先日母校の学生に胸膜疾患の講義に行ってきました。そのときにも少しお話しましたが‥
胸膜疾患診断の最初のステップとしてまず胸水検査を行い、Lightの基準に照らし合わせながら滲出性胸水か濾出性胸水かを鑑別することから始まります。濾出性胸水であれば、心疾患(心不全)、腎不全、肝不全、低栄養などの非胸膜疾患を考えるのが鉄則になっており、癌性胸膜炎など胸膜疾患は否定出来ると教えるのですが、本当でしょうか?まれに濾出性胸水でも癌性胸膜炎などの胸膜疾患のことがあるという症例を提示します。
症例は60歳代の女性。呼吸困難にて緊急入院しました。
胸部レントゲンでは右上肺野肺門近くに結節影を認めます。
胸部CTでは両側胸水、心嚢水を認めます。
まずはということで、胸水検査をしまところ、両側胸水とも濾出液に矛盾しない所見でした。(今思うと濾出液、浸出液のバーダーラインのような濾出液でしたが)
その2日後呼吸不全がさらに進行しました。
心嚢水、両側胸水ともに増量し、臨床的には心タンポナーデの状態であり、緊急に心嚢ドレナージを施行し、状態の安定を認めました。
心嚢水の細胞診にてクラスⅤ(腺癌)が検出され、肺癌、癌性心膜炎と診断されたのですが、最初に採取した両側濾出性胸水の細胞診も両側ともクラスⅤ(線が)の結果でした。つまり本例は両側癌性胸膜炎という診断になります。
濾出性胸水なのに癌性胸水??
本例は癌性胸膜炎による滲出性胸水と癌性心膜炎による右心不全からの濾出性胸水が混和されたために、やや浸出寄りの濾出性胸水になったということです。
胸水の原因鑑別の最初のステップの胸水性状の評価、Lightの基準のみでなく心膜についての情報を加えるとより正確な判断になるという教訓的な症例かと思います。研修医をはじめ若い先生方、是非ともご理解をお願いいたします。
ちょっと話はそれますが、先日発行された雑誌「CHEST」の症例報告に両側濾出性胸水(当然ながら細胞診も特異的所見なし)の原因検索でよくよく見ると心膜肥厚があり、結核性収縮性心膜炎の症例でした。その症例は心嚢水があまり目立たないため、心膜の状態についてちょっと見逃しやすい症例でした。
胸水の性状を評価するとき、ついでに心膜の状態にもチェックしていただけたらと思います。