11月20日にさいたま赤十字病院毎月恒例のチェストカンファレンス(胸部画像カンファレンス)が開催されました。若い先生の出席が少なかったのにはちょっとがっかりしましたが、院外の先生方がたくさん参加してくれ、とても勉強になる会を行うことが出来ました。そのときの症例を紹介させていただきます。
①右中下葉無気肺:今回の症例は肺癌(小細胞癌)症例でした。是非とも他肺葉の無垢肺の画像も勉強していただけたらと思います。
②縦隔気腫:胸痛の原因疾患として常に鑑別してくださいね。胸部レントゲン、胸部CTにて評価するのですが、臨床的には正中の胸痛であれば縦隔気腫、片側性胸痛であれば気胸を疑うかと思います。
③悪性胸膜中皮腫:胸水貯留の原因疾患として鑑別しなければいけない重要な疾患のひとつです。本例は石綿曝露歴があり、胸部CTにて胸膜プラークを認めました。胸膜プラークがあれば悪性胸膜中皮腫も積極的に疑っていくべきかと思います。また、胸部CTにて縦隔側の胸膜肥厚を認めていました。結核性胸膜炎はじめ非腫瘍性疾患では肥厚しずらい部位であり、縦隔側胸膜についても評価することが必要と思いました。
④急性好酸球性肺炎:毎度のことながらカーリー線を来す疾患3つ(肺水腫、癌性リンパ管症、急性好酸球性肺炎)を是非とも記憶くださいね。
⑤肺非結核性抗酸菌症(M. abscessus):上葉に空洞性陰影周囲に粒状影です。結核を含めた抗酸菌感染症を疑うCT所見かと思います。臨床的には慢性感染症の原因菌として抗酸菌、真菌、ノカルジア、放線菌は挙げないといけないかと思います。
⑥肺胞蛋白症:当院は全肺洗浄の治療を行っており、たくさんの肺胞蛋白症症例が紹介されます。今回の症例は典型的ではなかったかとは思いますが、詳細に見るとすりガラス陰影のなかにcrazy-paving appearanceがあり、疑うきっかけになるかと思います。そのときに議論になったのは肺胞蛋白症は多彩な陰影を呈するので、びまん性陰影症例には鑑別に挙げておくべきかと思います。当然ながらKL6が著明高値になることが多いこと、線維症を併発しなければ胸部聴診上fine crackleasは聴取しないことも有名な話です。
⑦アレルギー性気管支真菌症(ABPM)+肺NTM症合併症例:ABPMの陰影(粘液栓)は縦隔条件の胸部CTにてhigh attenuationを認めており、典型的かと思います。ABPM自体気道繊毛運動低下などにより真菌が気管支内に定着するわけですから、他の病原菌も定着しやすいとされています。ABPM治療中に肺NTM症などの慢性感染症を併発することは多々あることで、胸部画像診断において、一元的に説明できるか否かは重要なテーマかと思います。
⑧カルタゲナー症候群:右胸心、気管支拡張症ということで、これも典型例かと思います。一度見れば忘れないでしょう。カルタゲナー症候群を含むPCDにおいては、子供がいることが否定にならないことをご理解くださいね。
とても教育的な症例ばかりかと思いますが、気がつくといつも同じ話ばかりしているように思います。つまりいくつかの基本を身に着ければ若い先生方もまあまあ確定診断に近づけられるのではないかと思います。是非とも一つずつ診断の術を身に着けてもらえたらと思います。
最後に、30歳代の東南アジア生まれの男性を紹介しました。明らかな基礎疾患はなく(というかあまり医療機関に受診していなかったのかもしれません)、血小板減少、皮疹に加えて喀血、呼吸不全にて搬送された症例です。見るからに衰弱傾向(まだ30台なのに)という様相でした。
偏見ではなく、海外生まれの症例を見たら(特に東南アジア系)、常に結核、AIDSの可能性を考えておくべきと教えてもらったことがありますが、本例は結核という臨床経過ではないように思いました。諸検査にてHIV抗体陽性になり、AIDSの診断がつきました。
では、喀血、呼吸不全を来した原因は何でしょうか?
両側びまん性の浸潤影でいかにも重症呼吸不全というレントゲン所見ですね。
胸部CTは如何でしょうか?
小葉間隔壁肥厚、気管支血管束に沿った浸潤影、すりガラス陰影であり、少なくともPCPふくめた感染症の所見ではないかと思います。では、何でしょうか?
肺門を中心に放射状に広がる浸潤影(気管支血管束に沿って)その周囲に毛羽立ちのような線状影、すりガラス影が見えませんか?「これは炎のような陰影(flame shape)ではないか?」とコメントをしてくれたのが防衛医大放射線科の杉浦先生でした。「flame shape」というと「カポジ肉腫」を考えろと教科書には書いてあり、本例もカポジ肉腫の症例でした。(AIDSのことを隠してのプレゼンテーションでのコメント、杉浦先生のすばらしさを今回も実感させていただきました)
カポジ肉腫はAIDS関連悪性腫瘍で、皮膚、肺、消化管、脳に好発するとされています。現在はHART療法がおこなわれるようになり、頻度は相当減っているのではないかと思います。また、日本人はもともと発症率が低いとされていますが、本例のように海外の症例は別に考えて行かないといけませんね。
カポジ肉腫の画像所見として、レントゲンでは①両側びまん性、気管支血管周囲を中心とした間質性陰影、②辺縁不明瞭な数センチ大の結節、③辺縁不明瞭な浸潤影、④胸水(両側性が多い)、⑤肺門および縦隔リンパ節腫大を認め、胸部CTでは①不規則、辺縁不明瞭な気管支血管周囲の結節影(1センチ以上)でflame shapeに見えるとのこと、②気管支血管周囲間質肥厚、③小葉間隔壁肥厚、④胸水、⑤リンパ節腫大を認めます。炎のような陰影って、ビジュアル的な表現ですが、胸部画像を遠目で眺めていると、炎のように見えてきますよね。そういう見方も大事なのではないでしょうか?
上記の画像を見ただけで「flame shape」→カポジ肉腫と言えるのは杉浦先生レベルでないと無理かと思いますが、もしAIDS症例におけるこのような画像所見でしたら、カポジ肉腫は鑑別に挙げれそうですよね。決して多くない疾患とは思いますが、是非とも復習していてください。
来月のこのカンファレンスは第2水曜日の12月11日に行います。3週間後ですので、症例が集められるかちょっと心配ですが、これから頑張って探していこうと思います。