時雨スタジオより

9年の休止期間を経て、
なんとなく再開してみました。

「鬼」──前編

2020-06-11 15:05:11 | アデクション
石見神楽の「紅葉狩」では、美女が鬼女に変身する。 貯金箱 「家中が寝静まった夜、私は子どもの部屋に忍び込みます。小遣いを貯めている貯金箱に手を伸ばし、音を立てないように小銭を抜き取ります。それから、そ〜っと家を出て、自販機に向かいます」  女性がアルコールをやめられなかった頃、そんなことが何度もあった。 「子どもから、お母さん、貯金箱のお金が足りないんだけど知らない? と言われても、もちろん知ら . . . 本文を読む

車いす──その2

2020-06-11 09:27:32 | 医療・介護
 車いすを部屋の中で常用している一人暮らしの女性がいる。日中はダイニングキッチンで過ごしている。朝と夜、ベッドと車いすの間を移乗する。とはいうものの、車いすはベッドの脇まで行けない。ベッドのある寝室の前には段差があり、さらに部屋のドアの開口幅が狭いからだ。借家なので住宅改造もままならない。朝と夜、ベッドと車いすの間の移乗はリスクが伴う。車いすが置けるのは、寝室の外側ギリギリ。ベッドを伝うようにしな . . . 本文を読む

ないないずくしのあの頃(前編)

2020-06-10 00:11:15 | 『別府と占領軍』より
『美しい暮らしの手帖・第一号』  ──父は15歳のときに敗戦の日を迎えた。『暮らしの手帖』の前身である『美しい暮らしの手帖』が創刊されたのは、敗戦から3年後の昭和23年9月である。父は、同創刊号のあとがきの引用から「ないないずくしのあの頃」を始めている。 「はげしい風のふく日に、その風のふく方へ。一心に息をつめて歩いてゆくような、お互いに、生きてゆくのが命がけの明け暮れがつづいています。せめて . . . 本文を読む

BAR真紀─4『ぼったくり編』

2020-06-06 15:08:31 | BAR真紀
 BAR真紀の壁には若き時代の真紀の写真がど〜んと掛かっていた(Facebookから借りました)。30代の頃だろうか。写真家が撮った新宿の点描か何かのワンショットだったと思う。真紀が池袋から新宿ゴールデン街に移って来たのは東京オリンピックの頃、性転換手術もその頃だ。それからおよそ50年、真紀はゴールデン街で生計を立てた。そのうち、恋人(真紀の話によるとプロ野球選手だったらしい)と暮らしたのが4年程 . . . 本文を読む

車いす

2020-06-04 22:47:28 | 医療・介護
 要介護4から要支援2になった女性がいる。車いすの福祉用具貸与は継続できなかった。車いすがあるときは、ヘルパーが車いすを押して買い物に行っていた。ケアマネジャーが見かねて、車いすを押して、近くのコンビニのATMに行ったこともある。それが良いかどうかはともかくとして……。  彼女は車いすのない不便さが我慢できず、ホームセンターに車いすを買いに行った。いろいろな人の助けもあり、彼女は車いすを買って帰っ . . . 本文を読む