ブリットの休日

大好きな映画や小説の感想や日々の他愛ない話と、
聴神経腫瘍と診断された私の治療記録。

『深夜食堂』

2015年03月07日 | TV(ドラマ)

 “一日が終わり人々が家路へと急ぐ頃 俺の一日は始まる

メニューはこれだけ(画面に豚汁定食以外ビール、酒、焼酎しか書いてないメニューの張り紙が映る)

あとは勝手に注文してくれりゃあ、できるもんなら作るよってのが俺の営業方針さ

営業時間は夜12時から朝7時頃まで

人は「深夜食堂」って言ってるよ

客が来るかって? それが結構来るんだよ”

 そんなナレーションで始まるこのドラマ『深夜食堂』がいい。

何がいいかって?

10話まで見たんだけど、特にこのエピソードがいいって言えないとこも不思議だが、やはり作品からじんわり伝わってくる優しい空気感がいい。

とえに小林薫演じるマスターの人柄によるところが大きいが、なんとも居心地がいい。

毎回いろんな人がふらりとやってきては、それぞれがこだわりの料理を注文し、そこからドラマが始まるんだけど、タコウインナーやらお茶漬けやら素朴な料理に負けない、ごくありふれた素朴な人情ドラマが毎回展開される。

ほぼ食堂内でのマスターとお客との会話だけで進行していくという、こじんまりしたドラマなんだけど、多くを語らないあっさりとした演出が、却って食堂では見せないそれぞれの人生のドラマを、ごく自然に思い起こさせ、しんみりしたりほっこりさせられる。

それからオープニングの歌なんだけど、最初聴いた時

「なんかえらいしみったれた歌だわあ」(ごめんなさい)

なんて思ったんだけど、毎回聞いているうちに味が出てきて、すっかり好きになってしまった。

鈴木常吉の『思ひで』っていう歌で、さっそくiTunesで検索したらしっかり出てきたので、これもダウンロードしてしまった。

今この歌とパット・メセニー・グループの『Last Train Home』を一緒に聞いている(笑)


パット・メセニー・グループ『Last Train Home』

2015年03月02日 | 音楽

 パット・メセニー・グループの『Last Train Home』は、最近の私の一番のお気に入り曲だ。

休みの間はずっとリピートして聞いている。

この曲を最初に耳にしたのは、アニメ「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」のエンディング。

なんでも原作者の荒木飛呂彦氏が自ら選曲した曲だとのこと。

原作を知っていると、この曲をバックに流れる砂漠と、仲間が楽しそうに写った写真のシーンには、なんとも切ない気分にさせられる。

失礼だがアニメにこんな素敵な曲が使われるなんてと思ったが、特に曲について調べることもなかったんだけど、先日iTunesでジャズのランキングを見てて、何気に1位の曲を聴いてみると、偶然にもこの曲だった。

調べてみるとなんと87年に既に発表されていた『Still Life(Talking)』に収録されていた一曲だった。

すぐにダウンロードし、今もこの曲を聴きながら記事を書いている。

 タイトルを知ったことでさらに曲のイメージが広がっていった。

温かくも物悲しい調べは、長い旅を終えて家に帰る汽車の中で、もうすぐ家に帰れるという安堵感と、反対にあと少しでこの旅も終わってしまうんだという寂しさが入り混じった、旅人の気分に浸される。

風のように吹き抜ける哀愁は頬をかすめ、そして静かに心が安らぎを取り戻す。

昔のこんな素敵な曲が大好きな漫画によって、再び注目が集まるようになったなんて、なんだかそれだけで嬉しくなる。


池井田潤『下町ロケット』あらすじと感想

2015年03月01日 | 本(小説)

 第145回の直木賞を受賞した、池井田潤の『下町ロケット』を読む。

読んでいる間ずっと「半沢直樹」に似てるなあなんて読んでいたら、まさしく同じ作家さんの作品だった。ああ、恥ずかしい・・・。

 ロケットに搭載する大型水素エンジンの開発に心血を注いできた佃だったが、願いもむなしくロケット打ち上げは失敗に終わる。

それから7年が経過した今、宇宙科学開発機構の研究員をロケット打ち上げ失敗の責を負い辞職した佃は、亡くなった父親の佃製作所の後を継いでた。

代が変わり会社は飛躍的な成長を遂げたが、ある日大口の取引先である京浜マシナリーから、突然取引を一方的に解消される・・・。

 題名からロケット打ち上げの話かと勝手に思っていたが(結局はそこへいくんだが)、むしろ読みどころは技術だけは世界トップクラスの中小企業の会社が、大企業の圧力により倒産の危機に追いやられるという話で、読む前の予想とはまったく違った内容だった。

いわゆる会社内のドロドロした上下関係とか、企業間の弱肉強食の駆け引きの話なのだ。

突然会社存続の危機に見舞われた佃が社長を務める佃製作所が、どうやってこのピンチに立ち向かっていくのかというところが、とにかく読みごたえがあり、読みだしたらもはやノンストップで読み続けるしかないという面白さだ。

最初は足並みがそろわなかった社員が次第に協力し、一丸となって夢と情熱で難関を紙一重で次々と乗り切っていくスリルは圧巻である。

こんなに面白い本があったんだなあ。

 一見中小企業のプライドと大企業のプライドが激しくぶつかり合うという構図に見えるんだけど、大企業側が振りかざす力はプライドでもなんでもなくただの驕りであり、法にに触れなければ何をやってもいいという卑劣な力に、読者も何度も煮え湯を飲まされた気分にさせられるんだが、飲まされれば飲まされるほど、最後に訪れるだろカタルシスに、気分はフィナーレにむけて否が応にも盛り上がる。

もうワクワクが止まらないのだ。

そしてついにやってくるその瞬間に、佃製作所の社員と一体となって歓喜し、涙するのだ。

まあ窮地に陥るたびに、都合よくどこかから救いの手が差し伸べられという展開が都合よすぎるというところはあるが、そんなものを軽くこえる感動に比べればどうってことはない。

読後は最高に面白い本を読めたという満足感を得られるが、同時に純粋に働くということの意味をも考えさせられる。

お金のためだけに働くことの虚しさが心に鋭く突きつけられる。

そして自らの仕事に取り組む姿勢を深く考えさせられ、そこから次第に湧き上がってくる熱に自ら驚いてしまうだろう。

今はこの小説が文庫化されるのをただ待っていたことが悔しい・・・(^^;)