる肺炎リスクなどを考えると症例を限定して使用すべきとの見解になっています。ではどうようなグループにICSを使用するかというと、気管支喘息合併症例すなわちACO症例には積極的に使用していく、それ以外ではICSしない方がいいとのことです。とても衝撃的なエビデンスでした。では、本当にCOPDにICSが意味がないかというと、実臨床では有効であった症例がいるのも事実だと思います。では、そのような症例はどのように探すのでしょうか?本日の講演にてICSが有効なCOPD症例は、ACO以外には好酸球性気道炎症の症例だと解説してもらいました。好酸球性炎症をどのようにスクリーニングするか?一番手っ取り早いのが血中好酸球数(300/μl以上)ではないかとのことでしたが、血中好酸球増多が本当に好酸球性気道炎症を反映しているかというとそうではないのも事実かと思います。我々はCOPD症例にICSを追加するためには好酸球性気道炎症をきちんと証明しなければいけません。どのように証明するか?まずは頑張って喀痰細胞診にて好酸球の程度を評価するのは重要かと思います。最近は呼気NOが好酸球性炎症を表しているわけですから、呼気NOの評価でもいいかと思います。

COPDガイドラインにて述べているICSの位置づけではないのではないか?というのが自分の感想です。

COPD症例にICS追加すべき症例を1例でも探すために、喀痰細胞診(誘発喀痰がいいでしょうか?)、呼気NOのチェックを忘れないでいていただけたらと思います。これからのさらなるデータの蓄積に期待しますね。

写真は6年前の11月3日に撮影した上高地の河童橋です。雪と紅葉がうまく混ざり合いとてもきれいでした。今の上高地、紅葉はどうなのでしょうか?これからでしょうか?

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当院における最近の肺癌症例の検討

2018年10月14日 | カンファレンス室

先日当院にて経験した肺癌症例について検討する機会がありましたので、報告させていただきます。

当院では2017年1月から2018年8月の20か月間で253例の肺癌確定診断症例を経験しました。

①組織型ですが、腺癌(61%)、扁平上皮癌(18%)、小細胞癌含む神経内分泌癌(12%)、多形癌など(2%)、分類不能NOS(7%)でした。扁平上皮癌がやや少ない印象ですが、大方全国標準なのではないかと思います。

②肺癌の治療法についてです。外科的治療を行った症例は進行癌ではない症例、内科的治療を行った症例は進行癌と考えていただけたらと思いますが、外科的治療を行った症例が33%、内科的治療(BSC含む)を行った症例が67%でした。施設によって比率が違うのは間違いないですが、この結果もある意味肺癌の進行度合い(肺癌は進行癌にて発見されることが多い)を物語っているのではないかと思います。

③肺癌の確定診断法については、当然ながら気管支鏡での診断が多く、当院でも全症例の65%が気管支鏡にて確定診断しています。その他は局所麻酔下胸腔鏡含めた胸腔内検体から5%、EBUS-TBNAが4%、少数ながらエコーガイド下生検、転移病巣の生検、CT下生検、リンパ節生検がありますが、なんと手術による確定診断が20%認めました。当院で外科治療を行った93例中50例(53%)は術前診断なく手術を行っていました。この結果は全国的にはどうなのでしょうか?気になるところです。

④全肺癌症例の中で216例に気管支鏡を行っています。そのうち165例(76%)で確定診断が可能でしたが、51例(24%)は診断に至っていません。気管支鏡での診断率76%は素晴らしいのでしょうか?もう一歩なのでしょうか?近年EBUS-GS法の導入、ナビゲーションシステム(Ziostation)の導入にて気管支鏡での診断がしやすくなったとの主治医の印象から、以前よりは難しい症例にチャレンジしている結果なのかとも思いますが。診断率については症例の詳細で決定されるわけですから、評価自体は意外と難しいかと思います。

我々呼吸器内科医としては、検査をやるからにはより完璧な検査になるようにきちんとした準備をして真摯に取り組んでいかなければいけないと思っています。今後もスタッフ一同努力していこうと思います。

追伸。やっと秋になったと思ったら、紅葉も始まっているようです。先日の新聞に奥日光の紅葉の記事が出ていました。今年の紅葉はどうなのでしょうか?

 以前撮影した湯滝の紅葉です。

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さいたま赤十字病院膠原病肺カンファレンス

2018年10月13日 | カンファレンス室

我がさいたま赤十字病院では、リウマチ膠原病内科と呼吸器内科で週に1回合同の膠原病肺カンファレンスを開催しています。

最近のカンファレンスに提示された症例を報告させていただきます。

関節リウマチ(RA)にて約3年間MTXと他のDMARDを内服している70歳代の女性の急性経過の発熱、呼吸困難です。

RA自体は上記薬物治療にてコントロール良好のようです。

週末の夕方緊急入院しましたが、呼吸不全も認めていました。

 胸部レントゲンは両側びまん性にすりガラス陰影、浸潤影を認めています。通常見る細菌性肺炎とは異なるレントゲン所見です。

 

胸部HRCTではびまん性に小葉間隔壁肥厚を伴うすりガラス陰影を認めています。

考えられる鑑別疾患はどうでしょうか?

RAにてMTX投与中に出現したびまん性陰影の鑑別疾患は以下の3つとされています。

①RA自体の間質性肺炎 ②MTXによる薬剤性肺炎 ③PCPなどの感染症 です。この3疾患は何も考えずに上げなければいけないかと思います。

①についてはRA自体のコントロールがついている状況では考えづらいでしょう。

②MTXによる薬剤性肺炎はどうでしょうか?MTX内服後何年経ってもMTX肺炎の可能性は否定出来ないといつも聞かされていますが、内服後3年は決して頻度が高いとは思えません。MTX内服時期(週初めか週末か?)と症状発現時期が重要だと以前指導してもらいましたが、そのような経過でもないようです。

そうすると素直に考えるとPCPなどの感染症の可能性が一番高いことになるかと思います。(経過からはPCPではないかとコメントする先生はまあまあいました)

緊急入院時、週末夕方ということもあり、β‐D-グルカンの結果が出ず、それ以外としては炎症反応亢進のみで、KL-6値は正常範囲、好酸球増多もありませんでした。

入院時の胸部CT所見はどうでしょうか?特にMTX肺炎とPCPの鑑別はいかがでしょうか?

呼吸器内科スタッフの〇〇先生がひと言「胸部画像所見からMTX肺炎とPCPは鑑別困難で実診療では両者の可能性を考えて治療するしかないですよね。」という素晴らしいコメントがありました。その通りですね。

ただ、本例の胸部HRCTをよく見てみると小葉間隔壁肥厚のすごく目立つ陰影、つまり広義間質病変を伴っています。胸部画像研究会で胸部放射線科専門医がいつもコメントする小葉間隔壁肥厚。広義間質病変の有無によって鑑別が大分絞れてくるということで、我々もいつも意識しているかと思います。PCPでここまで広義間質病変が目立っていいのか?Webb先生のHRCTの教科書には広義間質病変の鑑別疾患にPCPは入っていないのでは?と思いました。

さらには血清KL-6値が正常という点です。PCPというとKL-6値著明高値を来す疾患の代表例であり、こんなことがあっていいのか?これも疑問でした。

カンファレンスで色々討論したあと、リウマチ膠原病内科の先生の方でMTX肺炎、PCPの可能性を考えて、両者の治療(ST合剤内服+ステロイド内服)を開始したところ、自覚症状、呼吸状態、レントゲン所見の著明な改善を認め、経過からはPCPらしくなくMTX肺炎ではないか?というリウマチ膠原病内科の先生の推察でした。

週明け提出していた血液検査でβ-D-グルカン値の上昇を確認できたため、PCPの診断が確定しました。現在PCPに対する治療に軌道修正しているところです。

この症例は細かい情報を持たなければPCPを最も疑い、その通りの診断だったということで何もないのですが、血清β-D-グルカンの結果が出ないだけでこれだけ悩むことになったということで、とても教訓的な症例だったと思います。

PCPの経過(治療反応性)ひとつとっても非典型的な症例があっていいということです。たくさんRA症例のPCPを診ているリウマチ膠原病内科の先生でも騙されてしまったわけです。

先ほど胸部HRCT所見で小葉間隔壁肥厚をコメントしましたが、成書を読むと、PCP全体の10%台に小葉間隔壁肥厚を認めると記載されていました。小葉間隔壁肥厚を認めること、PCPでは決して稀ではないということです。教科書にはきちんと書いてあるのですね。

血清KL-6についてはいかがでしょうか?教科書をきちんと読むとPCP診断における有用性についてはKL-6はβ-D-グルカンより劣り、non HIVのPCPでは66%しか上昇しないと記載されています。(〇〇先生がすぐに高柳先生の論文をチェックし、KL-6値の値には幅があることを確認してくれました)「PCPではKL-6が著明高値になることがある」ということから常にKL-6が上昇すると理解してしまっていたこと、本当に反省している次第です。きちんと基礎に戻り、教科書にて確認することが必要でした。

たった1例の検討ですが、本当にたくさんのことを勉強出来、色々再確認することが出来ました。目の前にいる患者さんが一番の教科書ということを再認識できた症例だったと思います。

呼吸器内科医としては、膠原病をはじめ全身疾患についてたくさんの知識を持っていなけばならず、今後もリウマチ膠原病内科の先生方と一緒に勉強していきたいと思います。

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チェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)のお知らせ

2018年10月12日 | お知らせ

やっと秋めいてきました。これから紅葉のシーズンになりますね。皆様、紅葉を見ながら今年の夏の疲れを癒していただけたらと思います。

ところで、毎月当院にて開催していますチェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)ですが、今月10月は17日(水)に開催いたします。いつもと同様午後7時よりさいたま赤十字病院7階第3会議室にて行います。胸部画像に興味のある方々は奮ってご参加ください。今回も教育的な症例から難題症例などバラエティーに富んだ症例を用意しています。楽しみにしていてくださいね。

なお、前回と同様飲食の準備はありませんので、各自用意していただけたら幸いです。

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